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(3) - キーパー -

むむむ……。


僕は学校の机に座りながら唸っていた。

あれから、心当たりに連絡を取ってみたのだが、結果は全てダメ。


それもそうだー考えてみれば当然だったー。


僕がサッカーを辞めた後、みんな別のところでサッカーを続けている。もしくは別な部活に入って活動していた。当然、そちらの練習を優先するだろう。つまり、身体を動かすのが好きで、今スポーツをしておらず、かつフットサルに興味がある人。


こんな都合の良い人がいるだろうかー。いや、いないだろうー。そんな都合のいい人を探さなきゃいけないのだ。


「はぁ……」と、またもため息をつくと、突然後ろから声をかけられたのだった。


「どうした!ため息なんかついて!」


振り向くとそこには代々よよぎ則夫のりおがいた。彼は同じ学校の同級生で、昔からの友人。所謂幼馴染だ。身長が高いが横幅も広い、いわゆるぽっちゃり体型。悪く言えばデブだ。


「いや、ちょっとね」


僕が言葉を濁すと彼は言った。


「もしかして恋煩いか?」


僕は思わず吹き出してしまった。


「ち、違うよ!」

「なんだ違うのか」


則夫は残念そうな顔をするが、すぐに笑顔になると……。


「じゃあ悩みはなんなんだ?言ってみろ!力になる!」


と言ってくれたので僕は素直に相談することにしたのだった。すると則夫は腕を組んで考え始めたのだが……。しばらくしてから口を開いた。


「僕にスポーツの相談をするとは、なかなか見る目があるな!はっはっは!」


と、言いながら僕の背中をバンバン叩いてきた。僕は思わずむせてしまったが、則夫は気にせず話を続ける。


「うん!無理だ!」

「ですよねー」


運動神経は悪くはないのだが、とにかく体が重い。そのためあまりスポーツが得意ではないのだ。誰でもいいと言われた時に候補には入っていたのだが……。


身体を動かすのが好き×。

スポーツをしておらず○。

フットサルに興味がある×。


さすがに苦手だと思っているようなことを無理やりやらせることはできないよなー。


「誰か知り合いにいないかい?」

「自慢ではないが我に知り合いは少ないぞ」

「ほんとに自慢じゃないね……」

「その辺は、むしろ翔太の方が多そうだぞ」

「いや、まあ……んー、綾姉さんに相談してみるかなー」


綾姉さんが一番交友関係広そうだけど……もうすでに心当たりには声をかけていそうだ。


「綾姉?」

「うん、家の隣のお姉さんだよー覚えてるよね」


則夫も昔は綾姉さんと遊んでいたことがあるから面識はあるはずだ。


「そうかーそうかー綾さんか!うーん……」っと言いながら彼は考え込んでいる。しばらく待っていると……。


「翔太!!占いによるとスポーツができる男というのはモテるらしいぞ!いいじゃないか!!」


そんなよくわからない理論を叫びながら僕の背中をバンバン叩いてきたのだった。

痛いよ……。

そもそもそれは占いじゃなくて一般論的な何かじゃないか?


「だから今回は僕が協力してあげよう!」

「え?」

「だから、僕が一緒にフットサルをやるという事だ!よろしく頼むよ!監督!」


そう言って僕の手を掴むと強引に握手する。まあ、やる気になってくれたのなら、ウエルカムなのだが……。


「えっと……大丈夫?」

「なにがだ?」

「うーん、いろいろ?」

「わからん!!」


そうだよねー。わかるはずないよねー。


「一先ず監督!フットサルのルールを教えてくれ!!」

「ですよねーそこからですよねー」


僕は苦笑しながらも、則夫にルールを説明するのだった。




そして翌日。


「あ!監督……」


僕が練習場に着くとすでに羽衣ちゃんが来ていた。僕を見つけると少しビクビクしながらも声をかけてくれた。


「うん、おはよう羽衣ちゃん」


僕もできるだけ優しく挨拶を返す。すると彼女は安心したようで笑顔を見せてくれた。

しかし、僕の後ろから付いて来ていた則夫を見つけると「ひぃ!」と小さな悲鳴をあげると、僕の背後に隠れてしまった。


則夫はそんな羽衣ちゃんを見て……。


「翔太!なんだ!この可愛い生き物は!我もこんな妹が欲しかった!!」

「いや、妹じゃないし……」


本物の妹はこんなに可愛くないぞ。僕は思わず突っ込んでしまったが……。則夫は気にせず羽衣ちゃんに話しかける。


「こんにちは!俺は代々木則夫と言います!則夫と呼んでください!!翔太とは幼馴染です!」

「え?えっと……あの……」


突然話しかけられた羽衣ちゃんは困惑しているようだ。まあ無理もないだろう。しかし、そんな様子に気づかないのか則夫はどんどん話を続けていく。


「フットサルのルールは大体覚えたので、これからよろしくお願いします!」

「あ、はい。えっと、よろしくお願いします」


羽衣ちゃんは則夫に対してぺこりと頭を下げたのだった。


僕と初めて会った時よりは、ずいぶんマシな気がする。則夫の人柄のおかげだろうか。むしろこうやって強引に来られる方がいいのだろうか?

