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フェアリールーレット  作者: あどん


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20/22

(20) - 手品師 -

タイムアウト明け、僕はピッチに足を踏み入れた。 足裏から伝わる芝の感触。数年ぶりの感覚に、一気に心拍数が跳ね上がる。――落ち着け。これは僕の復帰戦じゃない。チームを勝利に導くための「代打」なんだ。僕は深く息を吐き、頭を試合モードへと切り替えた。


相手チームの選手たちが、驚きを隠せずにこちらを見ている。女性だけのチームだと思っていたところに、急に男が出てきたのだから当然だろう。 だが、監督兼選手というスタイルはフットサル界では珍しくない。彼らもすぐに闘志を瞳に宿し、再開の合図を待った。


試合再開。


早速「彼女」にボールが渡る。僕が間合いを詰めると、彼女は一瞬だけ躊躇を見せた。未知の相手を警戒したのだろう。だがそれも刹那、彼女は再び牙を剥き、爆発的な加速で縦に仕掛けてきた。


スタンドからどよめきが起きる。

速い――。

全盛期の僕なら、反射的に体が動いていたはずだ。だが今は違う。ブランクのある体で、力任せに行けば一瞬で置き去りにされる。だからこそ、焦らない。見る。読む。相手の「癖」を。


その攻めの姿勢は嫌いじゃない。だが――。


「……それは、さっき見たよ」


彼女がトップスピードに乗ろうとする予備動作を見せた瞬間、僕は最短距離でサッと足を出し、吸い付くようにボールを掠め取った。


「え……っ?」


あまりに静かで正確な奪取に、彼女が呆然と声を漏らす。


完全に抜けると思っていた相手チームの足が止まった。


「翔太、こっち!」


その隙を見逃さず、瑞希さんが最前線でパスを要求する。僕は迷わず、彼女の足元へ鋭いパスを通した。 慌ててディフェンダーが瑞希さんに食らいつくが、彼女は大きく腕を広げて相手を制し、懐の深い位置でボールをキープする。そのまま相手の体重移動を利用し、軸足一本でクルリと前を向いた。


「上手い……っ!」


思わず声が出た。一流のプレーヤーは「手」の使い方が抜群に上手い。もちろん反則をするのではない。腕を上手く使い、相手との距離を保ちながら、自分がプレーするための「空間」を確保するのだ。


瑞希さんは相手を背負ったまま反転シュート! 一度はキーパーに弾かれたものの、跳ね返ったボールに誰よりも早く反応し、泥臭くゴールへねじ込んだ!


「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


会場が今日一番の地鳴りのような歓声に包まれる。再度一点差、2-1!


「ナイスパス、翔太!」


瑞希さんが弾けるような笑顔でハイタッチを求めてきた。


「……『マジシャン』の腕は、まだ錆びついてないみたいね」

「その呼び方は恥ずかしいからやめてよ」


瑞希さんの言葉に、僕は苦笑いした。


「なにそれ、カッコいいじゃん!」


芽愛莉が興味津々といった様子で身を乗り出してくる。


「絵梨ちゃん風に言えば、二つ名かしらね。まるで手品みたいに、いつの間にか相手からボールを奪い取ってしまうから……『マジシャン』。昔はそう呼ばれてたのよ」


綾姉さんの説明に、芽愛莉は「へぇー!」と感心したように僕の足元を凝視した。


「さあ、1点リードよ! このまま最後まで守り抜くわよ!!」


瑞希さんの鼓舞に、全員の声が重なった。


ーーー


その後、相手チームも必死に攻めてきた。

だが、勢いは完全に止まっていた。彼女のドリブル突破が、封じられてしまったからだ。


あれだけ綺麗に奪われたのだ。さすがに警戒してくる。

それでも何とか仕掛けようとはするが――。


「おっと、それも見たよ」


僕は彼女の足元から、ボールを外へと蹴り出した。


派手さはない。だが、確実に心を折るプレー。無理に奪い切らなくていい。相手に「自由にさせない」という意識を植え付けるだけで、十分だ。


警戒されている分、先ほどのように綺麗に奪うのは難しい。だが、自由にプレーさせないこと自体は難しくなかった。


彼女の武器は、一瞬のスピードで一気に突破するドリブルだ。

フェイントのバリエーションは、羽衣ちゃんたちに比べると少ない。

スピードに乗る前に潰してしまえば、それほど怖くはない。


さらに、先ほどのカウンターの残像が相手の足を重くしていた。


1点を取らなきゃ負け。だが、失点すれば完全に終わる。


追いついた直後の失点。

勢いが削がれるのも、無理はない。


そして――

試合終了のホイッスルが鳴った。


「よし!」


思わずガッツポーズをすると、


「やった!」


と叫びながら、夏美が抱きついてきた。


「ちょ……夏美! 足、大丈夫なのかよ!?」


慌てて支えようとするが、彼女は「嬉しい方が勝ってるもん!」と離してくれない。 すると今度は瑞希さんもやってきて、「私も混ぜなさいよーっ!」と反対側から抱きついてくる。さらには梓さんまでもが「ふふ、じゃあ私も」と参戦し、僕はあっという間に彼女たちにもみくちゃにされてしまった。


「ちょっ……みんな! 恥ずかしいって!」


鼻をくすぐる彼女たちの香りと、勝利の熱量に顔が熱くなる。 ようやくの思いでみんなを引き離すと、彼女たちは「はーい」と悪戯っぽく笑いながらようやく離れてくれた。


改めて、全員で力強くハイタッチを交わす。


「「「やったぁぁぁぁ!!」」」


冷たい雨も、泥だらけのユニフォームも、今は最高の勲章だ。 こうして、僕たちのチーム「エル・ブレイズ」は、逆境を跳ね除け、見事に優勝を飾ったのだった。

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