第一章 アルファ・イージスのいかがわしい事情
「なんだこのタイトルは! ふざけんじゃないぞ!」
「あら、よかったじゃない。いやらしい事情じゃなくて。」
「どっちもいいと思うけど。」
「てめー、ナツメ、恐ろしい事情に変えてやるぞ。」
「でもさ、ついにボクらは宿屋の主人に・・・」
「だまれ!」
「兄貴、かぐやのお父さんから連絡があったようだよ。」
「それはよかったじゃないか。」
「それがそうとも言い切れないのよ。」
「何て言ってるの? かぐやおねえちゃん。」
「大急ぎで境の都の西戸町にあるアクシズ高校に入学しろだって。」
「そこって、黄泉比良坂の近くじゃないかな?」
「そうね。」
「わたしは嫌だ! 行かない!」
ここで急にアルファが不機嫌になった。
「どうしたんだい?」
「それ以上聞くと殺す!」
「えぇー! そんな大層な。じゃあ、ボクも行かない。アルファがいないとつまんないもん。」
「もう、困ったわね。じゃあ、行く人は?」
「その前に、何のためにとか言ってないの?」
「学生生活をエンジョイしろって。必要なものはこちらで用意してあるって書いてあるわ。」
「エンジョイ? 炎上だったりして。」
「行かない人が余計なこと言わないで。」
「すんません。」
「かぐや、俺は行くよ。君と学生生活エンジョイしたいから。」
「いいな、ロカトにいちゃん。わたしはどうしようかな。ナツメにいちゃんも行かないし。」
「無理しなくていいわよ。」
「でも面白そうだし。」
「アルファとナツメはほんとに行かないの?」
「てめーは行って来いよ。いろはの父ちゃんの依頼だからな。またなんか事件だぜ、きっと。」
「だったら君も行くべきじゃないかい?」
「とにかく嫌なもんは嫌なんだ。」
「はいはい、それ以上聞かないわ。みんなも聞かないでね。」
「アルファ、ボクが行ってもいいのかい?」
「ああ、行って来いよ。ま、何もないだろうけどな。」
「ナツメ兄ちゃんが行くならわたしも行くよ。」
「フィグとボクは双子ということにしておこう。そしたら同級生だ。」
「わあ、面白そう。」
「学校を壊すなよ。」
「アルファのセーラー服かブレザーも見てみたいのにな。」
「ふん、どうせ髪型で校則に引っかかるから学校なんてまっぴらだ。」
「いろはは袴姿でいいんじゃない?」
「わあ、わたしもそれしたい。」
「だから、父が用意してるって。それがどんなのかは行ってみないと分からないわ。父のセンスはまあいい方だと思うけど。」
いろはカグツチは住む所も食べ物も気にしなくていいと言っているので、みんなはすっかり旅行気分だった。学生生活といっても『そのふり』をするだけだから、ナツメに関しては勉強しない学生生活という夢のような時間を思い描いていた。勉強しないことにやる気満々という、何とも奇妙なものだった。
みんなはそれぞれの準備に取り掛かることにした。いろははアルファと二人きりになり、彼女の事情や気持ちを聞いてみた。
「ねえ、聞かれたくないことは誰にでもあるのは分かるけど、思い切って聞くわよ。西戸町ってあなたの生まれ故郷じゃないの?」
「だったら何だよ。」
「思い出したくないって感じね。」
「好きに想像しておけよ。」
「それなら答えは一つしかないわね。」
「ああ、そうだよ、あのチョコの件だよ。」
「それだけじゃないでしょ。」
「どういう意味だよ。」
「あなたのこと、詳しくは知らないけど、会うのが嫌な人がいるっていうようなレベルの問題じゃないってことでしょ。」
「・・・・・」
「わたしたちに危険が降りかかる可能性もあるんでしょうね。」
「いろはたちには関係ねえから心配すんな。」
「みんなの前では黙ってたけど、父からの手紙には、アルファが来ることはいいとも悪いともいえないってあったから。」
「まあ、大体あんたの父も事情は知ってそうだな。」
「あなたとの学生生活も楽しみにしてたんだけどな。」
「はあ?」
「一応、連絡先を渡しておくね。ナツメが気になったらすぐに来てよね。」
「わたしはあいつの保護者かよ。」
「その通りでしょ。」