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(4) - 合同練習 -

「えっと……ここかな?」


今日はいつもと違う場所に集まるよう瑞希さんに指示されていた。室内用のシューズを持って来てっと言われているので、おそらく室内のコートで練習できる場所を見繕ってくれたのだろう。

僕と則夫、そして羽衣ちゃんが一緒に向かう。羽衣ちゃんはいつもと違う場所が怖いのか、少しびくびくしながら僕の服の裾を掴んでいた。


「んー多分この辺りだと思うんだけど……」


僕は辺りをきょろきょろと見回すが、それらしき建物は見当たらない。


「スマホで調べれば良いではないか?」

「いやー住所で調べて見たら全然別な場所が出てきちゃうんだ……」

「お!あそこにいる女子に聞いてみようぞ!」


則夫はそう言うとその小学生くらいの女の子の方に走って行った。あ、いや、瑞希さんに連絡とればいいんじゃないかと思ったが、なるほど、その子はジャージ姿で如何にもこれからスポーツしますという格好だった。

女の子は突然現れた不審者に困惑した様子だったが、則夫がオーバーアクションで事態を説明すると、笑い出していた。


「おーい!こっちこっち案内してくれるそうだ!」


則夫の呼びかけにその子に近づく。改めて少女を見る。身長は150センチくらいだろうか? 顔はかわいい系で髪はサイドテールにしている。


「こんにちはーすいません。案内してもらって」僕が挨拶すると彼女は言った。

「こちらこそ!今日は楽しみましょうね!!」


ん?楽しむ?ここで練習することを知ってるんだろうか。


「この辺ちょっとわかりづらいんですよね」


そんな疑問をよそに彼女はずんずんと進んでいく。


「女子殿!女子殿は小学生なのか?」


女子殿という言い方が面白かったのか、彼女はケラケラと笑いながら答えた。


「そうですそうです。小学6年生です。里中優姫さとなかゆきと言います。優しいお姫さまで優姫です」


「おお!優姫殿か!良い名前だな!!よろしくお願いする!!」

「羽衣ちゃん。同い年だってよ」


そういうと羽衣ちゃんは、僕の後ろから顔をヒョイと出して、「長谷部羽衣です……」と小さな声で名乗った。


「羽衣ちゃんだね!よろしくね!」優姫さんは笑顔で答える。


「はい……」


人見知りの激しい羽衣ちゃんはそれだけ言うとまた、僕の後ろに隠れてしまったのだった。


「ふふふ……人見知りなんだ。気にしないで」


僕がそう言うと優姫ちゃんは笑ってくれた。




そして、雑談しながら進んでいくと体育館が見えてきた。その入り口には女子が立っていたのだが……。


そこには優姫ちゃんと同じ顔をしたもう一人が居たのだった。


僕は思わず二度見してしまった。そして案内してくれた優姫ちゃんを見ると、いたずらに成功したような笑みを浮かべている。


僕たちの愕然とした顔に満足したのか優姫ちゃんはニヤリと笑うと、入口に走っていき、女の子と腕を組むとそのままグルグルと回り、そして、こちらに向けて「いぇい♪」とポーズを取った。


