71話 その姫君 3分の2につき!
大道芸をひとしきり見終わった夜空達は、宿屋を探すために街を歩き....その、あまりの街の広さと人ごみにより、若干迷子になり始めていた。
「迷ったな、無駄に広いぞこの街」
「...首都ですからっ」
「無駄に人が多いぞ!」
「首都ですってばっ!!」
夜空に呆れたように、リリスはそう言った。 ちなみにコレムはというと、ずっと無視されていた反動なのか知らないが、夜空の裾を掴んで離さない。 いつもみたいに生意気な口を利くわけでも無く、ずっと無言で捕まりながら後ろを付いてくる。 奥ゆかしいというか、なんというか......。
うーん...って感じだ。
しばらく歩くと、街の中でもひときわ大きい建物が見えてきた。 アラビア風のその建築物は、王宮と言うに相応しいほど美しく、圧巻な造りをしていた。
王宮に入るための門の近くではイベントが行われたり、大きな壇上が用意されたりと....お祭りならではの騒々しい活気があった。 また、同時に品評会という催しも行われ...我こそはという芸術家たちが、己の才能をかけて王家アラブレイの者達に作品を見せに言っていた。
「あのおばさん歌ってる。 歌とかも芸術の類なんだな?」
「私上手いですよっ?」
「それは聞いてないんだけど....」
「えっへんっ!」
どうだと言わんばかりにリリスはちっぽけな胸を張る。 歌を聞いたことが無い夜空とコレムは、なんで自分の歌声にそこまで自信が持てるのか疑問げだ。
【えー、紳士淑女の皆様、そして海外からの来客様! 最後にッ、我らが愛しき芸術家の全てへ捧ぐ!!! ここは芸術の国、摩訶不思議な幻想世界! 芸術家たちよ、うちに秘めたるセンスを解き放ち...世の中の目を覆す!!】
街中に、やまびこのように女性の声が広がった。 拡散されたその声は、客や芸術家たちの声援と熱気を生みその勢いは街中に広がっていく。
【今ここに、王家アラブレイの名の下。 芸術大祭の開催を宣言するッ!!!】
白い鳩が大空に解き放たれ、開幕のファンファーレの演奏が始まる。 踊りの街ならでは、音楽に合わせてダンサーたちが可憐な踊りをまるで戦いのように繰り広げる。
その間に、王家アラブレイの人間と思わしき2人の姫が壇上に姿を現した。 姫はどちらも見事な踊りを披露しながら現れる、その踊りはその場に居る全ての人間を魔法の如く魅了する。
「すげぇ活気.....」
「ふ、ふんっ。 少しは賑やかになりそうね!」
夜空もコレムもアホっぽい感想しか出てこない。 ただしかし、リリスだけが何やら不思議そうな顔で着々と進む開会式を眺めていた。
「リリス、どうした?」
「いえ。 お姫さまってお二人しか居なかったのかな...と」
「は? 壇上見ろよ、二人しか居ねぇじゃん」
??? リリスの言っている意味がよく分らない。
「私が昔お会いした時、確か3人だった気がするのですっ。 なにぶん、まだ大分幼かったもので記憶が曖昧ではあるのですが....」
「幼かったなら、使用人とか誰かと見間違えてんじゃね、流石に3人目が居るならこの場に出てくるでしょ。 .....さてと、早めに宿屋に行かないと部屋が無くなりそうだ。 安宿になるのは確定だから風呂は公衆浴場な?」
「嫌よ!! いい場所にしなさいッ!」
こ、このガキッ!?
「文句言ってんじゃねー!!!!」
流石に質のいい宿は観光客に取られてるだろう。 そうなると俺たちが泊まれるのは、街の外れの方にあるような安宿だ。
「それとクズ空、姫をいやらしい目で見るの止めなさい! アンタが例の件に関与してないのはなんとなく察してるけど、アンタがクズで変態なのは変わらないわ!」
「うるせぇクソガキ! 確かに見てたが、そうじゃねぇんだよ!」
俺が見ていたのは踊りであって、姫そのものじゃない。 決して、このメンバー内に大人なお姉さんが居ないから見てたとか、決して決して....
