92話 そのオヤジ 雷を操って!
「行きましょう....」
リリスは、3番姫の安全を気にしながらも方向転換をし、先ほど戦闘を行っていた場所まで戻る。 現場には、周辺の探索を行っていたビュアインパクトの構成員達が居た。
リリスは反射的に隠れるが、隠れる理由が今は無いと思い直す。 彼らの前にリリスが姿を現すと、警戒したように一斉に武器をこちらへと向けてくる。
「誰かッ!?」
「警戒しないで下さいっ、敵じゃありませんっ!」
むやみに警戒させても、後々動けなくなることを分かっているのでリリスは両手を上げて無害のポーズを取ることにした。 リリスが武器を手に持っていない事が分かると、構成員の面々は安堵したように息を吐いた。
彼らも、先ほどまで戦闘していたのか体のあちこちに傷が確認できる。
ふと、ビュアインパクトの構成員の一人がリリスの腰に付けられた上等な剣を見る。 それから、気絶しているナジーの傷を見てから何かを察した。
「なるほど....嬢ちゃんがさっきの戦闘音の....」
「はいっ!」
「あの異常なまでの金属音、何事かと思って来てみれば....。 嬢ちゃんのような存在が、何故この地下に居る? 救出するはずの事前名簿と容姿には、銀髪セミロングの少女なんて居なかったと思うが」
ビュアインパクトの男が悩んでいると
「あぁアレっすよ。 ほら1週間だかそこら前に入ってきた....名前なんだったかな...竜人族の子供を連れて入ってきた少年の...」
夜空さん、陰でロリコン呼ばわりされてたんですね....。
「拉致被害者か。 先ほどは失礼だったな、嬢ちゃんも地下から出よう。 我々ビュアインパクトの同士たちが、嬢ちゃんを無事に地上まで連れ出すことを約束しよう....って、嬢ちゃんにはわざわざ警護もいらねぇか、むしろこっちが守られる側に回りそうだ」
「「「「ハハハハハハ、違いない!」」」」
ビュアインパクトの構成員達の間で笑いが起こる。
「私は別で行かなきゃいけない場所が....」
「おっとそうだったか...なら、まぁ一応気をつけてな。 人づてに聞いた話だが、今外では逃走した王を捕まえる為に同士が首都内を走り回ってる....妙な行動はなるべく謹んでくれ」
「王? 姫様じゃ無くて...ですか?」
リリスは動揺を悟られないようにしながら会話を続ける。
「2人の姫に関しては捕えたそうだ。 王は、自分の娘と護衛の兵士を囮にして逃げおおせたらしい....あの野郎の【天賦】はゲロ以下の産物だ。 あんなのを野放しにしたから...俺の娘はッ...クソッッ!!」
ビュアインパクトの男は悔しそうに呟いた。 過去にこの男にも何か事情があったのかも知れないと、リリスは同情の目を向けながら話を続ける。
「娘さんが....?」
「嬢ちゃんよりも少し年上ぐらいだった。 ある日、あのクソ野郎に芸術を否定されて....その影響で心を病んで、自ら首を釣って死んじまった。 親よりも先に子供が死ぬことほど残酷な事はねぇと、あの日ほど思い知った事はねぇ」
つまんねぇ話をしたなと男は乾いた笑みを顔に張り付ける。
「す、すいませんっ...」
「いいさ、今こうしてあのクソ野郎の首に刃を突き立てられる機会を得てるからな。 ....話を戻そう、地上では重力のスキルを使う化け物が大暴れしてるらしい。 所属に関しては、王宮の兵士でもねぇし、ビュアインパクトでも、他の芸術活動グループのメンバーでもねぇ。 完全に所属不明の怪物だ、近づかねぇ方が身のためだから近づくな。 多分ウチのゴーストさんがなんとかするだろ」
「.....情報感謝ですっ!」
「お互いに頑張ろう。 俺達も行くぞ、まだまだ救出対象は残ってるからな!!」
会話を終えたビュアインパクトの面々は、そのまま地下空間を走って行ってしまった。 3番姫が歩いて行った方向はどうやら目的地では無いそうで、目にくれる事すらしなかった。
「この人...結局どうしましょう」
リリスはナジーを見て、どうしようかと本気で困惑していた。
その後、ナジーを結局連れて行くことにしたリリスが、夜空を救うためにナジーを『パワーアップ』を用いて投げ飛ばしたのは別の話。
.....そして時間は巻き戻る。
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.....。
「それが私の剣士の道ですっ!!」
「スキル『覚醒型、グラビタイツクォーン』!!」
飛び立つ5羽の鳥と、投げつけられた引力が激突する!! 鳥が引力を抑えている間に、リリスはスキルを同時発動する。 『パワーアップ』で足腰を強化し、一気にイスカルの懐へと入り込む。
イスカルは片目がダメージによって使えず、距離が明確に測れない。 なんとかキックで行動を妨害しようするが、リリスはサッとそれを躱し懐に辿り着いた後、蒼脚光の剣を鞘にしまい込む。
「!?」
「セブンティア流『七式剣技、1番!! ソニックスラスト』!!!!」
リリスは、今まで使えなかった筈の1番の剣技『ソニックスラスト』使用する。 推進力を伴った神速の薙ぎ払いは、兄であるカイルより若干劣る精度でイスカルを斬り付けた!!!
