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旅花「絶望に抗いし花神達の物語」  作者: 蒼本栗谷
第一章「物語の開幕。それは果たして希望か。あるいは――」
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2.世界を旅する花

「ん、なんだもう来たのか」


 二人が部屋の中に入るとそこには一人の男性がいた。

 赤いマントを肩にかけ、白いベストに黒のシャツ、肩までの黒髪に赤い横髪、真霧のような真っ赤な瞳に褐色の肌と、黒と赤が目立つ男性の姿。その中で一際目立つ痛々しい首の傷跡。

 真霧は部屋に入って苦々しい表情をした。


「――うっっわ」

「人の顔を見てうわとはなんだ。そんな性格に育てた覚えはないぞ」

「育てられた覚えはないけど? 創られはしたけど。創造神様?」

「怒るなって。あとその発言で傷つくのはお前だろうに……」


 真霧は煽るように目の前の男に悪態をつく。

 目の前にいる男性こそ、真霧の世界を創り上げた神であった。

 真霧が創造神に対し辛辣な言葉を発する理由は、初対面での最低最悪な会話のせいであった


『空想の箱庭管理者ブバルディア――17年生まれ育ったお前の世界が全て最近創られた空想の世界な訳だが……どう思った?』

『……それを、俺に直接言うのか? 神ってのは人の心がないクソ野郎なのか???』

『お前にとって過ごしやすい、都合のいい設定にしてあるんだから人の心がないって言うのはやめてくれ』

『は? じゃあ最初からその問いかけをするなよ。不愉快だ。クソ神』

『口悪いぞ。全く、誰だこんな奴を創ったのは――――俺か……』


 そんな出来事が初対面時に起きた事で、真霧は己の創造神に嫌悪感を抱いていた。


「で、黒薔薇、俺を呼び出した理由は? あとナズナを今回の任務に選んだ理由も教えろ」

「そう急かすな。ナズナのことも今回のことも全部話すから。本当お前は俺のこと嫌いなんだな」

「初対面の会話忘れたとは言わせない」

「それは悪かったと思ってる」

 

 黒薔薇と呼ばれた神は、真霧と背後にいる女性、ナズナを見てぎこちなく眉を下げ困った表情をした。

 ナズナも同じく困ったような顔をして「こればかりは主君が悪いのですよ?」クスクスと笑った。

 真霧はそんな彼らの様子を見て、二人の正体を思い返す。


 花の名を関する、様々な世界を旅する自由な神。彼らは自分達を”旅神”と名乗っていた。

 数多の世界に訪れ、その世界で起きる者達の物語に干渉/観測。又は彼らを創り上げた創造主の命で世界に赴き任務をこなす——旅神はそんな神であった。

 誰もが自由な神だと思ってしまうそんな彼らは気づかない内に、自らの神生(じんせい)を弄ばれていた。

 そしてそれを行っていたのは――――旅神の生みの親である数多に存在する創造主であった。


 真霧を生み出した神、黒薔薇曰く――。

『ゲームにやり込み要素とかあるだろ? そのやり込み要素で最初からでないと出来ない物があるとする。あいつらは自分の世界だから最後までやり込み要素はやりたい、けど同じ物語を見るのはツマラナクて飽きる。けど俺達旅神が来て物語に干渉すればそれは正しい物語は違う、別の物語が展開される。飽きがない』

『……それとお前達が玩具にされてる事と何の関係があるんだよ』

『旅神で遊べば面白くて飽きが来ないって思考になったんだろうな。そんな下らない理由で今まで弄ばれてたって考えると反吐が出る。何が”実験”だ、モルモットにするぐらいなら最初から自我を与えるな』

 とキレ気味に話していた。

 

 何故なら黒薔薇とナズナはその創造主の欲求を満たす為だけに、神生を弄ばれていたからだ。

 片や精神を壊す為に数多の存在を犠牲に絶望を与えられ、片や従順な駒として期待に応え続けた結果不要とされ棄てられた。

 

 結果。黒薔薇は創造主を潰すことに決めた。「俺以外にもあんなことをしていたなんて反吐が出る。全て、終わらせてやる」と。

 真霧は黒薔薇の復讐の過程で生み出された人間であり、そして神でもあった。――空想の世界に存在する神、夢と空想の二つ名を持つ”ブバルディア(旅神)”として。

 

「本題に入るぞ。梅とガーベラがゴミによって苦しめられている。解放してほしい」

「誰だ……?」

「梅、ガーベラ様と言えば……確か忠実な梅、希望のガーベラの二つ名を持っている双子の旅神ですわね」

 

 黒薔薇の言葉を補足するようにナズナがすかさず二人の補足を付け足す。


「あの方々は鏡写しのように左右非対称の容姿をしていますわ。そしてガーベラ様は女性、梅様は男性の姿をしていますが、一目見ただけではどちらなのか判断が出来ませんわ。姿まで同じ、あるいはお互いに成り代わってしまえば……」

