8話 その頭痛 原因不明なり!
数日前のあの依頼の後、部屋に戻った俺抜きで盛大な歓迎会が開かれた。 部屋に戻ったというか、怪我してるからとクル爺に半ば強引に部屋で治療を受けさせられたのだが....
そして起きたら、パーティは終わってたというオチである。
...この世界に来てから、まともな晩餐会など経験したことが無いというのは、多分気のせいだと思いたい。
その後は、剣技のことになるとやたらスパルタなイスカルに、ショートソードを使った戦闘の基礎を教わったり、遠距離攻撃用のスキル『ファイアーボール』の習得ができるように勉強に努めたり..と、まぁ色々やっていた。
当然、一日二日でスキルが覚えられれば苦労なんてしないのだが...。
それともう一つ、この数日間で分かったことがある。
葉日学園の生徒たちが召喚された時の状態についてだ。
あの一件以降、妙に山田先輩と仲良く?なってから...山田先輩がよく使用人寮の俺の部屋に来るようになった、その時に聞いた話なのだが、初めて人生回廊を開いたときに0~~2個の弱めのスキルを持っていたという話だった。 勿論、人によっては覚えてない人もおり...そういう人たちは手引書で後から覚えていた。
いや...始まりから差をつけられてたんかい、とツッコミを入れたくなったが我慢した。 理不尽にも慣れてきて、感覚がだいぶ麻痺してきた自分が居る。
そしてその上で、夜空は皆が寝泊まりしている王城の客間の一室を訪ねていた。 扉には女子2と書かれており、その部屋が女子部屋であることが一目で分かるようになっていた。
夜空は数回扉をノックして中の返事を待つ。 すると...どうぞ、という声がしてきたので部屋の扉を開ける。
「あぁ..約束の時間でしたっけ。 山田先輩からお話は伺ってます」
「悪いな急に時間貰って」
「わざわざ、私になんの話でしょうか?」
夜空は名前も知らない女生徒の部屋を訪れていた。 2人部屋のようだが、中にはもう一人の姿は無くその子一人だけだった。 あの一件以降、山田先輩やテルテル・大庭先生はともかく他の連中は軒並み俺を嫌っているので、正直約束を取り付けに行った時に断られるかと思っていたので、素直に驚いていた。
「あぁ、少し聞きたいことがあってな」
年下っぽいので敬語は使わないでおいた。 嫌われてるであろう人に敬語はなんか変だし。
「正直に言いますけど断ろうと思っていました。 貴方のお話を聞くの」
断ろうと思っていたらしい...ありがとう泣きそうだ。
「テッ、テルテル先輩の親友だと聞いたので仕方なくです!」
やはり後輩だったその少女は、テルテルの名前を出した後少し顔を赤らめる。 分かりやすく指と指を合わせて動揺している。
...ほほぉ、遂にアイツにも春がきたのかも知れないな?
「そりゃどうも、聞きたいのは別に変な...いやある意味変かもしれないけど、真面目な話..あー、俺の生死に直結するかもしれないことだからしっかり聞いてくれ」
「なんだか物騒ですね、貴方みたいな人のそんな重い話聞きたくないんですけど」
「ホント可愛げねぇのなお前」
ウチの妹でももう少しマイルドだぞオイ。
「どうでもいい人にどう思われようが知ったとこでは、はぁ...早く話して下さい」
「...テルテルも苦労しそうだなコレは、じゃあ単刀直入に言うぞ...山田先輩から聞いたんだがお前、スキル『超音波』を元から持ってたらしいな?」
「えぇハイ...ていうかなんで山田先輩がそのこと知ってんですか!?」
伝えてなかったんかい、というか...なんで知ったのか、その事情は俺も詳しく知りたくない。
「まぁそこら辺はどうでもいいんだ、肝心なのはスキルを使った後のことだ」
後で追及を...とブツブツ言っている後輩を適当にいなして本題に戻らせる。
「後...と言われましても...」
「頭痛とか、起きたりしたか?」
その言葉に思い当たる節なしなのか、首を傾げる後輩。
「いやないですね、数回お試しで使った時もかなり力入れて放ったんですけど、その後も別に全然普通でしたよ? どうしてそんな事を聞くんですか?」
(やはりあの時、スキルを放った後の頭痛に関しては俺個人の問題なのだろうか? あのイスカルすらも、スキル『超音波』は人間でも安全に使えるスキルだと言ってたし)
「そうかありがとうな...知りたいことは知れたしもう行くよ、ありがとさん」
「早く出て行ってください」
女子こっわ、興味のない相手にはここまで冷たい声出せんのかよ。
「あっそうそう」
夜空はドアノブに手をかけながら後輩の方を向き
「テルテルはあの図体であんまし甘いモン好きじゃないから気をつけろよ~」
夜空のその言葉に、自分の秘めたる思いに気づかれていることが分かったのか、顔を真っ赤しながら大声で!!
