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ひとりじゃなくふたり  作者: 三山 千日
馴染みつつある日常

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13/51

いってきます いってらっしゃい

 ◇


 朝の洗面台はどうして、いつもいつも渋滞するのか。

「『兄貴』、まだ髭剃ってんのかよ。ちょい詰めて。歯ブラシくれ」

「ん、なんだ?」

「歯ブラーシ!」


 ヴィーだかジーだか、とにかくうるさいひげ剃りと声のデカさで勝負を強いられる。

 もういっそ、台所に歯ブラシ置いてやろうか。



 ◆


 朝のトイレはどうしていつも渋滞するのか。

 やっと身支度が整い、あとはトイレだけなのに、先客がなかなか出てこない。


(何故、トイレで鼻歌を歌う?)

 軽快なハミングがトイレのドア越しに聞こえ、俺はトイレ前から退いた。

 トイレは諦めよう。後だ、あと。どうせだから水に浸けておいた食器を洗ってやれ。



 ◇◇


「おい、弁当忘れてるぞ」

 玄関で靴を履いていると、背後から声が響く。

「やっべ! 俺の昼メシ」

 もつれる足に四苦八苦しながら振り向くと、「ほら」と包みが差し出される。


「あんがと」

「どういたしまして。フフ、今日の弁当もわんぱくな重さだな」

「フハッ! わんぱく、いいね。いいっしょ」

「ああ。元気があって花丸だ」


 こんなちょっとしたやり取りが楽しくもあり嬉しくもある。



 ◆◆


 玄関で靴を履く『弟』の姿に、ふと懐かしい記憶が過る。――当時とは何もかもが違うけれど。


 手に持った二つの弁当の微かなぬくもりと重みで主張される存在感に、つい頬が緩む。

 あの頃よりも心なしか重く感じる弁当は、食べ盛りの『弟』の食欲の表れであり、元気のバロメーターでもある。


 『弟』が今日も元気であることと、自分の分だけでなく俺の分まで弁当を作ってくれた優しさに感謝しつつ、片方の弁当を『弟』に差し出した。

 感謝の気持ちはあの頃よりも強い。



 ◆◆◆


「じゃあ、行ってくる。お前も元気に行ってこい」

「ほーい、いてきま。『兄貴』もいってらー」


 二人一緒にアパートを出て、二手に分かれる。俺は徒歩でバス停へ、『弟』は自転車で学校へ向かう。

 最初の角を曲がる際、ふと『弟』の向かった方向を見遣れば、その姿が予想以上に小さいことに唖然とする。

「頼む、事故だけは起こすなよ」

 その呟きを弟が聞くことはないから、今夜、改めて伝えることにしよう。


(しかし、あのチャリ、まだまだ現役でいけそうだな)

 通学路をチャリで颯爽と駆けていく『弟』の後ろ姿を見送りつつ、その危なげない動作を確認して頷く。


 かつて俺が通学に使っていたチャリが、年月を経て、再び日の目を浴びることになったのは『弟』のおかげだ。

 なかなか捨てられず、定期的に手入れをしておいて良かった。



 ◇◇◇


 『兄貴』に貰ったチャリは、お古でペダルがちょっと重い。でも、上り坂でも濡れた道でも楽に進めて、ブレーキもきちっと利く、パワフルなイイヤツだ。


(『兄貴』と頑張って、オマエを手入れしたからな。な、相棒)

 段差を越えた衝撃で、チャリはチリンとゴキゲンな音を上げた。

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