「触らないと分からない、か。ガーベラに触れたらセクハラだから進んで触りたくないな」

「お互いに成り代わるのはそれ相応のことがあった時だけですわ。だから敵対さえしなければ気にすることはありませんわ!」


 なあナズナ。それフラグって言うんだけど、知ってるか? と真霧は言いたい気持ちをぐっと押さえ込み、黒薔薇に速く次を話すように視線を送る。

 真霧の視線に気づいた黒薔薇は眉を軽く下げてからパンっと手を一回叩いた。


「脱線するのもいいが、それは俺の話が全て終わってからしてくれ」

「はっ! 申し訳ありません……」

「話を戻すが……あいつらは数千年前から行方不明になっていたんだが――」

「数千年前!? っ、いや、話を続けてくれ」

 

 ありえない単語が真霧の耳に入り制止しようとした。が、また話が長くなるのでは? と踏み留まった。


「……それで、ある箱庭であいつらの存在を確認できた。そこまではいい、よくある休暇なんだろうって思ったんだが、数千年その箱庭に滞在してたんだ。ああ箱庭の意味は分かるな?」

「世界、だろ。分かってる」

「……滞在してる理由を調べたんだが……どうやら厄介なことが起きていたんだ」

「それは一体何だったのですか?」


 黒薔薇は困ったように首に手を当て、うーあーと何かを悩みだす。


「何してるんだ」

「ちょっと……待て……あーこれなら……あいつらな、ループしてる」

「は?」


 何言ってんだこいつ。と真霧は冷めた目を黒薔薇に向けた。

 黒薔薇は困ったように眉を下げ額を抑え言葉を必死に選んでいる様子を見せた。

 そして手元に半透明の液晶を出し、そこに書かれた文字を読み上げる。


「えぇと……創造主によって選ばれた人物が死んだら、物語が始まる前……えーと……プロローグまで戻って……また最初から物語が始まる……それで……」

「おい。大丈夫か」

「ややこしいんだよ……えーと……鍵となる人間が死ねばループする。もしループ中に死亡すれば、記憶は全てリセットされる。……これが数千回続いてる。以上」


 言い回しに悩んだ素振りを見せながら、黒薔薇は二人に詳細を伝えた。


「……他はあとで送る。行ってきてくれ……」


 顔をぎゅっと中心に寄せ、疲れた様子を見せつつ黒薔薇は液晶を消した。

 黒薔薇の様子になんて声をかけようか。と悩む真霧の前に、ナズナが口を開いた。


「はい。では(わたくし)ナズナ、そしてブバルディア共々任務、行ってきますわ」

「えっ、ちょっ、ナズナ!!? あー!! 黒薔薇! 無理するなよ!!! お前には俺の世界を――ってあーー!!!」


 そう言ってナズナは真霧の腕をガシッと掴み、部屋の外へ連れて行く。

 強い力で引っ張られ、真霧は慌てながら黒薔薇に一言口にするが、途中で部屋の外に出され、言い切ることができなかった。

 バタンとナズナは部屋の扉を締め、真霧に向き合う。


「主君は疲れてらっしゃるの。おわかり?」

「見れば分かる。でもあいつには俺の世界を護ってもらわなきゃいけない!!」

「ええ、理解しておりますわ。安心してください。主君は貴方様の箱庭を護っていますわ」

「……信じてるからな」


 真霧はむすっと不満げな顔をして、軽くナズナを睨みつける。

 ナズナは表情を変えずくすりと笑みを浮かべ、真霧に手を差し出す。


「では、行きましょう?」

「……ああ」


 不満げな顔を浮かべたまま、真霧はナズナの手を取った。

 するとナズナはあっ! と何かを思い出したかのように目を丸くさせ、首を傾げ真霧に問いかける。


「……そういえば、どうして主君を見て嫌そうな顔をしたのですか?」

「え。……あいつを見たら、出会った時のことを思い出したから。俺、あいつ嫌いだし」

「……そう」

「そうだよ。ほら、行くんだろ」

「……ええ」


 納得していない様子のナズナを無理やり言いくるめ、真霧は液晶を出し、ぴっぴっと触る。

 そして行き先を設定し、ナズナに向き合う。

 ナズナがコクリと頷いたのを見て、真霧は液晶をピッと押した。


――咄嗟に言い訳したけど、大丈夫だよな……。

 

 転移の直前、真霧は先程ナズナに問いかけられたことを思い返していた。

 あの時、部屋に入った瞬間真霧の目には黒薔薇の他に別のものが見えていた。

 思わず飛び出た第一声。あれは真霧だけに見えていた、周囲のものに対しての驚愕の声。

 黒薔薇と初めて出会ってからずっと自分だけが気づいている、聞こえている――半透明の異質な存在。


『ブバルディア。ブバルディアだ!』

『かわいいかわいい桐谷(きりや)の愛し子』

『空想の花。俺達の希望、夢のブバルディア』

『黙っててくれ。分かってるだろう?』

『気づかれちゃいけない。見つかってはいけない。全てが無駄になってしまう。全てが絶望と化してしまう……』

『俺達は共犯者だ』


――同じ顔があんなにいたらびっくりするだろ。密集するな亡霊共……滅茶苦茶俺の心臓に悪い。あと、あいつの個人名言うのどうなんだよ、いつかやらかしてしまいそう……。


 そんなことを思いながら、二人は屋敷から跡形もなく消え去った。

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