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憧れ
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ガキの頃、デケェスイカが憧れだった。だって、爺ちゃんが「食いきれん」って買ってくんなかったんだよ。
施設では、デケェスイカはあったけど、皆で分けるから俺の取り分ひと切れだけだしで、やっぱりデケェスイカは憧れだった。
んで、昨日、店でスイカ見つけて『兄貴』と思い出話したのがきっかけで、買ったんよ、大玉を。
爺ちゃんがスイカに消極的だった理由、飽きるほどわかったわ。
◆
家族が一人か、いなかった俺にとって、大玉スイカは縁遠いものだった。大体、あれは大勢で楽しむものだから。
昨日、スイカを見た『弟』から『デケェスイカが憧れ』と聞いて迷わず買ったのは、その気持ちが少しわかるからだ。
今はひとりじゃなくふたり。なら、スイカの一玉くらいどうとでもなるだろ、と。
(どうとでもなるか?)
冷蔵庫一段を占領するスイカの残りを前に、俺達は途方に暮れている。