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ひとりじゃなくふたり  作者: 三山 千日
七週間後の憂鬱

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29/51

トウモロコシと白虎の舞

※一部分、毒親(親戚)の話題があります。

苦手な方は閲覧にご注意ください。その部分だけ飛ばしても本筋に影響はありません。

 ◆


 目的の駅に到着し、まずは着替えることにする。


「少し時間が掛かるからコンビニで飲み物を調達してくれないか? ついでに好きな食べ物を買ってもいいぞ」

 財布から千円札を出して渡すと、笑われた。

「フハッ! 小学生のお使いじゃん!」



 ◇


 電子マネーがあるのに現金を渡されたり、好きな食べ物買っていいぞって、まんま子ども相手にお使い頼むノリでウケる。


「そんじゃ、お言葉に甘えて」

 受け取った金をポケットに入れたとき、ふとあるものが目に入った。


「なあ、『兄貴』、トウモロコシ買っていい?」

 駅の出入り口付近のスペースに特設売り場ができている。

 ひょっとして、この地域では旨くて有名なトウモロコシなのかな。人集りができるほどではないせよ、わりと多くの人がひっきりなしにトウモロコシを買い求めていた。


「あれ、生だぞ。それに今から法事なんだが」

 明らかな呆れ声。

 なんだよ、好きな食べ物買って良いって言ったのに。



 ◆◆


 飲み物調達のついでに好きな食べ物を買っていい、とは言ったさ。

(言ったがなぁ)

 それは移動中でも手軽に食べられるお菓子であって、好物ではないんだよな。

 しかも、トウモロコシを買っても、食べられるのは帰宅後なんだが。


(クッ、コイツ、なんて澄んだ目をしてるんだ)

 ――トウモロコシおいしそう。食べたい。今買わないと売り切れるかも。

 『弟』は無言だが、俺を上目遣いで見詰める目が言外に訴える。


「『兄貴』お願ぁい」

「コラ、おねだりするんじゃない」

「お供え物にもなると思うんよ」

「寺にまで持って行かないぞ」

「『兄貴』ぃ」

 日頃、物を欲しがることなんてあまりない『弟』のねだる姿なんて珍しい。


(おかしい)

 今の『弟』はどこか芝居がかっていて、ともすればふざけているように見えた。

(これはトウモロコシに目がないとか、どうしても欲しいってわけじゃなさそうだな)

 試しにジッと、相手の目を見詰める。


「『兄貴』、トウモロコシ」

「……」

「蒸して良し、焼いて良し、すり潰してよし」

「……」

「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」

「……」

「何か、言えってー!」

「……フッ」


 わかった。『弟』がこんなにねだってくる意図を。



 ◇◇


「遊んでいるな、オマエ」

 トウモロコシ販促アピール中の俺に、一頻り黙り込んでいた『兄貴』がようやく口を開く。

 半眼で仁王立ちをするその様は、駄々っ子に毅然と振る舞う親っぽい。でも――

「『兄貴』、笑ってるっしょ」

 口許がヒクヒクして、笑うの必死で堪えてる。


「フハッ、バレたか」

「わかるってー」

 こっちが指摘すれば、『兄貴』は堪えきれないとばかりに吹き出して笑った。

 公衆の面前で醜態は晒せないと思ったのか、慌ててガーメントバッグで顔を隠したけど、バッグの陰からプルプル震える肩が見えてるし。


(これでちっとは気ィ抜けたかな)

