89話 その窮地 女神は微笑んで!?
「夜空君....君は....僕の....獲物だ....」
よろめくイスカルの片目は...まだ任務達成に燃えていた。
「グハッ!」
何が起こった!? ふざけんじゃねぇ、クソ痛ェじゃねぇか!
イェーガーが自分の身に起こった事に理解が追いついていない。 腹を抑えながら飛び起き、今の状況を瞬時に確認する。
倒れた好敵手、片目が使えなくなってる女、そして吹っ飛ばされた俺様。 この状況で分かるのは、この俺様の感動的なフィナーレを、どっかのじゃじゃ馬野郎が阻みやがったって事だ。
「邪魔だどけクソ女、ぶっ殺しちまうぞッ!!」
「女? ...あぁ、今は...女だったね」
目の前に立つ名も知らぬ女は、よく分らないことを呟いた。 満身創痍..とまでは行かないが、女も相当弱っている感じがした。
「俺様の戦いの勘が言ってらァ、お前強いなァ...」
「この状態でも、暴力好きな獣一人潰すのにさほど時間はかからないよ。 逃げた方がいい、君では勝てないし.....何より任務の邪魔だよ」
「ハッ言うぜッ! 片目で正確に間合いも読み図れねェクセしてよォ!! テメェの任務が何かは知らねぇが夜空ちゃんは俺様の獲物だ! 好敵手を殺すことで、俺様はさらなる高みへと上り詰めていくんだよォォォッ!!!!」
イェーガーがターゲットを、ボロボロの夜空からボロボロのイェーガー(女性の姿)に変更した。 イスカルもその闘争心を感知したのか、イェーガーに対して警戒の目を向ける。
「好敵手? 高み? 理解不能だね」
イスカルが呆れたように苦笑する。
「その小綺麗な面、グシャグシャにしてやんよ!!」
....刹那!
ほぼ同時に両者が足を前に踏み出し、攻撃モーションに移行する。 イェーガーはいつもの通り、何も考えずに『フルボディTNT』を全身に張って突っ込む。 イスカルは、夜空の動きに目を配りながら重力を上乗せした鉄拳を作り出す。
そのまま両者が殴り合いの戦闘を始める。 ドカン、ドカンという痛々しい音が中庭に響き渡る最中...夜空はなんとかして逃げ出そうと、疲弊の中で頭を回す。
既にポーションホルダーには、回復ポーションは存在せず...あるのは黄色のポーション、麻痺ポーションが一瓶だけ。 銃は火薬が雨に濡れたせいで使えないだろう、ショートソードに関しては先ほど『グラビタイツクォーン』とかいうのに吹っ飛ばされた時どっかに飛んで行った。
両手のひらからの出血が止まらない。
大怪我..というレベルでは無いが、何回も全力の『ハイパーウェーブ』を放ち続けたせいで、痛みの具合が看過できないレベルになり始めていた。
あぁ、クソ...俺はまだ春にだって会ってない。
温井さんに想いだって伝えてない....。
あっちの世界で、やり残した事だって沢山あるのに...!
生きたいハズなのに.....。
体が、体が言う事を聞かないんだ。
自惚れていたのかも知れない。
この世界でスキルを手に入れて、強くなった気がしていた。
だが、大切なここぞで俺はまた動けない。
なんて、なんて情けない男なんだ。
一方で、イェーガーはイスカルに殴られ続ける。
「ぐっ、クソッ、なんでこの女ァッ、こんなに拳がッ!! くそっ、クソがッ、俺様の好敵手は適度に弱いくらいがちょうどいいんだッ、強すぎるのァダメだァ!!」
重く、早く、それでいて的確に急所をついてくる。 人間の...それも女性が竜人族のいかつい筋肉を一方的にボコボコにしていく。 イェーガーは持ち前のタフネスでなんとか耐えているが、それもいつまで持つか分からない状態になりはじめていた。
(あまり戦闘を長引かせるのはよろしくないね。 ....さっさと夜空君を仕留めて、この国を離脱する!!)
イェーガーから少し距離を取ったイスカルが、急な方向転換を行い、茂みから今だ動けない夜空にトドメを刺そうと迫ってくる。
「アッ!? 抜け駆けは許さねェェェ――――ッ!!!!」
まるで異世界ハーレム主人公だ。
まったく嬉しくない。 だって相手が男だし、殺そうとしてくるし....。
ふざけた世界だ、何処までも。
俺に困難や受難を与え続けてくるんだ。 飴を与えることなく、ずっと...。
振り絞れ....最後の力を....!
抗え、噛みつけ....ッ! 最後まで俺らしく!!!
