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第四章 ツェツェリ一族のザボンに敬意を払え

 結局ナツメはスパゲティを頼むのをあきらめた。

 「ミートソース頼んでも、ミントが入った歯みがきスパゲティとか来そうだよ。」

 「考え過ぎだよ、兄貴。」

 「大体、インク入りのスパゲティ来ること自体があり得ないだろ。」

 するとまたコックがやって来た。

 「先ほどは失礼しました。お詫びに別のもっと高級なスパゲティをお持ちしました。」

 「ああ、そうなの、どんなスパゲティだい?」

 「カーボンナーラといいます。インクよりさらに高級な、カーボン入りになっております。」

 「ただの炭じゃないか! なんだよ! ボクにだけ変な嫌がらせして! 何か恨みでもあんの?」

 「恨み? 恨みですと?」

 『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・』

 「なにこれ? 何の効果音? 敵でも出てくるの?」

 にこやかな顔をしていたウェイターの表情が急変し、険しい顔でナツメをにらみつけた。

 「お前、蟲リストだろ?」

 「ムシリスト? なんだそれ?」

 「クリーチャーに取りつかれた者は蟲リストとなり、不思議な術を使えるようになる。わたしはそういう客が来たらそいつの能力を試し、適性を見ているんだ。わたしのクリーチャーはアニサキス、能力名はブラック・サバ食だ! しかし、お前は相当な使い手のようだ。スパゲティにカモフラージュしたアニサキスを二度も手を付けなかった!」

 「当たり前だろ! インク入りにカーボン入りなんか、誰が食べるんだよ!」

 「なかなか手ごわいな。」

 「なにそれ? ほめてんの? コケにしてるの?」

 「まあよい、無理矢理スパゲティを食べさせてブラック・サバ食をとりつかせてやる!」

 そう言ってウェイターはスパゲティの皿を持ち上げ、ナツメの顔になすりつけようとした。

 「食い物の恨みは怖いんだぞ!」

 そう言ってナツメが憤慨したところ、背後から何か出てきた。それは巨大なダニだった。

 「それがお前のクリーチャーか・・・ぎゃあ、気持ち悪い! わたしは足の多いのは嫌いなんだ。そいつをこっちに来させるな!」

 「寄生虫出しといて虫が嫌いとか、いい加減だなあ。」

 「ていうか、もうみんな食欲失せるどころか吐き気がしてきたわ。店を出るわよ。料金も払わないでいいわね。」

 「このナツメ・デーツはいわゆる不良のレッテルを貼られている。料金以下の飯には金も払わねえ。」

 「はいはい。」

 コックがダニを見てキッチンに逃げ込んでしまったので、一行は店を出た。ツェツェリも一緒について来た。そして店の前の公園の噴水(トイレの泉というらしい)の囲いにみんなは腰を下ろした。ツェツェリも座って雑誌を読み始めた。まずいろはが彼に声をかけた。

 「ねえ、あなたがいろはカグツチから依頼を受けたツェツェリなの?」

 「ああ、そうだ。それよりも君、美人だね。噴水をバックに写真を撮ってあげようか?」

 「今度はいろはにまで触手を伸ばしてるぞ、あの脇見野郎。ロカト、ここはガツンと言ってやるべきだろ。」

 「なんで兄貴がカッカしてるんだよ。」

 敵対心を燃やしているナツメに向かい、ツェツェリが見下したように話しかけた。

 「ところで、さっきのクリーチャー、実に滑稽だったよ。見ていてこっちが恥ずかしくなったし、気持ち悪かったよ。」

 「その感想はあなただけじゃないんだけどね。」

 「あんなものでは足手まといになるだけだな。お前の父親はなにやらおかしな看板集めにご執心だそうじゃないか。親が親なら子も子だな。」

 「なんだと! ボクだけじゃなく、死んだ父親の悪口まで言いやがって!」

 「なに言ってんだ兄貴、父さんは生きてるだろう!」

 「お前の方が言ってることえぐいな。まあいい、この際だから思い知らせてやるよ。」

 ツェツェリはいろはを指して言った。

 「お前はこの女の子にさえ勝てやしねえ。」

 「まあ、そのとおりなんだけど。」

 「・・・・・」

 「あ、ごめん、話の腰折っちゃった。とりあえず、返事しとくね。じゃあ、てめーはこのカメムシにさえ勝てやしねえ。」

 ナツメがこう言ったことで気がついたが、噴水の周りには大量のカメムシがいた。幸い今までだれも踏みつけていなかったので、くさくならなかったのだ。

 「いや、そもそもカメムシに勝つとか負けるとかいう言葉、使うもんじゃないだろ。ええい、めんどくさいやつめ。この町にはいまだ姿を現わさない恐ろしい敵がいるんだ。そして俺にはその敵と戦うための奥義がある。」

