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ひとりじゃなくふたり  作者: 三山 千日
番外編 『兄弟』と四季

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ホットケーキで憧れを語ったっていいじゃない 前編 new!

 ◆ ◆


 誰しも憧れはあるものだ。

 たとえば、子どもの頃に夢中だった特撮ヒーローとか、冒険譚の勇者とか、スポーツ選手とか。身近でも一芸に秀でた者や、人望篤く、頼もしい者に憧れることもあった。


 人だけではない。"憧れ"という言葉を願望や理想の意味で捉えると、いくらでも挙げられるのではないか。

 誰もが認める能力だとか人格、容姿に憧れを見出し、それを目標に研鑽を積むのも大事なことだ。


 だが、休日の朝、テレビをぼんやりと見ながら俺が思い浮かべた憧れは、そんな高尚なものではなかったりする。

 かわいいものなんだ。いい年した大人が何を言ってやがると、自分でも呆れるような"憧れ"をふと、思い出した。



 ◇ ◇


 『兄貴』は寝穢(いぎたな)いとは言わないまでも、朝がちょーっと弱い。

 仕事のある平日は眠いのを頑張って堪えながら支度して、慌ただしく出掛けてる。だけど、休日の朝はユルッユルだ。起きるのは平日より二時間以上遅くて、起きても太陽がかなり高い位置に昇るまでぼんやりしてる。急いで出掛ける支度をする必要がないから、脳の再起動がゆっくりなのかも。


 今日は土曜。仕事が休みの『兄貴』はやっぱりスロースタートで、俺が朝メシを終えて、軽く部屋の掃除をしている頃に起き出した。

「おはよ。掃除が終わったら洗濯すっから、洗いモン出しといて」

「おはよう。洗濯物は今、カゴに入れてるもので全部だ。よろしく。干すのは俺がするよ」

「了解。んじゃ、洗濯機止まったら、干すのよろしく」

「んー」


 まだまだ寝ぼけ眼の『兄貴』はあくび混じりに頷くと、のそのそと台所へ向かう。

「お湯、沸いてるよ。あと、コーヒーも入ってるー」

「んー」

 台所の奥へと消えていく背中に声を掛けると、さっきとまったく同じ寝ぼけた返事が返ってきた。

 ほどなくして食パンの袋とカップスープを手に、台所から出てきた『兄貴』は、居間で超簡単な朝メシを摂りだす。天気予報のチェックから点けっぱなしのテレビを見るとはなしに眺めつつ、モソモソと(草を喰むヤギっぽいんだけど、言ったらさすがに怒るよな)パンを食べ、カップスープを啜ってる。


(今日もスープにパン浸して食ってるし。交互に食べるのが面倒なんだな)

 掃除するのにちょっと目を離した隙に、『兄貴』の手許のカップから食パンが盛大にはみ出てるのが見えた。

 ここまでが『兄貴』の休日朝のルーティン。


 ホント、休みの日の『兄貴』はユルいなぁ。



 ◆ ◆◆


 土曜日の朝。好きなだけ寝坊してもいいし、慌てて出社の支度をする必要もないから、寝惚けた頭のままゆっくり過ごせる素晴らしい朝だ。


 天気予報のチェックから点けっぱなしであろうテレビをボンヤリと眺めながら、焼くこともジャムを塗ることもない、袋から出しただけの素の食パンを齧っては、カップスープで流し込む。

(以前と同じ朝食なんだよな、これ)

 『弟』と暮らす前、慌ただしい平日朝の、()()()()()()()()()()()食事もこのメニューだった。ちなみに、余裕がないときは栄養補助食品のゼリーかビスケットだ。

 だが、同じ食べ物でも、忙しなく口に詰め込むのではなく、ゆっくりと食べるだけで何故、こうもゆとりの感じ方が天地ほどに違うのか。

(あー、休日万歳)



 寝惚けた緩い頭ゆえか、休日の朝ならではの穏やかな雰囲気がそうさせるのか。せせこましさを忘れて、のんびりとすごせる今を無言で歓喜していたら、それに呼応するようにテレビから女性のはしゃぐ声が聞こえた。


『わあ! テレビの前の皆さん、ご覧ください、このきつね色の焼き色、厚み、じんわり溶けるバター! おいしそー!』

(うん?)