 『兄貴』が法要の施主を務めることに気負いがあるのかはさておき、苦手な人間と関わるかもしれないプレッシャーで多少、気が立ってるのは見てりゃわかる。

 無駄に力んだっていいことなんてないんだ。なら、一緒にいる俺が『兄貴』の肩の力を抜いてやりゃあいい。



「トウモロコシ、買っておいで。手軽に摘まめるお菓子も買っていい」

 笑いすぎたのか(薄々感じてはいたけど、『兄貴』ってわりと笑いの沸点低いよな)目の端に溜まる涙を拭きながら、『兄貴』が追加の財布を取り出そうとする。


「や、トウモロコシは冗談だからいいよ」

 地産のトウモロコシは気になるけど、余計な荷物を増やす気はないし。

 それでも『兄貴』は財布を引っ込めなかった。


「いい。俺もトウモロコシを食べたいんだ」

「荷物になるよ」

「問題ない。この荷物と一緒にロッカーに預ければいいからな」

 そんなら、なるべく旨そうなトウモロコシ選ばねえとな。


「けど、『兄貴』、財布は仕舞いな」

「さっき渡した分では、足りないぞ」

「スマホがあんじゃん」

 ――今は便利な世の中なんよ?

 言うと、『兄貴』は一瞬、ポカンと口を開けて、それから苦笑した。


「オマエはスマートフォンを持って日が浅いのに、もう使いこなしているな」

 あのさー、それ、まんま年寄りの発言だよ?



 ◆◆◆


 着替えの為に『弟』と一旦分かれてから二十分後、着替えを終えて待ち合わせ場所に向かう。


 待ち合わせ場所はトウモロコシ売り場前の柱。ここを指定したのは『弟』だ。

 選定理由は『弟』いわく、柱は遠目でも目立つ太さな上に、出入り口に近いトウモロコシ売り場の目の前だから、駅構内で迷っても人に道を訊けるから、だと。

(完全に俺が迷うこと前提なんだよな)


 まあ、確かに方向音痴の自覚はある。ついさっきも、気付けば待ち合わせ場所とはまったくの反対方向にある改札口に着いていた。

 だが、俺はまだ断じて、迷ってなどいない。

 駅構内がだだっ広いということは、見通しも利くということ。こうやって、往来する人の流れと案内に注意して歩けば、駅の出入り口を見つけられる筈だ。出入り口さえわかれば、その付近にあるトウモロコシ売り場に辿り着くに違いない。



(おお! あった、出入り口。えーっと、トウモロコシ売り場は……ないな)


 どうやら俺は、待ち合わせ場所とは反対側にある出入り口に来てしまったようだ。

 構内は冷房が効いているのに、着替えたばかりの喪服の下の肌は暑さと運動による汗と冷や汗がじっとりと滲んでいた。



 ◇◇◇


(飲み物とお菓子は買ったし、次はトウモロコシだな)

 駅構内のコンビニを出て、トウモロコシ売り場に向かう。


 さっき、駅構内ですれ違ったお姉さん達が言ってたけど、ああいう、公共施設内に期間限定で出る店って、ポップアッブストアっていうんだな。勉強になるわ。

(けど、トウモロコシのポップアップストアっつったら、いろんな味のポップコーンとかトウモロコシ使った食べ物が売ってそうなイメージだな)

 実際の売り物は生のトウモロコシだし、店ってより山積みコンテナと長テーブルでできた、文字通りの急拵えの売り場なんだけどな。


 一人、しょーもないことを考えながら、客の途切れぬ売り場に急ぎ足で向かい、トウモロコシを無事ゲット。そのまま、待ち合わせ場所に指定した、売り場前の柱に足を運ぶ。


(『兄貴』はまだだな。まさか迷わんだろうけど、ちょっと心配かも)

 アイツ、たまに地図もナビも通用しない方向音痴っぷりを発揮するからな。



 『兄貴』が迷っていないか心配していると、すぐ近くで愚図る子どもの声が聞こえた。

「やぁだぁー」

「ほんのちょっとだけだから。それにママ、すぐそこのお店に行くだけだし。カイ君だって、トウモロコシ食べたいでしょ」

「いらない。早く帰る。カイヨウジャー見る」


 おー、トウモロコシ買いたい母ちゃんvs早よ帰りたい息子か。

 息子、ゴネにゴネたけど、母ちゃん行っちゃったな。まあ、行き先はすぐそこの売り場なんだけども。


(フッ、あからさまにぶすくれてんの)

