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そのチカラ 危険につき!   作者: ゼロ先輩
== アルテーラテルト編 == 【物語進行:夜空サイド】
82/238

75話 その搭 廃棄場所にて!

 

「待てェ!」


「逃がすな追え―――ッ!!」

 王宮内部で追いかけっこが始まり早10分。 リリスは、迷路のように入り組んだ王宮内で完全に迷って迷子になっていた。 しかし、そんなリリスを衛兵たちは大人気(おとなげ)なく追い詰める。


 追い詰められ、剣技で抜け出し、また追い詰められを何度も何度も繰り返し....リリスの体力は限界に近づき始めていた。 途中からリリスは、このままではらちが明かないと自覚し、壁沿いに移動することにした。 


 .....しばらく移動すると、中央に搭のある少し広めの中庭に出た。 目線の先、中庭の中央にある鋼鉄の塔には重そうな鉄扉が設置されていた。 その鉄扉は、リリスが『パワーアップ』の状態を維持していても開けるのがきつそうなほど堅牢な造りになっていた。


 中庭から別の場所に逃げようとリリスは周囲を確認するが......


「ど、何処にも窓がありませんっ!?」

 中庭を囲う王宮の壁には、1階はおろか2階ですら窓一つなく。 この中庭が、王宮内から完全に隔離された場所のように感じた。 


「「「「居たぞ囲め―――ッ!!!」」」」

 衛兵たちが鉄扉を背にしたリリスを囲む。 まるで追い込み漁の如く追い込まれたリリスには逃げ場すらなく....。 スタミナも残りわずかで絶体絶命の危機に立たされる。


「ウチが捕獲(やる)じゃん?」

 先ほど地下で戦闘を行っていた女衛兵が一歩前に出ながら剣を抜く。 リリスも、息を荒げながら剣を抜いて女衛兵に向かって構える。


(き...きついですっ。 もう『パワーアップ』も使えません...)

 リリスは懸命に自分にまけないように言い聞かせながら構えを続ける。


「ヒャハハハハッ、ナジー! 殺すんじゃねぇぞ!」


「殺したら姫様から大目玉だぞぉー! ハハハハハ」


()()()()()()()()するわけないじゃん?」

 もう勝ちムードになっている衛兵たちが笑う。 ナジーと呼ばれた女衛兵は、リリスを見てニヤリと笑いながら剣先をリリスへ向ける。 月明かりが刀身に反射し、刀身が妖しく輝く。



「貴方は何のために剣を握っているのですか? ...貴方の剣からはどこか、どこか邪悪なものを感じます!」

 場の空気が固まった。


 ナジーはニヤリと笑みを浮かべると....


「芸術、ウチにとって血染めは芸術じゃん! 幼い頃、自分を蹴り飛ばしてきたゴロツキを刺し殺したあの瞬間から、ウチのとっての芸術は.......(つるぎ)になった」


「ッ.....!!」

 リリスも、過去を知らない衛兵たちも恐怖で筋肉がこわばった。


「芸術の形は変形で無数。 王家の皆々様にもこの芸術を認めてもらったじゃん?」


「そ、そんなことの為に剣を握るなんてっ!」

 剣の国に生まれたリリスは激高する! 誇りも無く、ただ血の為に剣を振るう暴挙と狂気に....リリスは激しい胸の苦しさを覚えていた。



「よっぽど世界の闇、見てないじゃん? 誇りや夢で飯が食えるほど、ウチらを取り巻く環境は優しくないことぐらい分かるじゃん!!!!」

 ナジーはそう言いながら『パワーアップ』+『ヘイスト』の移動速度強化コンボを行う。 リリスは凄まじい勢いの剣を剣で受け止め、そのまま体が後方へと持っていかれる!


「うぐぐぐぅっ!!!」

 体を持っていかれたリリスはそのまま後方の鉄扉へ!!!!


【ガァァァンッッッ!!!!】

 厚い鉄板に何か硬い物を叩きつけたような音が中庭に鳴り響く。 搭の中で外の様子を窺っていた人影が驚き、隠れるように布団に戻っていく。 外では、鉄扉へ思いっきり背中を強打したリリスは痛みで悶える。 ナジーは名残惜しそうに剣を捨てて、弱ったリリスを拘束する!!


