(21) - 優勝 そして -
僕たちが勝利の余韻に浸っていると、相手チームのあの女性プレイヤーが歩み寄ってきた。
「やられたわ。まさか、あなたが出てくるとは思わなかった。……池田翔太くん」
「えっ? 僕、どこかで名前を名乗りましたっけ?」
この大会を通じて、彼女に名前を教える機会なんて一度もなかったはずだ。僕は困惑して聞き返した。
「いいえ、私が一方的に知っていただけよ。――本郷さんは久しぶりね」
彼女は、今度は隣にいた芽愛莉に視線を向けた。
「うーん……ごめん! 誰だっけ!?」
芽愛莉は、いつもの調子で悪びれることもなく首を傾げる。
「ううん、いいのよ。気にしないで。まともに言葉を交わしたのなんて、一日だけだったものね」
そう言って彼女は、スポーツバッグから眼鏡を取り出してかけた。その瞬間、凛々しかったアスリートの顔立ちが、一気に知的な印象へと変わる。
「ああああああ!! サッカー部のマネちゃんじゃん!!」
芽愛莉がポンと手を叩いた。どうやらようやく思い出したらしい。確かに芽愛莉は、今の学校のサッカー部に一日だけ体験入部して、即座に見限って辞めていたのだ。
「ええっと……岩居茉奈さん、だよね? 眼鏡をかけてないと全然イメージが違うから、分からなかったわ」
夏美も納得したように頷いた。眼鏡をかけた彼女は、文科系のおとなしい女の子という印象で、ピッチであれほど激しいプレーを見せるようには到底見えなかったからだ。
「でも岩居さん、マネージャー辞めてなかった?」
さすが校内の情報通、夏美がすかさず尋ねる。
「そうなの。本郷さんが辞めたあと、私もすぐに辞めちゃって……」
聞けば、岩居さんも中学まではサッカーをやっていたらしい。高校に女子サッカー部がなかったため、せめて応援しようとマネージャーを志願したのだが……。
「まあ、あのサッカー部じゃねぇ。見切りをつけて正解よ」
芽愛莉の辛辣な言葉に、僕は(うちの学校のサッカー部は一体どんな状態なんだ……)と内心不安になった。
「でも、本郷さんが女子なのに男子サッカー部に乗り込んでいったのを見て、勇気をもらったの。私の中にあった『またプレーしたい』っていう気持ちに火がついたのよ」
岩居さんは少し照れくさそうに微笑んだ。本格的な女子サッカークラブは見つからなかったが、手軽に始められるフットサルの魅力にハマり、今では男女混合チームのエースを務めるまでになったのだという。
「まさか、こんな場所で対戦することになるなんて思ってもみなかったわ」
そう言って岩居さんは「また近いうちに学校で」と爽やかに言い残し、チームメイトのもとへ戻っていった。
ーーー
大会の全日程が終了し、僕たちが心地よい疲労感の中で帰り支度を整えていた時のことだ。 手元のスマホが小刻みに震え、羽衣ちゃんからメッセージが届いた。
そこには、自分よりも大きな優勝カップを抱えて、照れくさそうに、けれど誇らしく微笑む彼女の写真が添えられていた。
『監督、やりました! 優勝です!』
「ん? 何ニヤニヤしてるのよ」
荷物をまとめていた瑞希さんが、不思議そうに覗き込んできた。
「いや……向こうも、無事に優勝したみたいだ」
「あら、本当!? おーっ、やるじゃない!」
瑞希さんも自分のスマホを取り出し、届いていた写真を確認して声を弾ませた。
「私たちも負けてられないわね、はい、チーズ!」
なんて言いながら、僕たちの優勝カップも並べて早速返信を打っている。
「よし! それじゃあ、帰ろうか!」
僕が声をかけると、みんな晴れやかな顔で「おーっ!」と応えた。 戦い抜いた後の体は重いはずなのに、優勝という最高の結果が、僕たちの足取りを羽のように軽くしてくれる。
雨上がりの空には、雲の切れ間から柔らかな夕日が差し込んでいた。 劇的な幕切れとなった大会は終わり、僕たちはまた、騒がしくも愛おしいフットサルのある日常へと戻っていく。




