二度目の墓参りと塩の味
※閲覧注意
不謹慎な発言、全体的に暗めの話になります。
それらの要素が苦手な方は自己責任のもと、閲覧のご判断をお願いいたします。尚、その上で本作においてご気分を害されましても、当方は責任を負いかねますのでご了承くださますようお願いします。
◇
近くの倉庫から拝借したカマでボーボーの草を刈り、竹ほうきで落ち葉を掃く。
この間もヨソで墓掃除したけど、作業量が違いすぎ。こっちはなんか別のことをしてるみてえ。
「俺、なに? 母ちゃん達、掘り起こすん?」
「冗談でもやめなさい」
注意されちゃった。
◆
墓掃除をしながら考える。
ここに眠る人達は俺との面識のない者ばかり。だが、『弟』は違う。
『弟』は彼らに愛され、育てられた。
(俺はこの人達に託されたのだな)
今も汗塗れになって一所懸命、親が眠る場所を清めるこの子を。
◇◇
やっとこさキレイになった墓に供えるのは、豆大福とヒマワリ。俺を育ててくれた母ちゃんと爺ちゃんの好きな物だ。
「大福ならここって店があってさ。ここに来る時に寄ったトコな。母ちゃんがいた頃はよくそこの食ってたな」
――爺ちゃんはそこのは絶対食わんかったけど。
最後にひっそりと呟いた声は、『兄貴』に届いたろうか。
◆◆
道中、遠回りしてまで買った豆大福は確かに美味かった。甘さ控えめ。豊かな豆と餡の風味。塩が利いているから二つくらいはペロリと食べられそうだ。
「『兄貴』もそれ気に入ったかぁ」
そっか、と呟く声は何処か寂しげで。
内臓を冷たい手で撫でられでもしたかのように、ゾワリと不快感が腹の中でせり上がる。
『兄貴』も、の"も"は『弟』の母親以外にも、誰かに掛かっているのか? それは『弟』じゃないのか?
「俺、ガキの頃、この大福が苦手だったんよ」
虫かカラスに食われる前に、と供えた大福を失敬しつつ『弟』が告げる。
(そういえば、この子の祖父は、この大福を絶対に口にしなかったそうだが)
――まさか。
岩塩を丸ごと飲み込んだような、塩辛く重い感情が腹に沈む。
「今食うとうまいね」
大福半分を一口で食べた『弟』は、それ以上は何も語らない。
◇◇◇
爺ちゃんが好きだったヒマワリに見送られながら山道を降りる。
口の中にはまだ大福の味が残ってて、そのせいか昔のことを思い出す。
母ちゃんが好きだった大福を爺ちゃんは「涙の味がすっから」と嫌がったっけ。
(今の『兄貴』、その時の爺ちゃんと同じ顔してる)
『兄貴』は頭が良いから、きっと薄々気付いてんだろうな。
爺ちゃんがあの大福を食わなかった理由も、母ちゃんがあの大福にこだわった理由も。
◆◆◆
鮮やかな黄色の向日葵が供えられた墓に見守られながら、元来た道を歩く。
大福の塩味と小豆の風味がまだ口内に残っていて、そのせいで思考しても意味のないことが頭からなかなか離れない。
このやり場のない感情の名も正体も、今の俺にはわからない。