「さぁッ、戻るじゃん! 早く戻らないと血染めにィィィィィ!!!」

 剣を取り上げられ引っ張られるリリスは、無意味にも鉄扉へ手を伸ばして....『夜空さんっ、助けてっ...助けてっ!』と何度も何度も呟き続ける。


 その時....。



【ドンッ!!】

 と鉄扉が内側から強く叩かれる。 


「そ、その子を放すのです!!!」

 女性の声が搭の内部から中庭へ響き、その声に社会立場的に委縮するように衛兵たちの動きが停止する。 鉄扉につけられた小窓が開き、そこから覗く目が衛兵たちを睨みつける。


「「「.....どうするよ」」」」

衛兵たちは混乱する。


「搭に入れてくれてください」


「し、しかし....」

 衛兵たちは訴えかけるように言うが、その目は戸惑いながらも揺らぎなく。 リリスをこの搭の中へ入れるという目的の為に動いていた。


「地下よりこの搭の方がよほど頑丈ですこと、貴方方もご存じでしょう? ....これ以上の質問は許しません、早くその子を中へと入れなさい」

 衛兵たちはそれに従うようにリリスを中へと放り込んだ。 しばらくして外から足音が聞こえなくなると、鉄扉から離れていた色白の女性が心配そうに手を伸ばしながらこちらへ近づいてきた。



......。



「...あの、(わたくし)セブン国の貴族...リリスと申します。 先ほどはありがとうございました、助力が無ければあの地下室へ放り込まれていましたからっ」


「迷惑じゃなかったかしら?」


「とんでもないですっ!」

 色白の女性はリリスを心配そうにしながら何処か警戒していたが、その一言で安心したように息を吐きながら椅子に座るように手招きした。



 搭の中には生活に必要な施設が揃っている。 ベッドルーム、キッチン、リビング、書庫、バスルーム、トイレ、倉庫、娯楽室、美術室....。 しかしどの部屋も一人用として作られたものばかりだった。 そして何より重要なのは、その搭に窓の一つすら存在しないという事だ。 搭は5階建てになっているが、窓があるのは5階のみ。 しかもその窓は、リリスの小さい手が出るか、出ないかぐらいの大きさで、とてもじゃないがそこから脱出なんてできやしない。



「座っていてね? 今、私がお気に入りの紅茶を入れますから....。 人に入れるのなんて本当に久しぶりなので美味しいか分からないですけど」


「この搭って一体」


「この搭は鋼鉄のゴミ箱....。 私の家族は(みな)、口をそろえてそう言うの」

 色白の女性は自虐じみた笑みを浮かべる。 女性は笑いながら、棚の上に置かれ埃を被った一冊の本に目線をやりながらため息をついた。



 本のタイトルは【美と踊り。 芸術基礎学】となっていた。


「ご、ゴミ箱だなんて...。 箱庭みたいで素敵だと思いますけどっ...」


「ふふ、ありがとう、でも事実なのよ。 私...踊れぬ民だから」

 女性は声色を変えずにそう言った。


「.....何があったのか聞いてもいいですか?」


「えぇ、いいわよ。 長いから簡潔に...ね?」

 女性は語り始める。 自分の過去を、まるで子供に昔話を聞かせるように....。 そこそこ上手いピアノの旋律に乗せながら....語り始めた。



 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=


 これは少し昔の話。


 とある芸術の国の王様には3人の娘がおりました。


 一人目の娘には()()()()()の才がありました。 その才に王様は大変喜び、素晴らしい演劇の公演を見せ、誰もが目にすることを幸福と思うような作品を見せて書かせ...勉強させました。


 二人目の娘には()()()()()()の才がありました。 その才に王様は大変喜び、様々な目を見張る彫刻と、聞き惚れてしまうほどの音楽を聞かせ、引かせて.....勉強させました。


 三人目の娘には、歌の才能しかありませんでした。


 王様は言いました。


 芸術の国の王族たるのに一つしか芸術が極められぬとは何事か...と。 心無いその言葉は、三人目の娘を深く傷つけ、その娘は立ち直れなくなりました。 



 芸術に向き合うのが怖くなったのです。



 そんな娘を見て落胆した王様は、娘を娘として扱わなくなりました。 鋼鉄で出来た、冷たく寂しい搭の箱庭へ閉じ込め、その存在を恥だとして他者に見せないようにしたのです。



