85話 その空 戦場につき!
大空に向かって何十発も『グラビ・スクラフト』が撃ち込まれる。 コレムは夜空を軽々と抱えながら、俊敏に大空を飛び回って回避する。 何故かイスカルは、おなじみの空中移動スキル『スカイバンパー』を使用してこない。
「コレムッ、絶対に避けてくれよ!?」
「うっ、るさいッ! 今集中してるのッ、話しかけないで!!」
夜空は抱えられている間、何もできない。 この時間を使って体力を回復しながら、何故イスカルが飛ばないのか....またあの化物から逃げ切る策を考え始める。
(何か無いか....考えろッ!!)
その時、胸の辺りにあるアイテムを思い出した。 自然とそこに目をやると、ポーションホルダーに収納された麻痺ポーションがそこにはあった。
麻痺ポーションなんてイスカルには効くとは思えない...と、心の中で苦笑した時、ふと.....オニキスでの列車内の事を思い出した。 荷台に積み込まれた麻痺ポーションをイスカルに投げつけた時、イスカルはそれを食らってダウンした。 ゲームでありがちな『麻痺耐性』みたいなスキルがあったとしても、もしかしたらイスカルはソレを入れてないんじゃなかろうか?
「またこれに命をかけることになるのか....。 イスカルに、絶体絶命の危機、そしてそこには麻痺ポーション、まるであの日の再現だ」
けど今、俺にはあの時と違う事がある。
クサイ事を思うが、今の俺には....仲間が居る。
やってみせる。 俺は生きて、春に会うんだ。
この世界を脱出して、温井さんへ想いを伝える。 まだやって無い事が山ほど残ってる、こんなつまらない場所に墓標を立てる気は無い!
「....コレム、ニトロレーザーをアイツに向けて撃て」
「はぁ、はぁ...はぁ? 死んじゃうでしょ、ただの人間なんだし」
「アレはそう簡単には死なねぇ、一国の軍隊長クラスだぞ」
「軍隊長が追ってくるって本当にアンタ何したのよ。 これが終わったら説明しなさいよ?勿論そこにはリリスも一緒にね」
コレムはそう言いながらも、夜空は何もやってないと分かったようにため息を吐いた。 今までの態度とは少し変わり、コレムを信用した夜空は『分かった』と素直に呟き、衝撃に備えるようにコレムへとしがみついた。
地上に居るイスカルには未だ疲れが見えず、底なしの体力なんじゃないかと疑うレベルだ。 人間チートが、まさか異世界人側に適用されてるとは思わなんだ。 あんな化物相手に、対等に接していたオニキス帝国滞在時の自分に若干サブイボが立つ。
「焦げなさいッ、スキル『ニトロレーザー』!」
コレムはスキルの同時発動を詠唱で行う。 一つは『飛行』そして『ニトロレーザー』で二つ目。 .......スキルの発動は脳の処理を必要とし、無詠唱なんかで二つ同時に発動すれば、基本的に脳がバグってスキルの発動が止まる。 訓練していれば話は別だが...。
スキルの混線が起こるのだ。
詠唱発動は脳の処理を簡略化するための手段。
詠唱したコレムの手のひらにニトロレーザーがチャージされる。 そのままバッと手を斜め下へと突き出し、レーザーの着弾地点をイスカルの場所へと定めて....撃つ!!
手のひらから発射された赤色のレーザーは、一直線に地上に居るイスカルの元へと向かっていく。 イスカルはそれを見るや否や、すぐにスキル『重力璧』発動し、引力の壁でレーザーの制動を阻む。 かなり力を入れてスキルを放っているのか、徐々にレーザーが押し返され......そしてレーザーが王宮の方へと弾かれた。
ニトロレーザーが、避難して人が居なくなった王宮一階部分を貫通するように爆発し、焼き尽くした。 廊下や部屋に飾られた芸術品の数々が一瞬で灰や瓦礫へと変わる。
「....やべぇ、俺達やらかしたか?」
「黙ってればバレないから黙りなさい!!」
吹き飛ばしたのはイスカルだが、二人は少し罪悪感を感じていた。
「撃ち下ろし攻撃! これほどの火力放置は危ういよ....危うく、火傷をしてしまう所じゃないかい?」
イスカルは吹き飛んだ一階部分を見て何かを決心する。 しゃがみながら足の筋肉へと力を込め、ジャンプの体勢を取る。
「スキル『スカイバンパー』!!」
イスカルが上空へと舞い上がる!