 テレビであろうと大袈裟に呼び掛けられれば、つい声に従ってしまうものだ。スープにパンを浸す手を止めてテレビに目を向けると、液晶画面いっぱいにホットケーキが映しだされていた。



 ◇ ◇◇


 掃除を済ませ、洗濯機を回してから一息つこうと居間に戻ると、『兄貴』が朝メシの途中でフリーズしていた。


(寝落ち? いや、テレビをガン見してんのか)

 コイツが魂でも取られたんかってくらいボーッとして、口は半開き、目はテレビに釘付けなんて珍しい。大体いつも、テレビ番組はニュースと天気以外は興味ありません、ただ流れている映像を眺めてるだけですって感じのつまんなそうな顔でテレビを見てるのに。


(土曜のこの時間の番組ってなんだっけ)

 確か、地元の情報番組だったよな。天気予報はともかく、世界情勢や全国ニュースは一切なくて、行楽とグルメの話題しか取り上げてないだろうに、どうした?

 『兄貴』が思わず見入ってしまう話題が気になって、俺もテレビを見てみた。画面にはうまそうなホットケーキだかパンケーキが映ってる。


(今まさにパンを食ってる奴が、似たような食べ物に夢中になってんの、なんかオモロ)

 夢中でホットケーキを見てるってことは、食いたいのかな。もしそうなら、本日の昼メシの献立は考えなくて済むな。



 ◆ ◆◆◆


 二枚重ねの分厚いホットケーキ。

 真っ先に目に付いたのは、美しいきつね色に焼かれた表面。均したように平らな面の中央、ポツンと載せられた角切りのバターがホットケーキの熱で徐々に溶け、黄金の液体がきつね色に広がり、染みていく。

 輪郭はくっきりと潔く、側面は断崖を思わせるほどに垂直だ。どうやったらこんな、コンパスや定規を引いたかのように歪みのない形に焼き上げられるのだろう?


 その色と形に見惚れていたら、画面上部から琥珀色のとろみのある液体がホットケーキに注がれた。メープルシロップ? それとも、ホットケーキ用のシロップか。

 まるで絵に描いたような美しく整った形と色に焼き上げられた生地に、シロップが容赦なく掛けられる。またたく間に表面を伝い広がる琥珀色に、積もりたてのまっさらな雪面に足跡を残すのと似た背徳感や罪悪感を覚えてしまう。

 シロップまみれの表面に、埋もれるように突き刺されたフォークとナイフの切っ先が、生地の柔らかさを物語る。


 ――あこがれの。

 画面を彩るきつね色に目を奪われ、脳内にポコンと浮かんだその五文字。


 いかにもうまそうなものを見せつける液晶画面の端、半口を開けた自分が反射して映るのを見つけ、慌てて口を閉じる。自分で見ても呆れるくらい間抜け面だった。

 さっきの惚けた顔を傍から見れば、ホットケーキを見て思い出す己の憧れが、高尚さやストイックさなど微塵もない、実にあどけないものであるのが丸わかりだろうな。



 ◇ ◇◇◇


 『兄貴』が食いたそうだから、今日の昼はホットケーキだかパンケーキにしようかな。

(うちにある物で作れるよな、たぶん)

 小麦粉、卵、砂糖、塩、牛乳は常備してる。

(あ、バター無えや。ベーキングパウダーも)

 バター、うちはあんまり使わないし、この間の値上げで買い控えてたんだよな。油なら、サラダ油でいけないか?

(ベーキングパウダーの代用……重曹はどうだろ)

 ベーキングパウダーと見た目も効果もほぼ同じ重曹ならある。前に、柿のばあちゃんに鍋の焦げ落としやら野菜のアク抜き、膨張剤として重宝すると教わって、買ってたからな。

 重曹=炭酸で作るまんじゅうがあるんだから、ホットケーキ膨らますくらいいけるんじゃね?


(いや、待てよ)

 『兄貴』につられて見ていたテレビ。今週はホットケーキとパンケーキ特集らしく、二軒目の店ではさっき出てきたのとは別のタイプのホットケーキを紹介している。


 さっきはスタンダードな――ホットケーキミックスのパッケージを飾る写真のような――バターとシロップがかかったものだった。そして、今、紹介されているのは、厚さがゆうに五センチはありそうな厚焼きのパンケーキだ。

 ただでさえスポンジケーキみたいな見た目なのに、そこにクリームやら飾り切りした果物が添えられてるから、ケーキっぽく見える。紹介する店員さんの話ではオプションであんこや黒蜜、チョコシロップも付くらしいが、それはもうケーキと呼んで良いんじゃなかろうか。


(そうだ。パンケーキって、シロップとか蜂蜜とか掛けたり、ジャムとか具を添えて食うもんだっけ)

 ありあわせの材料で、"素"のパンケーキを焼くことだけしか考えてなかったや、俺。

(具と何がしかのシロップがいるじゃん。んな、気の利いたもん、ねーわ)

 うちにあるのは、昨日のおかずのほうれん草のナムルと肉じゃがだけど、ホットケーキのトッピングに向いているようには到底思えない。

(しゃーない。買いに行くか。えーと、何買やいいんだ?)