 そして月日は流れ、娘は他の大きな街へとお嫁に行きました。 街では品評が行われ、美観を鍛えられた娘達は芸術家たちをその目で審査していきました。


 しかし、三人目の娘だけは鋼鉄の塔の中で歌い続けます。



 自分には歌しかないと、自分を戒める為に.....。



 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=



「はい、おしまいですわ」


「.......」

 リリスは何も言えずに固まっていた。 元とはいえ、同じ王族でここまで扱いに差が生まれるものなのかと思ってしまっていた。


「誰かに聞かせるために数年前に作った旋律でしたが、誰かにお聞かせする機会なんてないものです。 この搭には、基本的に人は入れないようになっていますから」


「そ、そんなっ! で、でもっ...食事とか洗濯とか、あとゴミとかだって出るじゃ無いですかっ。 そういうのを渡すときに人と話したりは」


「食事に関しては自分で作りますわ、材料は倉庫に外から搬入できるようになっています。 洗濯も自分で、ゴミに関しては....見たほうが早いですわね。 後で見せますわ」

 未だ名を語らぬ女性は、リリスが話に熱中して冷めてしまった紅茶を再び入れるためにキッチンへと向かう。 火を起こしてヤカンに水を入れて沸騰させ、ティーポッドにお湯を注ぐ。 5分ほど蒸らしたら、それを香り立つように新たなカップに入れてリリスへと差し出した。


「ありがとうございますっ!」


「名を...貴方に申したいのだけれど...生憎、父に愛想をつかされた時から名を捨てさせられて。 衛兵たちが付けてくれた名も今は私の手元にはありません」


「名前が無いってことですか?」

 リリスは首をかしげる。


「そうですわね。 端的に言うとそういう事になります...、私のことは3()()()とでもお呼び下さい。 それに、元の名前で呼ばれたいとは思いませんわ」

 3番姫は少し悲しそうにしながら笑った。


「それはどっちの名前のことですか? 王族の名ですか、それとも衛兵たちのつけた名前の方ですか?」


「どっちもです、どっちも私にとってはいい意味を持たないですわ」

 3番姫はそこまで言うと、リリスへと手招きする。 言われるがままリリスは後をついて行くと、廃棄部屋と書かれた部屋の扉の前までやってきた。


 3番姫が扉を開くと、何もない小部屋が目の前に現れた。


「このお部屋にゴミを置いて扉を閉めると、地下のゴミの収集場所に落とされる仕組みになっているそうです。 当然、私が脱走できないように扉を閉めると勝手に鍵がかかる仕組みになってますけどね」

 リリスはそれを聞いて、これで脱走できないかと少し考える。 しかし、すぐにそれが無駄だと気づく...あれだけ努力してやっと地上に戻れたのに、また武器なしで地下に潜り込んだりすれば、次こそあの部屋へと戻されてしまう。



(芸術、ウチにとって血染めは芸術じゃん!)

 ナジーと呼ばれたあの衛兵、剣に込めた?願いや誇りこそアレだが...その剣筋には、確かな真意が籠っていた。 他の国のテーマと、自国のテーマを齧った剣士....。


 セブンティア流は、世界規模でも見てもそこそこの剣士が習得、あるいは習得しようとしている。 しかし、絶対に7番の剣技だけは王族の血を引く者しか使えない。 一般が習得できないよう、工夫されたスキルの構成になっている。 しかしそれでも好んで使われるのは、ありとあらゆる局面に柔軟に対応できるほどの対応力が剣技に備わっているからだ。 各個人のスキルの取得限界数(しゅとくげんかいすう)にもよるが、剣士の腕さえあれば、この剣技には確実に輝けるポテンシャルをもっている。



 初代国王、ファーマン・ルゥ・セブンティアが作り上げた剣技。 

 私たちにとって誇りでも、他国の人からしたら剣技なんてただの道具に過ぎない....そんな事は分かっているのですっ。 それでも、それでもっ。


 せめて少しでも正しく剣技を使って欲しい。



 ここを出る時戦うであろう女衛兵の言動を思い出して

 リリスは静かにそう誓った。


==☆次回予告☆==


75話の閲覧お疲れさまでした。

拉致られたからって何もアクション起こさない程、リリスはおしとやかには育ってませんからね。 夜空、コレムがどのように思い、動くのかも注目です。


今回のプチ話はセブンティア流剣技についてです。


セブンティア流は世界的に学ばれている剣技の一つです。 どんな状況でも、柔軟に対応できる柔らかさが人気の剣技です。 しかし、セブンティア流7番アルカナセブンだけは、王家にしか習得を許されていません。 セブン国の国防技術だったりもします。


いずれリリスも使えるようになるかもしれませんね?


次回、76話......プラスな少女 任務をこなして!


是非次回もご朗読下さい!


ではでは~

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