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妖精姫は赤獅子将軍に嫁ぎたい  作者: 一理。


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10/19

妖精姫と赤獅子将軍は園遊会に行く


 あれからグレンワース公爵は宣言通り毎日朝食時にはシュヴァリエ侯爵邸にやってくる。

 レオナルドと公爵は馬が合うようでよく二人で話をしている。


 アーシャはなんか面白くなくてグレンワース公爵に訊ねた。


「お父様はレオナルド様との婚約に反対してたのではないですか?」


「ん?レオナルド殿については反対してないぞ。前も言ったではないか『彼自身に不満は無いよ。素晴らしい英雄だ』と」


「え?でも顔合わせの時——」


「私が不満なのは可愛いアーシャが私の元を離れるということだな。でもまあ半分は解決だ。毎日ここに来れば愛しいアーシャに会えるからな」


「半分は?」


「私の希望としては『お嫁になんか行きたくない。ずっとお父様と一緒にいる』と言って帰ってきてくれるのが一番だが……」


「それは無い」アーシャは即座に言った。


「では現状で満足するとしよう」と公爵は笑って帰っていった。




その三日後シュヴァリエ侯爵邸の朝食の席に更にメンバーが増えていた。


「テレンス王太子殿下……」


「やあアーシュア嬢、久しぶりだね」


 アーシャは急いでカーテシーをする。


「テレンス王太子殿下にご挨拶申し上げ——」


「あーやめやめ!私的な訪問だから挨拶なんかいらないよ。もっとフランクに接してくれ」


「あの……なぜ殿下はここに?」


「私とレオナルドは学園で同級だったんだよ」


「えっ!」確かにレオ様と王太子殿下は同い年だ。


「といっても在学中はほとんど接点なかったんだけどね」


 テレンス王太子は面白そうに笑いながら言った。


「レオナルドとアーシュア嬢が今社交界で話題の中心になっているのは知ってる?」


 アーシャは思い当たることがあった。確かクロイスが急にお茶会や夜会の招待状がたくさん来るようになったと言っていた。それもほとんどがレオナルドとアーシャ二人で出席して欲しいというものだった。


「どんな話題なのでしょう?」


「君が本当にレオナルドと()()()婚約したのか知りたいんじゃないの?

 私が聞いたのは王命で仕方なく説とグレンワース公爵に無理やり婚約を結ばされた説だったかな」


 テレンス王太子の言葉にグレンワース公爵は苦虫を嚙み潰したような顔で言った。


「逆だよテレンス。私が無理やりアーシャに婚約承諾の返事をさせられたんだ」


「ははっ私は大叔父上からそれを聞いて自分の目で確かめたくてね、大叔父上が毎日シュヴァリエ侯爵邸に出向いて朝食を共にしているというので混ぜてもらうことにしたんだ」


(ということはこの事態はお父様が原因ね)とアーシャはグレンワース公爵を睨んだ。


 小声でレオナルドに「お父様が迷惑かけてすみません」と謝ると「いや、俺は大勢で食事をするのは楽しいし侯爵にはアーシャの小さい頃の話も聞けるから良い事尽くめだ」と返されてホッとした。


「それはそうと私は無理やり婚約させられたことになっているんですか?」


(それは許せない。私とレオ様がラブラブだってことを何とか皆に知ってもらいたい)とアーシャは思った。


「レオ様、お茶会に出席しましょう!夜会も!」


「それなら私が選んでやろう。どこの家から招待が来ているんだ?」


 グレンワース公爵の言葉にクロイスが招待状の束を持ってきた。

 そしてグレンワース公爵とテレンス王太子の厳選のもといくつかのお茶会や夜会に出席することにした。


「レオ様、お父様と殿下が勝手に決めちゃったけどいいんですか?」


「ああ。俺は社交界に疎いから助かるよ。それよりドレスとか用意した方がいいんだろう?今度見に行こうか?」


「えっ!?買って下さるんですか?嬉しいです!」


 アーシャが満面の笑顔で喜ぶのでレオナルドはホッと胸をなでおろした。ドレス云々はクロイスの入れ知恵だ。

 



 


 それからまた数日。


 朝食会はまだ続いている。というかまたメンバーが増えた。

 テレンス王太子に加えウィスラン第二王子までが参加するようになったのだ。


 レオナルドは歓迎しているようで、朝食が終わった後もグレンワース公爵やテレンス王太子、ウィスラン第二王子と話に興じていることも多い。


 朝食が終わると男性陣はサロンに移動しアーシャは部屋に引き上げる。

 レオ様を取られたようで少し面白くなかったが、彼らは大抵午前中には帰っていき昼食後はレオナルドとアーシャは街へ出かけたり庭を散策してテラスでお茶を楽しんだり二人で過ごす時間を取ってくれた。


 




