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第五章 紹介するよ!

 「結構広い家だね。」

 「隣りが大家さんという話よ。」

 「またあの屋敷お化けってことはないよね。あれも和洋折衷のような家だったし。」

 「ナツメ兄ちゃんたち、いいなあ。わたしもその屋敷お化け行きたかったなあ。」

 「たしか、ヨシカゲっていう少年が爆破しちゃったんだよ。クニ国に行けばまたどこかにあるかもね。」

 「お風呂のあとに大家さんにあいさつに行きましょう。」

 「女性陣はお湯につかるのかい?」

 「そうね。カメムシくさいのがくっついてる気がするし。」

 「じゃあ、ボクがお風呂を洗ってくるよ。」

 ナツメは浴室を見つけた後、すぐみんなのところに戻ってきた。

 「ここのお風呂、五右衛門風呂だよ。屋敷お化けといっしょだね。燃やすものあるのかな? 外見てくるよ。」

 ナツメは外に出てかまどのところに行った。ずいぶん昔の使い残しと思われるが、かなりの量のたきぎがあった。着火用の古い新聞紙もたくさんあった。

 「わ、この新聞、生まれる前の日付のもあるぞ。あとで読んでみようっと。とにかく風呂釜を洗って水を張らなきゃね。」

 ナツメはまた風呂釜に戻り、ガチャコンポンプで風呂釜に水を満たし始めた。そしてまた、かまどに戻ってたきぎを燃やし始めた。

 「思い出すなあ。屋敷お化けのお風呂。アルファがいないのがさびしいな。」

 ナツメはたきぎを燃やしながら古新聞に目を通していた。

 「ん? 新型からくり人形? そういえばツェツェリさんがからくり人形の話をしていたな。座美屋と呪怨屋がどうのこうのと。なになに、『座美屋が開発した新型からくり人形が公国の主力となるか?』『呪怨屋は巻き返しなるか?』ツェツェリさんの話によると、呪怨屋は経営が行き詰まったそうだから、この新聞の話より後に落ちぶれてしまったのかもね。あれ?」

 ナツメが新聞から目を離すと、屋敷とは別に大きな建物があるのに気がついた。使われなくなってずいぶんと年数が経っているようだった。建物の前面の屋根に大きな額が掲げられていた。額には『呪怨屋』と描かれていた。

 「あれま、ここが呪怨屋なんだ。閉めてしまってずいぶん経つんだな。じゃあ、隣りの大家さんは呪怨屋の人なのかな? あいさつがてら、聞いてみよう。」

 お風呂が沸いたので、ナツメはいろはとフィグを呼んだ。フィグは五右衛門風呂に大喜びだった。ナツメは火加減を見ながら浴室の二人に声をかけた。

 「その木の板には注意だぞ。ちゃんとバランスとって乗らないと、傾いて浮いてくるから。シャワーがないからいろはは髪の毛洗うの大変そうだね。」

 「うわあ、あったか~い。うちにもあるといいなあ。」

 「実家は風呂なしで銭湯だからねえ。それもまたいいんだけど。おい、いろは、どんだけお湯流してんだよ。」

 「仕方ないでしょ。女ってそんなもんよ。水付け足すから、火加減よろしくね。」

 「へいへい。あ、そうだ。ここの家、もともと呪怨屋だったようだよ。窓から見えるかい? 大きな建物があって、そこが工房だったみたいだよ。」

 「え、そうなの?」

 「工房を閉めてから何年も経ってるようだよ。あとで大家さんに何か知ってるか聞いてみようと思うんだ。」

 「ツェツェリさんはそんなこと言ってなかったのに。」

 「身近なことに気がつかないことは結構あるからね。」

 全員が体を洗ってさっぱりしたあと、隣りの大家さん宅を訪ねてみた。隣りといってもずいぶん大きな敷地の家で、正面玄関までは長い生け垣が続いていた。生け垣の枝と葉で中は見えなかった。