致命傷になると判断したイスカルが、とっさにリリスの刀身の腹を拳ではじいて回避する。 目にもとまらぬ高速斬撃を弾けるのは化物ならではだろう。
「なんでコレ弾けるんですかっ!?」
「精度は見事。戦闘経験の差という奴だよ」
鳥の処理が完全に終了したイスカルは、リリスを対応できるほどの余裕が出来てしまった。 スキル『覚醒型、グラビタイツクォーン』を、超至近距離からリリスに向けてぶっ放す!
投げつけられた引力に押され、リリスが後方へと飛ばされるが持ち前のフィジカルで上手い事着地する。 着地の姿勢制御の為に地面に剣を突き刺す。
イスカルが、再びリリスに向かって『覚醒型、グラビタイツクォーン』を放とうとしてくる。 手で引力を掴んで、投げるその瞬間....。
イスカルの足元に静電気がバチバチと走る。
「!?」
「スキル『ライトニング』」
駆け付けたゴーストの呟きにより、天から一発の雷が落とされる。 イスカルはギリギリで不意打ち雷を回避し、掴んだ引力の投擲先をリリスからゴーストへと変更する。
「んぁー、これはやべぇなぁ」
ゴーストは速やかに『スカイバンパー』を使ってその場を離脱する。 ゴーストがその場からいなくなった僅か数秒後、先ほどまでゴーストが立っていた場所が抉られるように消滅した。
傷だらけの怪物を止めるため二人の人間が立つ。
銀髪の少女と、くたびれた中年のオッサン.....。
「今日はよく邪魔が入るね....」
「夜空さんの元には行かせませんっ!!」
「自らの理想の為に心労を賭すだけさぁ。 で、お前誰よ」
ゴーストの戦闘スタイルは、電気スキルを用いたモノなのか....両手に電気を纏い始める。 バチバチと電気が両手や、地面の水たまりに通電する。
「...........電気とは、これまた厄介だね」
イスカルが息を荒げながらため息を吐く。
「.....んぁ、無視すんなぁ? 剣士の嬢ちゃん離れてなぁ? ビリッとくんぞー」
そう言うと、先ほどとは違う電気のスキルを発動する。
電気のスキルにはいくつか種類が存在するが、ゴーストの使う電気のスキルは計3つ。 『ショックボルト』、『ライトニング』、『サンダーボルト』の3つだけだ。
『ショックボルト』は超至近距離のスタンガンという感じだ、『ライトニング』は天から雷を落とす、『サンダーボルト』は自分の手から対象に向けて電流を放つ。 ゴーストが、煙草に火をつける際ライターを使わなかったのは、ショックボルトがライターの代替代わりになるからだ。
『サンダーボルト』は、スキルの操作に慣れれば途中で2つから3つに電流を枝分かれさせる事も出来る。 複数の攻撃対象にアプローチできる強みがある代わり、下手な道具を持つことが出来なくなるというデメリットも存在する。
ゴーストは電気のスキルを繊細にコントロールしながら、同時使用も行いイスカルを追い詰めていく。 戦場に張られた無数の電気の枝が、そこらじゅうの水たまりに感電してバチバチと凶悪な音を立てる。
「むんっ!!」
イスカルは重力璧を器用に展開し、自分に直撃する雷撃だけを地面へと撃ち落とす。 横から飛んでくる雷撃が、重力の力に逆らえず垂直に叩き落とされる様は見ていて異様である。
「んぁー。 当ったんないねぇー、おっかしいなぁ。 かなり網目張ってると思うんだが、なんでそこまで粘れるんだぁ?」
横から縦から斜めから....枝分かれさせた雷を1点にまとめてかく乱したり、あえて当てない様『ライトニング』を放って目隠しに使ったり。 応用を交えた抜け目のない攻撃を行うが、防御に回ったイスカルを容易く落とすことなど出来ない。
「す、すごい....。 なんて、レベルの高いっ....」
リリスは何も出来ずに立ち尽くす。
目の前で繰り広げられる異次元の戦いに、体が全くついていけていない。 だが、リリスは攻撃は目では追う事は出来る。 一般人である夜空なら、何が行われているか...理解に苦しむ事だろう。
見惚れてしまうほど綺麗な雷の舞は、芸術の国ならではの戦闘法だった。
(んぁー、目が死んでねぇなぁ....何か企んでる目をしてる)
ゴーストは雷を放ちながらイスカルの目を見る。 イスカルの目は、しっかりとゴーストの動きを観察しながらも、心ここにあらずというような感じだった。
ゴーストが動きの止まったイスカルに向けて、3本に枝分かれした『サンダーボルト』を放った。 その次の瞬間ッ! イスカルが、自身に対して高重力をかけて陥没させ周囲の地面を無理矢理持ち上げる。 雷撃が防がれたことにより、直ぐにゴーストは天からの雷『ライトニング』へとスキルの使用を移行するが......間に合わない!!
