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ひとりじゃなくふたり  作者: 三山 千日
番外編 『兄弟』と四季

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41/52

いとしのほかほか、春の道

 ◆


 三寒四温の季節となり、どうにも気温が安定しない日が続いている。

 今週は暖かい日が続いたというのに、昨日からまた再び冬の寒さに戻った。気象予報士曰く、現在は三月初旬であるのに、本日に限っては気温が二月中旬並とのことだ。また、風も冷たく強いことから、体感としては真冬の寒さである。

 すっかり休日の定番となった買い出しついでの散歩の服装も、スプリングコートからダウンジャケットに逆戻りだ。


「またダウンとマフラーの世話になったな」

 スーパーマーケットの帰り道、マフラーに鼻を埋めながら『弟』がぼやく。

「三寒四温と言うくらいだからな。しばらくはこんな調子だろうさ」


 とはいえ、町のそこここで見掛ける梅の花がこの強風で散るのは些か忍びない気がするが。

 通りかかった花満開の梅園に目を遣れば、風に揺れる枝の上で、ふくら雀が寒さに堪えていた。



 ◇


 うん、寒い。おっかしーな、気温で言えば、凄まじく寒かった二月の頭よりかは高い筈なんだ。なのに、先日がやけに暖かかったからか、今日の寒さかヤケに堪える。


(あー、ほら、水仙だって寒くて震えてるじゃん)

 震えるのはさすがに比喩だけど、近所の家の庭だの畑だのに植わってる白とか黄の水仙が、風に吹かれて揺れる様を見ると、こっちまで余計に寒く感じちまうよ。

 名実ともに"The 春!"みたいなポカポカ陽気に早くなんないかね。


(こんな体の芯まで冷える日は、ほっかほっかなモンが食べたいよなー)

 ちょうど、おやつ時だし、どっか寄れんかな。

 今、飲み食いするならどれがいいかな。例えば、そうだなー……



 ◆◆


「肉まんが恋しい」

 線路沿いを風に吹かれて歩いていると、鼻の頭を赤くさせた『弟』がおもむろに呟いた。それとなく腕時計を確認すれば、おやつの時間に差し掛かろうとしている。

「コンビニ寄るか」

 確か、この辺りにコンビニがあったはずだ。コンビニの方向を指せば、相手が激しく二度頷いた。


「応! なあ、『兄貴』のイチオシはなに?」

「……?」

 停止。黙考。

「肉まんのことだよな」

「そうだけど、なん、さっきの間?」

「いや、うん?」

 怪訝な顔で首を捻る『弟』を見て、俺も真似するように首を捻る。


 饅頭って、肉まんと……あとはあんまん以外になにかあったか?



 ◇◇


 立ち寄ったコンビニのレジ脇で『兄弟』揃って腕を組む。


「やっべ。今年の肉まん、種類めっちゃあるじゃん」

 スタンダードな肉まん、豚まん、角煮まん、カレーまん、ピザまん――

「え、なんこれ? ビーフシチューまん?」

 肉まんだけで何種類あるんだよ。多過ぎ。店員さん、これ全部、商品名とか見分けとか値段とか覚えてるのかな?

 『兄貴』だって、ほら――

「こんなに種類が必要か?」

 難しい顔で小首傾げてる。

 しかも、『兄貴』が凝視してんの、肉まんじゃなくて、黒ゴマあんまんだし。さっきから肉まんの話してるのに、肉まん関係ないじゃん。


「なんにする?」

「普通のあんまん」

「やっぱ、肉まんじゃないんかーい」

 いや、肉まんもあんまんもまんじゅうって括りは一緒だし、『兄貴』は肉まん買うって宣言してなかったもんな。

 勿論、肉まんだろうとあんまんだろうと、もっと言うとレジ脇のおでんとかホットスナックとか、何食うのも『兄貴』の自由なんだけどもさ。

(まあいいや、俺は何食おうか)



