74話 その搭 歌声響いて!
【※※ 芸術大祭2日目 ※※】
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鳥の鳴く声と、美しい歌声がかすかに通気口を通してリリスへ聞こえてくる。 声の発生源すら分からぬその歌声は、リリスの目を覚まさせ...今が朝だと認識させた。
「...あれ、朝? そっか私、いつの間にか寝てしまって....」
地下で窓が無いためぱっと見時間が分からない。 しかし、リリスの腕には腕時計がある為、時間の心配に関しては皆無だ。 この時計は魔力で動くから動かなくなる心配もない。
(ここらから出なきゃ....いけませんね)
体力も回復して、今なら『パワーパウンド』を2回程度なら使えそうですっ。 逃走用の余力を残さないなら約3回ですが、地下全体がかなり広そうな上に警備が凄い厳重ですっ。 ここまで厳重だと、2.3回程度のパワーパウンドでは逃げきれ無さそうではありますっ....。
リリスはドアに付いているスコープから外の様子を見る。
ここは王宮地下....攫われた人たちが芸術を高めさせられる為に作られた専用施設。 地下にはアトリエから反響部屋や踊りの練習部屋まで様々な施設がある。 全ては芸術を高めるために作られた、世界最高にして、存在意義は最低の以下の施設だ。
そして、ここの存在は一部の芸術狂い共にしか公開されていない。 芸術家の卵や、一般人には知り得る事はない...王宮の立ち入り禁止ゾーンだ。
どうやって逃げおおせようかとドアの前で悩んでいると、リリスの部屋のドアが数回ノックされた。 その後、リリスの断りを聞くことなく姫様二人が入ってきた。
「「おはよう存じますわ。 セブン国からの貴賓、リリス・ルゥ・セブンティア様」」
お姫様二人はいきなりそんな事を言ってきた。 リリスは自分の家柄を認知されていない解釈だったので少し目を見開いて驚く。
「.....ここから出してください、私の望みはそれだけですっ」
「それはいけませんわ。 今日もレッスンがありますので」
「リリス様にはレッスンを受けて頂かなければならないのです」
相手が元王族、近隣諸国の強い力を持つ貴族の令嬢という立場だと知っても。 姫様はブレずにそんな事を言っている。
「個人的なやり取りに家柄は持ち出したくは無いですけど....。 私がどういう立場なのか、分かってるんじゃないんですかっ?」
「あら、貴族として扱って欲しいならば冒険家業はお止めになったらいかがです? お趣味もほどほどになさらないと痛い目を見ますわ?」
「行方など、いくらでも細工できますのよ?」
姫様二人は嫌味のようにクスクス笑う。
「私の誇り誇りを愚弄するのは止めてくださいっ!!」
「「あらあら、昨日リリス様も私たちに同じことを言い捨てなさったではありませんか?」」
3人の姫様の間に分かるほどの見えない火花が飛ぶ。
「衛兵とメイド? リリス様にお召し物とお食事、それからレッスン室へ案内してあげなさって? 完成された作品を作って頂くために、死力を持って臨んで頂かないと...!」
姫からの命令に、部屋の中に監視役の女衛兵と、世話役のメイドがやってきて掃除やら食事やら着替えやらをテキパキとすまされ...護送されるようにレッスン室へ監禁された。
やりたくもない発声練習や、背筋を伸ばす訓練など...素晴らしい歌手になるためのレッスンを一通りこなしたリリスは、ヘトヘトになりながら地下の休憩室に座っていた。 当然、近くにはリリス監視役の女衛兵も付いている。
今日一日、リリスはさりげなくこの施設内を見て回ったがかなり広いことが分かっていた。 スイートルームのような監禁部屋を始め、レッスン室、食堂、休憩室、娯楽室、浴場、トイレなどなど。 どの施設も国賓待遇並みの豪華さでありながら、何処か必ず自由が無い。 そのうえ、地上にアクセスするための階段に関しては、知る範囲ではたった一か所しかない始末だ。
