87話 その少年 望まぬ邂逅を果たして!
夜空は、イェーガーを放置して走り出す。
前回、セブン国で戦った時はリリスという攻撃手段があった。 今回のリリスの役割は...恥ずかしい話だがコレムだった。 そのコレムが戦えない状況なら、俺に勝ちの道は無い。
頑張ればきっと勝てるだとか、諦めず立ち向かえだとかは、実力があって言える事。 自分でも分かってるんだ、俺自身に純粋な戦闘能力なんてほとんど無い事を。
当然、このまま隠れる手段も考えたが...それだとイスカルに治療する時間を与えてしまうし。 あの化け物が、俺の大体の位置を補足した状態で元気になるのが一番マズイ。 命令に忠実な今のイスカルなら、数日かけてでも探し出して俺を殺すだろう。 見逃してくれるだとか、そんな希望的な観測はしない。 イスカルが容赦しない事は、あの列車で一番俺が良く知ってる。
だが、1vs1に持ち込まれれば先に待つのは墓に入る事だけだ。
俺が、今一番避けたい展開を考えろ....。 今一番避けたい展開は、イスカルの様子見中にイェーガーが乱入してカオスになる事か、イェーガーにこの場で殺されること。
逆に望む展開は、リリスと合流、又はイェーガーをイスカルへとぶつけて俺はトンズラ.....この二つだけだ。 後者に至っては俺にとってはどちらが傷を負っても大助かりだ。
しかし現状は、最悪の場合イスカルとの交戦時にイェーガーがついてくる。 なんとしてでもイェーガーを撒いて、王宮へとたどり着かなければバッドエンドに直行することになる。
夜空は、民家の中へと転がり込み息を殺す。
確か、イェーガーは索敵系のスキルを持っていなかった筈だ。 持っていたのならセブン国でもっと高頻度で絡まれていたと思う。 だが、油断はしないし警戒は怠らない。 『ないだろう』という希望的観測で動く位なら、最初から『絶対ある』で動いてリスクを減らした方がよほどマシだ。
と言っても、俺の知らない未知のスキルで索敵さればそれまでってのもある。 少なくとも、『超音波探知』で索敵してくるなら、大きな動きさえしなければ見つかるリスクは減る筈だ。 この一帯に居る人間は別に俺一人じゃないしな。
夜空は雨で濡れた銃の火薬を入れ直し、再装填してから銃を腰につけたガンベルトにしまう。 ちなみに、このガンベルトはビュアインパクトの隠し施設でパクってきたモンだ。 まさか現代人の自分が、異世界で西洋のガンマンみたいなガンベルトをすることになるとは思わなかった。
「俺も探知スキル変えた方がいいよな。 せめて『野生の勘』よりも性能のいい奴に変更したい....。 こんなポンコツスキルじゃいつか死ぬ」
逆に、今までカス天賦とゴミスキルでよくここまでやってきたと、自分を褒めてやりたい。 旅の進行度としてはまだ始まりぐらいなのだろうけど....。
そんな事を考えながらジッとしていると、外から人の気配が消えた気がした。 恐る恐る夜空は外に出て、周囲を簡単に確認してから再び王宮に向かって裏路地を使って走り出す。
先ほどよりも雨の強さが上がり、雷の落ちる頻度も増してきている。 天候は完全に大雨と雷雨....戦闘を行うならこれ以上の悪天候もそう無いだろう。
唯一の救いなのが、風がほとんど吹いていないことだ。 これで風が強かったら、雨が弾丸レベルの痛さになるので外で活動できなくなってしまう。
「服が重い...体が冷える」
温暖な南大陸でも、長時間雨に打たれ続ければ体も冷える。 夜空はビショビショの服を絞って水を落としながら先へと進んでいく。
と、近場でやまびこのような声が聞こえてきた。
《《反乱同士諸君へ次ぐ! 現在、首都内に王が逃走!! 発見次第拘束の上、北にある芸術広場へと連れてくることッ、繰り返す! 反乱同士諸君へ次ぐ! 現在、首都内に王が逃走!! 発見次第拘束の上、北にある芸術広場へと連れてくることッ!!》》
今のは...スキルによる放送か?
