77話 竜な少女 銀髪を視て!
夜空と共に弁当を食べた後...。
祭りでにぎわう街並みを見下ろすように.....コレムは高い建物の屋上に居た。
ここまで上がってくるのに『飛行』は使わず、階段や持ち前のパワーを生かして登って来た。 その場所は、肉眼だとほぼ王宮の外壁内部を確認できないが、遠隔視野系統の能力を駆使すれば見えなくもない距離にある。
「クズ空からの命令は不愉快よ。 でもリリスの為にやらなきゃね」
コレムは独り言を呟きながら、スキル『遠視』を用いて王宮の壁内部....見える範囲での捜索を開始する。 といっても見える範囲は正面入り口と庭、そしてその窓から覗ける一部の廊下や部屋。
そして、鋼鉄で作られた搭が見える。
王宮の壁内部では、自国の貴族や他国の有力な貴族たちが集って〔完成された作品〕のオークションを行っていた。 価格される値段はどれもが1白銀を超えており、高い物には5白銀を越える物すらあった。
「絵なんて食べられないのによく買うよね。 お金持ち様の感覚は理解できないわね」
多方面に喧嘩を売るような発言を呟きながら監視を続ける。 コレムの手元には、夜空が自分の出発前に用意していったジャムのサンドイッチ弁当と革製の水筒がある。 そして日差しで汗をかいた時用のタオル。
「全く...弱いくせに人のことを気遣ってんじゃないわ...」
コレムはそう言いながら、警戒するように自分の周囲を確認する。 そして改めて誰も居ない事を確認してから....タオルを顔に押し当てて匂いを嗅ぐ。
タオルからは、夜空がこの世界で好んで使う石鹸の香りがして、そしてほんの少し、ほんの少しだが....夜空の匂いがした。
(なんか....なんか.....落ち着く。 この匂い)
しばらくの間、タオルに顔を押し当てた後....コレムは再びリリスを探し始めた。
【一方その頃、夜空はというと.....】
「見失っちゃったんだよ...」
「ふざけんなお前ッ、それでも古参メンバーかよ!?」
プラスとペアになって、午前に引き続き、午後開催の大会を駆けまわっていた。 夜空が少し飲み物を買いに行った隙に保護対象が居なくなり、プラスと若干揉めていた。
「多分あっちに行ったんだよぉ」
プラスが路地を指さす。
「....俺が見てるべきだった、古参メンバーを労わったのが裏目に出たか」
「ひ、酷い!! ボクは悪いと思っているんだよ?だから許すんだよ」
「うるせぇッ!」
夜空は、プラスのあやふやな記憶を頼りに追いかけ始める。 追いついた先には.....キュレーター数名に襲われたカップルと思わしき男女が居た!
「そこまでなんだよ!!!」
プラスが叫ぶ。 奇襲をかけられるチャンスだったのに、なんでコイツは馬鹿正直に叫んでいるんだと、夜空は内心呆れながらも手のひらに『スパイク』を無詠唱で生成する。
「ビュアインパクトだ!! 逃げるぞ!!」
逃げるキュレーター共を追跡するように、夜空が少し加速する。
「ふざけんな! 情報と金置いてけ――――ッ!!」
プラスにドン引きされた気がした。 酷く心外である。
夜空はスパイクを遠投してキュレーターの逃走先へと落とす。 地面にスパイクが散らばりキュレーター共の足が止まる。 その隙に夜空とプラスは一気にキュレーター共へ距離を詰める。
「スキル『ハイパーウェーブ』!!!」
「少しビリッとさせちゃうんだよ! スキル『ショックボルト』!」
夜空が叫びながらキュレーターの胸の辺りを触り、反発させると同時に舗装路に体を叩きつけた。 夜空に合わせるようにプラスも叫び、スタンガンのような音を立ててキュレーターを気絶させた。 何が起こったか分からない、カップルの男女は逃げるようにその場を去っていった。
「まったく、礼も無しか。 さてと...こいつらどうする?」
「放置しかないんだよぉ。 人混みの中を担いで行けないし、そもそもキュレーターのほとんどは芸術を少し齧った程度の一般人ばっかりだから。 こういう外回りしているような下っ端じゃ情報は得られないんだよぉ」
「......金は?」
「うーん、倫理ぃ~。 やめとこぉ?」
流石に古参メンバーの言う事には従わざる得ず、泣く泣く夜空はその場を後にする。 RPGゲームで宝箱見つけたのに、中に何も入って無かった並みの残念感だ。
しかし、いつまでこんな事を続ければいいんだろうか。
未だにリリスの情報はほぼ0に近い。 ゴーストの話によると、王宮にはかなり大きい地下施設があり、現状そこに約150名以上の人間が捕らわれているらしい。
ビュアインパクトの目的はその地下施設から身内...ひいては不当に拘束された人を助け出すこと。 それのみを目的として結成されたグループだ。