 どうせ買い物に行くんなら、ベーキングパウダーと、ちょっと奮発してバターも買うか。粉も薄力粉諸々じゃなくて、ホットケーキミックスにすれば、作るのも手っ取り早いよな。


(そういや、ホットケーキミックスはよく聞くけど、パンケーキミックスってあまり聞かないかも。というか、パンケーキとホットケーキって、何が違うんだろ)

 見た目も材料も似たようなもんだけど、呼び分けるからには明確な違いがあるんだろう。

(調べてみよ)

 知識はどれだけあっても邪魔にはならない。気になることは調べるべし。

 それにほら、もしこの二つが実はまったく違う代物だとしよう。例えば、ホットケーキを望む人の前に、似て非なるパンケーキが出たら、どんな気持ちになる? 俺ならほんのちょっとガッカリするかも。

 っつーわけで、スマホ先生に質問だ。好きな時にすぐ調べられる現代の利器、ありがてえ。


 そんで、結論。

 ホットケーキは甘いおやつ、パンケーキは甘さ控えめの軽食もしくは食事なんだって。

 一説によると、厚みの違いで区別されているらしい。厚みの薄い方がパンケーキだそうだ。



(へぇー。比較するとわりと違うもんなんだな。え、何これ、やべえ)

 スマホの検索結果の画面には、ズラリと並ぶパンケーキとホットケーキの画像。その中に、俺の心を鷲掴みにするものがあった。

(あ、ああー! これ、洋画とかで見たことあるー)

 昔、映画鑑賞が趣味の爺ちゃんと一緒に見た洋画によく出てきた、気になる食べ物。

 アメリカらしいビッグサイズのカリカリのベーコンと目玉焼きがパンケーキに載った、サイコーにうまそーな食い物。その見た目の破壊力でも相当なもんなのに、更にシロップを掛けて食うのを見て、衝撃を受けたっけ。


『えー! しょっぺーモンにあまいのかけんの? うまいん、それ?』


 度肝を抜かれた俺は、爺ちゃんに同じ物を食べたいから作ってとせがんだけど、爺ちゃんは終始うんざりした顔で頑として頷かず、結局、望みが叶うことはなかった。

(でも、今は違うじゃん)

 ガキの頃とは違い、俺は料理が出来るようになったし、材料も手に入る。そうなると、俄然、食べたくなってきた。



 ◆ ◆◆◆◆


 二品目に紹介された、ケーキと見紛わんばかりのパンケーキに見入っている間に、俺の手元のカップの中ではスープを吸った食パンが見る影もなく形を失っていた。これでは出来損ないのパン粥だ。しかもぬるい。

 もったりと重いパンを三口で食べ、そそくさと腰を上げる。

(急げ。三品目のホットケーキの紹介が始まる前に、食器を片付けてしまうぞ)

 中腰のまま踵を返し、台所に直行し……ようとして停止する。


「……いたのか」

 俺のすぐ後ろで、『弟』がスマートフォンを手に立っていた。

「応。いたよ」

 背後の気配にまったく気付かないとは、どれだけテレビに夢中になっていたんだ、俺は。

(いつからだ)

 『弟』は部屋の掃除をしていた筈なのに。そうだ、洗濯機を回すとも言ってたよな。

(あ、洗濯機の音、聞こえる)

 そうか、俺がぼんやりとテレビを視聴し、マグカップの中でパン粥もどきをこさえている間に、『弟』は自分の担当する朝の家事を終えたんだ。

 やるべきことをきちんとやって、くつろごうと居間を訪ねたところ、朝食そっちのけでホットケーキなんてかわいらしい食べ物の虜になっている『()』の姿を目撃したということか。


 ……おい、俺、兄の威厳が失踪してやしないか?



