3.真霧にとっての長期世界——その①
足が地面につき、世界転移が無事に終えたのを感じ取った真霧は目を開く。
「ここが……?」
視界に映ったのは真霧が暮らしていた世界と似た景色。真霧は首を傾げ周囲を見渡す。——ループが起きそうな危険物は見えず、平和な世界にしか見えない。
——何が起きればこんな平和そうな場所でループするんだ?
疑問の表情を浮かべている真霧の隣で、歩き出そうとしたナズナが何かに気づいたのか動きを止めた。両手を何度も開閉させ、ぱちくりと目を瞬かせ考え込む仕草をする。そして半透明の液晶を出し目を見張る。
「……そういうことですか」
「どうしたんだ?」
「私。今人間になっていますわ」
「……人間? お前は神だろ?」
きょとんとする真霧に、ナズナは困った様子で眉を下げ、液晶を真霧に見せた。そこに書かれていたのはナズナの状態。『lock【Flower God】:解除不可』『ナズナ:状態【Human】』という文面が液晶に描かれており、真霧は訳が分からず首を傾げる。
「なんだこれ」
首を傾げる真霧をよそにナズナは身に着けている鞄から一冊の本を取り出す。それは真霧が読んでいた本と同じ物。少し違う点は表紙にブバルディアではなく、ナズナが描かれていた。——花が描かれた本は旅神だけ持っている彼らの魂を具現化したモノ。本が壊されなければ彼らはいくらでも再生できる。ただし肉体の破損が酷ければ本が無事でも消滅してしまう。
ナズナは自身の本を読み、そして閉じ息を吐いた。
「こちらも、私が人間になっていると描写されていますわ。——これでは神の力を最大限に使うことが出来ませんわ」
「人間になってるって……大変そうだな。……アンタが人間になってるなら、その梅とガーベラも人間になってるんじゃないか?」
「十中八九そうなりますわ。そしてこの箱庭のルールは――――あぁ……そういうことですか」
液晶を見てナズナは納得した様子を見せた。真霧も同じく自身の液晶を開いた。液晶は他の神も持っているタブレットのようなモノ。中身は自分自身の状態、他の神への連絡先、世界の情報が記されている。真霧は黒薔薇から送られた今いる世界の情報を読み込んだ。『人ならざる化物』『化物に対抗する能力者』『栄光学園という場所で能力者を育成している』——簡易にまとめられたそれを見て、真霧はこの世界の状態を軽く知ることが出来た。——液晶にはナズナと真霧のことも記されていた。
『神座真霧/九月より姉の神座永理と共に栄光学園に転校。栄光学園に能力を見込まれ転校する事になった。家庭環境……』
「神座……永理」
「人として紛れる時に使う名ですわ。ただ、こちらの名ですと操られやすい……洗脳等の力を持つ能力者には十分気を気を付けましょう」
「あぁ……」
困ったように笑うナズナの様子に、真霧はふーん……と興味がなさげな様子を見せた。液晶に視線を戻し、黒薔薇によって創られた情報を一通り目を通し、液晶を消した。
「……ナズナ」
「ここでは永理と呼びなさい。ここでは私達は神座永理と、神座真霧。花の名は忘れてしまいなさい」
「はいはい、永理姉さん」
「ふふ、いい子ね」
呆れた様子の真霧に、くすくすと笑うナズナ――永理。
永理は真霧に手を差し出す。その行動を察することが出来ない真霧は首を傾げる。
「なんだよ」
「お姉ちゃんと手を繋いで学園に行きましょう?」
「え、嫌だけど。そもそも、高校生の俺達が仲良く手を繋ぐの可笑しいぞ」
「…………そうなのですか」
「…………そうだけど」
拒絶の言葉と、拒絶の理由を聞いて永理はびっくりした様子を見せた。そして少し悩む仕草を見せた後、手を引っ込めた。
「………………そう。では忘れて頂戴?」
——こいつから見て俺は幼子に見えてるのか……???
ほんの少し赤くなっている頬を見て、疑念を抱きつつ真霧は真霧はこくりと頷いた。真霧の反応を見てから永理はこほんっと一つ咳払いをし、この世界の中心となる学園に向かって歩きだした。その後を真霧もついていく。
——何気に、長期で他の世界に行くのって初めてか。いつもは二日ぐらいで帰るから新鮮だな。
ぼんやりと、真霧は街中を眺めながら緊張感が全くないことを考えた。




