海は青いか
◇
海は青いと信じてた。
「赤いんだけど」
車窓の向こうに広がる海は赤く濁ってる。
「赤潮だな」
『兄貴』が教えてくれた。
「血の池地獄?」
「血ではなく異常増殖したプランクトンだ。あの赤い海では魚は息ができない」
「マジモンの地獄じゃん」
やっぱ海は青くなきゃダメだって。
◆
赤潮が初見らしい『弟』は、それを血の池地獄と表した。
あの赤は血ではなく、異常増殖したプランクトンの色だが、魚にとっては呼吸不能になる赤潮の中は正に地獄だろう。
「『兄貴』は赤潮見んの初めて?」
『弟』の無邪気な質問に、俺は無言で首を傾けるに留めた。
俺はかつて、赤潮の中にいたんだ、とは言えんよ。
◇◇
電車を二回乗り継ぎ、海の見える町へ。駅からはバスに乗り、海が更に近くなる。
到着したのは海と山に挟まれた町。
「親父の墓とはまったく逆だろ」
あっちは町中の共同墓地で、こっちは海の見える山の中。俺の母ちゃんはここで眠ってる。
◆◆
海の見える山の上にて、町を見下ろす。
道中、潰れた畑をいくつも見掛けた。昔は漁業も盛んだったそうだが、今は閑散としている。残る住民も後期高齢者ばかりだとか。
寂しいが、だからこそ長閑なのか、長閑すぎるゆえに寂しい土地なのか。