則夫も、羽衣ちゃんが少し心を開いてくれたのがわかったのだろう。とても嬉しそうな顔をしている。

そんなことをしているうちにみんな集まってきた。


「おー君が則夫くんかーよろしくねー」


梓さんがいつのものんびりした調子で則夫に挨拶をした。


「はい!梓さんですね!翔太からよく聞いています!よろしくお願いします!」

「え?しょ、翔太くんから、よ、よく?」


いやいやいや、メンバーを一通り説明しておいた程度だが……。


梓さんは僕をじっと見つめてくる。その視線がなんだか怖い気がしたので、僕は顔を逸らしてしまう。


「則夫くん久しぶり!大きくなった……ってちょっとデブじゃね?」

「ぐっは!」


綾姉さんの容赦ないツッコミが入る。則夫には効いているようだ。綾姉さんは笑いながらも手を差し出している。則夫はその手を握りしめると、2人で握手していた。


「よろしくお願いする!綾さん!」

「うん!よろしくね」


こうして、僕はフットサルのメンバーを集めることができたのだった。


「お、みんな揃ってるねーそれじゃあ始めようか」


瑞希さんの一言で本日の練習が始まったのだった。




「はい!今日はここまで!」


瑞希さんの掛け声と共にみんなが集まってきた。


「お疲れ様でしたー」という声と共にみんなが着替えに行く。そんな中、瑞希さんが僕のところに来たので声をかけたのだが……。


「則夫くんどうしようかー」

「そうですね。まあゴールキーパーしかないでしょうね……」


フットサルの場合はゴールキーパーじゃなくてゴレイロと言う。ちなみにサッカーでいうフォワード(FW)はピヴォ、ミッドフィルダー(MF)はアラ、ディフェンダー(DF)はフィクソ、と言うが、まあ、馴染みが薄いのでキーパーでいいだろう。


則夫は別に運動神経が悪いわけじゃないが、やはり重い。それに足でボールを扱う経験が圧倒的に足りない。しかし技術的な問題は置いておいて、あの巨体だ。ゴール前に立っていてくれるだけで、相手の攻撃をある程度防いでくれるだろう。


試合で使うならキーパーが妥当だろう。


フットサルは5名しかプレイヤーがコートにいない。本来ならキーパーでも攻撃に参加したりするので、ボールを足で扱うことに慣れているプレイヤーの方が圧倒的に良いのだが、今回はあくまで練習試合みたいなものだし、則夫には自分のゴールを守ることに専念してもらうことにしよう。


「瑞希さんと梓さんに負担をかけると思いますが」

「まあまあまあ、それは覚悟のうえだよ」


瑞希さんは笑いながら答えた。


梓さんは、シュートやパスのコースを切るポジショニングが上手くて、ボール奪取能力も高いので守備的にプレーしてもらいたい。

瑞希さんは、万能タイプのプレイヤーで攻撃はもちろん守備も上手い。

綾姉さんは攻めっ気が強くて、自分で突っかかってすぐに抜かれちゃうので前の方に置きたい。

羽衣ちゃんは、ボールを持たせると一人で局面を打開できる力を持っている。ただし、そもそも試合ゲームを満足にしたことがないので、守備?何それ美味しいの?状態だ。


綾姉さんと羽衣ちゃんの守備力が低さ分をなんとか補いつつ、素人則夫のフォローもして欲しいのだ。


「でも則夫くんも体格の割によく動けるね」

「そうですね、あれならそこそこやってくれると思います」


僕と瑞希さんが話していると則夫が近づいてきた。そして……。


「翔太!僕は決めたよ!」


突然そんなことを言い出したのだ。なんの話かさっぱりわからないがとりあえず聞いてみることにした。


「何を?」っと僕が聞くと彼は答えた。


「僕は決めたよ!フットサルで頂点を目指すと!!」


「はぁ?」っと思わず聞き返してしまった。しかし、彼は気にせず話を続ける。


「みんな僕を助けてくれてね……なんていうか『愛』を感じたんだよ」

「いや、ちょっと待て!一体どこからそんな発想出てきたんだ!?」


突然、何を言い出すんだこいつは!?僕が慌てて否定するもお構いなしだ。則夫は続ける。


「だから、みんなに恩返しをしたいんだ!それで、フットサルで一番強いチームになるんだ!」


いや、意味が分からんのだが?


「いいじゃない!!私と一緒にフットサル道を極めようじゃない!!」


瑞希さんがノリノリで則夫の肩を叩きながら言った。


「え?瑞希さん?」


僕が困惑していると、梓さんが近づいてきて囁いた。


「翔太くん、悪いけどあの人昔っからあんな感じなの」っと教えてくれたのだ。なるほど……たしかにあのノリノリな感じは実に瑞希さんらしい……。

まあ、モチベーションが高いことはいいことだ。則夫にはフットサルを楽しんでもらいたいし、瑞希さんや梓さんもきっとそれを望んでいるはずだから……


「わかった。でも無理はしないでね」


僕がそう言うと、彼は満面の笑みを浮かべていたのだった。

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