90話 その剣技 少女の怒りを!
数秒前....イスカルの引き寄せにとうとう耐えきれなくなったイェーガーが吸い寄せられた。 スキルの詳細を把握するためにリリスは、イェーガーの動き、イスカルの動きを観察していた。 が、戦闘ができるリリスでさえも、イスカルがどうやってイェーガーを倒したのか理解できなかった。
ただ分かるのは、吸い寄せられたイェーガーが、大規模な土煙を上げるほどの衝撃で地面に叩きつけられ、失神したという事だけだった。
「手間を....かけさせるもんじゃないよ、竜人族!!!」
イスカルが息を荒げながら叫ぶ。
「体術も、スキルの使い方もッ! こんなのまるで勝負になりませんッ!!」
リリスは弱音を吐きながらも、その目は闘志に燃えている。 ここで自分が引けば、大切な人の命が無くなってしまう事が分かっているのだろう。
スキル『パワーアップ』を使用し、足全体に力を入れて踏ん張る。 引力がリリスを引きずりこまんと、服などを引っ張り始め、リリスの服の繊維がブチブチという音を立て始める。
「....君が誰かは知らない、自己紹介も必要ないよ。 すまないが、余裕が無くてね...乱雑なやり方で制圧することを勘弁願いたい」
「させませんっ! あの人はもう沢山傷つきましたっ、これ以上、これ以上私の...私たちの夜空さんを痛めつけはさせませんっ!!!」
「そうか、君は夜空君の恋仲だったのか。 じゃあ、今日でお別れだよ」
イスカルはそう言うと、『スカイバンパー』で上空へと舞い上がり、空の上から中庭全体へ下方向へと重力をかけてリリスを押しつぶそうとする。
いつもより数段重い重力がリリスの体にかかり、『パワーアップ』の効果が乗っている状態でさえ動くことが出来ない程の重さに変わっていく。
「うぐぐぐぐ...っ!!」
「....思い出した。 どこかで見た事ある顔だと思ったんだ」
イスカルは疲労を隠すことなくそう言った。 リリスの顔や服装、立ち振る舞いや剣技などからリリスの身元を特定したようだ。
「......」
「君はセブン国のお姫様だろう? 何故、夜空君と旅をする?」
「元です! それに、旅する意味なんて貴方に語る必要を感じませんっ!」
「彼との道は茨だよ? 君の思い描く冒険が出来ると思っているのなら、それは誤算....彼は君の人生をかき乱すだけだ」
イスカルがリリスの心を揺さぶる。
しかし、リリスはきょとんとした顔を浮かべる。
「えっ、知ってますけど?」
「.......なら、何故?」
「もうじゅーぶんかき乱されましたっ! ....それでも、あの人は最低で、最低じゃ無くて....誰かが見てあげないと倒れちゃうからっ。 だから、私は夜空さんと行くんですっ!!!」
「誉れ高き家系に生まれたのに、なんで茨の道を選ぶんだい」
リリスが答えを返すように、重力渦の中立ち上がる。 セブンティア流『七式剣技、進化型5番 五鳥10連切』の構えを取り、自身の周りに5羽の斬撃性のある鳥を生成する。
「それが私の剣士の道ですっ!!」
「スキル『覚醒型、グラビタイツクォーン』!!」
飛び立つ5羽の鳥と、投げつけられた引力が激突する!! 鳥が引力を抑えている間に、リリスはスキルを同時発動する。 『パワーアップ』で足腰を強化し、一気にイスカルの懐へと入り込む。
イスカルは片目がダメージによって使えず、距離が明確に測れない。 なんとかキックで行動を妨害しようするが、リリスはサッとそれを躱し懐に辿り着いた後、蒼脚光の剣を鞘にしまい込む。
「!?」
「セブンティア流『七式剣技、1番!! ソニックスラスト』!!!!」
リリスは、今まで使えなかった筈の1番の剣技『ソニックスラスト』使用する。 推進力を伴った神速の薙ぎ払いは、兄であるカイルより若干劣る精度でイスカルを斬り付けた!!!
