ネットで出会ったヤンデレ美少女からの恐怖の束縛!
俺、山中勇気。21歳、平凡な大学生。サークルにも入らず、バイトと講義だけで日々を過ごす、どこにでもいるような存在だ。友達がいないわけじゃないけど、特に親しい関係というわけでもない。唯一、日常に彩りを与えてくれるのがSNSだった。
数ヶ月前、俺が趣味で投稿した映画の感想がきっかけで、一人のユーザーからメッセージが届いた。
「初めまして。この映画、私も大好きなんです!特にラストシーンが印象的でしたね。」
プロフィール画像は可愛らしいイラストで、文章からも穏やかな性格が伝わってくる。俺は気軽に返信した。
「そうなんですか?この映画、伏線の回収がすごいですよね!」
そこからやり取りが始まった。映画や本の話題を中心に、次第に日常の出来事や悩みも話すようになった。
大学に行き、俺はスマートフォンを眺めていた。すると友人の小林大輝が話しかけてきた。
「お前、最近スマホばっか見てね?また映画か?」
「まあな。でも、ただ映画だけじゃない。」
「ほう、それどういう意味だよ?」
俺は茜とのやり取りを見せるか少し迷ったが、どうせ大輝のことだ、しつこく聞かれるに決まっている。仕方なく画面を見せると、彼はニヤリと笑った。
「お前、これ絶対女だろ?しかも結構お前に興味持ってる感じじゃねえか。」
「そうか?普通に趣味が合うから話してるだけだろ。」
茜とのやり取りは日を追うごとに深まっていった。
彼女は自分の過去について少しずつ話すようになった。
「実は、前の学校で人間関係がうまくいかなくて…。それで、今は休学してるんです。」
「そっか。でも、茜さんと話してると、そういう辛い過去があるようには思えないよ。」
「勇気くんが優しいからだよ。」
そんなある日、何気なく送った一言が、すべての始まりだった。
「いつか直接会って話せたらいいね。」
「本当にそう思ってくれるの?私、あなたに会えるなら、どこにでも行けるよ。」
「もちろん。けど、距離とか大丈夫なの?」
「大丈夫。私、全部準備できてるから。」
翌日、いつも通り大学の講義を受け、バイトを終え、家に帰った俺。翌朝、チャイムの音で目が覚めた。まだ7時前だ。こんな早朝に誰だよ…。眠い目をこすりながらドアを開けると、そこには一人の女性が立っていた。
長い茶髪に、白いワンピース。柔らかい微笑みと、どこか冷たい視線を併せ持つその女性は、静かに言った。
「おはよう、勇気くん。私、茜です。」
「えっ…茜さん?どうしてここに…?」
「だって、勇気くんが『いつか会いたい』って言ってくれたでしょ?だから、ちゃんと会いに来たの。」
その言葉には、一途さとともに、どこか妙な熱がこもっていた。どうやら彼女は冗談を真に受けたらしい。しかし、俺はそれ以上に彼女が俺の住所や大学を知っていることに驚きを隠せなかった。
「いや、でも…どうして俺の住所がわかったの?」
「勇気くんのSNSに載せてた写真、背景に映ってた景色とか、投稿の時間帯から推測したの。それに、あなたが話してくれた大学のヒントを合わせれば簡単だったよ。」
その言葉を聞いて、背筋が寒くなった。SNSに何気なく上げた投稿からここまで特定できるのか? 彼女の観察力、いや執着心が常軌を逸していることを実感した瞬間だった。
混乱している俺をよそに、茜は荷物を抱えたまま部屋の中に入っていった。その姿は、まるで当然のようだった。
「ちょ、ちょっと待って。何してるの?」
「お邪魔します。これ、私の荷物。昨日準備してきたの。」
彼女がリビングの隅に置いた大きなキャリーケースには、服や日用品がぎっしり詰まっているようだった。
「それ、何日分の荷物?」
「えっと、少し長くなるかもしれないから、一週間分くらいかな。大丈夫、勇気くんには迷惑かけないようにするから。」
「え、一週間…? ちょっと待って。俺、同居するなんて言ってないぞ!」
「でも、勇気くんが『来てもいい』って言ってくれたでしょ? だから、私はその言葉を信じてここに来たの。」
俺は言葉を詰まらせた。確かに、あの時の軽いノリで「いつか来てもいい」なんて言ってしまったけど、それがこんな形で現実になるなんて想像もしていなかった。
彼女が荷物を片付けている間、俺は茜に帰ってもらう方法を考えた。しかし、どう言えば傷つけずに納得してもらえるのか分からない。
「茜さん、とりあえず今日は泊まらないでくれないか?ほら、ホテルとか…ほかにも方法あるだろうし。」
「…勇気くん、私がここにいると迷惑なの?」
彼女は突然沈黙し、少し俯いた。それから、ゆっくりと俺を見上げる。その目は涙を含んでいるように見えた。
「私、本当にここに来るのが怖かった。でも、あなたが受け入れてくれるって信じてたのに…。」
その表情と言葉に罪悪感を覚えてしまう俺。彼女は過去に人間関係で傷ついたと話していたし、ここで冷たく突き放すのはあまりにも酷だと思えてきた。
