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7.花が描かれたタイトルなき本

 とんっとんっとんっ。フローリングの上を歩いて自室へ入る。自室には机と椅子、ベッドの他に詰みあがった段ボールが三、四個置いてあった。中には衣服や小物等が入っている。真霧はそれらに目もくれず電気をつけてから自身の椅子にどかっと座り込む。そしてふぅと一息ついてから机に視線を向け、置いてある本を開く。


『箱庭:PM18:43。自室へ戻る』


 本には自身が行った情報が記されていた。真霧はそれを一目見てから、自分以外誰もいない部屋に向かって語り掛ける。


「なぁ、誰かいる?」


 真霧の声だけが部屋の中に響く。時たま服が擦れたり椅子が「ギィ」と音を鳴らす以外は静寂に包まれた部屋。真霧の声は誰に届くこともなく霧散した。


(流石にいないか)


 いくら待っても返事が来ることはなく真霧は再び本に視線を向けた。

 ――ピンク色のブバルディアが描かれた著者もタイトルもない本。全てを教えられる前(知る前)の自分にとって何よりも重要で大事な物だとは思わなかった代物。


(やっぱり、今でも信じられない。――これが、俺の魂だなんて)


 本の表紙を優しく撫でながらかつて教えられた、信じられない話の一つを思い出す。本に関するありえない話。


 『旅神』が持つ花の描かれた本は、彼らの命。魂そのものである。

 花の描かれた本――旅神の本体は彼らの肉体とリンクしている。本を切り裂かれれば激痛が体を襲ってくるし、中身を破られれば記憶が一部消えてしまう、本が燃やされれば――旅神の体は再生することなく死んでしまう。


 そんな話を聞いた時の真霧は混乱と動揺、不安に襲われ「デメリットしかないのになんで魂を本にして実体化してるんだよ!」と至極当然の疑問を叫んだ。結果返ってきた返答は「なんでなんだろうな……俺達も知りたい……」旅神である彼らでも何故命を本として実体化させているのか、その理由を何一つとして知らなかった。


 デメリットしかない本の話。だがメリットも僅かだが存在する。

 深呼吸を行い、真霧はもう一つ本について教えてもらったことを思い出し、ある口上を発す。


「繋げ、紡げ、未来を。旅する我等()の物語を。空想の物語。一時の夢物語。辿り着くは希望か絶望か――『神生(じんせい)行路』」


 その言葉を発し終えた瞬間、目の前の本が突如光を放った。あまりの眩さに真霧は目を閉じてしまう。――そして、次に目を開けた時。


 本が消え今の今までどこにもなかった一振りの刀と一丁の拳銃が本の代わりに机の上に置いてあった。一連の出来事に真霧は顔色を変えることなく拳銃を手に取る。


()()()()()驚くな。これらが元は『本』だったなんて、今でも信じられない」


 拳銃を様々な角度から観察し真霧はぽつりと感嘆のため息を吐いた。

 口上含め先程の一連の出来事は、デメリットしかない魂実体化のメリットの一つ——本の武器化である。

 旅神達は本の武器化を『神生行路』と呼んでおり、神ごとに変形する武器は銃や刀、弓やメイス等様々、真霧の場合は刀と銃であった。

 本が武器と化す理由は誰も知らない。真霧に『神生行路』のことを教えた存在は「()()()()()()()。複雑な理由ではないと思う」と推測を述べていた。

 

 自分の武器をある程度観察し、真霧は『神生行路』を解除した。すると銃と刀が消えブバルディアが描かれた本が再び姿を現した。本に戻ったのを確認した後真霧は部屋の電気を消しベッドの中へ入り、目を閉じた。







『神座真霧さん。放課後”第二校舎裏”にて貴方をお待ちしております。大事な話があります。匿名より』

『なんだこれ』


 登校した真霧は、靴箱の中に手紙が入っているのを目撃し中身を確認して、頭に疑問符を浮かばせた。栄光学園に入学してから二週間後の”9月21日”。果たし状のような手紙を送られる行為をした覚えが真霧にはないし。こんな手紙を送られる理由も分からない。真霧は絶え間なく疑問符を浮かべながら第二校舎裏について思い出す。

 授業を受ける校舎が第一で、職員室や技術室、美術室などが存在する校舎が第二。そしてその第二校舎の裏は、丁度最初に時雨空(ガーベラ)を発見した辺りが裏側に当たる。『この匿名はガーベラなんじゃ……?』と真霧は思い至る。

 一体空が自分に何の用があるのか、大事な話とは? 疑問符は止まることなく増え続ける。そんな状態で授業を受け、放課後になった。

 真霧は手紙を持って第二校舎裏へ向かった。永理への事前報告はすでに済ませているので道中特に何かをすることはなく真っ直ぐと目的地へと向かい、到着する。目的地に人はいなかった。まだ来ていないのか。と思い真霧は空がもたれかかっていた木に向かって、空を待つことを決めた。


 そして。


 意識がぶつりと切れた。何があったのか、何が起きたのかもわからず視界は一瞬にして黒に染め上げられた。


<>


「…………夢」


 9()()7()()。ゆっくりと瞼を開き、真霧は目を覚ました。それから真霧は目覚めたばかりの思考をフル回転させ先程の夢を思い出す。9月21日、手紙、第二校舎裏、大事な話——木にもたれかかった後に自分に起こった何か。そこまで思い出し、真霧は長いため息をついた。


「……()()()……」


 ぽつり。呆れた様子で真霧は夢の出来事がこれから自身に降りかかる未来予知であると結論付けた。

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