 「すごい金持ちじゃない?」

 「なんて名前だっけ?」

 「そういえば聞いてないわ。」

 「ま、行けばわかるよ。」

 「玄関が見えてきたよ。すごい大きな門だよ。」

 相当古く格式のある門のよこにある勝手口にドアホンがついていた。

 「門は時代を感じさせるけど、ドアホンは普通の市販品だね。なんか全体が安っぽく見えちゃうよ。」

 「余計なこと言わないの。家の人が聞いてたら気を悪くするじゃないの。とにかく、押すわよ。」

 『ダダダン、ダダダダン、シュー!』

 「・・・・・?」

 「うわー! すげー! 呼び出しがガンダムのアイキャッチになってるよ!」

 「なによこれ! ナツメ向け仕様なの!?」

 「だとすると、最高だね! ここの人、きっといい人だよ。」

 「ややこしいことにならなきゃいいけど。」

 しばらくして、ドアホンから応対の声がした。

 「どちら様でしょうか?」

 ここでナツメが余計なことを言った。

 「クサムシです。引っ越してきました~。」

 「せめて草壁っていったらどうなの。」

 『合言葉がないと応対しかねます。』

 何の動揺も見せずに生真面目に対応した相手の声を聞いて、みんなは顔を見合わせて小声でしゃべった。

 「合言葉だって。なによそれ。」

 「どうする?」

 「とりあえず、怒られなくてよかった。」

 「ナツメ兄ちゃん、なんとかしてよ。」

 「ボクに頼るとは、けなげな妹だね。よし、まかせろ!」

 ナツメはお決まりのキザなセリフを吐こうとして、ふとナツメはかなり上に方にある名札を見た。

 「あ、あぶねえ。今考えたセリフは禁止ワードだったかも。ではこれで行こう! では、合言葉を言います。『それで聞き届けてもらえねば、私もジオンを捨てよう。』」

 『今、門を開けます。』

 その言葉が終わるやいなや、門の観音扉が静かに開き始めた。

 『お入りください。』

 一行はナツメの顔をまじまじと見つめながら屋敷の中へ入って行った。

 「ナツメ兄ちゃん、どうやってわかったの?」

 「いや~、最初は『ぼうやだからさ』って言おうと思ったんだけど、門の上にあった名札を見てね。あわてて変えたんだ。もし名札に気づかなかったら、処刑されてたかも。」

 「兄貴、名札によく気づいたなあ。」

 「ナツメ兄ちゃん、なんて書いてあったの?」

 「座美って書いてあったんだ。これはシャアのセリフは禁句だと思ったんだよ。なので、ガルマのセリフにしたんだ。ガルマのセリフは少ないから正解率は高いと思ったよ。きっと楽しい一家だよ。」

 「すごなあ、ナツメ兄ちゃんは。」

 「ついていけないわ。」

 「じゃあ、俺たちが護衛と監視を任されてる定春の家ってことかい?」

 「そういうことかもしれないわね。」

 門から玄関までまたかなりの距離の石畳が続いていた。

 「中もやっぱり広いなあ。すごい庭だ。庭師もたくさん雇ってそうだ。からくり人形ってそんなにもうかるのかなあ。」

 玄関の前には中年の女性が立って待っていた。いろはが彼女に声をかけた。

 「こんにちは。隣りの家をお借りしてる者です。こちらから、ナツメにロカト、フィグで、わたしはいろはです。これからお世話になります。よろしくお願いします。」

 「はい、こんにちは。噛みつきそうな子だよ~。」

 「・・・・・」

 「プッ、楽しそうな人だね。このセリフをまた聞けるとは思わなかった。」

 女性の思っても見ないセリフに吹き出したナツメを、いろははにらみつけた。

 「わたしは奈留と申します。定春の母親です。ツェツェリ様から事情は伺っております。合言葉までご存じとは、さすがはツェツェリ様の友人ですね。さ、中に入って宇宙食でもどうぞ。パクチー風味なんかもありますよ。定春はそのうちに帰って来るでしょうから、ゆっくりしていってください。」

 ナツメ以外はパクチーと聞いてカメムシのにおいを思い出し、また吐きそうになった。

 「おやおや、どうしました? 皆さん具合でも悪いのですか?」

 「い、いえ、パクチーが苦手でして、それで・・・」

 いろはが適当にごまかそうとした。

 「あら、それは残念ね。とりあえず、中へどうぞ。」

 一行は奈留に案内されて屋敷の中へ入ろうとした。その時、上空から大きな物音がして何かが降りてきた。

 「なんだ? あれはガウじゃないか! ここに降りるの!?」

 「ああ、定春が帰ってきましたよ。」

 みんなが見ている前にガウが着陸し、ハッチが開いて、まずカバンが放り出されてきた。そして若い男が何か叫びながらタラップを使わずに飛び降りてきた。

 「バン、ドザァ! シャン! スタッ、グゥゥン、バァ――ン。」

 「なんか自分で効果音出しながら飛び降りたよ。」

 飛び降りた若者がしゃがんだ体勢から立ち上がると、みんなの方を見た。ナツメが彼に声をかけた。

 「君は座美定春だね。」

 「そういう君はナツメ・デーツ。」

 「みんなクワトロ・バジーナって呼んでるよ。これからもよろしく。」

 『カサ、カサ、カサッ』

 ナツメから自然とダイバー・ダニーが出てきた。

 「ダニーッ! 紹介するよ! ダニーっていうんだ! ボクのクリーチャーでね、利口なダニなんだ。心配ないよ、決して人は噛まないから。すぐ仲良しになれるさ。」

 「フン! 『ボギャァァ!』」

 定春はダニーを思い切り蹴り上げた。

 「な! なにをするだァ――ッ! ゆるさんッ!」

 「普通蹴るだろ! こんな巨大なダニけしかけられて。仲よくできるか!」

 いろはが仲裁に入った。

 「たぶん、『なにをするだー』ってセリフを言いたかっただけだと思うわ。」

 「兄貴らしいな。」

 「二度とあのクソダニをぼくに近づけるなよな。」

 「まあ、誰だって嫌よ。さっきもひどい目に遭ったし。」

 みんながもめていてもまったく気にせず、定春の母親の奈留はみんなを家に招いた。

 「まあ、出会ったばかりなのに、すっかり仲良くなって。よかったわね、定春。隣りに越してきた同じ高校に入る方々よ。嬉しいことに、定春と年齢は近いそうよ。あなたが学校で一人浮くこともないわね。いっしょに夕食をいただきましょう。あなたの大好きなパクチーもたっぷりありますよ。」

 ナツメ以外のみんなは背中に嫌な汗をかいていた。

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