雨音と雷で聞こえずらかったが、なんとなく内容を理解できた。
「リリスの友達を救うのもやんなきゃ。 あーもう、仕事が多い!」
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【場面変わって、集合住宅内のコレムは....】
夜空に言われた通り、服を脱ぎ捨てて裸のまま毛布にくるまる。 日頃の生意気な態度とはうって変わり、一人のためかコレムは何もせずボーッとしている。
(アタシ、なにしてるんだろ)
部屋の中に時計の長針が動く【カチカチ】という音だけが静かに響く。 くるまっている毛布が、コレムの体温でじんわりと温かくなっていく中...。 コレムの中では、このままでいいのかという感情が芽生え始めていた。
しかし体の疲労は騙せない。 既にコレムの体はスキルを後2、3発撃てればいい方なぐらい消耗していた。 一度長時間休むか、眠るかしなくてはスキルエネルギーを回復できない。
「クズ空....」
中階層の窓から外を眺める。
先ほどよりも降水量が上がり、窓ガラスに雨が打ち付けられる。 と、その時....ピカッと空が光り、その光の後にゴロゴロッ!という雷の音が聞こえてきた。
「ひゃぁ!」
コレムは毛布に潜り込み、怖がるように震える。
コレムは雷の音が苦手だ。 西大陸にある竜人族の里から、南大陸の遠い地まで旅する中で様々な事を経験してきたが、どう頑張っても雷の音だけはダメだった。
『どうせ旅をするなら気の合う人と居たかった』
ホワイトタウンの宿屋でリリスと話した時、リリスは毎日が充実しているように笑ってそう答えていた。
多分、リリスは夜空が好きだ。
じゃあアタシは?
アイツは、言動は最低だし....やることなすこと人に自慢できるような行動は起こさない。 でも、何故かアイツを心の底から嫌だとも思わない。 逆に信頼できてしまうほどに。
最初は分からなかった。
でも、こんな短い間だけど共に旅して気づいた。
アイツの行動には、言動の裏側に不器用な思いやりや優しさがあった。 それに、夜空は言っていた『大切な人だけは、死んでも守り抜く』と。 アイツは、その発言を口だけで終わらせず、しっかりと行動に移している。
この助けたい、助けなきゃと、いう想いが信頼によるモノなのか、はたまた別の感情によるモノなのかは分からない。
「行くべきね...あの手間のかかる男の所へ」
ほっといたら次の日には死んでしまうかもしれない。
殺させない。 この感情が何なのか知るために...アタシはアイツと旅をする。
コレムは立ち上がり、部屋の中で自分が着れそうな服を探し始める。 幸いにも、この部屋の主にはコレムと同じくらいの背丈の子供が居たらしく、着る物を見つけるのにさほど苦労は要らなかった。 しいて不満を上げるなら、服が全てお人形さんのようにファンシーでコレムの好みに合わない事だけだ。
笑ったら殺そうと胸に誓って、服に袖を通した。
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【アルテーラテルト首都アラブレイ・夜空サイド】
イェーガーを無事に撒いた夜空は王宮を囲う外壁付近へ到着した。 王宮の外壁は、先ほどの戦闘の衝撃で至る所が崩れており、まるで陥落した城のような痛々しさが残っていた。
夜空はスキル『野生の勘』を発動しながら気配を殺して進んでいく。 万が一見つかっても、直ぐに剣を抜いて応戦できるよう、ショートソードのグリップには手を添えて置く。
イスカルの落下地点付近に近づくたび、ドクンドクンと心拍が早くなる。 しかし、イスカルを無力化しない限り...夜空に自由は無い。 今しか、チャンスは無いのだ。
一歩を踏み出すたびに、水をありったけ吸って重くなった靴がぐしゃぐしゃと不愉快な音を立てる。 服が肌へとまとわりつき、極めて動きづらく鬱陶しい。 そうこうしているうちに、夜空は折れ曲がった鋼鉄搭のある中庭へとたどり着いた。 中庭の中心にはどデカいクレーターが出来上がっているが、その中央にイスカルの姿は既に無かった。
「畜生...! もたもたし過ぎた!」
夜空は落胆と同時に、少しほっとしながら王宮を出ようと歩き出した。
その時!! 『後方から何かが来る』とスキル『野生の勘』が危険信号を虫の知らせのように夜空に伝えてくる。 夜空が後方を振り返る....。 折れ曲がった鋼鉄搭の上から、脇腹の辺りを抑えたイスカルが現れた。
