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中:再会! そして調達!

二回目の投稿です


温かい目で見てください

「やってくれたなあの*汚らしい罵詈雑言*聖女がアアァァッ!!」



ここはとある村の村長の家。ついさっきこの村に突如として現れた魔物、サイクロプスを倒してくれたお礼にと、村総出で豪勢な食事をふるまわれたのだ。


だがなぜか剣呑な、どこか重苦しい空気で食卓は満たされていた。原因はその過程にあったのだ。


辛くも勝利を収めた先の戦闘だが、今までの旅路では経験したこともないような、というより普通に生きていればあり得ないような現象に見舞われたのだ。どうにも俺たちの身に何かが起こっているらしい。


一人ずつ順に分析すると、俺は目にもとまらぬ素早さと跳躍力を手に入れたがどうにも攻撃が通らない。というよりも腕力が明らかに衰えていた。思い返せば、やたらと剣が重く感じたわけだ。


魔法使いのレインは、圧倒的に魔術の質が上がったが一度使えばダウンしてしまうほどの体力の無さ、あるいは魔法そのものの体力消費量の増加。


侍のジローは、剣技の型をとってから攻撃までの異様なほどの間隔の広さ。だが放たれる一撃はまさに必殺のそれ。



総じて何か一つの能力の飛躍的な向上と、それ以外の機能がなにか著しく低下しているということだ。



「で、何か心あたりがないか聞きたいんだが。」


テーブルクロスの上に並んだホクホクの料理を口にかきこみながら、旅の仲間であるジローとレインに尋ねる。

ジローはわからないと肩をすくめ、レインはフォークを置きしばし過去の記憶をさかのぼるために目を閉じた。


今回に限っては幸運にも魔物を倒せた。だがこの不安定な状態ではこのさきの旅路、ひいては平穏な日常を送ることにさえ支障が出るかもしれない。


ゆえに原因の究明とその解決は、次の冒険を始める前の最優先事項になった。ならばすみやかに行動に移したほうがいい。


「・・・それを宿すは救世の英傑ら。」


ボソリと、レインがつぶやく。


「一人は疾風の速さを、一人は全能の知恵を、一人は比類なき力を・・・これって、今の私たちの状態に当てはまらない?」


そのセリフはどこかで聞いたことがある。たしかそう遠くない日、というより全然最近。厳かな雰囲気のなかで語りかけてきたような。


思考を巡らせついに発言者にたどり着く。ジローも同時にその人物に行き着いたらしい。ハッとした表情で顔をあげ、魔法使いの次の言葉を待つように顔を向けた。


「あの聖女だね。可能性があるとすれば。」


あの聖女。持ってきた酒を一気飲みしたかとおもえば急に凛々しい面持ちで問いかけてきた、俺たちにこの祝福を与える儀式を行った張本人。

そう聞けばただの頭のおかしな女性にすぎないようなやつだ。


だがそんな人柄だからこそ合点がいくのかもしれない。一度は雰囲気にながされてしまったものの、よくよく考えれば酒をがぶ飲みした時点でマトモな思考など捨てていたのかもしれない。ましては大まじめに祝福の儀式をしようなどとは無理な話だろう。


考えすぎかもしれないが、つまりこういうことか?


「俺たちは酔っぱらいの回らない頭で適当に与えられた祝福・・・いやもはや呪いだなこれは、でこんな体質になってしまったと。」


レインが多分ねと返す。ジローが納得したようにうなずく。


おおよその犯人像がたったところで再び聖女に抱いた印象を掘り起こしてみる。


麗しい美貌、出会いがしらの供物の要求、酒の一気飲み、と思えば一転して真面目に語りだす。


ダメだまともな奴じゃない。


考えれば考えるほどあの女に対してたぎるような憤りを感じる。その怒りを抑え込むため、食卓に並ぶなんとも美味しい料理をガツガツと口へ入れる。

腹から煮えくり返る感情と、舌を包む温かな食材の味が混ぜ合わさって、なかなか複雑な気分だった。


だが少しばかり、怒りの方が強かったようだ。


「やってくれたなあの*汚らしい罵詈雑言*聖女がアアァァッ!!」


じわじわと腹を焼き、喉まで上がり、脳を焦がしたその憤りはあらん限りの暴言となって口から噴火した。


柄にもないトゲのついた言葉は家中に何度も何度も反射し響きわたり、階下の村長たちが何事かと騒ぎ部屋へ転がり込んだが、そこには怒涛の流れで食事を書き込む剣士と、少々幻滅する魔法使いと侍が座っていただけだった。