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【時間は遡り、夜空がイスカルと戦闘を始めた頃....】
3番姫と共に、『電気生成・制御室』へと歩みを進める。 地下では爆発音や金属音が響き渡り、大勢の人間の悲鳴や感謝などが渦巻くカオスとなっていた。 解放された拉致被害者たちが、ビュアインパクトの構成員達に守られながら地上へと連れ出されていく。
そんなビュアインパクトたちに見つからない様、隠れながら地図頼りに地下を移動し続ける。 3番姫は体力が無いため、途中途中で小休憩を入れながら。
しばらく走ると、徐々に人の出入りが少なそうなエリアに入る。 床の隅には埃がつもり、しばらく掃除されていない事が分かる。
「この先ですっ! 辛いかもしれませんが頑張って進みましょうっ」
「足ばかり引っ張ってしまうわね....」
3番姫の言葉にリリスは首を横に振る。
「助けて貰った恩返しがしたいのですっ! だから、気にしないで下さい!」
「ありがとう」
会話を終えた時、通路の先から異質な気配を感じ取った。 ガリガリと、刃物のような物を床に当てながらこっちへ近づいてくる。
危機を感じたリリスは、3番姫に近場の倉庫に入って待機しているようにお願いし。 自分は蒼脚光の剣を抜いて廊下で迎え撃つように立つ。
「血染めぇ~♪ それは芸術ぅ~♪」
妙な歌が薄暗い廊下の先から聞こえてくる。 その声は、一度この地下で聞いたことのある声....リリスがもう一度戦うことになると危惧していた剣士の声。 他の衛兵に【ナジー】と呼ばれていた女衛兵が暗闇から姿を現した。
その女衛兵の持つ剣には誰のかもわからぬ鮮血が滴る。
リリスを見つけたナジーの顔が不気味に歪む。 まるで、画家が理想のキャンバスでも見つけたかのように喜び、舌なめずりをする。
「またお会いしましたね....」
「そう、あの時は殺せなかったじゃん。 でも今は、現行制度批判のクズ共のせいで、何処で誰が血を流して倒れても分からないじゃん?」
言いたいことが理解できるのか、リリスの頬に冷や汗が流れる。 警戒するように、蒼脚光の剣のグリップを強く握りしめ強襲に備える。
「一体....何人の罪なき人を斬ったのですかっ!?」
「思想の赴くままに....ってね!」
ナジーが一切の迷いなく、セブンティア流『七式剣技、1番 ソニックスラスト』をリリスの頭.......では無く、左ふともも目掛けて振り下ろす! 推進力を纏った神速の斬撃がリリスを襲う!!!
が、リリスは読んでいたかのように斬撃を太刀で受け止める。 凄まじい金属音が、地下の廊下に反響して伝わる。
「貴方ならっ、始めは逃げられないように足を狙ってくると思ってましたっ!!」
「大正解!!! さぁッ、血に染まれッ!! オリジナルスキルッ『血潮乱舞』じゃんッ!!!」
ナジーは、リリスですら知らぬ未知の剣技を使用し始める。 それはナジーのオリジナルスキル。 剣にへばりつく重苦しい黒いエフェクトが狭苦しい廊下内を斬撃で埋め尽くす!!
「わッッ!? な、何てリーチッ!!」
これは目が慣れるまで少し後退しなきゃ、一瞬で持っていかれるッ!
攻撃に危機感を覚えたリリスは、攻撃を真正面から受け続けながら徐々に後退する。 しかし見た目の重苦しさに反して、以外にも剣筋自体は軽い。 リーチだけは目を見張る物があるが、何故かこの剣技からは殺す事を大前提として作られていないような、そんな違和感を感じた。
しかし、リーチの影響でリリスの斬撃は全くと言っていいほどナジーには届かない。 それどころか、ナジーとの距離を離される始末だ。
(このままでは埒がッ! 斬撃自体は軽いのに、質量とリーチで優位を取られますっ!?)
時間をかけすぎれば、ここの戦闘が他の方々にもバレてしまう。 そうなれば、3番姫さんの脱出は極めて困難となる。 それだけは避けなきゃいけませんっ!
リリスは、近場の使われていない部屋に扉を蹴破って飛び込む。 リリスが部屋に飛び込んだ瞬間、部屋の床に積もっていた埃が部屋中に舞う。
「血ィ――――見せろって言ってんじゃんッ!!!」
ナジーは廊下からリーチの長い斬撃で追撃を仕掛ける。 だが、幸いにもその部屋には使われていない彫刻用の石が大量に置いてあり、それを遮蔽物とすることで斬撃から逃れる。
「少し、掠ってましたか....」
リリスの左肩付近から血が少し滲む。
「あはっ、いいじゃんいいじゃん! ウチの剣に血がァ....さぁ、ご飯よ...。 食べたらもっと斬るの、もっともっとウチの剣は強くなるんじゃん!?」
黒いエフェクトが、剣に僅かにのった血を絡めとるように吸収する。 黒いエフェクトに僅かに赤色が交りスキル自体が強化される。
(条件強化タイプのスキル!? 条件は血の接種ですかっ!?)