どうやら鋼鉄搭の内部でポーションを探していたらしい。
「まさか目標からやってくるなんてね。 トドメでも刺しに来たかい?」
「ふざけろ...! なんであの高さから落とされて動けてんだよッ!」
イスカルは、かなり体力を消耗している為スキルは使わず。 脇腹を抑えながら、折れ曲がった鋼鉄搭の瓦礫を滑り降りて夜空の前へと立つ。
額や頬から血を流し、既にあばらも何本か折れている。
それでもイスカルは、国家の犬のように忠義を尽くさんと罪人の前に立った。
「正直、効いたよ。 並みの人間なら君の勝ちだ」
「そんな誉め言葉要らねンだよ」
「また、君を殺すことになる」
無意識に、イスカルは『また』と言った。 自分の不可思議な言葉に、イスカルは首をかしげて『僕は何故会ったことがあるような言い草を?』と呟く。
「...イスカルお前、記憶が」
「..........ッ!」
偏頭痛でも起きたのか、イスカルは片手で頭を抑えながら顔をしかめる。 夜空の動きに警戒しながら目を瞑り、頭痛を落ち着かせるように息をすって....吐いた。
「君の言葉が心の奥に刺さる...また同じ感覚だ。 不思議だよ、夜空君とは初めて会うハズなのに、何故だろうな...初めて会った気がしないんだ」
イスカルが自分の周囲に『グラビ・スクラフト』を無詠唱で発動する。 しかし、明らかに数が少ない....先ほどの10分の1の数も無い上に威力そのもの減衰している。
夜空でも数発食らっても全然耐えれそうな程だ。
「願わくば、アンタに刃なんて向けたくなかったよ。 でも、もうダメだ、アンタは俺の道を...仲間の道を阻んだ。 自分に仇を成す奴には容赦しないと昔から決めてる」
夜空も覚悟を決める。 イスカルが大ダメージを負っている今が、仕留める絶好のチャンス...ここを逃せば、回復ポーションで回復されて....殺される。
ショートソードを持つ手が震える。
人なんて殺したくないと、全身が拒絶反応を起こしているのが分かる。
世界が変われば、求められる生き方も変わる。
いざという時、剣を握れなければ死ぬだけだ。
やらなきゃ、やらなきゃ。 ....このままじゃ、何も果たせずに死ぬ。
夜空のショートソードを握る手に、より一層の力がこめられる。 いつもリリスは、これほどの緊張感の中で剣を交えているのかと、リリスが凄い事を再認識する。
「ハァ、ハァ、無理は....良くないね。 君のような目を何度も見たことがあるよ、そう....覚悟を決していない目をしてる。 新人の兵士にはよくある話だけどね」
イスカルは続ける。
「人として同族を殺したくないと考えるのは当然なんだよ。 君の心は正しい、だがその正しさを戦場に持ち込めば、それは愚考という言葉に変わるのさ」
「....う、うるせぇ!」
夜空の額に冷や汗が浮かぶ。
「君は人を殺せない、たとえ僕でなくとも同じかな」
いつでも殺せるのか、イスカルは抵抗するなという意思を込めて夜空に言葉を淡々と投げかける。 イスカルの言葉と、雨の音...時折落ちる雷の音だけが寂しい戦場を包む。
「君は...優しすぎる」
「ッッッ!?」
発射された『グラビ・スクラフト』が夜空に命中し、夜空は物理法則を無視するような形で少し上に打ち上げられた後、そのまま地面に叩きつけられ泥にまみれる。
緑っぽいカーディガンは泥の色へと変色していた。
夜空は、口に含んでしまった泥水を吐き捨てながら立ち上がる。 シャツは下着までも水に濡れ、夜空は酷く動きにくそうだ。
「.........」
夜空は無言のまま、地面に転がっている剣を拾い上げた。
服は汚れ、手から血を流し、全身が泥水でビショビショになっているその姿は、誰が見ても勇者という姿では無かった。 ....その姿は、獣と例えるのに相応しい。
「何故諦めないんだい?」
イスカルは次の攻撃の準備をしながら、再び夜空に語り掛け始める。 言葉一つ一つに、さっきの頭痛の件を調べたいような...そんな隠れた意思がある気がした。
==☆次回予告☆==
87話の閲覧お疲れさまでした。
イスカルと夜空....あの列車での一連の出来事が繋がります。
アルテーラテルト編も終盤!
さぁ最後まで頑張って書きますよー(笑)
次回、88話......その争い 局面変化につき!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