剣士が振り向く。


「はんへもはいへふ・・・、おかわり頂けますか?」


なぜ皿を差し出すその顔が険悪なのか、村長たちは知る由もないだろう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



とりあえず当面の目標はこの食事会で決まった。


あのエセ聖女のもとへ行き、この身におろされててしまった呪いまがいの力を消してもらうのだ。

そうすればすぐにでも、またいつも通りに魔王を倒すための冒険にでられる。


となれば善は急げだ。食事会を終え、床についた俺らは翌日の早朝に村を旅立った。


再びあの森へ、あの教会がある場所へと進む足取りは、悪い意味での興奮により拍車をかけられ、木々の間を勢いよくかき分けていく。


そのおかげか、まだ日が昇りきらないうちに例の教会へとたどり着くことができた。


そんな俺らを、まさか出迎えるように待っている者がいようとは思いもしなかったが。


「やあ、旅のものよ。もうそろそろ来る頃合いだと思ったぞ?」


木製の大きな両扉の前、陽光を反射する金髪をなびかせ、にたにたと笑いながら座っている聖女と、気弱そうなシスターが佇んでいた。

聖女の表情と言動はこちらの言わんとしていることを全て見透かしているものだった。それならば話は早いものだ。


「俺たちの体をもとに戻してもらおうか」


「まてまてそう焦るな、若いの。」


聖女はそう言いながら、手に持った酒瓶をあおった。また飲んでいたのか。あるいは自分たちのように、ここに訪れた他の者の供物なのか。


「不満があるようだな、明らかに。だがよく考えてみろ?そのあまりに極端な状態だからこそ成しえたこともあるのではないか?」


こちらの思考の数歩先をいくような質問に戸惑いつつも、その真意を探ってみようと思考を巡らす。


魔物との戦闘、その顛末はあまりにも奇怪極まるものであった。俊足、魔力、攻撃力。どれもがズバ抜けて強化されており、そして何かが可哀そうなくらいに貧弱になってしまった。


あまりにも尖りすぎてしまった莫大なメリット、そして伴うデメリット。


それを抱えこんでいること自体に問題があると考えていたのだが、少し踏みとどまり、回答を決めるのをやめた。


あのサイクロプスとかいう魔物、たしか以前にも戦ったことがあることを思い出した。


やや昔の話とはいえあの巨体から繰り出される猛攻には、こちらも決して安くはないダメージを受けた記憶は今でもありありとよみがえってくる。


だが今回はどうだろう。一度殴り飛ばされたとはいえ回復魔法でほとんどノーダメージ。いびつではあるが、過去の自分らではありえない、まごうことなき完全勝利なのだ。


・・・認めたくはないがこの不安定な力は、確実に今までよりも俺たちを強くしているのだ。


だが、それが必ずしも正しいあり方だとは思わない。


祝福などとは名ばかりの、体のすべてを滅茶苦茶にいじくりまわした奇妙な力などに今後の旅路はおろか、金輪際のかかわりなど持ちたくはないものだ。


「たしかにお前の言うとおりだ。けどこの力はもう必要ないんだ。俺たちを元に戻してくれ。」-


仲間たちと顔を見合わせ、俺は答えを出した。迷いはしたがこれが正しいと信じて。


こちらの回答に対し興味深そうに聖女が繰り返しうなずき、うなる。目をつむって考え込むような仕草をとっている間、あたりは妙に重苦しい空気間に包まれていた。


「なるほどな・・・。」


やがて目を開け、この重圧を打ち破る言葉を放った。




「無理☆」




・・・・・・・・しばらくの沈黙。


あまりにも簡潔に、悪びれなく、あっけらかんとした返答。たったその一言が、まるで強力な時間操作魔法でも食らったかのように俺たちの脳機能を停めていた。


数拍の静けさがすぎ、再びへらへらと言葉を紡ぎだす飲んだくれ。


「いやさ、言い訳させてよ~。わたしちゃんと、ちゃ~んと本気だしたんよね?せっかく美味しいお酒持ってきてくれたんだからさそれぐらいはさと思ってね真面目にやったんだよ?それがちょ~っとなんというか運が悪かったというか頭が回らなかったというかさ?ほんの少し乱れちゃったのね?少し少し。うん。だからいくらわたしでもそれを元にもどすのはーーーーーー」


