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フェアリールーレット  作者: あどん


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2/22

(2) - エル・ブレイズ -

今日は、正式に監督を引き受けてから、初めての練習日。

瑞希さん、綾姉さん、梓さんの三人は、もともと別のクラブでプレーしていたのだが、諸事情あって自分たちで新チームを立ち上げたのだ。


それが『エル・ブレイズ本町フットサルクラブ』


「エル・ブレイズ」――その響きにどんな崇高な理念が込められているのかと思いきや、瑞希さん曰く「なんとなく」だそうだ。その潔いまでの適当さが、いかにも彼女らしい。


「はい、では監督より一言お願いします!」

「え? ぼ、僕ですか?」


いきなり振られ、僕はドギマギしてしまう。 そう、僕はこのチームの監督に担ぎ上げられたのだ。おそらく綾姉さんが、怪我で無気力になっていた僕を元気づけようと、瑞希さんに吹き込んだのだろう。 僕自身も、何かきっかけが欲しくて引き受けたのだが、いざとなると緊張する。


「えー、今日はお日柄もよく……」 などとトボけてみるが、全員からの冷ややかなブーイングを浴び、僕は居住まいを正した。


「……監督に就任しました、池田翔太です。右も左も分からない新米ですが、精一杯頑張ります。このチームはまだ始まったばかり。みんなで力を合わせていきましょう!」


パチパチ、と温かい拍手が送られる。少し照れくさい。


「じゃ、次はキャプテン……瑞希さん、お願いします」


瑞希さんは苦笑しながら頷くと、一歩前に出た。


「みなさんご存知、澤北瑞希です! モットーは『楽しくフットサルをする』こと。よろしく!」


和やかな空気の中、綾姉さんが茶目っ気たっぷりに手を挙げた。


「監督ぅ! まずはサッカーとフットサルの違いを教えてくださーい!」


当然知っているはずの質問。サッカー畑出身の僕への「確認テスト」だろう。


「はい。まず人数は五対五。コートはサッカーの約九分の一で、基本は屋内競技です」

「はい先生! 屋内のコート、借りられませんでした!」


瑞希さんが元気よく手を挙げる。彼女がツテを頼って探し回った結果、見つかったのがこのサッカーグラウンドの隅にある屋外コートなのだという。実力を示すことで、なんとか知人に使わせてもらっているらしい。


「いいよいいよ、場所があるだけマシだって」


綾姉さんがフォローを入れる中、僕は説明を続けた。


「あとはボールですね。サッカーボールより一回り小さくて、跳ねにくい『四号球』を使います。小学生用のサッカーボールに近いサイズなので、羽衣ちゃんには扱いやすいかもしれませんね」


名前を出された羽衣ちゃんは、ビクッとして恥ずかしそうに顔を背けた。


「おー、よく勉強してるね。大きな違いはそんなところかな」


瑞希さんが満足げに頷く。そこへ、再び綾姉さんが手を挙げた。


「はいキャプテン! 現在、翔太を抜かすと選手は四人しかいません!」


僕は改めて数えてみた。瑞希さん、綾姉さん、梓さん、羽衣ちゃん……。確かに四人だ。試合に出るにはあと一人足りない。 すると突然、瑞希さんが高らかに叫んだ。


「なんとかなる!!」

「いや、ならんでしょ」


綾姉さんの即座のツッコミが入る。


「なせばなる! というわけでメンバー絶賛募集中だから、誰かいたら誘ってね!」


……完全に他力本願だった。


「あ、あの……わ、わたしも、メンバーなんですか……?」


消え入りそうな声で羽衣ちゃんが尋ねる。


「もちろん! 期待してるわよ!」

「そ、そんなの……む、無理です……」


後ずさりする羽衣ちゃん。知らない大人たちと関わるのが、彼女にはまだ怖いのだろう。


「大丈夫! そこは監督がなんとかしてくれるから!」

「えっ、僕ですか!?」


瑞希さんの無茶ぶりに驚くが、「だって監督でしょ?」と押し切られてしまう。 あの美しいダンスのようなプレーを試合で見たい、という気持ちは僕にもある。けれど、この臆病な「妖精」をどうやってコートへ送り出せばいいのか。


「大丈夫、みんな優しいから」


綾姉さんが羽衣ちゃんの前にしゃがみ込み、優しく諭す。それでも彼女の不安は拭いきれないようだった。 そんな空気を切り裂くように、瑞希さんがさらなる爆弾を落とした。


「あ、それと! 二週間後にフレンドリー大会のエントリーしといたから!」

「「「ええっ!?」」」


人数も揃っていないのに、あまりに無謀だ。


「大丈夫、なんとかなるから!」


瑞希さんは自信満々だ。呆れ果てる僕たちを余所に、綾姉さんは「……まぁ、なんとかしましょ」と笑っている。この人も相当な肝っ玉だ。


「じゃあ練習始めるよ! まずは準備運動から!」


こうして、エル・ブレイズ本町フットサルクラブの活動がスタートした。


ーーー


「はい、今日はここまで! お疲れ様!」

「ありがとうございました!」


練習中、僕はドリンクやタオルの用意など、監督というよりマネージャーのような仕事をこなしながら、みんなのプレーを観察していた。 全員経験者だけあって、技術は確かだ。ただ、やはり課題はある。


「おーい! 翔太くん、ちょっと来て!」


瑞希さんに呼ばれて彼女の元に向かうと、真剣な目で僕に問いかけてきた。


「……で、羽衣はどう見えた?」

「ボールコントロールは天才的です。ただ……連携は全然ですね」

「やっぱり、そう思う?」


瑞希さんは最初から分かっていたのだろう。羽衣ちゃんは個人技こそ凄まじいが、誰かとパスを交換したり、組織で動いたりする経験が圧倒的に足りない。


「しばらくは連携中心の練習が必要ですね。できれば、相手がいる状態で」

「うーん、でも今は五人いないしねぇ」


紅白戦すらできない。すると、瑞希さんがニヤリと笑った。


「というわけで監督、重要任務です! 二週間後の試合までに、選手をあと一人、スカウトしてきて!」

「えええっ!? 僕が探すんですか?」

「だって監督でしょ? ほら、昔のツテとかあるんじゃない?」


昔のツテ。 サッカーを辞め、逃げるようにグラウンドを去った自分。今さらどの面下げて、かつての仲間に声をかければいいのか。


「……まぁ、ぶっちゃけ誰でもいいからさ! 頼んだよ、カ・ン・ト・ク」


瑞希さんの強引な笑顔に押され、僕は重い溜息をつきながらも、スマホの連絡先をスクロールし始めた。

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