第三章 イカサマ料理を食べに行こう
一行はようやく西戸町に着いた。
「町に着いたら人に会うように言われてるわ。」
「誰?」
「アスワン・ツェツェリって人よ。」
「変わった名前だね。ハエみたいだ。その人に会う目的は何だい?」
「父はクニ国に入国して調査してるから力になれないから、その人にわたしたちのフォローを頼んでるそうよ。」
「その人を探す前に、腹へったから何か食べたいよ。」
「あそこにイタリア料理店があるわ。手持ちのお金はそれなりにあるから、好きなだけ食べていいわよ。」
「ラッキー! スパゲティがいいな」
「わたしはピザ食べたい。」
「俺はパエリアかな。」
「いろいろ頼んでシェアしたらいいんじゃない?」
「そうしよう。でも、客に向かって包丁投げる人だったら怖いな。もしアワビ料理があったら、きっとそれは密漁したものだよ。」
『カラーン、コローン。』
「ベンベヌート(いらっしゃいませ)。」
そう言って白衣のコックがみんなを出迎えた。そして勧められた席に着いた。
「あ、メニューがあるね。『お客様次第』っていう店ではないんだ。」
「余計なこと言ってないで料理を決めてよね。」
みんなは店に入る前に食べたいと言っていた料理を注文した。店には二人の先客がいて、向かい合って座り、談笑しながら料理を待っていた。やがて先客にも自分たちにも料理が来て、ナツメ以外のみんなは歓声をあげた。
「わあ、大きなピザ!」
「サラダもてんこ盛りね。」
「パエリアも大盛りだ。」
「なんだこれ、ボク、イカスミスパゲティなんか頼んでないよ。」
「ソレ、イカスミスパゲティ、チガウネ。インクイリスパゲティ ネ。」
「食べられないだろ! なんだよ、インク入りって!」
「ダイズインクデスヨ、カンキョーニ ヤサシインデスヨ。」
「環境とかそういう問題じゃあないだろ! そもそもこんな料理存在しないだろ。」
そんなやり取りの中、先客のやり取りが聞こえてきた。
「ミア カーラ。君へ心ばかりの贈り物があるよ。」
「まあ、嬉しい!」
「ほら、これさ。」
と言ってその男は手のひらに載るくらいの小箱を頭の上に乗せた。
「どうしてそんな所に乗せるの?」
「それは君がこの箱に手を伸ばしたとき、半袖の脇の下がよく見えるようにさ。」
「何だ、あいつ。脇フェチの変態だぜ。」
「しっ! 声がでかいよ、兄貴。」
ワキフェチの男がコックを呼んだ。
「君、そのインク入りスパゲティ、わたしが頼んだもののようだね。」
「コレハ、シツレイシマシタ。スグ、アタラシイ ノヲ オモチシマス。」
「いや、それで構わない。持ってきてくれ。」
その男はインク入りスパゲティを受け取ると、フォークでかき混ぜ始めた。しばらくしてスパゲティの皿の中身をこちらへ傾けて見せた。皿のスパゲティは何かの形になっていた。
『オレ ハ ワキフェチ ジャナイ ワキマニア ダ』
黒いパスタでそのように書かれていた。
「ナツメとどっこいどっこいね。」
そんなとき、コックが電話の子機を持って来た。
「今の時代に珍しい光景ね。」
ウエイターは脇マニアの客に子機を持っていって告げた。
「アスワン・ツェツェリ様、お電話が入っております。」
「なにぃ! あいつがボクたちが会おうとしているツェツェリだとぉ!」