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ひとりじゃなくふたり  作者: 三山 千日
馴染みつつある日常

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14/51

それぞれの場所

 ◇


 通学路や学校の廊下で声を掛ければ、何人かが俺の名前を呼んで返事してくれるくらいには新しい学校に慣れた。

 でも、校内の間取りがなー。ドコになにがあるってのをまだ大まかにしか覚えてないから、少しでも早く覚えるために、休み時間になるとよく探検と称して校内巡りをしている。

 探検には友達が案内役として同行する時もあれば、気分や友達の都合により一人で校内巡りをするんだけど、そういう時はけっこうな確率で迷っちまう……今みたいにね。

 まあ、迷っても平気。対処法は極めてシンプル。そこらの人を捕まえて、訊く。それが一番手っ取り早い。


「すんませーん、図書室ってドコっすか?」

「図書室ならその階段を上がって左手突き当たり。一年だよね。特別棟の間取りくらいそろそろ把握しときなよ」

「ッス!」

 通りすがりの人による道案内とありがたーい助言に頭を下げる。

 ついでにチラと見た相手の制服の胸ポケットを窺えば、そこに付いた校章バッジの色は青。一年の俺が付けてる赤い校章とは違うから、この人は先輩ってことか。たぶん、二年。


「失礼しまっす」

 くだんの階段に向かうべく立ち去ろうとした時、先輩が「あ!」と声を上げる。

「そうだ。特別棟の屋上の道は避けときな」

 ――あそこは不良か生徒指導がよく出没するから。


 あー、これ、なんかのフラグかな?



 ◆


 経理課への用事で出向いた帰り、自販機に立ち寄ると隣接する喫煙者に同期がいた。

「お前も休憩?」

 一度は頷くも、同期が指に挟んだ煙草を持ち上げる素振りに首を振り、ほうじ茶を買う。


 煙草は吸えるが好みでない。それでも縋りたい時期もあったが、今は不要だ。


 同期の奴は吸いかけの煙草を灰皿に押し当て、こちらにやってきた。

 コイツがそこまでして持ち掛ける用事にすぐさま見当がつき、内心ため息を吐く。


「今夜付き合えよ」

「悪いが遠慮する」

 ぐい飲みを傾ける仕草をする相手に、即座に首を横に振る。

 部署の違うコイツが人を呑みに誘うのは、合コンの数合わせかしょうもない噂に付き合わせたい時くらいだ。しかもかなりしつこく誘ってくるから正直、面倒くさい。

 食い下がられる前に退散するかとペットボトルの蓋を閉めると、思わぬ言葉が返ってきた。


「あー、やっぱな」

「『やっぱな』?」

 予想外の返事に小首を傾げると、同期はニヤリと笑う。

「お前、同棲始めたんだって? 最近は弁当持参らしいじゃないか。作って貰ったんだろ、お相手に」

 その問い掛けに半ば呆れ、堪えきれないため息を吐く。


「同()だ」

「えぇ?」

「今は『弟』と暮らしている」

 ――残念だったな。からかい甲斐のない話で。

 家族との共同生活を同棲とは呼ばない。同棲するような相手もいない。

 まったく、何処で誤った噂を吹聴されたのやら。相手はあからさまにしらけた顔をした。

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