 その日の午後、レオナルドとアーシャはパーマー侯爵家の園遊会に出かけた。


 パーマー侯爵は初老の穏やかな人物で夫人も思慮深い上品な女性である。グレンワース公爵との付き合いも長くまたシュヴァリエ前侯爵とも親しかったらしい。


「社交をするなら手始めはここがいいだろう」とグレンワース公爵が招待状の束の中から選んだのがこの園遊会だった。





 パーマー侯爵邸に着き庭園に案内される。


 庭園で出迎えてくれた侯爵夫妻に二人は挨拶をした。


「まあまあ良く来てくださったわね」パーマー侯爵夫人がにこやかに迎えてくれる。


「シュヴァリエ侯爵には小さいころお会いしたことがあるのだけど覚えているかしら?」


「いえ、すみません」レオナルドが頭をかく。


「ふふっあなたが三歳の時ですもの。覚えていなくでもしょうがないわ。グレンワース公爵令嬢ははじめましてね。でもお父様に何度も自慢話を聞いているので初対面の感じがしないわ」


 そういってコロコロ笑う夫人をパーマー侯爵は温かい眼差しで見ている。

 アーシャはいっぺんでパーマー侯爵夫妻が好きになった。


 園遊会も夫妻の人柄を現したような和やかなものだった。


 招待された人々も雰囲気を壊すようなことはしなかったがレオナルドのことは遠巻きに眺めるばかりだった。

 いや、年配の男性は時折話しかけてくれるのだが若い人たちは近づいてこなかった。



 レオナルドが「飲み物を貰ってくる」と傍を離れた時だった。


「アーシュア嬢、大丈夫か?」


 アーシャが振り向くと二人の男性が立っていた。


「何がでしょう?それにあなたたちは?」


 初対面だと思うが相手は家名ではなくいきなり名前を呼んだ。それに名乗りもしないのに自分たちの名前は当然知っていると思っている。なんだかその態度が鼻についた。


「あの、どこかでお会いしたことありました?」


 重ねてアーシャが聞くとやっと男たちは名乗った。


「僕はギルバート・ロランソ」


「僕はスティーブ・バーンズ。僕たちのこと知らない?」


 初対面の令嬢に対する態度じゃないし公爵令嬢に対する態度でもない。彼らの後ろに少し離れてアーシャを睨んでいる令嬢の集団があった。


 アーシャは心の中でため息をついた。


「存じません。それで『大丈夫?』とはどういう意味でしょう」


「君、あの野獣と無理やり婚約させられたんでしょ。僕たちが助けてあげようか?」


 スティーブがなれなれしく言うとギルバートも続けた。


「僕たちラヴィニア王女殿下の近衛をしているんだ。知らないかな?王女殿下の近衛は特別容姿が優れていないとなれないんだ。つまり僕たちは王女殿下のお気に入りだから君とあの野獣の婚約解消を王女殿下に頼んであげるよ」


 ムッカ―――!!アーシャは頭の血管が切れそうになった。

(なに?今このもやしみたいな男たちはなんて言ったの?私のレオ様を野獣ですって!?

 許すまじ!!)


「余計なお世話です!」


「「えっ!?」」


「余計なお世話だと言ったんです!私のレオ様のことを野獣ですって?彼は救国の英雄です。そんなこと言ってよろしいの?それに私とレオ様はラブラブなんです!無理矢理なんかじゃありません!」


「アーシャ、どうした?」


 二人がアーシャの剣幕にタジタジしているところにレオナルドが戻ってきた。

 アーシャはレオナルドの腕に飛びついて腕を絡めながら言った。


「レオ様~私たちラブラブですよね~」


「えっ!」レオナルドは一瞬で真っ赤になるとテレながら言った。


「そ……そうだな。俺たちはラ、ラブラブだ」


 アーシャが大声を出したことで注目していた人々はレオナルドの照れる姿を見て好感を抱いた。

 

「まあ、シュヴァリエ侯爵は照れ屋さんね。でもグレンワース公爵令嬢のことをとっても大切に思ってらっしゃるのでしょう」


 パーマー侯爵夫人がその場にやってきた。和やかに場を取り持ってくれる。

 パーマー侯爵夫人の言葉にレオナルドが照れながらもはっきり答える。


「はい。彼女は俺の天使です」


「レオ様!レオ様も私の天使です」


 アーシャの言葉に笑いが起こり二人は人々に拍手された。


 ギルバートとスティーブがこそこそいなくなる。


「ごめんなさいね。親戚の娘さんの希望で招待したのだけど礼儀をわきまえない人たちがいたようね」


「いやこちらこそお騒がせして申し訳ありません」


 レオナルドと一緒にアーシャも頭を下げた。


 これをきっかけに二人は、そしてレオナルドは令嬢たちにも受け入れられ始めた。

 そもそもレオナルドが戦勝記念の夜会であそこまで令嬢たちに恐れられたのは勿論見た目の怖さが一番だが、それに加え令嬢に慣れていないレオナルドが無駄に緊張してしまい、本人は無自覚であるがものすごい眼力で睨んでいたからだった。


 アーシャといるレオナルドは雰囲気が柔らかくなり二人がラブラブだということは次第に貴族たちの間に広まっていった。

 



 






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