「ーーーーーもういい」


湯水のごとくわき続ける怒涛の弁解は、俺の押さえつけられた静かなつぶやきと、仲間たちが武器を構える音で遮られた。


もういい。我慢の限界だ。


「あーーー・・・、ホントに反省してるよ・・・ね・・・ぇ・・・。」


「お喋りは終わったか?飲んだくれ」


俺の据わった目はしっかりと酒臭い女をとらえ、あまりにも鋭い怒気でその華奢な体を貫いていた。


「戻せる戻せないじゃねぇ、戻すんだよ、酔っぱらい。力ずくでもな」


一歩、歩を進める。聖女がビクリと肩をすくめる。


また一歩、一歩。自らに近づくにつれその顔は予想だにしなかった恐怖で青ざめてゆく。まるでオオカミに追い詰められたウサギのように、ビクビクと縮こまり始めた。


・・・勇者らしくない?いやいや、怒るさ勇者だって。どうしようもないくらいにな。


だがあと残り5メートルといった所で、ついに限界を迎えたのか。「た、助けてぇ・・・!!」という裏返った声で隣にいたシスターのスカートにしがみついた。


不安げなシスターが涙ぐんだ聖女と目が合い、「なんで私が」と気まずそうに体をそらした。だが腹をくくったのか、一つ大きなため息をつき、おびえる聖女を背中の方へと隠して歩み寄る俺の前へと立ちはだかった。


「あ、あのっ・・・聖女様もこの通り大変反省されておりますので・・・。もちろん、相応のお詫びはご用意させていただきますので、だからどうか、何卒。」


「邪魔だシスター。」


ほぼ無関係な上に剣を持った相手に謝罪をのべさせられたシスターのなんたる不遇ぶりか。だが一人立ちふさがったごときじゃ、俺の煮えくり返るような激情は抑えられないし、止めようというなら多少強引にでも引きはがす。


もう後戻りはしない。たしかに祝福を授かりにきたのはコチラだが、礼儀知らずで返品対応もできないような生意気な女には、すこし灸をすえてやらねば。


残念だが止まることはないだろうと察したのだろう。観念したように二度目の大きなため息をシスターが吐き出す。そしてゆっくりと俺の前からーーーー



ーーーー退きはせず、まさかのファイティングポーズ。拳をゆっくりと上げた。



「そこから一歩でも進めばこちらも武力行使です。お詫びはします。お引き取りください」


この不安げな女性に立ち向かうという選択肢があったことに少なからず面食らったが、戦闘態勢になったその後ろ姿からざまぁみろと顔をのぞかせた飲んだくれのせいで、真摯な対応むなしく、ありえたかもしれない和解という可能性はたったいまゼロになった。


勇者一行は武器を構え、穏便な話し合いを行える境界線を越える。シスターの目が、武人のそれへと鋭くなる。


悪いな、こちらも我慢の限界なんだ。なにがなんでもその聖女は渡してもらおうか。


俺は目にもとまらぬ速度で二、三歩目を踏み込み、目の前のあわれな修道女へと突撃した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



気が付けば大の字になって倒れこんでいた。体のあちこちが痛いし、動かそうとする体力も意志も、抱いていた怒りでさえもすでにすり切れて無くなっていた。


息ひとつ乱していない、このシスターたった一人の戦闘で。しかも丸腰の。


何が起こったのかもわからない。いや正確にはこの女にボコボコにされてこうなっているのだと知っているのだが、砲弾のような拳撃に完璧な立ち回りといなし方、加えて投げ技にカウンター。そのどれもが超人的なほどに仕上がっていて、いざそのスペックの者と相対すると、その一挙手一投足の洗練ぶりにてんで理解が追い付かないということだ。