 残された子ども――カイ君だっけ――は、俺から二歩くらい離れた所で口を尖らせてる。

 この子の母ちゃんはまだトウモロコシの行列に並んだばかりだし、俺の待ち人もまだ来ないっぽい。そんなら――



「なあ、ぼうず」

 呼び掛けながら隣の子と同じ目の高さになるよう屈むのは、身に染み付いた癖だ。

 俺に声を掛けられた子がギョッとした顔で振り向く。

 知らない人に声を掛けられたら、そらあ身構えるよな。


「カイヨウジャーって今の戦隊モノだろ。好きなん?」

 相手の警戒心が和らぐように笑顔で、話し方もダチに話すような砕けたものにする。

 けど、ちょっと人見知りする子なのか、知らない人には気をつけろって親御さんがキチンと教えたんかな。相手の顔は強ばっていて、それでも小さく頷いてくれた。


「じゃあさ、前の戦隊モノも観てた? 敵が百鬼夜行の」

「見た」

「面白かったよな、あれ。俺さ、ぼうずと同じくらいの年の友だちがいてさ、毎週観てたんだよ」

「おれと同じくらい?」

「そ、そ。でさ、ゴギョウイエローがダンス得意だったじゃん?」

 ゴギョウイエローのダンス――その言葉を聞いたカイ君がパッと顔を上げる。


「イエローがおどったら、式神たちが超つよくなる!」

 お、やっとノってくれたな。



 ◆◆◆◆


(よし! もう一方の出入り口とトウモロコシ売り場発見! 柱はどこだ)

 駅構内を競歩もかくやという早足で歩き回ること七分。やっとのことでもう一方の出入り口とトウモロコシ売り場を見つけた。


(あった。あの柱だったな。アイツもちゃんといる……って、なんで中腰?)

 トウモロコシ売り場の前に立つ柱を遠目で見つけると同時に、その傍で何故か、中腰姿勢になっている待ち人の姿も確認する。

 一瞬、体調不良を心配したが、『弟』の目が向く先に小学生低学年くらいの男児を見つけ、一人、納得して頷く。

(ああ、子どもと話しているのか)

 『弟』が中腰なのは、目の前にいる話し相手と目の高さを合わせる為だ。


(何処の子だろう。えらく熱心に話し込んでいるな……あ?)

 中腰姿勢からおもむろに体を起こした『弟』が突然、踊り出した。



 ◇◇◇◇


「ダンスするゴギョウイエロー、スッゲー格好良かったよな。知ってる? 白虎の舞」

「知ってる! あれが一番カッコイイもん!」


 毎週日曜の朝に放送されている戦隊モノ。

 施設にいた頃はチビ共の要望により、ほぼ自動的にその番組が流れてた。とりわけ、前シリーズはダンスシーンが毎回あって、ゴギョウイエローが踊るシーンは凄く盛り上がったんだ。


「確か、こんなんだったっけ」

 サッと周囲を見回して、往き来する人の量や多少動いてもぶつからないかを確認してから、小振りな動きで踊ってみせる。

 拳法の型をアレンジしたキレのある豪快な仕草が特徴的なダンスは、かつてチビ共にせがまれてよく踊ったものだ。今回は通行人の邪魔にならないように、動きをかなり制限したけれど、オリジナルを見た人ならわかると思う。


 最後に鋭い爪を振りかぶるようなポーズを決めれば、カイ君は「スッゲー! ホンモノの白虎の舞だあ!」と目をキラキラさせて叫んだ。



 ◆◆◆◆◆


 子どもにせがまれたのか『弟』が突然、踊り始めた。

 上体の振りをメインに、下半身の動きを上下運動のみで制限しているのは、通りかかる人に当たらぬよう配慮してか。

 大振りな動きを避けたコンパクトな振り付けだが、それにも拘わらず魅せられてしまうのは、『弟』の動きが見事だからだ。


 ひとつひとつの所作はしなやかで、ぎこちなさは一切ない。その上、停まるべきところではまるで時が止まったかのようにピタリと止まるから、それにより生まれた動きのキレとメリハリが、見るものを惹きつける。