 ◇ ◇◇◇◇


 二品目のホットケーキの紹介が終わった途端、『兄貴』がカップを手に、そそくさと立ち上がる。

 テレビの続きが見たくて、CM中に片付けておくつもりなんだろうな。カップのひとつくらい、見たいコーナーが終わってから洗ってもいいだろうに、真面目だなー。『兄貴』らしいよ。


 その、すっかりホットケーキのトリコになった真面目さんは、振り返って背後にいた俺を見るなり固まった。油断しきった表情から一転、目ぇひん剥いて微動だにしない。

(おいー、なんだよ、その反応)

 どうしたよ? ギリシャ神話のメデューサにでも睨まれたんか。

 やがて『兄貴』は顔を徐々に強張らせて、おもむろに口を開いた。

「……いたのか」

「応。いたよ」

 そんな、刺客に背後を取られた武士じゃねーんだから、緊迫感のある表情と声で、無駄にシリアスな雰囲気作らんでいいんだけど。そんで、今はあからさまに目が泳いでるし。真っ正面にいる俺から目を逸らしてる。

(ホント、どした?)


 今の『兄貴』には俺がどういうふうに見えてんだよ?

 亡霊を見たような……ではないな。怯えた感じではないし。悪事を働いた奴が犯行現場で目撃者と居合わせたときの顔もちょっと違う。"バレちゃいけないモンがバレちまった"みたいな雰囲気はそうかもだけど。

(この表情、どっかで見覚えあるな。あ、そうだ。全校集会のときの安達(ダチ)

 ちょっと前に、ダチが今の『兄貴』に似た反応をしていたのを思い出す。



 半月前の全校集会。全校生徒が体育館に集合してからずっと、ダチは前方の三年生の列を見詰めていた。

 あまりにも熱っぽい眼差しなもんで、つい視線を辿っちまったんだが、そのご執心の先の不思議なことったら。何せ、ダチの目を釘付けにしてるのは、ダチが仲間内に毛嫌いして見せていた三年女子の自称『あざとかわいい歌姫ちゃん』こと軽音部ボーカルのみな先輩なんだもん。

 言動が噛み合ってないんだから、そりゃあ、聞きたくなるでしょうよ――「実はみな先輩のことが好きなんじゃん」って。そう背後からこっそり訊ねたときのダチの表情が、今の『兄貴』に似てたんだ。


 ダチは『嫌よ嫌よも好きのうち』だったことが、相手をこき下ろしてまで苦手と吹聴していた友だちにバレて、格好がつかなかったんだろうな。顔を赤だの蒼白だのに忙しなく変え、目を白黒させて、それでも必死に平静を装いながら「なんのことですか」だと。無理やりな仏頂面と低い声と唐突な丁寧語で応えてた。



 ダチの動揺はわからんでもないが、じゃあ、今の『兄貴』はなんで、あの時のダチ並に挙動不審になっているんだっつーハナシ。『兄貴』もどっか後ろめたいところがあるのか、俺から目を逸らすところもダチと一緒だし。

 なんで、そんな反応してるんだろ?


 今朝はいつもと同じ、朝に弱い『兄貴』だったんだけどな。見た目での違和感もなかったし、体調不良って感じでもない。

 ならば、いつもの休日の朝とほぼ同じルーティンを辿っていた『兄貴』の、いつもとちょっとだけ違う行動が、後ろめたさのもとであると仮定しよう。

(いつもとちょっとだけ違う行動って、テレビのホットケーキ特集に夢中なことぐらいだよな)

 けど、それが後ろめたいって何でよ?



 ◆ ◆◆◆◆◆


「違うんだ、これは」

 ――簡単に朝食を済ませたら、布団を干して、自室の掃除、それから洗濯物を干すつもりだったんだ、本当に。

  だが、俺としたことが、ひどく寝ぼけていてな。朝食を食べながらつい、ぼーっとしてしまった。決して、テレビのホットケーキに夢中になっていたわけじゃないんだ。


 脳内で一瞬にして展開された言い訳のオンパレードは、だがしかし、口に出す前に『弟』がふいに突き出した人差し指に遮られた。

「『兄貴』、昼メシはあれでいい?」

「あれ?」

 『あれ』と言って指差す先に振り向けば、三品目のホットケーキが画面に映し出されている。


 今度のホットケーキは角のない、丸みを帯びたフォルムで、今までの中で一番、ふわふわだ。

 あの、極上のクッションのような柔らかな見た目から察するに、二枚の生地を積めば、形が崩れて潰れてしまうのだろうか。先に紹介された二品とは違い、縦に積まれておらず、斜めに重ねられている。

(このふわふわもホットケーキなのか?)


