91話 その神速の斬撃 衝突して!
「あっ...」
斬られた痛みでナジーが仰け反る。 バックステップしながら薄暗い廊下に飛び出て、小部屋から出てきたリリスから距離を取る。
「ウチの血....」
斬られた場所に手をあてたナジーは、自らの手に自らの血が付いた。 それに、何か思う所があるのか...血を見てただ茫然とそこに立つ。
「ウチは違う......ウチは創作者.....。 消耗品じゃない.....ウチは、消耗品と違うじゃん? そう、そうだ、ウチは違う、違う違う違う....ッ!」
ナジーはよろめきながらリリスへと向き直る。 その目には、リリスを消耗品として作品を生み出す狂気しか残ってはいない。 黒いエフェクトは、剣についた血液しか接種できないのか。 ナジーの服に染みだす血液までは絡めとるような真似はしていなかった。
「.........ふー」
リリスは一発斬撃を入れたからって調子に乗らない。 敵の次の攻撃に備えるように、常にナジーの一挙手一投足に目を光らせ続ける。
「その目が気に食わないじゃん!? 今頃ッ、その可愛い顔を斬撃でボロ雑巾に出来ていたッ、筈ッ、なのにッ、なんでこうなんじゃん!?」
ナジーは聞き分けの悪い子供のように地団駄を踏む。
「一つ...聞かせてください。 貴方は、創作欲の赴くままに人を傷つけてきたと....先ほどそう仰っていましたねっ?」
「..........小五月蠅い」
「虚しくはならなかったのですかっ!? 悲鳴を聞いて、血を浴びて...その先に得た結果に.....貴方は虚しさを覚えなかったのですか!?」
「うるさいうるさいうるさいッ!! 王に許されたじゃんッ、完成された作品だから生み出せって言われた....それがウチの生きがいになった! 斬りつけて血を見て恍惚し、それを作品に仕上げて王に見せるッ!! 王が姫が喜ぶじゃん、それの何がおかしい!?」
「この世界じゃ!!皆そうやって生きてるじゃん!?」
自身の中にあったどす黒い感情は、本来なら理性で抑え込めるほど小さな物だった筈だ。 だが、ナジーは違う。 生い立ちや周囲の激励がナジーの感情を揺さぶり、王家の持つ【天賦】と言う圧倒的なまでの説得力が、ナジーの誤った感情と行動を強制し、あまつさえ肯定してしまった。
大儀名分を得た結果....
誰も彼女を....止められなくなった。
止めようと尽力した者は、皆彼女の剣に等しく引き裂かれ、貫かれた。
無数の屍を作りながら、彼女の芸術は笑みを浮かべる。
その笑みに当てられた王が笑みを零す、最悪の無限ループ。
「虚しさすら、既に切り刻んでしまったのですね....」
哀れそうな目でナジーを見ながら、リリスが呟いた。
「うるさいじゃんッ、さっさと血を流せッ!」
「嫌ですっ!!!」
両者がぶつかり合う!!
【ガキィンッ!!!】
廊下に響くほどの金属音が、鍔迫り合いによって生じる。 怨念と執着心が込められた剣は、パワーアップされたリリスの体を徐々に押すほどの力があった。
「ググッ、このまま壁に押し付けてッ...血祭りじゃんッ!? スキル『ヘイスト』ッ」
ナジーが加速し、リリスを地下の壁に叩きつけようとしてくる。 このままではマズイと感じたリリスは、壁に掛けられていらランタンを手に取り...そのままランタンが割れるほどの勢いをつけて、ナジーの横っ面をランタンで引っ叩いた。
「食らえ、ですっ!!」
「グへェッ!!」
ナジーの吐血した大量の血が、ナジーの剣に乗る。 黒いエフェクトが、剣に付着した血液を絡めとるように吸収する。
ナジーが痛みで怯んだ隙に、リリスは再び距離を取る。
大量の血が黒いエフェクトに吸収され、黒いエフェクトが赤黒いエフェクトへと変化する。 パワーとリーチが先ほどとは桁違いに強化されると同時に、ナジーへかかるスタミナ消費が増大する。
「ハァ、ハァ...ウチは...クリエイター! 芸術家ッはァァァ思想を形にすることで....ウチは世界へ問いかける! 完成された作品を作り出すことだけが生きがい、生きがいじゃん!!」
「.........」
リリスはもはや呆れている。
疲労と錯乱、興奮状態により太刀筋は乱れ、剣士としてはお粗末な事になっていたからだ。 だが、リリスは剣技の国の生まれ....剣士へのせめてもの礼儀は心得ている。
「血染め、血塗り、血祭りッ、その先にある完成された芸術を!!!」
「剣士として....貴方には終わってもらいますっ。 芸術が何なのか、結局、私には理解が出来ませんでした。 だけどっ」
