妖精姫は赤獅子将軍のお嫁さんになる
あれから半年———
今日はアーシャとレオナルドの結婚式だ。
空は青く澄み渡り柔らかな日差しが降り注いでいる。
アーシャは朝も暗いうちから起こされ全身を磨かれた後に王都でも一番大きな教会にやってきた。
英雄レオナルド・シュヴァリエ将軍と王族とも親戚関係にあるアーシュア・グレンワース公爵令嬢との結婚式は数か月後の即位を控えたテレンス王太子夫妻を始めウィスラン第二王子夫妻、宰相や国の重鎮たちが出席する一大イベントだ。
ウエディングドレスに着替えたアーシャの控室にも引っ切り無しにお祝いの客が訪れる。
もっともそれらの応対は父のグレンワース公爵や兄夫婦がしてくれている。
この半年、アーシャはグレンワース公爵邸に戻り結婚の準備をしていたが、レオナルドは頻繁にグレンワース公爵邸を訪れ、いや、最初のうちは休みのたびにグレンワース公爵邸を訪れ結婚式の打ち合わせをしたり時にはデートを楽しんだりしていたが、最後の方は毎日仕事帰りにグレンワース公爵邸を訪れ夕食を共にして帰っていった。
父のグレンワース公爵は思ったよりアーシャに執着を見せず、というよりも今は生まれたばかりの兄の第三子、初めての女の子の孫にメロメロなのだ。
兄の上の二人の子供は男の子で五歳と三歳である。
この二人は最初レオナルドを見たときにはビビッて一目散に逃げだしていたが、今では非常になついている。彼らが「かいじゅうのおじさん」とレオナルドを呼ぶので不思議に思って聞いたところ一冊の絵本を持ってきてくれた。
その絵本は勇者と彼の親友の心優しき怪獣が世界を旅して悪い奴らをやっつけるという内容だった。
挿絵に描かれた怪獣は真っ赤なたてがみを持つ獅子のような怪獣で片目に傷が描かれていた。
その絵を見てアーシャは妙に納得してしまった。
レオナルドのご両親にも会うことができた。ほんの一週間前であるが。
前シュヴァリエ侯爵は怪我を負って以来領地に引きこもりリハビリにも積極的ではなく歩くことができなかったらしい。それがレオナルドの婚約が決まった途端、俄然やる気を見せ今では杖を突きながらではあるが歩けるまでに回復した。
アーシャはレオナルドのご両親に会いたいと領地まで行くことを打診したのだが、前シュヴァリエ侯爵から自分の足で歩いて会いに行くので待っていて欲しいと返事を貰い楽しみに待っていたのだった。
時間が来てアーシャは父に手を引かれて立ち上がった。
兄夫婦は親族席に行ったが兄の子供二人はアーシャのベールを持つ係なので後ろに立っている。
大役を仰せつかった二人は緊張もしているようだが得意満面な顔で小鼻を膨らませ胸を張って待っている。
大聖堂に父に手を引かれてアーシャは足を踏み入れる。中央に敷かれた赤い絨毯の向こうにレオナルドが立っているのが見えた。
レオナルドにその手を渡すときグレンワース公爵は名残惜しそうにアーシャを見つめ「お前は私とジョシュアの最愛の娘だ。私もそしてジョシュアも空の上でお前の幸せを願っている」
そういった後でアーシャの耳元で囁いた。
「嫌になったらいつでも帰っておいで」
アーシャは抗議の声を上げようとしたが、それより早くグレンワース公爵はレオナルドに言った。
「レオナルド殿、アーシャをよろしく頼む。気が強くて少々変わった娘だが最愛の娘だ。君になら安心して任せることができる」
レオナルドは「この剣に誓って」とだけ言って頭を下げた。
レオナルドとアーシャは愛を誓いあう。
口づけのためにベールを上げたレオナルドはアーシャの美しさに息を呑み、そして幸せそうに微笑んだ。
そしてアーシャを抱き上げ誓いのキスをしたのだった。
その後もレオナルドはアーシャを抱き上げたままでそのまま教会の外に出た。
教会の外には英雄〝赤獅子将軍〟の花嫁を一目見ようと多くの王都民が詰めかけていた。
花嫁を愛おしそうに腕に抱いた将軍を見て人々はお祝いの言葉を叫び花びらが宙に舞った。
〝妖精姫〟は最愛の〝赤獅子将軍〟の妻になり二人はその後も数々のトラブルを乗り越え幸せに暮らしたとか。
——おしまい——
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