それを目視したコレムが夜空を強く抱えて距離を取る。 イスカルは夜空達を逃がすまいと、スカイバンパーを何度も何度も使用しながら徐々に距離を詰めていく。
夜空も、抱えられながらフリントロックピストルを使って応戦する。 コレムも隙あらばニトロレーザーをイスカルに向けて発射する。 当たらなかったニトロレーザーが、誰も居なくなった王宮に降り注ぎ...王宮の至る所に穴やクレーターを作っていく。
「クソッ、飛んでくんじゃねぇ!!!」
「酷いな夜空君。 そんなに嫌がってくれるもんじゃないよ」
「うるせぇ! 落ちろッッ!!!」
夜空がリロードを済ませたフリントロックピストルを発砲した!!
アルテーラテルト首都アラブレイ上空で、空中機動による空中戦が展開される中....リリスと3番姫側にも動きがあった。
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【リリス・3番姫サイド】
リリスは、コレムと夜空が戦闘を行い始めた後、夜空が中庭まで持ってきた蒼脚光の剣を拾い上げ。 搭内部に存在するゴミ捨て場から地下に降りていた。 閉めると鍵がかかるカラクリを、無数の斬撃を入れて破壊し...リリスの『パワーアップ』を用いて3番姫を担いで地下へと降りる。
リリスたちは、ゴミ捨て場を抜け、やたら騒がしい地下を見つからないようにコソコソ移動していた。
「コレムちゃんに手渡された地図では....えーと、こっちですっ! こっち側に地上に続く脱出口がある筈ですっ」
「でも、入り口を固められてるんじゃ!」
3番姫が走り慣れていないのか、少し進むだけで息が上がってしまう。
「夜空さんが考えたそうなんですけど。 この電気..というモノは配線が必要?らしく、その配線が一か所街の外に通じているらしいんです。 理由は発電?に水流を使うから...らしいんですけど。 要は川に通じている可能性が高い、だそうですっ」
「水車ね?」
「街の外にある水車小屋がやけに頑丈にできていたそうです。 夜空さんが一回現地で確認してるってコレムちゃ...仲間の子も言ってましたっ」
「その場所は通れるのかしら...?」
「メンテナンスというモノが必要らしいので多分大丈夫です!」
コレムに伝えられた作戦通り、リリスは3番姫と共に王宮からの脱出を目指す。 襲われている夜空の事を直ぐにでも助けに行きたかったが、自分が動くよりも僅かに早く、コレムが『飛行』を使って夜空の元へと援護に向かってしまった。
リリスは、コレムが夜空を必ず守ってくれると信じて、3番姫と共に一度王宮内を離脱する選択を取っていた。 地上の戦闘が地下を振動させ、天井のランプに積もった埃がパラパラと落ちてくる。
「信じていますが....少し派手にやりすぎでは無いですかねっ...」
行きましょうと3番姫の手を取りながら、リリスは印がつけられた地図の『電気生成・制御室』と書かれた部屋へと向かっていく。
【その頃、上空では....】
高速移動するイスカルがまるで戦闘機のように空を跳ねまわる。 急な方向転換の事を考えたら戦闘機よりタチが悪い。 コレムの飛行の速度もまぁまぁなのだが、イスカルのスピードには遠く及ばない。
コレムが回避に専念できるよう、夜空は詠唱込みでスキルを同時発動する。 『シールド』+『シールド』や『野生の勘』+『シールド』。 銃を撃つタイミングは、脳の処理バグを防ぐために必ず発動を一つに絞ってスキルを使うよう意識する。
「はぁッ、もぅ最悪あの女!」
コレムもずっと飛び続けている為、流石に体力の過度な消耗を隠せていない。 一刻も早く、地上に降りて羽をしまいたいような感じだ。
「コレム、辛いとは思うが今はダメだッ! 地上に降りたらあの黒い奴を大量に打ち込まれて終わるッ、あと少し、もう少しだけ耐えろ! 俺の予想通りなら....もうすぐ!」
コレムは夜空の方は見ない、しかし高度を下げるような事はしない。 とにかく避けて、避けて、攻撃を躱しまくる。
「しぶといね...」
イスカルがしびれを切らし、黒い玉を生成しながら突っ込んでくる。 その時、夜空はその攻撃に相手のスキ...