「.........うぅ、アァァァァァッ!!!!」
夜空は言葉にならない声を発しながら、フルパワーで自分を守るシールドを生成する。 あの時、イスカルに使用したオリジナルコンボ...『スパイク』と『シールド』の攻撃は、夜空に残された体力的に不可能だった。 というより、そこまで頭を回す程の余力も.....無かった。
「なんて愚策ッ! らしくないねッ夜空君!!」
イスカルが『覚醒型、グラビタイツクォーン』を投げつける動作に入る。 イェーガーも、必死にそれを妨害しようと『ニトロレーザー』の準備を始めるが....スキル発動から、チャージを必要とする『ニトロレーザー』では恐らく間に合わないだろう。
シールドも簡単に避けられるだろう。
終わった。
そう思った夜空は目を瞑った。
「........よ...ら!」
「よ...さん!!」
自分を呼ぶ、二人の少女の声の幻聴が聞こえた気がした。
なんだってこんな時に、幻聴が聞こえてくるのか.....。 あぁ畜生、クソったれめ...、願う事ならもう少しだけ、アイツらと旅をしたかった。
この先に待つ景色を見たかった。
妹に、温井さんに、父さんに、母さんに、テルテルに.......。 俺は、まだ、リリスやコレムになんの為に旅をしてるのかさえ言ってない!!!!
「待てやクソ女!!! 抜け駆けすんじゃねェェェェッ!!!!」
イェーガーが怒り狂い叫びまくる。
「夜空君すまない」
投げつけられた引力に体が持っていかれる。 夜空の後方には、硬くて頑丈な外壁がそびえたっている。 あそこに体が叩きつけられれば、良くて重症、悪くて死ぬだろう。
覚悟して目を瞑った夜空の体に、何かが....当たった。
「え?」
「クソクソクソッ、ウチの血染めがあああああああッ!!!!!」
(本当に誰だよッ!?)
夜空の元に飛んできたのは、服や肌が斬撃で切り裂かれ傷だらけの上、縄で拘束されている見知らぬ女性。 女性は、タックルで入れ替わりになるように、夜空を引力の外へとはじき出した。 女性は引力の波をもろに受けて、外壁にかなり強く叩きつけられそのまま気絶してしまった。
「コレムちゃん後お願いしますっ!!」
リリスが地下から飛び出しながら、空に向かって思いっきり叫ぶ。 その声に反応するように、街の方から高速で飛んできたコレムが、夜空を抱きかかえるような形でその場から連れ去らう。
コレムの服装は、いつもは着てないようなファンシーな服だ。
「本当にダメな奴ね!」
「待ちやがれェェェッ!!!」
イェーガーが嬉しそうにしながら、容赦なく『ニトロレーザー』を夜空達に向けて放ってくる。 が、夜空は事前に展開しておいたシールドを移動させて『ニトロレーザー』をシールドに当てて爆発させる。 生み出された爆炎と轟音が目くらましになって、夜空とコレムの手助けをする。
「逃がさない。 僕は宰相様の為に....」
イスカルが見たことも無い戦闘態勢を取る。 すると同時に、イスカル周辺の引力が乱れに乱れまくる。 懐に飛び込もうとした、リリスもイェーガーも、あまりに異質な重力の流れに危険を感じ、その場から距離を取る。
「見せよう夜空君!! これが重力系能力の最高到達点ッ!」
そう叫んだイスカルが大きく地面を踏み込む。
「「「「ッ!?!?」」」」
全員がイスカルを見た....戦闘面ではアレな夜空さえも。
「オリジナルスキル『アトラツイォーネ』!!!!」
そう叫んだイスカルを、中心とした引力の渦が生成され周囲の瓦礫や生き物を引き寄せ始める。 引き寄せられる事に危機感を覚えたリリスは、剣を地面に刺して衝撃に抵抗する。 抵抗する術を持たないイェーガーは引力に抵抗しながらも、徐々に引き寄せられ始める。
夜空とコレムは空中にいながらも、イスカルを中心として形成される引力の渦のような物に引き寄せられ始めていた。 コレムは夜空だけは離すまいと、妖精のような羽をパタパタと動かしながら、引力の引き寄せに懸命に耐えている。
夜空は抵抗したいが、体力の消耗が激しく...動けない。 コレムの体を掴むその手さえもあまり力が入っていない有様だった。
「離したら後で噛むからッ、噛みつくんだからぁぁぁぁッ!」
空飛ぶ小さな子供と無力な少年。
ここでスキルを同時使用すれば勝てると、イスカルはそう判断したのか。 引力の渦を維持しながら、『覚醒型、グラビタイツクォーン』を投げつける準備に入る。 こんどはスキル混線を起こさない様、夜空を殺す事だけに集中する。
(夜空君は....僕の友人だろう!?)