「スキル『スカイバンパー』」
イスカルが垂直に跳躍し、もう一枚『スカイバンパー』を空中に張って地面と平行に移動する。 落ちてきた雷は当たらず、ゴーストは枝分かれさせた細かい雷撃で撃ち落とそうとする。
イスカルは馬鹿では無い。
自分の怪我の状態、スタミナの有無ぐらいは判断できる。
なら、イスカルにとっての最良の選択とは?
答えなら......誰でも思いつく。
「夜空君を仕留める!!」
「んぁッ!? まさか、夜空を狙ってんのか!? させるかッ」
無数の雷撃が空で跳ね回るイスカルに襲い掛かる。 しかし、怪我人とは思えない程俊敏にその全ての雷撃を躱し、そして雷撃を撃ち落としたイスカルは....城壁外に居た運ばれている夜空を補足する。
「夜空君ッ、君の豪運もここまでだよッ!」
イスカルが急に方向転換を行い。 気絶している夜空へと迫る!!!!
「うぉぉォッ! 夜空ちゃァァァァん!!!」
王宮でいつの間にか気絶から回復したイェーガーが、全ての事態を瞬時に理解し....獲物を奪われまいと『ニトロレーザー』のスタンバイに入る。 それと同じように、王宮外壁の外ではコレムが『ニトロレーザー』のスタンバイに入る。
放たれた2発の『ニトロレーザー』が、図らずもイスカルを挟むようにクロスファイアする。 コレムの方を叩き落として防御するが、より強力なイェーガーの方の光線に接触し、空中で大爆発に巻き込まれる。
「グウッ、全てはッ、尊き家族の為にッ!!」
限界の一歩手前まで追い込まれたイスカルが反射的に叫ぶ。
「任務達成はッ絶対なんだ!!!」
(家族?)
ぼやける意識の中で、夜空にははっきりとその言葉だけが聞こえていた。
俺にとって、家族とは安心できる存在。
信じても良い....存在だった。
このふざけた世界に堕ちて、追われて、戦って。
妹に会いたいと旅した先にある末路がこれか......。
この世界は何処までも理不尽で、そんな事は分かりきっててッ!
それでも兄は、妹を心配しなきゃいけない生き物だからッ!
夜空はうっすらと目を開ける。
目のピントが合わず、世界がぼやけて見えるが....。 空から落ちるように、血だらけのイスカルが迫りくる。 体が痛みと疲労で動かせない夜空は、ただそれを見る事しか出来ない。
よくある創作物なら、このタイミングで主人公が強力な力に目覚めるとか....。 神から、特殊な力を授かるとかはよくある話だ。 だが、俺は自分の持つクソ天賦の不可項目....
・スキル自動取得不可
・スキル自動進化不可
・その生物の身体的特徴を使用するスキルの使用不可
この3つのせいで、そういった甘えは望み薄だ。
イスカルを阻もうと、コレムとプラスが守る。 しかし、夜空と同年代の女子と、疲弊した竜人族の子供ではイスカルの突撃を阻むにはあまりに厳しく。
「これでようやくッ、任務達成だねッ!?」
振り払われた拳は夜空の元へ!!!!
「絶対にさせませんっ!!!」
「いい加減倒れろぉ?」
遠くから聞こえるリリス、ゴーストの声と共に、斬撃性を持つ鳥を5羽カッ飛んでくる。 ゴーストが、その鳥に対して雷を纏わせるように付与する。
雷撃を纏ったセブンティア流『七式剣技、進化型5番 五鳥10連切』はイスカルの背中に向かって!!!! トドメを刺そうと必死になっているイスカルの背中を貫いた!!!
雷撃が体を通り抜ける形で感電させ、斬撃がイスカルの鍛え抜かれた肉体を斬り付ける。 衝撃でイスカルが初めて膝をつき、そのまま倒れる。
....振り払われた拳は夜空に当たることは無かったのだ。
あぁ、そうか....これは....。
リリスからの、おかえし...なんだ。
ぼやける意識の中、再び意識が消えていく。
夜空は、セブン国でのリリスを助けた事を思い出し、そう....感じた。
==☆次回予告☆==
92話の閲覧お疲れさまでした。
急な戦闘の幕引き....でも無いですねイスカルが異常なだけです、逆になんでこんなに耐えれんだよ。 流石にもうイスカルは動かない、動けないと思います。
どうでもいいですが、入院無事終了しました。
更新期間も徐々にもとに戻ると思われます。
次回、93話......その雨雲 光を覗かせて!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




