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ひとりじゃなくふたり  作者: 三山 千日
かつていた
9/48

寂れているがうるさい町

※閲覧注意

 少し暗めの要素(偏見)を含む話になります。

 苦手な方は自己責任のもと、閲覧のご判断をお願いいたします。尚、その上で本作においてご気分を害されましても、当方は責任を負いかねますのでご了承くださますようお願いします。

 ◆


「ちょっと」

 人通りのない道で声を掛けられ振り向くと、エプロン姿のばあさんがこちらに歩み寄ってきた。


「あ、おばちゃん! 元気してた?」

 ばあさんの姿を確認した『弟』が軽く手を上げ、話し掛ける。

 なるほど、コイツのコミュニケーション能力はここで培われたのか。



 ◇


 顔は知ってるし誰かもわかる。けど、フルネームは知らない。そんなヒトがこの小さな町にはたくさんいる。これ、田舎あるある。

 あと、俺みたいな"何かある"家庭環境の人間もこの町では格好の噂の的になっちまう。

 ……狭い世界なんよ。


 誰に話していなくても母ちゃんと俺の事情はこの町の誰もが知っている。

 爺ちゃんは「噂話に耳を貸すな」としか言わんかった。

 母ちゃんは「話には気付かない振りして、元気に笑って話しとけばいいわよ」と。

 母ちゃんはここに帰ると、いつも以上にずっと笑ってた。



 ◆◆


(ああ、そういう)

 知り合いらしき相手に、過度なまでに愛想よく振る舞う『弟』と、『弟』と朗らかに接しつつもこちらへ訝しげな視線を頻繁に寄越すばあさん。

 二人の態度の理由を察するのは早かった。

(またアイツのせいか)


 こちとら経験者だ。環境による多少の違いはあれど、俺も『弟』と似た境遇だったからな。嫌でも察するさ。

 内心、うんざりする。

 どうやら『弟』もクソ親父のせいで、随分と苦労させられたようだ。


(赤潮だ)

 狭い世界。偏見が多く、他人の事情に構いたがるほど暇な者ら。自分達の尺度でしかモノを見ず、少しでも"普通"でなければ一線を置き、馴染みが悪ければ即座に爪弾く。

 ああ、息苦しいったら。

 アイツが真っ当であれば、俺も『弟』も後ろ指をさされずに済んだのに。



 ◇◇


「平気か?」

 おばちゃんに貰った炭酸の蓋を開けたのと同じタイミングで『兄貴』が訊く。

 その手の中の缶コーヒーは汗を掻きながら開けられるのを待っていたが、出番はまだなさそうだ。


「何が?」

 わかっていてしらばくれる。

 やっぱあ、気付いちまうか。



 ◆◆◆


 どこか生臭さを覚える潮のにおいの中で、甘苦い缶コーヒーを飲む気にはなれなかった。ばあさんから強引に渡されたそれが、元より苦手なものならば尚更。


 ばあさんには終始、怪訝そうな顔と警戒の目を向けられた。そこに透けて見えるのは、下世話な好奇心。

 憶測だか妄想だか知れぬものを混ぜた俺達の噂があのばあさんの家族や知人に吹聴され、やがて町中に広がりそうな予感がする。


(まあ、どうでもいいか)

 『弟』も俺も、ここの住人ではない。

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