「優姫ちゃんまたやりましたね」

愛姫あきちゃん!ごめんねー」

「まったく、いつもいつも……」


愛姫ちゃんと呼ばれた女の子はため息をつくと、僕たちに向かって言った。


里中愛姫さとなかあきと申します。愛するお姫さまで愛姫。優姫とは双子なんです」

「いえいえ、こちらこそ案内していただきありがとうございます」


そう言って頭を下げると彼女もまた同じように頭を下げた。


「優姫はそっくりな私たちを見てびっくりする様子を見るのが好きなんですよ」

「だってー、反応が面白いんだもん!」

「もう!優姫ちゃん!」


愛希ちゃんは頬を膨らませて怒っている。しかし、その仕草もそっくりだ。本当に双子なんだなと改めて思った。


「右が優姫、左が愛姫です」

「赤が優姫で、青が愛姫だよ」


そう言ってサイドテールに纏めている髪を指した。なるほど髪を、右側に赤色のリボンで纏めているのが優希ちゃん。左側に青色のリボンで纏めているのが愛希ちゃんなのか。

たしかに、そうしないと見分けが付かない。


「ふふ……まあ、母親ですら間違いますから仕方ないですね」


いや、本当にそっくりで困る。しかし、愛姫ちゃんの方は優姫ちゃんと違ってしっかり者のようだ。


「では、中に入りましょうか」


そう言って体育館の中に案内してくれたのだった。




「おお!広いな!」則夫が体育館を見渡しながら言った。


「うん、これなら十分フットサルもできそうだね」


体育館の中にはすでに瑞希さんと梓さん、そして綾姉さんがいた。どうやら先に準備をしてくれていたようだ。


「おーい。こっちこっち」

「大丈夫?迷わなかった?」

「ちょっと迷いましたが双子の姉妹に導かれました」


そう言うと瑞希さんは「お?」と言う顔をして「さっそく双子の洗礼を受けてきたか」とニヤリ顔で呟く。ここにも居たよ。愉悦犯が……。


「絶対知ってて黙っていたでしょう」

「さてどうかしらねー」


瑞希さんは口笛を吹きながら目を逸らしている。

全くこの人は……。

そう思ったら、


「じゃあ今日は、チーム『港町フットサル愛好会』と合同練習を行います!」


瑞希さんがそう宣言した。


「え?聞いてませんけど……」

「うん!今言った!!」


それも驚かせようと黙ってましたよね……。みんなも知らなかったのか驚いている。羽衣ちゃんに至っては「ひぃ!」と小さな悲鳴を出し怯えていた。


「大丈夫!みんなで楽しみましょう!!」と瑞希さんが言うので僕たちは諦めた。まあ、サプライズもたまにはいいか。羽衣ちゃんは、「いや……」「でも……」と尻込みしていたが、瑞希さんのいつもの強引さで押し切られてしまっていた。


皆が練習の準備を始めている間に、瑞希さんが僕を呼び寄せる。


「せっかくの機会だし他のチームがどんな練習してるかしっかり見ていて」


僕は「わかりました」と返事をする。


たしかに他チームがどんな練習をしているか学べるチャンスだ。


僕はみんなの練習を手伝いながら、港町フットサル愛好会の練習を注意深く観察した。

今日練習に参加している港町フットサル愛好会のメンバーは10名ほど、実際は20名以上いるチームとのことだ。愛好会と言っているがうちのチームよりぜんぜん人数が多い。その中には、例の双子の姉妹もいて、僕を見ると手を振ってくれた。


