(12) - レディース大会 -
「よし! 今週も行くわよ!!」
瑞希さんが気合を入れる。
恒例になりつつある、週末の大会参加だ。
そして本日はレディース大会。女性限定の大会である。
夏美と芽愛莉が加入してから、初めての大会参加でもあった。
二人が加わったことで、戦力的にはかなり底上げされている。
特に芽愛莉さんの加入は大きい。本職のゴレイロがいるありがたさは計り知れない。
ゴレイロが二名になったことで、練習のバリエーションも増えた。則夫も、色々と教えてもらっているようだ。
夏美さんも、素人とは思えないほどかなり上手い。交代要員としていてくれるだけでも、純粋に助かる存在だ。
「ガハハハッ! 今日はガンガン応援するぞ!!」
本日は出番のない則夫も、応援に駆けつけてくれた。
「今日は夏美と芽愛莉も出るからねー」
瑞希さんはそう言うが、正直なところ、今のメンバーなら優勝も狙えるのではないかと思っている。
「もちろんよ! 任せて!!」
「あんまり期待されても困るけど……」
「大丈夫! 二人とも上手いから!」
自信満々な芽愛莉と、少し不安げな夏美。
その二人に、僕は声をかけるのだった。
今回の大会は、全12チームが参加。
3チームずつの4グループに分かれて予選を行い、各グループの1位が勝ち上がる。そこからトーナメント形式で準決勝と決勝が行われる。決勝まで進めば、最大で4試合だ。
男性に比べると、女性は競技人口が少ないと言われている。
それでも、会場にはかなりの人数が集まっていた。
「レディースの大会って、こんなに人いるの?」
「女性限定の大会自体が少ないからね。ここぞとばかりに参加するチームも多いんだよ」
芽愛莉は驚いた様子だ。たしかに、女性限定となると、そもそも出場できるチーム自体が限られる。
「レディース大会はね、実力差が大きいのよ」
瑞希さんが教えてくれた。
どうやら、この大会のために、他チームの女性メンバーをかき集めて参加しているところもあるらしい。
「ガチなところは、マジで強いから要注意よ!」
その言葉に、僕たちは自然と気を引き締める。
レディース大会の予選は、くじ引きでグループを決める方式だ。
12チームが4グループに分かれる形で、僕たちはAグループに決まった。
「よし! 気合い入れていくわよ!」
綾姉さんの掛け声に、みんなが声を揃える。
「おー!!」
その気合いの声が、会場に響いた。
ーーー
レディース大会の予選は、1試合10分ハーフで行われる。しかし、準決勝と決勝だけは20分ハーフだ。二人の新加入により、今大会は7名体制での参加となった。
人数だけを見れば、決して余裕があるとは言えない。むしろギリギリだ。だからこそ――交代の使い方ひとつで、流れは簡単に傾く。
フットサルの交代は自由に行うことができる。同じ選手が何度出たり入ったりしてもOK。審判の許可もいらず、ボールがインプレー中であっても、いつでも交代できる。
その自由さが、フットサルの面白さであり、怖さでもある。
そして、その交代要員の運用を任されるのが監督だ。僕もこれまでに、動画を見たり、本を読んだり、いろいろ勉強してきた。だが――知識と実戦は、まったくの別物だ。
監督が交代をどう切るかで、選手の疲労も、集中力も、流れも変わる。それは間違いなく、チームの勝敗に直結する。
まあ、これはフットサルに限った話じゃない。サッカーでも、野球でも、バスケでも同じだ。
監督は、自分のチームの選手の特徴を把握し、どのタイミングで誰を出すのか、そして、誰を下げるのかを判断しなければならない。
それは一試合単位の話ではない。大会全体を見据えた判断だ。
――この大会で優勝するには、どう交代を使えばいい?