休憩室の一部には、吹き抜けのように空を見れるところもあったが、天井はグレーチングのようなものが付けられて出られない。 恐らくだが、跳躍系のスキルで逃走されない為の措置だろう。 王宮の周囲も高い壁で囲われ、一般人では中で何が起こっているのか知ることはできないようにもなっている。
(脱出の糸口が掴めませんっ、衛兵も雇われじゃないのでかなり質のいい感じの警備をしてきますし....本当にどうしましょう、八方塞がりですっ)
リリスは既定の時間になり、自室へと戻される。 夜間でも巡回している警備がいるらしく、大きな音を出して扉を破壊すればそれこそ気づかれてしまう。
それからしばらく監禁室で過ごし、腕時計の短い針が11時を回った頃。
「七式剣技の1番が使えれば....もしかしたら突破できたかもしれません」
リリスは自分の未熟さを恥じるように悔しそうに目を瞑る。 せめて剣があれば、と何度も何度も思う。 脳裏の片隅に居る夜空やコレムに会いたいと思いながら。
セブンティア流七式剣技には名の通り7つの技が存在する。
・1番 ソニックスラスト 推進力を伴った神速の薙ぎ払いを行う技
・2番 セブンヴァン 7本の風の帯を生成して敵を斬りつけたり、風で攻撃を受け流したりできる技
・3番 トゥー・バック・レイ 一瞬で相手の裏に移動し、閃光を伴う全力の突き技を行う技
・4番 パワーパウンド 剣を失った時用の殴り技
・5番 五鳥10連切 斬撃性のもつ鳥を頭上に5匹出現させ、鳥を往復させて敵の表と裏に計10回の攻撃を行う技
・6番 7色の盾 虹色の盾を前方に展開する技 耐久限界あり
・7番 アルカナセブン 七式剣技の奥義にして国防技術....。
リリスはこのうちの、1番、3番、7番の3つの技が使えず。 現時点で使えるのは、2番、4番、進化型5番、そして6番の4つのスキルだけだ。 それに追加して『超音波探知』と『超音波』、『パワーアップ』の計7個のスキルを取得している。
ちなみにカイルがリリスと同じ4つの技を習得したのは16歳後半である。 そう考えると、セブン国の連中が『リリスは逸材だ』、『七式のリリスだ』と褒めた理由が分かるだろう。
「お兄様だったらどうしたでしょう...。 いや、考えるまでもありませんね」
きっとカイル兄様なら、意地でもここを出て行くだろう。 なら私は.....剣技の国の元王族として.......。
ここに居てはダメ。 いつまで居ても状況なんて変わらない...分かっています、夜空さんやコレムちゃんがどれだけ頑張ろうとも、ここを見つけることすら叶わないことぐらい。
リリスはその場で『超音波』と『超音波探知』のコンボ技を行う。 監禁部屋はほぼ密室の為、上手く外の様子を探れないが、少なくとも警備の人間がリリスの部屋の前に居るのは分かった。
リリスはわざと部屋のランタンを倒して破壊する。 【ガシャン!】というガラスが割れるような音に気が付いた警備が部屋の中に入ってくる。
「夜中に騒がしいぞ、全く」
「す、すいません....ランタンが壊れてしまって....」
リリスは企みを悟られない様、破片を拾い集める衛兵の背中に回り込む。 そして、そのまま音を出さない様ゆっくりドアを閉めて....。
無詠唱で自分に『パワーアップ』をかけたのち、気絶させるように首を絞めて無力化した。 衛兵は初めは抵抗する素振りを見せたが、意識が消えていくと共に力が弱くなっていった。
「衛兵の方乱暴ですいませんっ。 剣と鍵だけお借りします」
ただ仕事をしていただけの衛兵に頭を下げつつ、リリスは静まり返った廊下に飛び出して行った。 リリスの走る音だけが、静まり返った地下の廊下に小さく反響する。
しかし、運悪く。 時間交代で来たいつもの女衛兵にリリスの逃走が発見されてしまった。 女衛兵は腰の鞘から剣を抜き、移動速度上昇スキル『ヘイスト』と『パワーアップ』を重ね掛けしてリリスが向かっている階段に先回りするよう全速力で走り出す!