だが、また....体が命令とは違う別の意思によって行動が止まった。
「罪人が...罪人が友人など滑稽にもならないよ!!」
かすかに残った記憶を否定するように、阻まれたスキルの発動を強行し始める。 掴んだ引力を、夜空に向かって投げつける。 撃ち落とさんと迫る引力が、夜空の眼前に迫った時....目の前に鉄パイプのような鈍器を持ったゴーストが、気だるげにしながら現れて夜空とコレムを掴んで、引力の影響範囲外へと『スカイバンパー』を使用して移動した。
一瞬で外壁の向こう側へ逃げた一行を、大技を発動したイスカルは追うことが出来ない。 イェーガーも追わせまいと、大技にカウンターを決めるために間合いを図る。
その頃一方、夜空達は.....。
「重力のスキル!? アンタ重力スキル使えるの!?」
コレムは、ゴーストのスキルに対して驚きを隠せない。
「んぁーー。 事情は知らんが、子供をオリジナルスキルで狙うのはあんまりなんじゃねぇかな。 ビュアインパクトは同胞を見捨てない、遅れて悪かったなって....返事出来ない程疲れ果ててるんか。 まいったなぁ」
ゴーストは夜空を見ながら申し訳ない表情を浮かべる。
「.......」
「プラス、竜の嬢ちゃんと一緒に早く逃げろぉ? そんで、夜空に回復ポーションを使ってやれ、お前たしかさっきの攻防戦で回復ポーション余らせただろぉ」
ゴーストのその言葉に、何処からともなく現れたプラスが夜空に肩を貸そうと動き出す。 プラスが『ゴーストはどうするのかな?』と疑問を投げかけると、ゴーストは.....
「んぁー、あの女にこれ以上暴れられたら地下が耐久的にマズイ。 若い連中や芸術狂い共ならともかく、階段を早く登れない爺さんや婆さんの避難の時間は稼ぐ必要がある。 だからぁー、んぁー、俺は戦わなきゃならないんだよな.....。 極めてかったるい事この上ないけどなぁー」
「さっきの重力スキルで?」
コレムが夜空を強く抱きしめながら会話に参加する。 プラスには渡すまいと、少しプラスを威嚇しながら夜空を引きずろうとしている。
「.....それは無理だぁ、竜の嬢ちゃんも分かるだろ? 重力系は強力、故に消費もまた比例してデカい、逆になんであの女が乱発出来てるのか知りたいくらいだぁ。 【才能】にしたって限度がある、【天賦】持ちか、あるいは人間的なスペックがぶっ壊れてんのか....どっちかだろうな」
それ、多分後者です。
やっぱり、イスカルって人力チートだったんだな。 オニキスに居た頃から、常々思ってはいたが、やはりイスカルの強さってのはこの世界では異常存在の部類に入るらしい。
一人の最強が世界を揺るがす。
そんなおとぎ話のような創作物を日本でよく目にしたが、どうやらそんなことは出来ないらしい。 現に、あれほどの力を持ったイスカルが宰相の手のひらの上で転がされている。
世界は一人の力では....変えられないのだ。
その時、外壁の向こうでひときわ大きな【ドカーン】という音が上がり、その直後イェーガーの痛がる叫びのような声が聞こえてきた。
「とにかく、夜空の消耗がかなりヤバい。 背中と手のひらの怪我も相当なもんだろう、意識があるだけ大したもんだ。 直ぐに現場を離れろ」
「.....り、リリス」
夜空は言葉を絞り出す。
声を発するたびに背中がズキズキと痛む。
「気持ちは分かるが、今のお前は足手まといだ」
「ち、ちくしょうッ...畜生ッ.................、、、」
夜空は悔しさで涙を流しながら気絶してしまった。
己の無力さと不甲斐なさを恥じながら。
「んぁープラス、竜の嬢ちゃんと夜空を頼むぞ」
「任せちゃって欲しいんだよ!」
プラスは夜空を背負い、コレムと共に王宮から離れ始める。
「さてと、おじさんも苦労するかね」
おじさんことゴーストが、ボロボロになった王宮の外壁を見ながら呟いた。
==☆次回予告☆==
89話の閲覧お疲れさまでした。
当然と言えば当然ですけど、イスカルはオリジナルスキルを持ってます。 オリジナルスキル『アトラツイォーネ』....周辺の重力を自分を中心にして引き寄せます。 敵が一定の範囲にまで到達すると一気に外側へ弾き飛ばします。 引き寄せられた瓦礫を貫通させることで大ダメージを負わせる、非常に強力で極悪な技です。
初見殺しもいい所ですね、食らえば夜空は死にます。
次回、90話......その剣技 少女の怒りを!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