 ◆◆◆


 コンビニを出て少し歩くと、児童公園があった。今日は特に寒いからか、子どもは数人しか見えない。

 しかし、子どもは風の子というだけあって、寒かろうが風が吹こうが構わず、キャアキャアと声を上げて追いかけっこをしている。元気がよくて何よりだ。


「子どもは元気だな」

「誰一人としてジッとしてないもんな。逆に、動かん方が寒さを余計に感じるのかもだけど」

 北風の吹く公園の冷えた木のベンチに腰掛けつつ、遠目に子ども達を観察する。

 皆、駆け回って暑くなったのか汗を掻いているし、子ども達の中には上着を脱いで薄手のシャツや半袖姿の子までいた。

「見ているこちらが寒いな」


 元気いっぱいな子ども達に苦笑しつつ、買ったばかりでまだ温かいおやつを取り出す。

 紙包み越しに伝わる熱は、保温器から出された直後よりは幾分か冷えたものの、まだ温かい。この寒さでかじかむ手にじんわり沁みる、心地良いぬくもりだ。


 蒸気で濡れた紙包みと薄い敷き紙を捲り、一口齧る。

 表面はツルリとしていたが、生地全体はふわふわとやわらかく、ほんのりと甘い。

(熱っ)

 生地はさほど熱くなかったのに、中の具はまだ舌を火傷しそうな熱さを保っていた。あまりの熱さに思わず口を開け、ハフハフと口内の熱を冷ます。

 やっと熱が落ち着き、咀嚼したあんまんは程よい甘さだ。



「久々に食べるが、うまいな」

 本当に久し振りに食べるあんまんは、昔と変わらずうまかった。ついでに買ったほうじ茶との相性も抜群だ。

 隣では『弟』が豪快にオレンジ色の饅頭にかぶりつき、伸びるチーズと格闘していた。


「オマエも肉まんじゃないじゃないか」

 俺があんまんを頼んだとき、肉まんを選ばなかったことで一言茶化されたが、人のこと言えないではないか。



 ◇◇◇


 コンビニ寄るまでピザまんの存在忘れてたわ。

「トマトソースとチーズめちゃうま」

 寒い外で食うほかほかなまんじゅうの、まあうまいことったら。

 溶けたチーズもトマトソースも熱々で、舌と口内を火傷しそうになったけど、おかげで食道と胃まで温まった気がする。


「寒い日に食う蒸したてのまんじゅうって、なーんでべらぼうにうまいんだろうな」

「フハッ、べらぼうって。オマエは美味しそうに食べるなあ」

「実際、うまいし。なあ、まんじゅうがうまい季節は、あとどれくらい続くと思う?」

「どうだろうな。今週始めの陽気では、あまりこういうのを食べる気分にはならなかったが」

 寧ろ、アイスが恋しい暖かさだったことを思い出して、改めて三寒四温の不安定さを思い知った。


「さて、こんな寒い日の晩メシは、やっぱアツアツの食べ物だよな。何にすっかな」

「ごちそうさま。冷蔵庫の食材は何があったかな。熱々とくれば鍋だが」

 もう吹き冷まさなくても程よい温かさになったのだろう。四分の一ほどの大きさの残りのあんまんを一口で食べてしまった『兄貴』が、脇に置いていたエコバッグの中身を確認する。


「いいね! 晩メシ、鍋にしちゃう? ハフッ、ごっそさん」

 俺も残りのピザまんを一口で食べきってから訊ねれば、『兄貴』は同意としてニッと笑って見せた。


 寒い日に食べるまんじゅうもうまかったけど、今夜の鍋もきっとうまいんだろうな。

 身も心も凍えちまいそうな日に食べる温かいものは、やっぱ、どうあったってうまいんだよ。

(あと、一人じゃなく誰かと一緒に食ったら、なおさらうまいに決まってるんだ)



「何鍋にするよ?」

「そうだな……キムチ鍋とかどうだ」

「いいね。チーズどっさり入れようぜ」

「構わないが、夜もまたチーズ食うのか」

「味、全然違うじゃん。ああ、でもさ、変わり種の鍋も気になる。トマト鍋とかさ」

「へえ、そんな鍋があるのか」


 寒い散歩道で、腹の中の饅頭のぬくもりを感じながら今晩の鍋の相談をするのもまた楽しい。

本作は以前、某所にて公開していましたが、現在は当該記事を削除しています。


なお、本編『馴染みつつある日常』の最新話はこちら( https://ncode.syosetu.com/n6529ik/25/ )になります。


※2024年3月19日の更新はお休みします。

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