「…わかった。とりあえず今日はここにいてもいい。でも、一週間とかは無理だから…。」
「本当!? ありがとう、勇気くん!」
彼女の笑顔は純粋で、まるで子供のようだった。だが、その裏に隠されたものがある気がして、どうしても完全には安心できない。
その夜、茜は自分で布団をリビングに敷き、「迷惑かけないように」と言って早めに就寝した。一方で、俺は全く眠れず、天井を見つめて考え込んでいた。なぜ彼女はここまで執着するのか。この状況はどう見ても普通じゃない。
翌朝、目を覚ますとリビングには彼女の姿がなく、代わりにテーブルには整えられた朝食が置かれていた。
「勇気くん、おはよう。ちゃんと栄養バランスを考えた朝ごはん作ったからね!」
まるで新婚生活のような光景に、俺は恐怖と安心の間で揺れていた。
リビングに漂う美味しそうな香りと、整えられた朝食。その光景は一見すると平和そのものだった。だが、俺の中では昨日から続く違和感がどうしても拭えない。
「ありがとう。でも、これ…茜さん、いつ作ったの?」
「早起きして作ったの。あなたがちゃんと食べてくれると嬉しいから。」
彼女の言葉に対して俺は笑顔で返事をしたが、その裏で少し警戒していた。この短期間で、ここまで俺の生活に踏み込むのは普通じゃない。
大学の講義が終わり、バイト先に向かった俺は、親友の大輝に相談することにした。カフェの席に腰掛けるなり、大輝は興味津々の顔で聞いてきた。
「で、どうなんだよ?ネットの子、可愛かったか?」
「可愛いっていうか…正直、ちょっと怖い。」
「怖いって、どういうことだよ?」
俺は茜が突然家に現れたこと、住所や大学をどうやって特定したかを淡々と説明した。話しているうちに、大輝の顔が徐々に険しくなっていく。
「それ、やべえだろ。普通にストーカーじゃねえか。」
「でも、悪い子じゃないんだよ。ただちょっと…重いだけで。」
「勇気、お前それが甘さだってわかってる?そんな調子で流されてると、本当にヤバいことになるぞ。」
大輝の言葉に、俺は何も言い返せなかった。確かに彼の言う通りかもしれないが、茜を完全に突き放すこともできない。
その夜、帰宅すると部屋の様子が微妙に変わっていた。見慣れない観葉植物や、俺が持っていないインテリアが増えている。
「これ、茜さんが置いたの?」
「うん。勇気くんの部屋、もう少し明るくした方がリラックスできるかなって思って。」
彼女の笑顔は自然だったが、俺は背筋が冷たくなる感覚を覚えた。彼女は「少し手伝う」という言葉の範囲を大きく超え始めている。
その翌日、大学での講義中にスマホが震えた。茜からのメッセージだった。
「お昼休み、誰と食べてるの?」
彼女が大学に来ているとは思えないが、俺が誰と一緒にいるか気にするその内容に、少し不安を感じた。返信を保留していると、次のメッセージが届いた。
「今、私のこと無視してる?」
メッセージのトーンが微妙に変わっていく。慌てて返信をすると、次のメッセージが来た。
「よかった。無視されてるのかと思った。あなたが他の女の子と話してると、不安になるの。」
俺はその時、彼女が単なる心配性ではないことを悟った。
さらに事態は悪化する。バイト仲間の山口美咲が俺に軽い冗談を言ったことがきっかけだった。
「勇気くん、最近元気ないね~。彼女にでも怒られた?」
「いやいや、彼女なんていないって。」
その会話を茜が聞いていたのだろうか。帰宅後、彼女の表情は明らかに怒りを含んでいた。
「勇気くん、さっきバイト先の女性と楽しそうに話してたね。」
「え…どうしてそれを…?」
「大丈夫だよ。ただ、少し心配で見に行っただけだから。」
その言葉に、俺の中の不安が爆発しそうになった。彼女は俺を追跡し、監視しているのか?
「茜さん…俺に自由はないの?」
「もちろん自由はあるよ。でも、私がちゃんとあなたを守らないと。そうじゃないと、あなたは誰かに奪われちゃうから。」
彼女の言葉の裏にある狂気に、俺は言葉を失った。
最終的に、俺は決断した。茜をこのまま受け入れることはできない。翌朝、彼女に伝えることにした。
「茜さん、俺…やっぱり一緒にはいられない。ごめん。」
「どうして!?私がこんなにあなたを想ってるのに!誰よりも勇気くんを愛してるのに!」
「茜さんが俺を想ってくれてるのは分かる。でも、その想いが重すぎて、俺には支えきれないんだ。」
彼女は泣き崩れたが、最終的には静かにこう言った。
「…分かった。でも、勇気くん。私がいなくなっても、ずっとあなたのことを見てるから。」
その言葉に最後まで背筋が寒くなる思いをしながら、俺は彼女を見送った。
エピローグ
茜が去ってから数週間が経った。部屋には彼女の痕跡がまだ少し残っている。それを見るたび、彼女の言葉が頭をよぎる。
「俺は、これで良かったんだよな…。」
一見すると平穏な日常が戻ったように見えるが、俺はまだどこかで彼女の視線を感じるような気がしていた。