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赤獅子将軍は国王に嫁を探してほしいと頼む


 王宮でレオナルドは国王に謁見した。

 国王は愛想よくレオナルドに訊ねる。


「レオナルドよ。何が欲しいのじゃ?遠慮なく申せ」


 レオナルドは体格に似合わない小さな声でポソポソ言った。


「なに?よく聞こえぬ」


「よ、嫁を世話していただきたい!」


 国王は安堵した。何でも望みを申せとは言ったが無理難題を言われたらどうしようと内心ドキドキものだったのだ。


「おお、そうか。お前は二十六歳であったな。戦場に十年も縛り付けてしまった。

 余に任せておけ。必ず素晴らしい伴侶を世話してしんぜよう」


 国王陛下は楽観視していた。多少婚期を逃したとはいえ、今回の戦の英雄である。申し込みは腐るほどあるに違いない。その中で侯爵家当主に相応しい相手を余が選んであげればよかろうと。








 それから数日、進退窮まった国王は王女のラヴィニアを呼んだ。


 ラヴィニアは国王の第三子で唯一の王女。

 ライトゴールドのブロンドヘアに青い瞳、肉感的な姿態のゴージャスな美女である。

 国王が目の中に入れても痛くないほど可愛がっている王女であった。


 娘に甘々な国王は気づいていないが、ラヴィニアはかなりのわがまま娘で美しいもの好きであった。

 ドレスや宝石のみならず、彼女の周りに侍る者たちも美しい容姿でなくては我慢できなかった。

 彼女の今のお気に入りは護衛騎士のギルバート・ロランソ。伯爵家の次男であるため王女が降嫁するには身分が足りないが、彼より美しい男でなければ結婚したくなかった。


「おお、ラヴィニアよく来た。相変わらず美しいな」


 入室してすぐさま王は愛娘を褒める。


「お父様、ありがとうございます。当然のことですけど」


 紅茶を一口飲んで喉を湿らせ国王は一気に言った。


「そなたにいい縁談を持ってきたのだ。そなたも二十一歳。わしとしては可愛いそなたにいつまでも近くにいてほしいが、そろそろ嫁に行かねばなるまい。

 相手は地位も名声も持っている。年齢差もちょうどいい。まさに良縁じゃな」


「まあ、そんな素晴らしい方が?どちらのお方ですか?」


「シュヴァリエ侯爵じゃよ。此度の戦争の英雄、侯爵家の当主で年齢も二十六歳でちょうど釣り合う。まさにうってつけじゃな」


「は?お父様、もう一度お名前を仰ってください」


「レオナルド・シュヴァリエ侯爵じゃ」


 ラヴィニアはわなわなと震えだした。

 シュヴァリエ侯爵と言えば〝赤獅子〟とか言われている野獣のことではないか。

 先の戦勝記念の夜会で彼を見たが、近くに寄ることさえ嫌だった。

 そんな彼と結婚をするなんて死んでもごめんだ。


「絶対に!絶対に!嫌です!」


 ラヴィニアは泣き崩れた。


「お父様は私にあんな野獣のところへ嫁げと仰るのですか?」


「何を言う。彼は立派な紳士だ」


「顔にあんな醜い傷があるではありませんか!」


「しかしのう……彼に約束したのだ。素晴らしい伴侶を世話すると。

 侯爵で戦争の英雄でもある男に釣り合う令嬢などなかなかいないではないか。

 王女で年も近いラヴィニアならいいと思うのだが」



 国王はまず侯爵以上の爵位の家で二十歳以上の婚約者のいない令嬢を持つ家に打診しようとしたが

そんな令嬢はいなかった。次に爵位を伯爵以上に下げ年齢も十八歳以上とした。該当する家は何軒も見つかったがその全てに断られた。王命を出せば断れないが、レオナルドにあらかじめ無理強いはしないでくれと言われている。

 次に爵位を子爵以上に下げたが結果は同じであった。

 令嬢たちは皆泣いて嫌がり、中には失神してしまう者もいたそうだ。


 そして国王は自らの娘を思い出した。いつまでも手元に置いて可愛がりたかったが王女は既に二十一歳。しかしながら侯爵は二十六歳で年齢的にも身分的にも釣り合う。英雄に与える褒美としてまたとない良縁である。



 ラヴィニアは泣きながらも必死に考えた。


「お父様!いますわ!アーシュア・グレンワースです!」


 アーシュア・グレンワースというのはグレンワース公爵家の令嬢で今年十六歳。

 社交界にデビューしたばかりである。


 ストロベリーブロンドの髪に淡い緑の瞳、小柄な体躯の彼女は愛くるしい容姿の美少女で、一気にラヴィニアの対抗馬になった。


 いや、二十一歳のラヴィニアに比べまだ十六歳のアーシュアの人気は今後更に上がっていくことだろう。

 ラヴィニアはアーシュアのことが嫌いだった。護衛騎士のギルバートが彼女に関心ある素振りを見せたからだ。

 

 私よりちやほやされるなんて許せない。野獣の妻になって泣き暮らせばいいわ。

 ラヴィニアはそう考え、ほくそ笑んだ。


「アーシュア・グレンワースはまだ十六だぞ」


「あら、十歳差なんて珍しくありませんわ」


「しかし……」


 国王は渋っている。

 グレンワース公爵家当主のクリストフ・グレンワースは前王の年の離れた弟で、歯に衣着せず辛辣なことを言う十歳年上のこの叔父が国王は苦手だった。


「お父様!お父様は国王ではありませんか!国王はこの国で最も尊ばれる存在。文句を言うようだったら王命で嫁がせてしまえばよいのです!」


 無茶苦茶なことを言う。


 結局国王は愛娘に押し切られ、グレンワース公爵家に縁談の打診をすることを約束させられた。



 恐る恐るグレンワース公爵家にレオナルド・シュヴァリエ侯爵との縁談を打診したが、予想に反しあっさりと〝諾〟の返事が来た。




 かくして〝赤獅子将軍〟レオナルド・シュヴァリエ侯爵とアーシュア・グレンワース公爵令嬢の婚約が結ばれることとなった。

 



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