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4.希望の花と接触

「は~~~でかいな」

「全国の能力者が集まる学園とのことですので、大きいのは当たり前でしょう?」

「そうだけど……思ったより大きくてな。ここまで大きいから内装も綺麗にしてるんだろうなぁ。外観でこれだし。——これは滅茶苦茶金かけてるな」

「疑問に思う所はそこなのですか?」


 真霧が液晶に書かれていた『栄光学園』を目にして、思わず感嘆の声をあげた。目に見える範囲で目立つ汚れは見当たらず、新築のような外装。永理は感嘆の声をあげる真霧の着眼点に眉を下げ首を傾げる。そしてこくりと言葉を出さずに頷く真霧を見て、「そういうものなのですね」と納得した様子を見せ、学園に足を踏み入れる。


「さぁ真霧、行きましょう? ……真霧?」


 先に入口に向かった永理は、真霧がついて来ていないことに気づき、彼に目線を向けた。真霧は建物に心奪われているようで「すっごいな……これいくらかけてるんだ……? そもそもこれ、いつ建てられたんだ……?」と独り言を呟いていた。その様子に永理ははぁっとため息をつき、真霧の傍まで近づき——そして彼の両頬をむにっと抓った。


「い゛っ!?」

「いつまで関心しているつもり? (わたくし)達の役目、お忘れで?」

「えっ、いやっ、悪い。忘れてない……」

「任務が終わるまではここで過ごすのですから、今見なくても後から十分見れますわ」

「う゛……それは……そうだけど……悪い。あと、離してくれないか。いつまで抓ってるんだ。というか揉んでるよな」


 抓られていたが段々と揉まれ始めていることを気づいた真霧は、不満げな様子で永理に冷めた目を向けた。永理は反省する様子はなく、くすりと笑う。


「柔らかくて、つい」

「ついで揉むな。やめてくれ」

「またやってしまうかもしれませんわ」

「やーめーろー」

「ふふ、では行きましょうか」

「話を聞け」


 話を無視し先導する永理に、真霧はため息をつきそのあとをついていく。

 永理の行動に「姉がいるって、こんな感じなのか?」と姉がいる同級生の姿を思い浮かべた。だが応えてくれる相手が今この場にいないので、真霧は「帰ったら聞くか」と液晶にメモを残した。


 学園に入ってまず分かることは周囲に人がいないこと。壁にたてかけられている時計を確認すれば、今は授業中ということが分かった。


「職員室がこの先ですわね」

「中も広いし綺麗だし……本当にすごいな」

「先程から同じことばかり言っていますわよ」


 感嘆の声を漏らす真霧の腕を掴み永理は目的の場所へ引っ張っていく。真霧はその手を振り払うことなく大人しく引っ張られつつついて行く。その間にポケットからスマホを取り出し、端末からスマホに入れた情報を確認しこれから何があっても自然に対応出来るよう予習する。記憶喪失と偽るのは()()()()()では出来ないので、いかにこの世界の住人であると自然に振る舞うのが肝だ。悶々としていると永理が真霧の肩を軽く叩いた。どうやら職員室に到着したらしい。

 

「失礼しますわ」

「ん? 君達は……」

神座永理(しんざえり)ですわ。こちらは弟の神座真霧。今日からこの学園の生徒になる——はずでしたわ」

「ああ! 君達か! 全然来る気配がないからそろそろ連絡しようか考えていた所だったよ!」

「あら! そうでしたの? それなら先に連絡していればよかったですわ!」

「まあ無事に来てくれた訳だからそこまで気にしなくていいよ。ところで、どうして遅れてしまったんだい?」

「実は(わたくし)達この街に来たばかりで、道が分からずあちらこちらに行ってしまい……そしたらこの時間になっていました」


 自然と嘘をついていく永理。誰が見ても困ったような様子と顔をして教員に対応していく様を見て、真霧は信じられないモノを見るかのような目で永理を見た。


(うっっわ。凄いな……こんなすらすら言葉が出てくるんだ。旅神って凄いな。普段こういう風に人間に接してるのか……?)