ピアノを弾いて、楽しそうに歌を歌っていた、3番姫さんのアレが芸術だというのなら.....この女衛兵さんに芸術は語らせてはいけないと思った。
だから、この人には....芸術家は語らせない。
その強い決意と共に、リリスは無詠唱で『パワーアップ』を自身に付与する。 この剣は、自分の友人の名誉の為に.......。
「セブンティア流『七式剣技.....』」
リリスの目の前では、赤黒いエフェクトが廊下を埋め尽くさんほど広がりを見せ。 今か今かと、リリスの方に刃が向けられていた。 エフェクトの奥には、錯乱しながらも恍惚とした表情を浮かべた狂人ナジーの姿があった。
「終わらせる? 終わる訳無いじゃん、芸術は不滅....不滅じゃん!? セブンティア流『七式剣技....』ッ」
ナジーも対抗するように『血潮乱舞』と七式剣技を同時使用する。 赤黒いエフェクトが剣技を強化し、リリスの懐に今か今かと飛び込もうとしている。
「「『1番ッ、ソニックスラスト』ッ!!!!!」」
両者が一歩を踏み出し、相手へと全速力で近づく。 両者が互いに約1mの距離に立った時、ほぼ同時に推進力を伴う薙ぎ払いを行う。
この技は、ずっとリリスが習得できなかった技の一つ。 誰かを守りたい、守らなきゃという土壇場での想いが形となって....リリスの元に現れていた。
セブン国で学んだ七式剣技の知識。
大切な人たちの安否。
悪人を止めなきゃという正義感。
少女の想いは世界へ共鳴し、スキルへその形を変化する。
そのスキルは、少女の努力の証でもあり、優しさの形でもあった。
リリスは『パワーアップ』+『ソニックスラスト』。 ナジーは『血潮乱舞』+『ソニックスラスト』....。 互いにメインのスキルをサブのスキルで強化し、ぶつかり合う。 剣と剣が接触し、火花を上げ....地下の廊下に痛々しいほどの金属音が響き続ける。
「「はああああああああああッッッ!!!!」」
両者とも一歩も引かず、目にもとまらぬ高速斬撃で打ち合う。 ナジーは自身の血液のせいで、高速斬撃に凄まじいパワーが乗っている。 並大抵の剣では一瞬で破損するレベルだ。
対するリリスは、セブン国で父上やお兄様に教わった剣技の精度と練度で勝負をかける。 イカれたパワーを正面から受けない様、必ず相手の剣の腹を叩いて捌きいなしながら....己からも攻撃を仕掛け続ける。
両者一歩も引かない攻防は、廊下の壁に無数の斬撃跡を残し、壁にかけられたランタンは破壊されて暗闇に包まれていく。
(このまま押し切るじゃんッ!?)
(どこかで剣技を切り替えないとっ!!!)
両者の異なる想いが交差する。
しかし斬撃は止まらない。 両者は体に細かな傷をつけていく...。
戦闘が長引けば長引くほど、パワー的にリリスが不利になる反面。 スタミナ的にはリリスが有利になるという意味わからない状況になっていた。 リリスは徐々に劣勢に持ち込まれ、攻撃できるチャンスが少なくなっていく。
「アハハハハハハッ、血をォ血をォッーーーー!!」
ナジーはもうすぐリリスを斬れる喜びで歓喜する。 しかし、リリスの太刀筋は抑え込まれながらもその練度と精度を落とさない。
その意識の違いが....。
運命の分かれ目を生んだ。
「血祭りじゃァァァァァんッ!!!!」
ナジーの感情が大きく高ぶり、それに剣技が引っ張られた。 制御できない程のパワーに薙ぎ払った剣が直ぐに手元へと直ぐに戻らない、もう一度薙ぎ払いに入るまでの時間に僅かな遅れが生じた。
銀階級...いや、金階級相当の剣士であるリリスはその隙を見逃さなかった。
一撃で剣を天井へと跳ね飛ばし、次の攻撃が飛んでこない様立ち回る。 矢継ぎ早にスキルをスイッチして、剣技の型を切り替える。
リリスの周りに....羽が舞う。
「『七式剣技、進化型5番 五鳥10連切』」
瞬時にスキルで斬撃性を持つ鳥を出現させる。 その鳥はスキル生成物。 敵を斬りつけてから飛翔し、往復して再び斬り付け.........敵を制圧する技。 リリスが七式剣技の中で最も好んで使うスキルだった。
「ひっ、待っ....ッッ!!!」
「おしまいですっっっ!!!!!!!!」
リリスはナジーの命乞いを聞く素振りすら見せず。 例のごとく斬撃性を持つ鳥を往復させ、合計10発の斬撃をナジーの体にお見舞いした。
「ギャアアアアアアアアアアア!!!!」
ナジーは痛みで悲鳴を上げ、そのままショックで気絶してしまった。 ナジーの外傷は、斬撃による出血は酷いものの、四肢や首などが切断されているような事は無かった。