「一度おしまいにして戻るんだよぉ」
「あぁ....」
夜空は若干の不安を覚えながら、一度隠し施設へと戻っていった。
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【同時刻....鋼鉄搭では】
「うふふ、楽しいわ」
リリスと3番姫は雑談を挟みながらトランプを行っていた。
「そ、そうですか? トランプとかやった事無いんですかっ?」
「物心ついた頃には既に周りとの格差を感じ始めていてね。 とてもじゃないけどトランプとかチェスとか...そういった物を頼める雰囲気では無かったのよ? ごめんなさいね、リリスさんにとっては今はとても大変な時だというのに」
3番姫は楽しそうにしながらも、心の何処かで申し訳なさそうにしながら笑みを浮かべた。 その寂しそうな笑みからは長い間の孤独というモノを強く感じ取れた。
「いいんですっ! さ、3番姫さんに助けて貰ってなければ...今頃こうして遊ぶことすら出来なかったかも知れないので...」
「貴方はいい女ね」
「え、えへへ~」
リリスは年相応に照れながらトランプで3番姫を打ち負かした。
トランプをもう一度やるためにリリスがカードをシャッフルしていると
「そういえば、夜空さんって誰なのかしら?」
突然、3番姫がリリスに対して聞いてきた。
「と、当然ですね?」
リリスは急に名前を出されて明らかに動揺している。
「突然って....トランプやりながら、随分楽しそうにその人の話ばかりしていたじゃないの。 もしかしてー、ふふ...無意識だったかしら?」
リリスは、自分の言動を思い返してそんなに夜空の事を話していたかと首を傾げる。 自分の家族の事やセブン国の事、コレムちゃんの事だって話した気がするのだが...。
「べ、別に夜空さんの事ばっかりでは....」
「うふふ」
自然と顔を赤らめたリリスを見て、3番姫は楽しそうに笑った。
.......。
搭は5階建てになっていて、5階には脱出できない程の小さな窓で街を見渡せる。 トランプを終えたリリスと3番姫は、鋼鉄搭の5階へと上がって窓を開け、外の空気を入れて換気する。
「ここに来るのも久しぶりだわ?」
「外に興味が無いんですか?」
リリスは興味本位で聞くが、3番姫は笑顔で首を横に振り。
「いいえ逆よ、外を見ると自分が惨めに見えるから...だから、あまり見たくないの。 ほら、外では芸術に打ち込んでいる方々ばかりでしょう?」
『行きましょう』とここを去ろうとする3番姫の背中を見た時.....
「テーマ....辛くないですか?」
リリスの口は自然と思ったことを口にしてしまっていた。
言い終えた後にハッとして自分の口を抑える。
一昔前の自分だって、同じようにテーマである剣技の修練に打ち込み。 終わりの無い日々を続けてきた過去を持っているというのに....。
「す、すいませんっ! い、今のは違くてっ!!」
「いいの、いいのよ...」
3番姫は涙する。 零れた涙の雫が床に落ちてシミを作る。
「あの、その、あわわわっ....!」
「辛くても、やらなきゃならないのよ。 たとえ努力が実を結ばなくても、誰にも認められることが無かったとしても....それでも腐っても王族だから。 テーマを捨てる事は許されないのよ」
「ごめんなさい。 3番姫さん....その気持ちを私は理解できたはずなのに」
リリスは深く頭を下げた。
「気にしないで? さぁお昼ご飯にしましょう」
「て、手伝いますっ!」
5階から4階へ下がっていくリリス。
「み、見つけた...。 まさか見つかるなんて...」
そんな様子を.......遥か遠方に居るコレムが驚いたように見つめていた。 コレムは、その場に広げていたお弁当を急いで平らげ、そのままの足で夜空に報告するためにビュアインパクトの隠し施設へと向かって行った。
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そして隠し施設内で食事を取っていた夕食時、夜空にその事実を伝えた。
「リリスが見つかった!? 今日始めたのに!?」
夜空がコレムからの報告を聞き、歓喜したように声を上げた。 声の大きさに、その場で任務の準備をしていた他のビュアインパクトの構成員達が驚く。
「声が大きい! やっぱバカ空ね!」
いちいち生意気な奴だ。 誉めてやろうとした俺の気持ちを返せ。
「それで何処だ?」
「えーと、あのボードに張られてる王宮の地図を見なさい。 どこに目を付けてるのッ、あっちよあっち、あっち見て!!」
コレムが夜空の腰の辺りを引っ叩いて指をさす。 コレムの小さな指が示す先には、ボードに張られた精密な手書きの王宮見取り図が張られていた。