僕が手を振り返すと双子は微笑みあっている。うん……本当に見分けがつかないな。


そんなことを考えている間にも練習は進んでいく。パスやシュートの練習。特にパスの連携の確認は入念に行っていた。僕は気になる点や、練習方法をノートに書き込んでいく。

そうしていたら、同じように練習を見ていたおじいちゃんが話しかけてきた。


「ふぉっふぉっふぉ、君が池田翔太だね。澤北さんから話は聞いてるよ」


年配の方だったので体育館の管理人さんとかなのかなーと思っていたら、どうやら向こうのチームの監督さんだったようだ。


「すみません。練習を参考にさせていただいてました」


僕が謝ると、おじいちゃんは笑顔で言った。


「構わないよ。一緒に練習してくれるのもありがたいからね」


そう言うと彼は僕のノートを覗き込んできた。そして、感心した様子で言ったのだ。


「ほう、よくまとめられているね」


僕は少し照れながらも答えた。


「ありがとうございます」


そこからいろんな話をした。練習方法はもちろん。フットサルの戦術や選手同士の連携について、練習中に取り入れているトレーニングなど様々だ。


「監督と言っても実際は何をやっていいかわからなくて……」

「なに、みんなの話を聞いてあげるだけでいいんだよ」

「それだけでいいんでしょうか?」

「そうさ。みんな監督が話を聞いてくれるだけで安心するんだよ」


僕は、なるほどそんなものかと納得したのだった。


おじいちゃんは、僕たちの練習をゆるりと見ていたが「最後に練習試合をしようか」と提案してきた。


「ぜひお願いします!」


僕がそう言うと、おじいちゃんは嬉しそうに笑っていた。




練習試合をすると話すとみんなはやる気になった。


「初陣よ!絶対勝つからね!」と瑞希さんが息巻いていたし、綾姉さんは「やっぱ試合ゲームよね」とやる気満々だ。「我は勝つぞー!」っと則夫も張り切っている。

梓さんも、「久しぶりに本気でやろうかなー」と言っており気合が入っているようだ。


そして羽衣ちゃんも……。


「がんばる……」


そう言って僕の服の裾をギュッと掴んでくる。僕はそんな彼女の頭を優しく撫でてあげたのだった。

そんな僕たちを見て優姫ちゃんと愛姫ちゃんが話しかけてきた。


「いざ尋常に勝負だ!」

「私たちも出番があるそうです。よろしくお願いします」


双子は挑発するように言ってきた。

こうしてチーム『港町フットサル愛好会』との練習試合が始まるのであった。



「行くよ!愛姫ちゃん!」

「張り切りすぎて怪我しないでくださいね」


試合が始まると、里中姉妹が積極的に前に出てくる。双子だからなのだろうか阿吽の呼吸と言うべき見事な連携プレーでまるで彼女たちが3人も4人いるかのようだ。


試合慣れしていない羽衣ちゃんは、オロオロと戸惑っていた。


それをチャンスと見るや、愛姫ちゃんはかなり遠めからシュートを放ってきた!しかし、そのシュートは明らかに枠を外れている。ホッとした瞬間、いつの間にかシュートコースに走り込んでいた優姫ちゃんがそのボールの軌道をわずかにずらすとゴールに流し込んだのだ。


「愛姫ちゃんナイスゥ!」

「ナイスです優姫ちゃん」


あっという間の先制。二人はハイタッチをかわす。双子ならではの超能力じみた何かなのか、長年同じ時間を過ごしてきた感覚的な何かはわからないが、予めそこにボールが来るとわかっていたような動きだった。


瑞希さんも梓さんも、その連携プレーに感心していた。しかし、一言二言話すと小さく頷きあっている。「次はやらせない」そう言ってるようだった。


羽衣ちゃんも、2人の連携にかなり驚いた様子だったが、何か思うところがあったのだろう。顔つきが変わったように見えた。


瑞希さん綾姉さんと回ったボールが羽衣ちゃんへ。羽衣ちゃんの前には双子が立ちはだかる。2対1の状況だが、羽衣ちゃんは構わず切れ込んだ。


足の裏を巧みに使い、ボールを跨ぐように引っかけると逆足でキックフェイント。そのままボールを軽く浮かすと、二人の間を縫うように華麗なステップを踏んでボールを運んでいく。


「なにぃ!」「え?」

「いけ!羽衣ちゃん!!」


僕の声に反応するように、彼女は渾身の力でシュートを放った。キーパーもまさかそこを抜いてくるとは思わなかったのだろう。慌てて飛び出したが時すでに遅し。


「やったぁ!!」羽衣ちゃんが僕に飛びついてきた。僕はその小さな身体を優しく受け止め、頭を撫でてあげたのだった。

羽衣ちゃんは大丈夫のようだな。最初は人見知りが発動していたが、一度スイッチが入ってしまえばなんてことはないようだ。

彼女に必要なのはそのスイッチの切り替えだろうな。


「羽衣ちゃん。試合ゲームは始まったばかりだから楽しんでいこう」


僕がそう言うと彼女は少し緊張した笑みで返事をしたのだ。




その後は、一進一退の攻防が続いた。双子のトリッキーな動きも、すでに見切ったとばかりに、瑞希さん梓さんが止めてくれている。


羽衣ちゃんの動きも完全に読まれているようだ。理由ははっきりしている。動きが単調なのだ。パスもシュートも。まだ相手を見て動けていない。基本的にドリブルで突っ込むだけ。いくら凄いドリブルテクニックがあっても、これだけだとさすがに止められる。


その後は1点取られてしまったものの、綾姉さんのカーブの効いたフリーキックが決まり、同点で練習試合は終了したのだった。


「いやいや、なかなか楽しい試合だったねぇ」


おじいちゃんがニコニコしながら話してくる。


「いえ、すいません。気を使ってもらったみたいで……」


向こうのチームは、明らかにメンバーを落として来ていた。双子の連携は凄いけど小学生だ。その二人をフルタイムで出場している時点で、かなり手を抜かれている。


「いやいや、いい試合ができたよ。あの子達にもいい経験をさせることができたよ」とおじいちゃんは満足気だった。


「いやー同点だったけどいい試合が出来たね!!」


瑞希さんはご満悦だ。


「うん、羽衣も頑張ったねー」


梓さんも褒めていた。


「えへへ……」


羽衣ちゃんは嬉しそうにしている。しかし、ちょっと不満そうに見えた僕は彼女に聞いてみた。


「どうしたの羽衣ちゃん?」


すると、彼女はちょっと悔しそうな様子で言ったのだ。


「もっと活躍したかったの……」


僕は、彼女の頭を優しく撫でると言った。


「大丈夫だよ。もっと活躍できるように練習頑張ろうね」

「我も頑張るぞ!!」


則夫も気合が入っているようだ。1点目はしょうがなかったが、2点目は則夫のパスミスが原因だった。まあ、しょうがない、今の則夫に足元の技術まで求めるのは酷な話だ。ただキーパーとしてできることもあるはずだ。


そんな二人に僕は「じゃあさ……」と、とある提案してみるのだった。

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