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味で思い出す
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「明日、ちょっと出てくる」
『弟』が浮かない顔で食べていた芋の煮物を嚥下した後、ポツンと告げた。
「そうか。気をつけて行っておいで」
喧嘩した友の所か果たし合いかは定かでないが、大人が首を突っ込むのは野暮だろう。
「母ちゃんトコ、行ってくる」
「俺も行く」
電車を乗り継がないと行けない他県に、一人で行かせるのはまだ早い。
◇
芋の煮っ転がしを食ってたら、ふと母ちゃんを思い出した。
味付けが自然と寄ってくんだなって思うより先に、先だって逝った親父の報告をしねーとなって。
(まあ、とうに会ってっかもしれんけど)
母ちゃん、泣いてなきゃいいけど。
「俺も行く」
慌てた様子の『兄貴』を怪訝に見やる。顔はいつもどおり無愛想なのに、その面に『心配』の字が見えるようでウケる。
「何度か行ったことあっから、電車も道も間違わねーよ」
「……帰りにうまい飯を食おうと言っても?」
「ゴチになりまぁす!」