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妖精姫は赤獅子将軍に嫁ぎたい  作者: 一理。


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18/19

どこまでも愚かな王女


 建国祭の夜会は王宮の一番大きなホールで行われる。昼間の式典とは趣を変え夜会らしく優雅できらびやかに飾り付けられたホールに夜会用のドレスに装いを変えた紳士淑女が集まってくる。


 昼間の式典に出られなかった令息令嬢たちも続々と集まりホールはなお一層華やかさを増した。


 今夜もアーシャはレオナルドの髪色の赤いドレスであるが、大きく広がったスカートにも胸元にも沢山のリボンが付けられ襟元や袖口、裾にレースをあしらった可愛らしいデザインだった。


 レオナルドは思わずアーシャを抱き上げ額にキスを落とした。

 やってしまってからはたと気づきお互いに真っ赤になった。


 レオナルドは会談があった為侯爵邸に戻らず王宮にいた。つまり夜会の装いに身を包んだアーシャと会ったのは王宮のエントランス、夜会に出席する貴族たちが行き交う中であった。




 夜会は和やかに進む。

 アーシャとレオナルドも数人の友人と話したり食事に舌鼓を打ったり楽しい夜を過ごした。

 建国祭に合わせて領地から帰ってきたアーシャの兄夫婦とも久しぶりに顔を合わせた。

 アーシャの兄キクロスと初対面のレオナルドは緊張していたがキクロスはにこやかにレオナルドと握手を交わし、第三子を妊娠中の義姉も怯えた様子など微塵も見せずにこやかに挨拶を交わした。

 兄はこっそりアーシャに囁いた。


「お前の理想そのものの婚約者だな」

 アーシャの好みを熟知している兄だった。





 お花摘みに行った帰りアーシャは挙動不審な男を見た。


 近衛の制服を着たその男はこそこそと立ち入り禁止区域に向かおうとしている。近衛であれば王族のプライベートエリアに立ち入ってもおかしくないがやけにこそこそしたその態度とくたびれたような制服が気になった。


「あの~」


 アーシャの声に振り返ったその顔は——


「あ!!えーと……顔がいいって自慢してたラヴィニア殿下の……」


 そこまで言ったところで口を塞がれアーシャは庭園に引っ張り出された。

 夢中で抵抗したが男の力に敵う筈も無く、その場には引きちぎられたドレスのリボンだけが残った。


 口を塞がれたままアーシャは庭園の奥まで運ばれていく。せめてもの抵抗でアーシャは途中の木の枝を折ったり自分のドレスのリボンをちぎって落としたりした。


 やがて庭園の奥まった一角でアーシャはドサッと地面に投げ出された。


「きゃ!いたた……」


「あーら、生意気な小娘じゃないの」


 そこにはラヴィニアともう一人の近衛服の男——スティーブがいた。


「ラヴィニア、無理だよ。探ってきたけど陛下には到底近づけないよ。おまけにこの子に見つかるし……」


 ギルバートが情けない声を出した。


「そこを何とかするのがあんたの役目よ。わかってるの?私たちはもう後がないのよ!お父様に会えれば何とかしてもらえるわ。いい?お父様はみんなの手前ああ言っただけなのよ。内緒で会えさえすれば処分を撤回してもらえるよう私が頼んであげるわ。もう一度行くのよ!スティーブも行きなさい!」


「え~?僕もっすか~?」


 ラヴィニアの命令にスティーブは心底嫌そうな声を出した。


「それでこのかわいこちゃんはどうするんです?ラヴィニア元殿下?」


 アーシャは何とか逃げ出す隙を窺っていたが両腕はギルバートに拘束されており逃げ出せそうもなかった。


「そうね……ふふっあんたたちやっちゃいなさい」


「「は!?」」


「生意気な小娘には躾が必要よ。ああ、でもこんな小娘にあんたたちは勿体ないかしら?まあいいわ、その辺の茂みでやってしまいなさい。お父様のところに行くのはその後でいいわ」


「ふざけないで!!!」


 アーシャは必死に抵抗する。ギルバートはオロオロしているが掴んだ腕が緩むことは無かった。


 パン!!  ラヴィニアに頬を張られる。それでもアーシャは抵抗をやめなかった。


「付き合いきれない……僕は無理矢理は好みじゃないんだ。じゃあな!」


 スティーブは一早く逃げ出した。

 しかしギルバートはラヴィニアに逆らえないようでアーシャは茂みに引き倒されそうになった。



 ヒュン——何かが飛んできてすぐ傍を通り抜け後ろの木にビイイーーンと突き刺さった。

 ギルバートの頬から一筋の血が流れる。


「ヒ!ヒエエエエ」ギルバートは腰を抜かしそうになるがその前に強烈な拳に吹っ飛ばされていた。


 アーシャは一瞬で安心できる腕の中にいた。


「遅くなって済まない」息など乱したところを見たことのないレオナルドの息が乱れていた。

 額には大粒の汗が浮かんでいる。


 アーシャはホ~っと安堵のため息をつくと「来てくれるって信じてました、レオ様」と言った。


 レオナルドはラヴィニアに向き合う。


「こ、この野獣!どこまで私の邪魔をするの!許さないわ、絶対に許さない!」


 レオナルドが言った言葉は一言だけ。


「捕えろ」


 ラヴィニアとギルバートはレオナルドと一緒に駆け付けた衛兵に引っ立てられていった。



 ラヴィニアは最後まで「お父様に会わせなさい!」と喚いていたがその希望が叶えられることは無かった。



 結局ラヴィニアは北の僻地にある戒律の厳しい修道院送りになった。

 ギルバートは炭鉱送りである。


 厳密にいえば既に平民だったラヴィニアやギルバートが王宮にしのび込み——ギルバートが昔手を出した令嬢を脅して従者のふりをして紛れ込んだらしいが——公爵令嬢を拉致し傷つけようとしたのだから死罪になってもおかしくなかったが、さすがに国王は愛娘を死罪にすることはできなかった。

 国王はアーシャやグレンワース公爵、レオナルドに膝をついて懇願した。そしてテレンス王太子に王位を譲る手続きを早めた。




 夜会で助け出された後、アーシャはレオナルドに離してもらえなかった。


 レオナルドはアーシャを抱きかかえたままひと時も離さずそのまま馬車に乗りシュヴァリエ侯爵邸に帰った。もちろん馬車の中でも抱きかかえたままだった。


 当初の予定では夜会の後アーシャはグレンワース公爵邸に帰る予定だったのだが、レオナルドはアーシャをシュヴァリエ侯爵邸に連れ帰り、クロイスが驚いていろいろ質問するのを無視して自室まで運びこんだ。


 そして二人は甘い甘ーーい夜を過ごし、翌日初出勤のレオナルドを見送った後アーシャはグレンワース公爵邸に戻ったのだった。






 

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