「もっ、もう出て行ってくださー----い!!!」
...まぁ報酬代わりのアドバイスぐらいにはなったんじゃなかろうか?
友人として友の春は、無粋な介入なしに素直に応援してやろうでは無いか...フフフ。
夜空は薄気味悪い笑みを浮かべながら部屋から離れていった。
そして自分の部屋に戻り少し考える、何故頭痛が起きたのか...ということを。
別にそういう体質だったで話が済みそうではあるのだが...どうも何かが引っかかっている、胸の奥にある自分の直感的な何かが。
「でも現状じゃ『超音波』スキルのことについても良く分かって無いしな...一回紙にでもまとめてみるか...」
夜空は近くに会った羽ペンとノートを机に広げ、超音波スキル...ひいては自分と他者との違いを書き始めた。
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まず初めに...事実だけ確認しよう。
『超音波』スキルとは安全に使えるスキルだと言っていた。 イスカルのあの口ぶりからしても『超音波』スキル自体はさほど珍しいものでも無いみたいだ。 先ほどの後輩の話でも、あの時と同じくらいの高出力で放っても、別に反動が起きたわけでもないらしい...それに一回では無く数回も使っても。
反動が起きないのは勇者だから...というのも可能性としてはある...が、今回の疑問のメインはスキルだ、天賦ではないというは多分凄く重要だと思う。
「じゃあ何故...安全なスキルが俺にだけ頭痛を引き起こした?」
考えろ...可能性でいいんだ...。
天賦の不可項目? いいやそれだったら警告文がいつものように出るはずだ。 あの時は出ていなかった...つまり少なくとも天賦が悪さを引き起こしているわけでは...無い...ハズ?
夜空は頭を捻って全力で考える...そして閃く。
スキル側の不具合という可能性は無いか?...と
「いやでも、それだったらそもそも超音波が出てないだろ。 気絶してよく覚えてないけど、敵の動きを思い出すに超音波は正常に働いてたっぽいしなぁ」
じゃあスキル側の不具合については無いのかなぁ、そうなってくるといよいよ分からんのだけど。
それじゃあそもそも俺に、超音波の適性が無かった説が一番濃厚だよなぁ...。
「また縛りかよ! スペランカーやってんじゃねーぞオイ!」
自分の中で、一応渋々納得した夜空はノートをその場に置いて、トイレに行くために立ち上がる。 早足でトイレに向かう夜空は...まだ気づいていなかったのだ。
イスカルの言う言葉の...天賦は不完全という...あの言葉の真意を。
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「討伐お疲れさまでした~こちら買取金、38銀と7銅になります。 今度ともギルドをよろしくお願いいたします~」
「ありがとうございま~す」
夕方、にこやかなギルド局員さんと軽い話を終え金を受け取る。 意外とずっしりとした重みが夜空の手に伝わる。
金を受け取るまでに『冒険者登録しませんか! 今ならポイントつきますよ!』とか、なんとか言って冒険者に無理やり就職させられる所だったのだが、自分が国から召喚された勇者だと言うと、急に態度が急変して普通に渡してくれた。
ここは、城下町にある冒険者ギルド...そこで俺は数日前の依頼のネコババを取りに来ていた。
我ながら最低であると自覚はしているが...もう流石に許して欲しい。 天賦はゴミ、自分の基本性能は低く、挙句の果てに使えもしないゴミスキルを命からがら盗ってきて、正直もう心は完全にやさぐれていた。