「? 君、神座真霧くん? だったかな、どうしたんだいそんな顔をして」


 教員が信じられないような顔をしていることに気づき真霧に声をかけた。永理から突然己に言葉が投げかけられたことで真霧の肩がびくぅっと上がり、視線を右往左往させ真実を混ぜ込んだ嘘を吐き出す。


「うえっ!!? え、あ、えーーーっと、その、姉さんが凄い自然に嘘つくから驚いたんだ。さっきまで姉さん『今から言っても遅刻確定でしょうし、少し街中を見て回りましょうっ!』って言ってて……」

「っ、ま、真霧! そういうことは言わなくてもいいのですよ!?」

「ハハハ! 君達は随分仲がいいんだねぇ! いいよいいよどうせ嫌になるぐらい毎日この街を見ることになるだろうから、最初はそういう気持ちでいいだよ。だけど遅刻したからもういいか精神は駄目だよ! それするなら連絡しなさい!」


 真霧の咄嗟の真実&嘘の発言を聞いた永理は目をぎょっとさせ、焦りと恥ずかしさで顔を赤くしながら真霧に怒った。そんな二人の掛け合いを見て教員は真霧の言葉に不審がることなく手を叩き笑った。教員の様子を見て真霧は「なんとかなったか……」とほっと内心で安心していると、永理の声が頭の中に響いた。


(咄嗟の対応としては70……80点としましょう)

(うわっ!!!? な、なんだ!? テレパシー!!!? うわ~~~~~~プライバシー侵害だ!!!)

(……心の中まで読むなんてことはしませんわよ。会話だけですわ!! あと少し静かにしなさい。耳が痛いですわ)

(声を出してないのに耳が痛い……?????)


 唐突な出来事に動揺してしまい、真霧は声が出てしまいそうになるのを必死に抑えた。だが動揺を完全に抑えることが出来ずびしりと歪に体が固まってしまう。——運よく目の前にいる教員にその異変が気づかれることはなかった。そんな真霧の状態を知ってか知らずか、永理がテレパシーで「これから終わりまで(わたくし)と生活するのですから早く慣れてくださいね? 貴方様は人間で、今回が初の長期任務ですから慣れるまで大変でしょうけど」と心配しているような声が聞こえ、真霧は先程の永理の対応を思い出し「これが初心者と熟練者の経験の違いかぁ」と思った。


 教員から学園内での軽い説明を受け、二人は学園内案内書を貰ってから職員室から出た。そこそこ分厚い説明書を、真霧は持ってきた鞄の中に入れていると隣から説明書がにゅっと現れた。視線を永理に向けと永理は笑顔で「入れて♡」と媚びを売るような声を出し説明書を無理やり真霧の鞄の中に入れた。無理やりに入れたことで少し紙が皺になってしまうが永理は特に気にする様子は見せない。「雑だなこいつ」と真霧は呆れたような視線を永理に向け皺になった紙を少し整え鞄の中に入れなおした。


「……あの人が優しくてよかったな。普通初日で遅刻したら説教ものだぞ」

「もう過ぎたことを気にしては疲れてしまいますわよ。それに、もう終わった出来事の可能性(IF)を考えても仕方のないことですわ」

「……それもそうか。はー考えて損した。……それで、どうする? 見るか?」


 教員に「静かにしていれば校内を見て回ってもいい」と言われていた。故に真霧は永理に自分一人で決めてはいけないだろうと思い問いかけた。問いかけに永理はこくりと頷き二人は校内を見て回ることにした。


(ああいう対応ってよくするのか?)

(ああいう対応とは?)

(誤魔化し)

(必要とあればしますわ。それに、馬鹿正直に『先程この世界に来たばかりなのですわ』と言ってとしても誰も信じませんし、むしろ不信がられ今後の展開に対応しずらくなってしまう。そうなれば当初の任務以外にも問題が重なって最終的に――任務完遂が不可能となる)

(考えてるんだな)

(これでも貴方様よりも、主君よりも長く生きていますもの)

(あいつよりも……??????)


 校内を歩きつつ二人はテレパシーで会話をし、会話の最中に聞こえた「永理は黒薔薇より長く生きている」というワードに真霧は驚き、困惑した。そして二人の様子を思い浮かべ対比し「言われてみれば確かにこいつ(永理)は年上っぽいな……?」と納得した。それ以降の会話は互いに気になるワードもないまま会話は続いた。そして真霧はあるモノを視界に入れ、ぴたり。と歩みを止めた。


「真霧?」

「あいつ、なんであんな所にいるんだ? 今授業中じゃないのか?」

「? 一体何を見つけたの…………ガーベラ様?」

「え?」


 視線の先には恐らく生徒なのだろう、制服を身に着けた青髪の人物が窓の外から見えた。校内からは外にいる生徒の性別は分からないが、眠っているのか微動だにせず木にもたれかかっていた。その生徒の姿を目にした永理は驚いた様子で、かき消えるような声で言葉を溢した。