考えれば考えるほど、肩にのしかかる責任の重さを実感する。
自然と、喉が渇いた。
「じゃあ! まずは初戦だね!」
芽愛莉さんの明るい声が、張りつめた空気を少しだけ和らげた。
ーーー
レディース大会一回戦。相手は大学生のチームだった。
試合前のアップを見るだけで分かる。動きが速い。切り返しが鋭い。基礎がしっかりしている――レベルは高い。
正直、簡単な相手じゃない。
でも……視線を外さず、もう一度見て、思う。
――うん。勝てない相手じゃない。
「芽愛莉さん、よろしくお願いしますね」
「OK! まかせなさーい!!」
その笑顔に、少しだけ肩の力が抜けた。他のプレイヤーは状況を見て交代させるつもりだが、ゴレイロだけは別だ。
芽愛莉さんには、全試合フル出場してもらう。この判断だけは、迷わなかった。
「よし、スタートは――」
コートを見る。みんなの表情を見る。
「梓さん、瑞希さん、絵梨ちゃん。それから羽衣ちゃん。この4人で行こう」
「りょーかいー」
「任せて!」
「よっしゃー! いくでー!!」
「が、がんばります……!」
それぞれの声色が、性格そのものだ。でも、全員に共通しているのは――気合だ。
頼もしい。そう思うと同時に、背中を預けられた責任の重さを再確認する。
「綾姉さんと夏美も、すぐに出番あるからね」
そう声をかけると、
「はいはーい」
と、綾姉さんは相変わらず軽い調子で手を振り、
「う、うん……」
夏美は少しだけ不安そうに、それでもしっかりうなずいた。
「じゃあ!」
僕は一度、大きく息を吸ってから言った。
「みんな、頑張ってね!」
その言葉に、全員がうなずく。コートに向かう背中を見送りながら、僕は強く拳を握りしめた。
ーーー
試合が始まったが……うん、やはりレディース大会はガチなチームが多い。
大学生チームは、かなり強い。
華麗なパス回しでゴール前に迫られ、至近距離からシュートを放たれた。
しかし――
「ふー、危ない危ない」
いち早く危険を察知した芽愛莉が、がっちりとボールをキャッチしていた。
そのまま梓さんと何やら頷き合っている。
なるほど。危ないとは言っていたが、あれはあの位置でシュートを打たせるよう誘導していたのか。
芽愛莉が合流してから、練習期間は短かったはずだが、ディフェンスの連携は確実に上がっているようだ。
「よし! 羽衣ちゃん、いくよ!!」
芽愛莉が声をかけ、そのままボールを投げる。
フットサルの試合で、唯一手を使えるのがゴレイロだ。
そしてゴレイロからのスローイングは、足で蹴るよりも正確なパスを送ることができる。
ゴレイロからの的確なフィードは、そのまま攻撃の起点になる。
「ナイスです!」
羽衣ちゃんはボールを受け取ると、素早く前を向いてドリブル。
すぐに寄せてきた相手を、まるでダンスでも踊るかのように華麗に抜き去る。
そしてシュート――と見せかけ、軽くフェイント。
相手ゴレイロの足の間を抜くように、ボールをゴールへと叩き込んだ!
出た!
相変わらずの決定力だ!
小学生だと思って油断していた相手は、唖然としている。
「ナイスゴール!」
綾姉さんが声をかけると、羽衣ちゃんは
「えへへ……ありがとうございます……」
と、照れくさそうに笑った。
これで先制点だ。
いつでも、どんな試合でも、先制点というのは大きい。
だが、相手もすぐに立て直してきた。
落ち着いたパス回しで、再びゴールを狙ってくる。
羽衣ちゃんも最近はディフェンスを頑張るようになってきたが、やはりそこは弱点だ。
一瞬の隙を突かれて抜かれると、シュート――と思いきや。
そこには芽愛莉さんがいた。
「まかせなさーい!!」
ボールをキャッチすると、間髪入れずにフィードを送る。
「羽衣ちゃん! もう1点!」
「はい!」
羽衣ちゃんはボールを受け、そのままドリブル。
だが今度は、二人がかりで止めに来た。
羽衣ちゃんなら、この程度なら一人でも突破できる。
けれど――
「絵梨ちゃん!」
その声と同時に、足でボールを引っかけ、ふわりと浮かせる。
そしてポーンと、相手の背後へボールを送った。
そこにいたのは、絵梨ちゃんだ。
「喰らえ! ノートラップ・ファイヤー・ボレーショットだ!!」
絵梨ちゃんは、ボールをダイレクトで叩き込む。
インパクトの利いたシュートが、そのままゴールネットを揺らした!
これで追加点だ!!
「絵梨ちゃん! ナイッシュー!!」
みんなで抱き合って喜ぶ。
羽衣ちゃんから絵梨ちゃんへ――この連携は、彼女たちが何度も練習してきた形だった。
「連携パターン3Aが決まったな!!」
「すりーえ?」
「よし、次はパターン1Bで行こうぜ!!」
「わんびー?」
羽衣ちゃんはよく分からないという顔をしていたが、絵梨ちゃんは「いいからいいから、話合わせて!」と、なぜかご満悦だ。
よし、これで2対0。
かなり優位な状況を作り出すことができた。
その後も惜しいチャンスは何度かあったものの、追加点には至らず、
前半はそのまま終了したのだった。