「金だよ金...やっぱり人は金が無いと幸せにはなれねぇんだわ」
守銭奴みたいなことを呟きながら城に戻る帰り道に、あの時貧民街でコロッケをあげた子供を見かけた。 近くにあの時の母親はおらず、一人でここまで来た印象を受けた。 子供を中心として軽い騒ぎになっており、近場に居る奥さん方は『汚いわねぇ』とか『なんでここに居るのかしら?』とかそういった差別的な発言を行っていた。
夜空は人の輪をかきわけて中央をみようとすると...騒ぎの中心ではコロッケ屋の店主とあのときの貧民街の子供が何やら揉めていた。
「お願いおじさん...お金なら...ほらっあるから...サクサクしたのちょうだい」
「お前みたいな汚ねェガキに売るもんなんかねぇ、さっさと貧民街に失せやがれ」
「そんな...せっかく買いに来たのに」
「うるせぇ! いい加減にしねぇと蹴り飛ばすぞッ!」
「ひいっ!」
小さく悲鳴を上げた貧民街の子供を、容赦なく蹴り飛ばそうと振り被った足に。
夜空は行動を阻害するようにしがみついた。
「止めろッ! 何してんだアンタこんな子供に!」
「あ? あぁ..あの時の外国人か、野暮は無しだぜ...コイツは忌み子の臭いガキだ」
まるでコイツは人間じゃないと言わんばかりの目で、子供を睨みつけ夜空に向かって怒鳴りつける。
「足を放せ外国人が! このクソガキは何故か俺自慢のコロッケを知ってやがったんだ、魔物の力か何かを使って情報を得たに決まってる!」
なんじゃそりゃ...根拠もクソもない差別だ、反吐が出る。
「魔物の力って...この子は人間だろ!?」
「だから忌み子だろうが! 赤印の忌み子、コイツは魔物の生まれ変わりだ!」
子供の腕を見ると、手首らへんにスタンプのような赤い印がついていた。
これが赤印? この国の闇って奴か!
「ふざけんじゃねぇ! おい周りの連中もなんとか....っ!?」
言ってやれ...と言おうとして止めた、周りの人間の目が...今までの人生で経験したことのないような、文化由来の憎むべきものを見る差別の目をしていたから。
「オイ、ガキんちょ一緒に来い!」
夜空は直感でここに居たらマズイと思い、足を放しながらコロッケ屋のオッサンを少し後方に突き飛ばして距離をとらせ、貧民街の子供の手を引っ張って路地裏に入っていった。
遠くからオッサンが『二度と来るんじゃねぇぞお前ら!』と叫んでいたがこっちから願い下げだ。
少しばかり子供を連れて西側に向かって走り、しばらくして手を放す。 子供は俺さえも警戒するように距離をとる。
...流石にあんなことがあった後に忌み子について聞くのは、あまりにこの子には酷だ。 それにこの子レベルの年...大体小学生低学年あたりだろうか? 忌み子についても意味を完璧に理解していない可能性ある。
そんな適当な言い訳で自分を覆い隠しても、自分で分かってしまう。
きっとこの子供の涙を見たくないんだと。
「なぁお前、どうしてあのコロッケ屋にいたんだ?」
「...それは、前に食べたあの味が...忘れられなくて」
あの時あげたコロッケは、この少年にとって初めてのコロッケだったのかも知れない。 そう思うと同時に、自然と手が財布に伸びていた。
「少しここで待ってられるか? 人が来たら...そうだな、あの箱の陰に隠れておけ」
夜空は、路地裏に乱雑に積み重なった箱を指で指して言う。
「どうして?」
「あんなオッサンの作るコロッケよりも、腹いっぱい旨いもん食わせてやるから」
少年はその言葉に『わかった』と呟いて、箱の陰に隠れていった。 夜空は先ほど騒ぎがあった場所から裏路地を使って少しだけ離れた市場に出て、パンやハム...果物・調味料いったものを適当に紙袋一杯に買いあさってから少年のいる場所へと戻る。