(お見事)


 『弟』が作る完璧な玉子焼きからもその性格を窺えたが、どうやらアイツは元来の器用な性質である上に、研究熱心な努力家でもあるらしい。

 今、お披露目したダンスも完璧なものに仕上げる為に、はてさてどれだけの時間と熱を注いだのやら。



「スッゲー!」

 『弟』がポーズを決めた瞬間、傍にいた子どもが興奮気味に手を叩いて飛び跳ね歓声を上げる。子どもだけでなく、立ち止まって見ていた通行人からも歓声や拍手が聞こえ、それらを受けた『弟』は、照れて耳を赤くしつつも満面の笑みで一礼した。



 ◇◇◇◇◇


 やー、うっかり。カイ君相手に踊ってたけど、まさか通りすがりの人からも拍手貰うとか思わんじゃん。照れんね。

 ちょい恥ずかしくて、まわりを見てらんねーわ。


「どうよ? カイヨウジャー観るのは遅れちまったけど、白虎の舞見れて良かったろ」

「うん! 兄ちゃん、スゲーな! ホンモノのゴギョウイエローみたい。おれも白虎の舞、やりたい! できるかな?」


 カイ君の反応はまんま、施設にいたチビ達と同じもんだから、懐かしくてつい頬が緩んじまう。

(みんな、元気してっかな?)

 施設を出て二ヶ月と経ってないのに、チビ達やら同世代の奴ら、施設長や先生達と暮らしていた日々が昔のことのようだ。これが懐旧ってやつなのかも。

 こっちを見上げて、チビ達とまったく同じことを訊ねるカイ君に、うんうん、と頷いて応えた。


「できるできる。俺も最初に踊ったときは、虎じゃなくて猫みたいって言われたけど、いっぱい練習して上手くなったんだ。ちゃんと虎っぽかったろ」

「うん!」


 そうでしょう、そうでしょう。白虎の舞の練習中、ダチにも先生にも「拙い」「猫がじゃれてる」って笑われたから、ムキになって虎の動画で動きを参考にしたり、隙さえありゃあ練習したからな。

 おかげで、泣く子もダンス見せりゃあご機嫌になったし、クリスマス会とかのイベントでもこれさえ見せりゃあ大盛況だったもん。


「ぼうずもいっぱい練習すりゃ、俺より上手く踊れるよ。母ちゃんが買ってくれたトウモロコシ食って、がんばんな」

「わかった!」



 ◆◆◆◆◆◆


 柱の反対側、人待ち顔で『弟』と子どもの声を聞き、一人、納得する。


(成程、そういうことか)

 二人の近くにあるトウモロコシ売り場を窺うと、最初に見た時よりも行列の人数が多くなっていた。

 きっと、あの買い物客の中に子どもの親御さんがいて、買い物が終わるまでの間、待たされている子どもが飽きないように、『弟』が構ってやったのだろう。


 『弟』はきっと、幼い子を放ってはおけないのだ。

 何せ、アイツは少し前まで"お兄ちゃん"をしていたのだから。



『朗らかで面倒見が良い子でしてね。施設(ここ)の小さい子ども達は彼を"お兄ちゃん"と呼んで慕っているんですよ』


 『弟』の人柄についてそう評したのは、以前、アイツが身を寄せていた施設の代表だ。

 それが養親候補の養子への心証を良くする為の方便や過大評価でなく真実のものと知ったのは、『弟』が施設を退所した時のことである。

 『弟』との別れを惜しむ子や餞別を渡す子、エールを贈る職員達、大泣きして引き留めようとする幼子達の様子で、彼らがいかに『弟』を慕っていたかが知れた。



『ここではたくさんの友達に慕われていたんだな』

『おう。みんな、友達で家族みたいなもんだしな。仲良いのは当然じゃん』


 寄宿舎から施設の門を潜るまでの間、職員と子ども達に見送られながら、『弟』は彼らに手を振りながらさも当然のようにそう告げる。

 だが、『弟』の言う、家族みたいなものだから慕われていたという認識は、半分合っていて半分は違うのだ、きっと。


 俺のように血が繋がった者らと同じ敷地内で暮らそうとも家族と認められなかったり、互いが家族と認識していながらも他人然としたり、忌み嫌い合って家族仲が険悪になる家庭だって世にはある。


