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5.始まりの物語開演

 翌日。別々のクラスとなった真霧と永理は職員室前でそれぞれ別れ、真霧は自身のクラスである教室に向かおうとすると、職員が真霧を引き留める。


「真霧さん。君はここで待ってくれないか?」

「え? 何故ですか???」

「実は君が行くクラスにもう一人転校生がいてね、どうせなら一緒に行った方がいいだろう? だからもう少し待ってくれないかな? まだ彼女がここにきていなくて」

「はぁ。分かりました」

(この時期に俺達以外に転校生がいるのか。誰なんだ?)


 自分達(旅神)以外にも転校生。黒薔薇から教えられてない情報。真霧は顎に手を当て考えた。「この展開は物語として正しいのか、それとも自分達が来たせいで何かズレてしまったのか?」と。うーんと唸る真霧と教員は転校生の到着を待った。——転校生が到着したのは、これから五分が経過してからだった。こちら側に近づいてくる足音が真霧の耳に入り、視線を音の発生源へ向けると自身と同じ制服を身に着けた女子生徒がいた。彼女は息を切らし深呼吸をし口を開く。


「すみません。遅れました!!!」

「いいんだよ榊原さん、まだ時間はあるから。神座くん、彼女が君と同じクラスになるもう一人の転校生だ」

榊原沙良(さかきばらさら)です! え、えーと……」

神座真霧(しんざまきり)だ。よろしく、榊原さん」

「は、はい! よろしくお願いします!!」


 沙良と名乗った女子生徒は真霧に対し深々と頭を下げた。桜色の髪につぶらな瞳。可愛らしいと思わす程の見目、大人しそうな雰囲気を醸し出しつつ自分の意思は強そうな声色。会話にもなってないたった二回の挨拶と自己紹介で真霧は彼女に対しそんな印象を抱かせた。


(——あれ。こいつ情報に乗ってた奴か?)


 事前に知らされていた情報、そこに記されていた少女が沙良がそっくりに見えた。名前も同名の榊原沙良。それに連なり真霧は彼女についての情報を思い出す。

 榊原沙良は転校初日に不思議な夢を見て、そのせいで寝坊・遅刻する羽目となった——という流れから彼女の学園生活は始まる。だが彼女は平穏な学校生活を送ることは出来ず波乱万丈な展開が襲い掛かる。それを彼女は友、恋をし愛した者と共に困難を乗り越えハッピーエンドを迎える。——いわば彼女はこの世界の主人公だ。


(……俺この子と一緒のクラスになるのか……トラブルに巻き込まれそうだな、いやだな……)


 これから確実に起こるであろう波乱万丈な展開に不安で真霧は遠くを見つめた。


「あの、神座さん、くん? 私達は一緒のクラスになるんだよね?」

「そうだ。あと神座じゃなくて真霧って呼んでほしいな。苗字だと俺の姉さんと被るから」

「お姉さんがいるの?」

「いる。けど姉さんは俺達とは別のクラスなんだ。……もし会えたら仲良くしてほしい」

「はい!」


 共に教室へと向かっていく最中、会話がなく気まずくなったのか榊原が真霧に声をかけた。真霧は柔らかい笑みを浮かべつつ言葉を返した。そしてごく自然に神座ではなく真霧と呼ばせるように誘導した。そうして二人はこれから暫く世話になる2ーA教室に入った。先に職員——教師が教室に入ると中から教師のありきたりな台詞が真霧の耳に入る。


「お前ら席に着け~今日は転校生がいる! しかも二人だ!!」

「マジ~~!!?」

「二人も!!? 性別は!!? 男!!? 女!!?」

「落ち着け。榊原、神座。入って来い」


 興奮している生徒達の声をBGMに、真霧と榊原は教師に呼ばれた後教室に入った。教室に入ると生徒達の視線が二人に突き刺さる。真霧は視線を生徒達へと向け、気づく。


「……」


(あれってガーベラか? なんで濡れて……)


 体が何かで濡れているガーベラの姿。教師もガーベラの異変に気づいたのは心配そうに声をかける。


「空さん、どうしたんだ? 濡れているけど何かあった?」

「あ〜せんせぇ、空ちゃん手を滑らせてペットボトルの中身被っちゃったみたいなんです〜」


 教師の声にガーベラの近くにいた生徒の内一人がガーベラの代わりに説明した。——何故か口元を隠して。


「空さん、どうなんだ?」

「——えぇ、合っています」

「いじめではないんだな?」

「はい。ですので私のことは気にせず転校生の方を紹介してください」

「そうか……」


 ガーベラの言葉に教師はそれ以降深く追求せず、他の部分——濡れている部分に話題を変え軽く話をした後、ガーベラは保健室からタオルを貰いに教室から出て行った。教師と会話している間、教室から出て行くまでガーベラの表情は全く動くことはなく、視線もそらしたままであった。


(……あいつに何が起きてるんだ?)


 ガーベラという個体を良く知らず、ここに来てからのガーベラの様子を知らない真霧は彼女の様子が可笑しいと思ってしまった。もやもやとした感情を抱えつつ教師の呼ばれ、二人はクラスメイトに向かって自己紹介をした。その後席に座りこの世界での授業が始まった。


<>


 保健室から受け取ったタオル二枚を持ちガーベラは呟く。


「”アレ”と同じクラスメイト……”アレ”は何? 何の『役』を持っている? ”アレ”は――一体何者?」


 授業が始まったことで生徒がいなくなった廊下を歩き独り言を呟き続ける。


「『主役』はいたから、『主役』ではない。ならアレは何の『役』を振られている? ……今になってイレギュラーが発生した? 何故? 何のために? …………アレの中身が分からない以上私がやるべきことは変わらない。彼女を生き残らせるだけ。ただ……()()()()は厳しい。きっとまたループしてしまう。ですがもう、あんなものは見たくない」


 ぽたぽたと自らの頭から滴る水滴をタオルで拭きとり、ガーベラは決意を固めた。

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