「……あいつ、ガーベラなのか?」


 思わず永理に聞き返した。遠目では生徒がただサボっているように見えるだけで、同胞である旅神には見えない。真霧の疑問に永理はこくりと頷き説明を付け加える。


「ええ。(わたくし)はガーベラ様と交流していましたの。それに加え(わたくし)達旅神は、同胞がすぐに分かるようになっているのですわ」

(えっなにそれ俺知らない……)

「……俺あいつ見ても分かんないんだけど」

「それは貴方様が旅神である以前に人間であるからでは? 出会ったことがないのもありそうですが」


 行き場のない手を宙に浮かせる程動揺を見せる真霧に補足を付けたす永理。教えられていない情報の数々に真霧に不満が現れたが視線を生徒に向けた途端不満は消え去った。今はそんなことを考えている場合ではない——真霧は踵を返した。


「真霧?」

「あいつと話してくる」


 一言伝えてから真霧は今が授業中なことに気にも留めず走り生徒の元へ向かった。


(気のせいならいいけどな)


 視線を生徒に向けた時、薄っすらと見えた曇った青緑色の瞳。その目は共犯者である彼ら(亡霊の黒薔薇達)ではない黒薔薇で嫌と言う程見た——精神が不安定になっている瞳。


(何をなさるおつもりで?)

(いいから)


「——なぁアンタこんな所で何してるんだ。今授業中じゃないのか?」

「……だれ……?」


 テレパシーを仕向けてくる永理の声を無視し真霧は視界に映った生徒——ガーベラに声をかけた。すぐ傍まで接近したというのに何一つ反応を示さない生徒。生徒——彼女が反応を示したのはほんの数十秒経ってからだった。

 声色で生徒の性別が女性であると理解出来ると同時に聞こえた疲れ果てた声に、真霧の背筋に冷や汗が流れた。そして次に発されたガーベラの言葉に真霧は目を大きく見開き動揺することになる。


「だれ? 貴方みたいな生徒、ここにはいないはず……どこかから連れてこられたのでしょうか……可哀想に……ああでも……忘れられるんだ、いいなぁ」

(うっ、わ……これ、やばくないか。連れてこられたとか。忘れられるとか……俺が旅神じゃなかったら異常者扱いされるだろ……)

「やだ、なぁ……いつまで、いつまで? いつまでつづく? いつまで、わ、たしは————」

「落ち着いてくれ。一度深呼吸しろ、一度落ち着け。ゆっくりでいい。大丈夫だ」


 壊れたラジオのように「いつまで」「つづく」を繰り返すガーベラを一度落ち着かせようと真霧は慎重に、冷静に、声をかけた。焦点のあっていない目に青ざめた顔、体を震わせガーベラは真霧の声が聞こえていないのかぶつぶつと同じ言葉を繰り返す。何度も、何度も、何度も————


(これ、まずくないか、このままだと壊れるんじゃないのか!!?)

「おい、おい!! ッ……ガーベラ!!」

「————ッ!? え……」 


 様子がおかしくなったガーベラに危機感を覚えた真霧は、ガーベラの両肩を掴み目線を合わせ彼女の花名を呼んだ。意識を自分自身に向けガーベラが壊れてしまわないように。手遅れにならないように。

 名を呼ばれたガーベラは焦点の合ってない瞳を繋ぎ合わせ真霧を視界に入れた。そして目に見えて分かる程の動揺を見せ真霧の両手を払い距離を取った。


「おわっ!?」

「何者ですか。いいえそれ以前にいつからここにいたのですか」

「落ち着いてくれ。俺は——」


 自分自身の名を知られている。しかも人間に。そのことにガーベラは真霧に向かって敵意と警戒を見せた。今すぐにでも攻撃してきそうな気配を見せてくるガーベラに真霧は説明しようと口を開こうとして——授業の終わりを示すチャイムが辺りに響き渡った。チャイムを聞いたガーベラは建物に視線を向け木の影に置いていた鞄を手に取った。


「色々と問い詰めたいことがありますが、今は聞きません。私はこの辺りで失礼します。さようなら」

「え、ちょっ、まて!! 待てよ!! 俺はアンタに話が!!」


 颯爽とその場から去ろうとするガーベラを真霧は引き留めたが、歩みを止める様子もなくガーベラは真霧の前から去って行ってしまった。追いかけなければ——真霧が足早に追いかけようとすると脳内で永理の声が響き渡る。


(ブバルディア。一度戻りなさい)

(だがっ!!)

(もう一度言うわ。戻ってきなさい)

(…………分かった)


 永理の意図が分からず真霧は不満を抱いた一先ず彼女の従った。だがガーベラに対するもやもやとした気持ちが晴れる訳もなく、複雑な感情を抱きつつ真霧はその場から離れた。

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