階段まで辿りついたリリスは、見事な立ち回りであっという間に階段の見張り3人を倒し切り、後は階段を昇るだけという所で.....。
「セブンティア流『七式剣技、1番 ソニックスラスト』」
剣技スキルを放つ前に、女衛兵は自身が発動していた『ヘイスト』を解除して脳の処理に飽きを作る。 その上で、感性を殺さないようにジャンプして剣技を使用.....そのままの流れで突撃する。
「ッ!?」
廊下の先からすっ飛んできた女衛兵のソニックスラストによって、リリスは攻撃を受けた剣ごと吹き飛ばされて廊下を転がる。
「い、痛ったぁ~っ....い、今のは...七式剣技ですかっ!?」
「そう驚くこともないじゃんよ、別に習得できるのが....セブンティア家だけって訳でもないじゃん。 七番の剣技ならともかく」
女衛兵は不気味な笑みを浮かべながら、リリスの前へと立ちふさがった。 リリスは剣を前に構え、七式剣技を用いた攻撃の用意を行う。
「セブン国で剣を習ったのですかっ!?」
「ウチみたいなガラの悪い平民が、あんなエリートな場所で学べるわけないじゃんよ。 剣士から見て覚えた、だから独学だし、使える七式剣技も1番しかないけど....一つ一つが完成されてるから困らないじゃん?」
女衛兵は、再び『ヘイスト』+『パワーアップ』の強化コンボによる突進を行い、リリスを地下室の壁に叩きつける!!
「キャアッ!!」
「逃がさないじゃんッ!?」
女衛兵は七式剣技の用意をする! 廊下の壁に叩きつけられたリリスは、痛む背中を無視して腰を落として剣のグリップを強く握りしめる。
一瞬、カイルの言葉が脳裏を巡った。
≪≪ 「いいかリリス。 1番の剣技『ソニックスラスト』は確かに強力だが、その凄まじい推進力が繊細なコントロールを要求してくる。 もし発動者がコントロールを放棄すれば....」 ≫≫
その言葉は、リリスが夜空と出会う大分前にカイルとの剣技の修練中に言われた言葉。
「『ソニックスラスト』じゃん!!!」
「その太刀筋、見え見えですッ!!!」
隙を縫うような形でリリスが一撃を斬り込んだ! 女衛兵の着込む鎧が切断され、服を少し裂いて肌に軽い切り傷を付けた。 傷から血が少し染みだし、女衛兵は少し距離を取りながら警戒する。
「やんじゃん....さっすが本場、練度が桁違いじゃん?」
「剣技だって芸術と同じです。 少し使えるくらいで完成とはならないんですよっ、ただ使うだけなら2流の剣士です。 使いこなして初めて1流だと教わりましたっ!」
「あんさぁ...ウチ、剣の授業受けに来たわけじゃ無いんだよね。 さっさと寝るための部屋、戻ってくれじゃん?」
女衛兵はくたびれたようにそう言った。 戻らないなら力ずくで戻す許可は得ているのか、リリスを真っ直ぐに睨みつけながら....。
「お断りしますっ、私歌は好きですが、それはあくまで娯楽の範囲なのですっ! 極めるつもりも、極めさせられるのもお断りですっ!!」
「せっかくの天性の才能が泣いてんじゃん!?」
二人は再び『パワーアップ』をかけながらぶつかり合う。 風圧と衝撃で地下空間に少し亀裂が入り、凄まじい金属音は地下中に反響して響き渡る!! その音で、異常に気付いた衛兵たちが仮眠室を飛び出して警笛を鳴らす。
「お生憎ですッ、誇りは既に定まっていますッ!!」
「何言ってっか分かんないじゃん!!!」
二人は剣を打ち合い始めるが、やはり本場で鍛え上げたリリスの方が一枚上手か...徐々に女衛兵の方が追い込まれていく。 女衛兵も必死に食らいつこうとするが、時間が立てばたつほどその差は目に見えるように広がっていく。
「『七式剣技、6番 7色の盾』!!!」
リリスは前方に虹色の盾を召喚し、展開したまま相手の剣を押し返すように体当たりをする。 体当たりの衝撃で相手が一瞬体勢を崩したその瞬間に、リリスは素早く足を引っかけて転ばせ....そのまま女衛兵をその場に放置して階段へと駆けだす。
リリスの後方からは、無数の罵声と足音が聞こえ....リリスの後を追うように階段を昇り始める。 リリスは、持ち前の身軽さを生かして素早く階段を3段飛びを行って駆け抜け、地上の王宮内部へと到達した!
==☆次回予告☆==
74話の閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話は、この世界の年齢に比例する取得スキル数の平均です。
作中で初めて?リリスの所有する全スキルが明かされました。 が、12歳である少女としては取得数はかなり多い方になります。 平均は3、4個....そのうえ進化型や、覚醒型などのスキルが進化していないのが普通です。
武闘派な国の王族、貴族として昔から英才教育を受けた賜物です。
次回、75話......その搭 廃棄場所にて!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