「あはっ、ごちで~す! でも、まだ足りないじゃん? ウチの剣は汚れた剣、舞ったり飛んだりなんて要らない。 ただ血を拭き出させて、吸収して.....強化して。 最終的に圧倒的なパワーで肉体ごと叩き潰して....うふ、うふふふふふっ」
とても子供には聞かせられないような笑う声を上げる。 剣に恍惚とした表情を浮かべる女衛兵は、完全に血狂いのソレの目をしてた。
「とても...剣技とは思えません....」
「ウチみたいな女に、綺麗な戦闘なんて不似合いもいい所じゃん!? 鮮血が飛び取る地面ッ、硝煙の匂い舞う空気の中でしか、ウチの芸術道具は手に入らない!! 芸術は追及ッ、追及は歪んで信念を生む!! 血をッ、血を見せろって言ってんじゃん!?」
強化された斬撃を、何度も何度も狂ったように振り下ろし....リリスが隠れる遮蔽物を徐々に、徐々に削り取っていく。 迫る黒いエフェクトが、リリスの体に流れる血を見たいと狂い踊る。
「お兄様は、夜空さんは....。 この邪悪な殺意に何度も晒されてきたのでしょうね」
単純な話だ。 そう、極めて単純な話。
その殺意がたまたま私に向いただけ....。
目の前のナジーと呼ばれた女衛兵さんは、私でなくとも血を見られれば満足なのだろう。 今、彼女を繋いでいたであろう国の命令は撤回されている。
その状況で、この女性を城下町に解き放てば....罪なき人たちを斬り捨てて、血の惨劇になってしまうのは火を見るよりも明らかです。
行かせない....行かせてはいけませんっ!
リリスは剣を見る。
鏡のように輝く刃に自分の顔が歪んで映る。
(じゃあ【正義の為に振るう力】なんてどうだ?)
私の愛剣...蒼脚光の剣に込められた誇り。
「....沢山の人が涙を流してしまうから」
己の正義に従いますっ。
迷いや葛藤は、あの人がきっと一緒に背負ってくれる。
私のパートナーはそういう人なんですっ!
リリスは、覚悟を決めたように自身に無詠唱で『パワーアップ』を付与する。 そのままの流れで、リリスは障害物の向こう側で剣技を放つ態勢を取る。
(あの黒くて長い攻撃...どうすれば受けきれる? 何番の剣技を使えばしのぎ切れる? ....5番の『五鳥10連切』では恐らく刃が届かない、撃ち落とされてしまいますっ!)
「早く出てくるじゃんッ!? 粘っても時間の無駄無駄!」
ナジーが障害物を破壊しようと、リーチの長い攻撃を連続して障害物へ叩きつける。 叩きつけられるたびに石材が揺れ、地下空間も連動するように振動する。
「セブンティア流『七式剣技、2番!! セブンヴァン!!』
なら風で受け流しましょうっ! 剣から流れ出る7本の風は..ただ斬撃を与えるためだけにある訳じゃありませんっ。
リリスが『セブンヴァン』と呼ばれるスキルを発動して遮蔽物から飛び出る。 黒いエフェクトを伴う攻撃が、即座にリリスを狙うように動き始めるが....。 リリスは剣から流れ出る風を上手く使って、黒いエフェクトを受け流しながら間合いの内側へと突っ込んでいく!
全ての攻撃を受け流しながら、リリスは部屋中を跳ねまわり....ナジーの間合いの内側へと無理やり体を突っ込んだ。
「七式剣技が邪魔ァくさいじゃんよッ!!!」
ナジーが焦ったように吠える!!
「褒めていただき感謝ですっ!!」
言葉を吐き捨てるように、リリスは蒼脚光の刃をナジーへ振り払った!
==☆次回予告☆==
90話の閲覧お疲れさまでした。
何気に、リリスの戦闘を真面目に書いたのは初めてかもしれません。 次回、何故夜空の元にナジーが飛んできたのか、その理由が明かされます。
最近、プチ話やってないなー(笑)
やりたいんですけどね、あんまり情報出し過ぎても...ね?
次回、91話......その神速の斬撃 衝突して!
是非次回もご朗読下さい!
作者が少し入院するため、投稿が数回遅れるかも?
どうでもいいですね。
ではでは~