「へー、これ、スフレパンケーキっつーんだ」

 味も食感も想像のつかない食べ物に目を丸くしている俺の傍で、『弟』が興味深そうにテレビへと身を乗り出す。

「これは分厚くて甘そうだからホットケーキかと思ったら、パンケーキなのか。奥が深ぇー」

 おや? 『弟』のこの反応。もしや。

「オマエも興味があるのか」

 男なのに――と後に続けそうになるのを(墓穴掘りそうだと咄嗟に気付いて)堪えて問えば、相手は顔色ひとつ変えず、うんと頷いてみせる。

「うまそうだし、何より、腹に溜まりそうじゃん」

 流石、育ち盛り。食べ物の好みの要素には腹持ちも重要らしい。



 ◇ ◇◇◇◇◇


「オマエも興味があるのか」

 テレビと俺の間で妙にしどろもどろになってた『兄貴』が、目を丸くして聞いてきた。


 どうして、鳩が豆鉄砲を食ったような顔してんだ? ホットケーキだかパンケーキ――まあ、どっちでもいいんだけど――これに興味があると驚かれるもんなのか?

 甘いのもしょっぱいのもあって、メシでもおやつでもなんでもござれな食べ物なんて、パンとそんなに変わらないじゃん。

 パンが好きっつったらわりと普通な感じだと思うけど、パンケーキもそれと同じ感覚で捉えちゃ変なのかな。

(えー、わからん)

 驚かれる意味がわかんねーから、『兄貴』の反応には取り合わず、質問にだけ頷いといた。


「うまそうだし、何より、腹に溜まりそうじゃん」

「おお。確かに」

 『兄貴』が丸くさせてた目は更に大きく見開かれ、ついでに大きく頷いてみせる。

 いや、だから、なんなんだよ、その反応。いちいち大ゲサで面白れーな。



 『兄貴』越しに見えるテレビでは、リポーターが三品目の粉砂糖が掛かったスフレパンケーキを試食している。

 一口大に切り分けたパンケーキに、たっぷりのホイップクリームと苺を載せて、大きな口でバクリ。

(リポーターのお姉さん、一口でいっちゃったよ)

 頬袋に木の実詰め込んだリスかよってくらいに頬張ってるし。

 その後も、ホイップバターとメープルシロップの組み合わせとか、ブルーベリーの果肉がゴロゴロ入ったジャムを塗って、色んな味を楽しみながら一皿、あっという間に完食してた。


(これ、この人にとってはおやつとランチ、どっちなんだろ)

 もしもランチだとして、甘いものだけで食事を済ますんだろうか。ご飯に味噌汁、しょっぱいおかずがメシの定番である俺にはあまりピンと来ない。

 飲食店でパンケーキをメインにランチを摂ろうって人は、他にしょっぱいものでも注文したりすんのかな。

 リサーチしようとテレビに映し出された店内の様子を見てみる。


 今日は土曜で家族連れもいるとはいえ、全体的に見れば女性客の方が多い。

 そして、各々のテーブルには看板商品のパンケーキの他に、ドリンクが添えられていたり、セットメニューのスープやサラダが付いていたり、シチューやオムライスなどの一品料理が置かれている席もチラホラある。

 オムライスとパンケーキとか、クラスの女子が昼休みに食べてるような弁当やパンの量より断然多そうだけど、女の人はよく「甘いものは別腹」っつーから、案外平気なのかも。



(そういや、『兄貴』は甘いのとしょっぱいの、どっちがいいんだろ)

 結局、昼メシをパンケーキにしていいかって提案の返事もまだだった。メシに甘いものを出されるのは抵抗がないのかな。

 昼メシをホットケーキにするにせよ、リポーターのお姉さんがしてたクリーム増し増しにするつもりはない。それでも、ホットケーキは生地自体が甘いんだよな。もし、しょっぱいのも恋しがるなら、目玉焼きでも焼いてみるか。

(それとも、俺のガキの頃の憧れで、密かな野望、やっちゃう?)


「『兄貴』さー、提案があんだけど」

 空っぽのマグカップを手に、俺とテレビを交互に見ていた『兄貴』の肩に手を置き、もう片方の手でサムズアップをして見せた。

「ちょっくら、パンケーキパーリーしねえ?」

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