コレムの指はそこの塔を指している。
「円の形? ...あぁ、立体だと円柱なのか。 てことは、搭なのか?」
「そうよ」
「まるで髪長姫だな。 リリスは銀髪だけど」
「なによそれ」
意味が分からんとコレムが首をかしげる。
「気にすんな、ただの独り言だ。 それよりも...搭ならなんでリリスは出てこない? あのゴリラパワーなら問題なく脱出できるだろ」
「後で絶対リリスに伝えるから、そして二人でクズ空を本当のゴミクズにしてやるから。 全て終わったら覚悟してなさい?」
「本当にすいませんでした」
マジ怒りに思わず謝罪する。 情けない話だが、年下のリリスにも一応年上?のコレムにも正面戦闘で勝てる気がしない。 搦め手ありなら何とかなりそうだが、ゴリラ2匹を相手どれるほど俺は強くないことを、俺自身が今までの旅で痛いほど知っている。
「今、失礼な事考えたわよね?」
「いいえ決して。 コレムちゃんは可愛いなぁって思ってました」
「嘘つきのクズ空!」
今度は腕に噛みつかれた夜空が悲鳴を上げた。
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【一方その頃....アルテーラテルト絵画の街ホワイトタウンの郊外。 とある川の川辺にて....】
「陣形を組め! 魔法系統スキルの用意をッ、前衛は前で張るぞ!!」
「「「おうッ!!」」」
男だらけのむさくるしい冒険者パーティーが、何処かで見たような竜人族のハゲと戦っていた。 竜人族のハゲことイェーガーは嬉しそうに拳を構える。
「ハッハァ! いいねぇいいねぇ...好敵手になってくれや!!!」
そう言いながら全身に『フルボディTNT』という起爆系スキルを発動し、まるで抱きしめるように後衛の魔法職の男に向かって駆け出す!!
「スキル『進化型、ファイアーボール』」
魔法職のオッサンの放った進化型ファイアーボールは、イェーガーに当たると爆裂し小規模の爆発を引き起こした。 しかしイェーガーは、全く何事も無かったかのように土煙の中から現れると、そのまま前衛の横をダッシュで通り過ぎて魔法職のオッサンにケリを食らわせた。
蹴られた魔法職のオッサンが爆発して伸びる。
「「「ペロクス!!!」」」
パーティーの他の男たちが、ぺクロスと呼ばれた魔法職のオッサンの元へと駆け寄る。 オッサンは致命傷では無いが、爆発をモロに食らった為に相当深く気絶してしまっていた。
「弱いッ! 弱すぎるんだよッ、どうしてこんなに弱いんだ!! あの男、生存欲が限りなく迸っていたあの男にはあれほど、あれほどォ!!!涎が出たというのにィィィィィッッ!!!」
狂ったように叫び子供のように地団駄を踏む。
「戦闘狂め....頭ぶっ壊れてんのかッ!この竜人族は! それに、なんでファイアーボールが効かねぇ!? 耐性スキルか!?」
前衛の男が恐れたように悲鳴じみた声を上げた。
「激流に流されてよォ、なんか知らねェ内によォ...身についてたんだァ。 さぁ剣取れよ、振れよ、戦えよ! 俺様の好敵手になりやがれ、それしか取り柄ねぇんだからよォォォォ!!!」
イェーガーが口を大きく開き.....例のスキルの準備を始める。
「や、やめろッ、止めろ―――――ッ!!!!」
「焼尽しやがれッ!!!」
【ドッ、ドカーンッ!!!】
イェーガーは極太の『ニトロレーザー』を口から射出して、地面もろとも男だらけの冒険者パーティーを吹き飛ばした!!!!
爆音が近場の村にまで轟くほど大きな怒りが...大地へと炸裂したのだ。
「こいつも、あいつも...ちげぇちげぇちげぇ!! あの男との攻め合いを経験しちまったらよォ、もう戻れねぇ...あの男の代わりなんて居ねぇ!!!」
イェーガーは大きく息を吸い.....
「何処にいやがる夜空ちゃんッ!!! 勝ち逃げはさせねぇ、もう一度俺様と戦いやがれッ次こそはぶっ殺してやるからなァァァァ!!!!」
河原にイェーガーの叫びが咆哮のように轟いた。
イェーガーの足取りは首都へ向く
到達まで....残り3日!!!
==☆次回予告☆==
77話の閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話は、街道の移動方法についてです。 徒歩、馬車に大きく分かれますが、移動系のスキル...例えばイェーガーの会得している『フルボディTNT』なんかは街道を高速で移動することも可能です。
だから少し遅れてても、夜空を追跡できるのです。
次回、78話......その最底辺 3番姫と!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