 『弟』がいた場所はそれとは真逆だ。

 施設に身を寄せる子ども達は、一部を除き皆、赤の他人ではあるが、『弟』は彼らを『家族みたいなもん』と称した。

 気さくで人懐っこい『弟』のことだ。実際に、態度や行動でも、接する相手を家族のように大切に扱い、信頼を得るよう努力もしたのだと思う。そして、相手も『弟』の行いを受けて人柄を知り、その思いに応えたのだろう。結果、『弟』は"お兄ちゃん"として施設の人達に慕われた。

 施設にいる人々が『家族みたいなもの』だから仲がいいのではなく、『弟』が他人同士の彼らを家族のように束ね、居場所を築いたからこそ仲良く暮らせていたのだ。



 そして、一つ屋根の下で老若男女問わず多くの人と家族同然に過ごした経験は、今も『弟』の中でしっかり根付いている。アイツがひとりぼっちの子どもを見過ごさなかったのが、その証拠だ。

 かつて施設の幼子達にそうしたようにあの子どもと接し、その心を掴んだからこそ、母を待つ子は寂しい思いをすることなく、今も笑っていられるのだ。


 施設にいた『家族みたいな』者達の存在も、今、『弟』が話をしている子どもが笑顔でいられるのも全て、『弟』の優しさの賜物だった。



(……似てるな)

 子どもに合わせて屈む『弟』に、あるひとの姿を重ねる。

 それはひどく懐かしくて、複雑な思いを俺に抱かせた。



 ◇◇◇◇◇◇


「じゃあね、兄ちゃん! バイバーイ!」

「応! じゃあなー」


 カイ君がトウモロコシ袋を三つも四つも抱えた母ちゃんと去っていく。

(お、トウモロコシ、持つの手伝ってあげてんじゃん。偉い)

 母ちゃんの持つトウモロコシを一袋分捕ったカイ君が、それを抱えて歩く後ろ姿は微笑ましくもあり、頼もしくもある。



「ご苦労さま」

「うぇっ?! 『兄貴』!」

 不意打ちのように、カイ君に手を振っている俺の背後からニュッと現れた『兄貴』に度肝を抜かれた。


「ダンス、格好よかったぞ」

「へ?」

 ニッコリとそう告げられ、頭の中が真っ白になる。


「取り敢えず、汗を掻いたろうから水を飲め。汗を拭きに行くか」

「水は飲むけど、汗はいいよ。どうせ、今から外出るんだし。いつから見てたん?」

「オマエが踊り出す直前だな」

 ほんの十何秒かしか踊ってないのに、しっかり見られてたのかよ。タイミングが良い奴。


 言いたいことはあるけど、取り敢えずまずは水分補給だ。買ってきた麦茶を開けた。

「『兄貴』のは水な。塩タブレットもあるよ」

「用意がいいな」

「猛暑舐めたら痛い目に遭うもん。それよりさ」


 ポケットからスマホを取り出して時刻を確認する。

 『兄貴』が着替えるのに分かれてから、三十分以上経っている。

「迷った?」

 どんなに着替えに時間が掛かっても、三十分は経ち過ぎだろ。

 何故か額を汗で濡らしている『兄貴』を横目で見遣れば、ミネラルウォーターの栓を開けていた手がふと止まり、顔は明後日の方に向く。


 ……おいおい、マジで迷ってんじゃん。んもー、この方向音痴め。

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