 そう言うとツェツェリは雑誌を持ったまま飛び上がった。

 「座ったままの姿勢でサンデーを!」

 「わざわざあの雑誌を持たせていたのは、それが言いたかっただけなのね。」

 「喰らえ、必殺! ザボン・ランチャー!」

 一体どこに隠し持っていたのか、ツェツェリは巨大なザボンを何個も取り出し、ナツメに投げつけてきた。

 「うわ! これ、バンペイユだろ。昔はザボンって言ってたけど。皮がやたらとごついし見た目に反して実が小さくて、えってなるやつだ。うわっ! 『ドカッ! ドカッ!』いててて・・・・ただのドッヂボールじゃないか! しかも、固くて痛いし! ようし! そっちがかんきつ類なら、ボクのクリーチャーは有効だな。ダイバー・ダニー召喚。ミカンハダニモード! 行け! 糸を吐くんだ!」

 ナツメが召喚した巨大ミカンハダニは糸を吐いてザボンの実をからめ捕った。

 「今のあんたのザボンだが、ピッチャーフライ取るみたいに簡単に受け止められた。あとは皮をむいて食べるだけだ!」

 「誰がダニが吐いた糸にからまったものなんか食べるのよ!」

 「ダニってのは、シャレにもならねえ、ただゲロするだけのことを言うのか。2万円もするザボンは止められたがな。」

 「え? これ2万円もするの?」

 「ザボンを変な糸でキャッチしただけではないか。それがただのザボンに見えるとしたら、お前は実にめでたいやつだ。」

 「あんたの周りに、触れれば発射されるダイバー・ダニーの結界が張り巡らされている。あんたの動きもザ・ボンの動きも手に取るように探知できる。喰らえ、ツェツェリ、スティンキー・スプラッシュ!」

 「マヌケが! 思い知るがいい。ザ・ボンの真の能力を!」

 「やめといた方がいいのに・・・」

 「ザボンは動き出す。」

 ツェツェリは動きを止めていたザボンを回転させ、ナツメに再度ぶつけようとした。

 「あ~あ。やっちゃった。」

 「なにを言っている?」

 ザボンが回転を始めると、あたりにすさまじいまでのくさいにおいが立ち込め始めた。

 「なんだ!? く、くさい! ゲェー!」

 あまりのくささにツェツェリはゲロを吐いてしまった。

 「ダニの糸の結界にカメムシを忍び込ませていたんだ。大量にね。それをザボンで刺激するもんだから、一斉にスティンキー・スプラッシュしちゃったわけだね。もう一度言う。あんたはこのカメムシにさえ勝てやしねえ。」

 ナツメが周りを見ると、みんなもゲロを吐いていた。

 「兄貴、食事の後に何してんだよ! 食べたものみんな出ちまったじゃねえか。」

 「もう、いい加減にしてよ。フラフラしてきたわ。」

 「ナツメ兄ちゃん、気持ち悪いよ。」

 「ごめんごめん。それでツェツェリさん、話を進めましょうか?」

 ツェツェリの顔は青ざめていた。

 「いいだろう。お前のクレージーさはよくわかった。ついて来い。歩きながら話そう。」

 フラフラしながら歩くツェツェリに続いて、みんなもフラフラしながらついていった。

 「君たちはアクシズ高校の転校生として生活してもらう。これから寝泊りする家に案内する。制服や教科書も用意してある。身の回りのことは自分でやってくれよ。生活費は銀行口座に振り込んであるから、適宜引き出して使ってくれ。オラオラオラ詐欺にひっかかるんじゃねえぞ。」