「おいガキんちょ、居るかぁ~」
夜空の呼びかけにちょこちょこと箱の陰から少年が出てくる。 少年はお腹を鳴るお腹をさすりながら...必死に空腹感に耐えていた。
「さぁ貧民街に戻るぞ、家に案内できるか?」
「でも、お母さんが知らない人は連れてきちゃダメって」
多分、帝国の騎士のことを言ってるんだと理解する。 貧民街に居た男が言っていた、国が貧民街の一部を見せしめに焼いた事件のことを...貧民街に居る人間はみんな知ってるから警戒しているのだろう。
「大丈夫だ、お前にもお前の母さんにも何もしない。 そんなに腹鳴らして...上手い飯食べたいだろ?」
食欲で少年を釣り上げ、貧民街の家まで案内させる。
こんなことをしても、結局意味ないことは分かっている。 けど...あんなに多くの大人に囲まれて出来た心の傷を、今は少しでも癒してあげたかった。
家に着くと、どうやら母親は夜空の顔を覚えていたらしく中に入れてくれた。 汚れた自分の息子を見て、母親は町で何があったのかを大体察したようで少し涙を流していた。
買ってきた紙袋を母親に渡して...あの子に聞こえないよう小声で
「あの子の心の傷を...これで...頼みます」
紙袋に入っていた相当量の食材に少し驚いた母親は、首をかしげながら言う。
「大変ありがたいのですが何故、ここまでしてくれるんですか?」
「子供を少し助けるのに大層な理由は要らないでしょ。 俺は.....仮にも勇者だそうですから」
夜空は即答し、ひと時の休息を尊重するために少し挨拶してから家を出る。 無論、母親は『せめて食べて行ってください』と言っていたが、あんな胸糞悪いものを見せられて食欲なんて起きるわけも無かった。
「さっさと国から出て行きてぇな、ここでの自由は俺には重すぎるよ」
自分が勇者であり...そして同時に、力を持たぬ一般人であることを卑下しながら、深くため息をついてそう呟いた。
救えない現実を見せられるくらいなら、いっそ何も知らないまま他の勇者と一緒に過ごした方がマシだと本気で思った。
「せめて俺に圧倒的な力の一つでもあれば、あの子に毎日腹いっぱいご飯を食べられる、そんな世の中でも作れたのかな」
きっと疾風ならやるかもしれない...いや必ずやるだろう。 アイツは俺と違って、周りの期待に応える奴だから。
夜空は、重い足を一歩一歩城へと進ませていく、城下町に照り付けていた夕日はすっかりと落ち切り暗くなっていた。 夜空は手元に残ったお金をイスカルに、世話になったお礼を含めて8銀残して全額渡し、部屋に戻り床に就いた。
「明日は...イスカルに...忌み子について...聞かなきゃな...」
目を閉じ、意識をゆっくりと落としながら...スキルについての不安が少しだけ頭をよぎった。
==☆次回予告☆==
はい、8話の閲覧お疲れさまでした。 今回の話は色々と進展がありましたね、さほど大きな進展では無いですけど、こういうのを書き逃すと後々....ね?(笑) 戦闘も無く、考察や会話ばっかりなので退屈かもしれませんがもう少しだけお待ちを。
今回のプチ話は、テルテルと後輩についてです。
今回出てきた後輩は何故かテルテルに気があるようですが、それは何故なのでしょうか? その件に関してはオニキス編終了時に別途で小話を入れようと思います(2000文字程度の奴)
次回は物語がオニキス編の佳境に突入する....かも?
次回、9話......その不安 現実へ!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~