いや、リリスがそうならないよう...スキルをコントロールしたのだ。
「甘いですね私も」
リリスは少し自己嫌悪しながらも、当初の『剣技を間違った使い方させない』という思いだけは達成することが出来て、少し心が楽になっていた。
戦闘を終えたリリスは、気絶したナジーを簡易的に拘束する。 拘束に使った縄に関しては、そこら辺の廊下に落ちていた年代物の縄だ。
縄による拘束を終えたリリスは、急いで3番姫をかくまった部屋の前まで戻る。 ナジーを担いでいこうとしたが、出血が酷いため動かさない方が賢明だと判断。 その場に置いていくことにした。
リリスとナジーの戦闘音が流石に響いたのか。 ビュアインパクトの地下活動のメンバーが、周辺の異常を確認するために巡回を開始する。
急ぎながらコソコソと地下空間を移動し、3番姫を中に押し込んだ部屋の前で扉を叩く。 しかし返事が無い、どうやら中で震えているようだ。
「リリスですっ」
その言葉を聞いた3番姫が部屋の扉を開け、リリスへと抱き着く。 相当斬撃音と罵声、それに暗い部屋が怖かったようで震えていた。
「怪我はしてないわよね!?」
「少しケガしちゃいましたけどねっ、まだまだ私も未熟ですっ! もっともっと精進しなくてはいけませんね、あははっ」
リリスは、自分の頬に付けられた傷を指さしながら、ムンッとした表情で可愛らしく力こぶを作って3番姫を安心させようとするが。
「あぁ、乙女の肌が...。 本当にごめんなさっ...むぐっ」
謝ろうとした3番姫の口をリリスが優しく閉じさせる。 傷だらけの銀髪少女は、3番姫に向かって年相応の無邪気な笑みを浮かべる。
「ありがとうの方でお願いしますっ!」
「!!」
3番姫は目に浮かべた涙を指ではじいてから、リリスをもう一度強く抱きしめ。 リリスの耳元で小さく『ありがとうありがとう』と何度も呟いた。
「それに傷なら後でポーション使えば治りますし、問題無いですっ! そんな事よりも、3番姫さん....先を急ぎましょうっ!」
歩き出そうとするリリスの腕を、何故か3番姫が掴んだ。 その行動の意図するところが分からず、リリスは困惑している。
「ここから先は....別れていきましょう」
「!?」
「隠れている間、ずっと考えていましたわ。 リリスさん、貴方は強い...ならば、その力を私のようなつまらない存在に割いている訳には行かないでしょう?」
「ダメッ、ダメですよっ! もし見つかったら...」
リリスが何度も首を横に振り、提案を頑なに拒否する。
「処刑される....かもしれませんわね?」
「ならっ!」
「上の音....今、聞こえますか?」
リリスが地上の音に耳を傾ける。 先ほどまで、ドカンドカンと爆発音?のような音が地上で鳴り響いていたのに先ほどからやけに静かだ。
「あれ....? 大きな音が聞こえません....」
「恐らく地上で何かしらの動きがあったと思いますわ。 リリスさんのお友達も、恐らく即戦力を欲している頃合いかと思います」
「だからって....」
リリスは迷う。
夜空やコレムも心配だが、それと同じくらい目の前の3番姫も心配なのだ。
「今、地上は混乱の真っただ中にありますわ。 王宮は、華やかさの陰に闇を隠した....だから、真実が民の目に映った時にこうなることは想定の範囲内でしたわ」
3番姫は言葉を続ける。
「リリスさん、また会えたら....その時は一緒に歌を歌いましょう?」
3番姫は、リリスを送り出すように笑顔で背中を押した。
その笑顔は、怖さに耐えつつも後悔の無い笑顔をしてた。
==☆次回予告☆==
91話の閲覧お疲れさまでした。
リリス戦闘回でした。 そして、リリス新たな七式剣技のスキルを習得しました!!
ここでおさらいです。
七式剣技とは、異なる状況下に柔軟に対応するために組み上げられたスキル群の総称です。 剣士が覚える剣技系スキルの流派の中で最も『セブンティア流』はポピュラーな剣技だったりします。
これについてはセブン国編で詳しく書いてますので、よろしければ是非。
作者短期入院の為、次回の更新は少し遅れます。
ちょうど誤字関連の習性もしなきゃと思っていた頃合いなのでちょうど良かったりも......。 今だに10話とかに誤字出てくるの勘弁してくんねぇかなこの作者。
次回、92話......そのオヤジ 雷を操って!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