 「ツェツェリさん、アクシズ高校はブレザーなの? セーラー服なの?」

 「兄貴、かぐやに怒られるの分かってて聞いてるだろ。」

 「少なくとも連邦のデザインではないな。最近は制服のデザインが入学の決め手ともなっているようおだが、アクシズ高校のものはなかなかじゃないかな。」

 「わあい、いろはの学生服姿が見られるぞ。体操服も楽しみだな。」

 「ナツメ兄ちゃん、わたしだって着るんだよ。売ったりしないでね。」

 「ボクはそこまで落ちちゃいないよ。」

 「ナツメ、言っとくけどわたしの下着を洗ったりしないでね。」

 「どっちみち洗濯機に入れるんじゃないの?」

 「あなたは桶で洗いなさいよ。それに、川で洗ってたこともあったでしょ。」

 「まあ、まとめてコインランドリーに持っていくのが楽かもね。乾燥機もあるし。」

 ツェツェリは気分が悪い上に、好き勝手に話すみんなにイライラしてきた。

 「う~、気分悪いぜ。手短に言うぞ。君たちの仕事の一つは、アクシズ高校のある生徒の護衛と監視だ。名を座美定春という。三年生だ。君たちも三年生として通い、できれば彼と近しい仲になってほしい。彼の身に起りうるあらゆる問題から彼を守ってくれ。

 カグツチが接触してから俺と部下が観察していたが、やはり大人の身では学校内部、そして友人となるには難しい面があるからな。それで君たちの出番となったわけだ。まあ、高校生らしく過ごしてくれ。

 それから、彼も何らかの蟲リストの可能性が高い。そして彼に接触を試みる連中がいるとすれば、そいつらも蟲リストだろう。十分気をつけてくれ。場合によっては戦闘になることも覚悟しておいてくれ。」

 「座美定春というんだ。ザビ家? これはシャアの出番だな。」

 「ザビ家じゃない。座美屋というんだ。」

 「座美屋? 何かの老舗?」

 「まあ、そのようなもんだ。その座美屋の商売敵が呪怨屋という。」

 「ジオンじゃあなくて呪怨? そんな苗字なの?」

 「そうだ。」

 「何の老舗なの? 藁人形でも作ってるの?」

 「からくり人形の工房だがな。座美屋にのれんを取られてしまってな。それからは一家離散してしまったらしい。呪怨屋のほうはカグツチが調べている。そのうち何か手がかりが得られるかもな。さ、着いたぞ。ここが君らのアジトだ。貸家だからな。丁寧に扱ってくれよ。」

 「・・・・・なんか出そうっていうのはこういう場所のことなんじゃない? ディオの肉の芽が暴走した人が住んでそうだよ。」

 そこはかなり大きな家で、和洋折衷の別荘のような建物だった。入り口の扉には立□禁止の看板が貼ってあった。

 「あ、これ、ザ・ハンドで削られてるよ。」

 「じゃあ、ここに億泰がいるってわけ?」

 「もう、いいから、わたしは休みたいの。早く中に入りましょう。」

 「ボクは腹へったよ。結局何も食べてないんだよ。」

 「台所にはある程度食べ物を置いておいた。あとは自分の好みのものを買ってくるといい。」

 「兄貴以外は気分悪いから、今日はもう食べる気にならないんじゃないか? なあ、みんな?」

 「なんかカメムシのにおいが体についてそうだから、早くシャワー浴びて寝たいよー。」

 「ツェツェリさん、登校日はいつなの?」

 「来週の月曜日だ。今日は木曜日だから、四日後だな。それまでは俺と部下が見張っている。それともう一つ仕事がある。」

 「何があるの?」

 「アクシズ高校の七不思議を解き明かしてほしいのだ。」

 「それ、本気?」

 「ああ、本気も本気だ。」

 「ただの噂とかじゃないの?」

 「だといいんだがな。その七不思議に巻きこまれて学校に行けなくなり、転校した生徒が後を絶たないんだ。」

 「それは深刻ね。むしろそっちがメインじゃないの?」

 「そうかもしれないな。毎日電話でもメールでもいいから報告してくれ。では、みんな頼むぞ。」

 そう言ってツェツェリは去っていった。

 「さ、中に入りましょ。とにかくお風呂に入りたいわ。」

 「かぐやねえちゃん、いっしょに入ろうよ。」

 「ええ、ろかと、ナツメをしっかり見張っててね。」

 「信用ないなあ。」

 「下着を洗われたら嫌だから。」

 「そっちの警戒ですか?」

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