レインもジローも一様にやられていて、仰向けに倒れて青空を眺めていた。


完敗だ。清々しいほどの。


「ほれ、もう終わったのか?まだ飲み切っておらぬぞ」


青空ばかりうつしていた視界の端から、紅潮した顔の、まるで反省の色がない聖女がのぞき込んでくる。

何事もなかったかのように再び酒をあおり始めたその厚顔さと鉄の肝臓には、もはや呆れることしかできない。


「おうおうおう、あんな怖い形相で?息巻いていたのに?なあに寝転んでいるんだかぁ。無理なもんは無理だと諦めてとっとと帰ればよかったものをな~!」


「聖女様。」


ここぞとばかりに煽り始めた聖女の頭を、冷ややかな声とともにシスターがわしづかみにする。


まるでそこから血液でも吸い上げているかのように、頬の赤色は病人のような悪い青色へと変わっていった。


「もとはと言えばあなたが酒の入った状態で儀式を執り行ったからでしょう?」


「は、はい・・・」


「じゃあこれからあなたがすべきことは、私が言わなくてもわかりますよね?」


有無を言わさぬ、だが言い返せば無事ではすまないと理解できる程の恐ろしさを帯びて、ギリギリと手に力を込めながら、飲んだくれを静かにたしなめる。


声にもならなさそうな聖女の返事を聞き、頭を掴んでいた血管の浮かんだ手を放す。


状態を起こした俺と目が合った。同情してしまいそうなほどの恐怖に怯えた顔からは、酒気などとうに抜けきって、もうどちらが被害者かわからないほどに可哀そうなものになっていた。


殺される。優しい笑みを浮かべた鬼神の圧を背に受けていた聖女は申し訳ない気持ちからではないが、心の底から助かりたいという切実な思いでついに、


「ご、ごめんなさい・・・。」


やっとのことで俺たちに頭を下げたのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そこから紆余曲折あってシスターから代わりにお詫びの品を頂けることになり、俺たちはいま教会の地下へと続く石階段を下っている。


この階段の先にどんなものがあるのかはまだ何も聞かされてはいないが、『きっとお気に召すものでしょう』とだけ告げられたので、少しだけ冒険に似た未知への期待が心に満ちてくる。


「さあ、着きましたよ」


案内されたのは暗く広い空間だった。日の光が射していないのはさることながらロウソクの一つも灯っておらず、視界からの情報はまるでなかった。かすかに漂う鉄臭さだけが、この場所の正体のヒントだった。


そしてシスターがかすかに微笑み、指をパチンと鳴らす。呼応するように壁に掛かった無数の燭台が一斉にともった。


答えが目の前に広がる。それはあまりにも、こちらの想像を容易く越えてくる回答だった。


それは巨大な地下武器庫であった。


見渡す限りの武器、武器、武器。そしてその先に続く整然と並べられた多種多様な防具一式。まだ確認できはしないがおそらくその先の先にも、冒険に役立ちそうなアイテムの数々が陳列されここに保管されているのだろうと予想できるほどの圧巻の景色であった。


なぜこのようなものが教会の下にあるのかと俺は尋ねた。


「古今東西、ありとあらゆる場所から取りそろえた私のコレクションです」


先の戦闘技術といい、この女は何者なんだ。


眼前のゆうに百は越えよう武具の量と、自慢げに答えるこのシスターに対しての驚愕とで思考がしばし空回りし続けたが、やがてなぜこの保管庫に案内されたのかを察した。


「このなかから、()()()()()()に合う最適な武器を好きなだけお選びください。」


運動性能が大幅にかたよってしまい、その原因ですらこの状態を直せられぬのならば仕方あるまい。


現時点での最強を、この場で整えてしまおう。ということだろう。


俺は仲間と顔を見合わせる。微笑むシスターが何者かはわからぬが、明らかに改善への道を示してくれていることは確かだ。


それ以外にロクな道もなさそうだと。勇者らの意志は決まった。


俺たちは目の前に並ぶ種々雑多のアイテムの行列へと、変わり果てた自分のための新たな得物を探し始めだした。


一応次で最終回です


よければ読んでいってね

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