強者の油断を見た。
「コレム回収頼むッ!!」
「ちょっ!!!」
夜空はそう言いながら、コレムから自分を無理矢理引きはがし大空へと飛び出す。 下から迫りくる、女性姿のイスカルと上空で一対一になる。
「地面に伏せろイスカルッ!!!」
「俗世とお別れの時だ夜空君!!」
飛んでいる鳥よりも高い高度で二人は叫ぶ。
「麻痺ポーション食らえェェェェッ!!!」
夜空は叫ぶ。 麻痺ポーションというワードにイスカルが過度に反応する。 この状況で麻痺ポーションをぶつけられたら落下死が免れられないからだ。
イスカルの判断が乱れた。
投げられるであろう麻痺ポーションを防ぐために『重力璧』を反射的に発動しようとして....『マルチクローン』、『スカイバンパー』、『グラビ・スクラフト』そして『重力璧』の4つのスキルが脳に混乱をもたらした。
スキル混線により全てのスキルが停止する。
夜空は、その隙を見逃さず......間髪入れず上空でイスカルの懐へと飛び込み....。
「ここでブラフかい!?」
「馬鹿乙ッ!!!!」
今まで何度も使ってきた、『ハイパーウェーブ』を両手に同時発動し....イスカルの胸へと手を押し当てる。 0距離から放たれた『ハイパーウェーブ』は副作用で反発力を生み出し。
【パァ――――ッッッンンンッッ!!!】
周辺の鳥が旋回して逃げ出す程、大きな炸裂音を空に響かせた。 夜空は、手から血をボタボタと流しながら上空へ吹っ飛び、そのまま自由落下する。 イスカルは、反発された威力とスキル混線による脳の混乱の中、ギリギリで『衝撃耐性』を全身に張るが....。
【ドカァ―――ン!!!!】
凄まじい勢いで、上空から王宮だった瓦礫の山に叩き落とされ大ダメージを負う。 衝撃で瓦礫が空を舞い、王宮跡地とも呼べる残骸に大きなクレーターを残す。
「ガハァッ!!」
あの無敵男、イスカルが吐血して気絶寸前まで追い込まれる。 叩きつけられた衝撃が、女性姿のイスカルの隷属の首輪に亀裂を入れる。
刹那、脳裏にスライドショーのように過去の情景が見えた。
友を国に売った記憶。
妻と共に笑う記憶。
子供の成長の記憶。
王城のパーティーでとある男と話した記憶。
そして...そこから先は見えなかった。
暗闇の中に、泣きながら水に落ちていく子供を見ただけで。
「い、いまのは...一体....」
イスカルはボロボロになりながら悲し気に呟いた。
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自由落下する夜空を、コレムが横からかっさらうように回収する。 コレムの目は涙で歪み、回収した夜空を強く抱きしめた後に、鋼鉄搭を監視するために使っていた高台に降り立つ。
「バカ空ッ! 何考えてるわけ!?」
「わりぃ助かった。 今までの戦闘で一番ヤバかったぞ今のは...」
「ほんとバカ、バカバカバカッ、バカよぉぉ....うわぁーん」
コレムは年相応に泣き出す。 命のやり取り、大事な人の死線...自身の身の安全などの観点からの緊張状態から抜け出したように泣き喚く。 精神年齢6歳の子供に流石に負担を負わせすぎた。
「これだけは反省しなきゃな..」
夜空は呟きながら、泣いているコレムの頭を撫でて王宮の方を見る。
国中で騒ぎが起こり、そこかしこから煙や罵声などが響き渡る。 プロパガンダポスターを持ったビュアインパクトの構成員達が、国民を賛同させるように声掛けを行い。 その考え方に同調した同志たちが、王族を捕えようと動き始めていた。
少し休まなきゃ、俺もコレムもスタミナが限界だ。
イスカルには着地地点が知られてないし、あの傷でそう易々とは立ち上がれない....ハズだ。 逆に、あれほどの高所から勢い付けて落下して、なんで死なないのか疑問すら覚えるほどだ。
「頑丈過ぎる。 なに食ったらあんな怪物になるんだよ」
「....うぅぅっ、うわぁーん!」
「悪かったよ、いい加減泣き止めって。 このままだと、俺のカーディガンがお前の涙と鼻水でビショビショになっちまう」
それでも泣き止まないコレム。 夜空は観念したように泣き止ませるのを止め、頭を撫でながらしばらく休むことにした。 少なくとも、コレムが握ったカーディガンの裾を離すまでそうするべきだと思った。
==☆次回予告☆==
85話の閲覧お疲れさまでした。
夜空らしい戦いがかけた気がします。 ですがイスカル、まだ立ちます。 そして今のイスカルは宰相に盲信しています、任務は絶対投げないでしょう。
ここからどうなるんでしょうかね?
次回、86話......さあ少年 竜の声を聞いて!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