そんな邪な理由ではない。
街外れにある安宿に2泊する予約を取ったら、リリスの提案の元、芸術大祭でにぎわう街を練り歩いてみる事になった。 大通りの両脇には、多くの画家や彫刻家の卵たちが自分の作品を世に見てもらおうと必死に宣伝し、売ろうとしていた。
「まるでコミケだ。 こっちでもこういう催しはにぎわうもんなんだな」
夜空はよく分らん図形の絵を見ながら言う。 リリスは、近くでのど自慢大会みたいなのやってるから行ってみたい...だそうで、コレムはリリスについて行った。 コレムがずっと掴んでいた夜空のズボンの一部が手汗で少し湿っていた。
「お兄さんッ、ぜひ買って行ってね!」
「ちなみにいくら?」
「えーと、その絵は80銀」
高ッけェ! 絵の相場は分からんが、そこまで有名でもない画家の絵が8000円はちと高いんじゃなかろうか...。 日本での生産品とは違い、手書き一点ものという点では価値が...ある.....のかなぁ?
「ちなみにこっちの牛の魔物の絵は?」
どっかで倒したことのあるウシ型の魔物の油絵。
「マウスターの油絵は....それも80銀。 この絵は、マウスターの細部の陰に、なによりっなによりこだわった一品でして」
正式名称はマウスターというらしい。 ていうかこれも80銀、8000円かよ高すぎるわ。 世の中の金持ちはこの金額...いや、これ以上に高額なモンを買いあさってんのか?
金持ちっていいなぁ。
「で、どうします?」
「いいや...悪いね。 アンタも物販頑張って」
「うぅ、まぁ残念ですが...。 これからもよろしければ応援よろしくお願いします!」
対応が面倒になった夜空は足早にその場を離れる。 どの芸術家も有名になるため、客を引き留めては自身の絵や彫刻の良さを語り続ける。
ちなみに音楽や演劇、大道芸のようなモノはほとんど施設の中で公演が行われている。 ストリートライブもあるが、ストリートライブ同士で音が被らないように距離を離していたり、演奏の時間をずらしたりして対応していた。 こういう細かな気遣いは流石芸術の国って感じだ。
「しかしまぁ、この国は平和だな。 オニキスもセブン国もロクな目にあってないしな」
オニキスはともかくとしても、セブン国に関しては俺は絶対悪くない。 悪いの完全にあのハゲ竜人族...イェーガーのせいだと思う。
というか、あのハゲゴリラ川に流された後どうなったんだ?
死んだは無いと思う、生命力の化け物みたいな存在だったし...何処かでまた好敵手を探す旅でもしているんだろうか?
まぁ、いいか。
どっちにせよ、やらなきゃ俺が死んでたしどうでもいいや。
しかし人が多い、さっきからリリスたちの元へと向かおうとしているのだが人の波が邪魔をして先に中々進めない。 するとその時、夜空のスキル『野生の勘』に反応があった。
夜空は本能の赴くまま、夜空のバッグに伸びてきた手を掴んで止める。 思いっきり掴んだ指先に力を加えて、爪を相手の肌に刺すように仕向ける。
「いてててててっ!!」
小太りの中年のオッサンが小さな悲鳴を上げる。
「おいお前、今俺の財布すろうとしたよな!?」
「やってないっ、言いがかりはよせ!」
「こんな人込みで無警戒でバッグをぶら下げる訳ねぇだろッ!? 疲れない程度に検知スキルを自分に張っといて正解だったな。 お前みたいなバカが釣れる」
「く、クソっ」
「癖の悪いその指を切り落としてやろうか? 俺はセブン国に行ったことがあってよォ、凄い痛い斬り方を知ってるんだ」
勿論ブラフだ、俺はサイコパスじゃない。 しかし、セブン国のテーマを知ってるこの世界の人間からしたらこのブラフはよく効くだろ? 異世界では自分の身は自分で守る。
流石にもう学習した。
「くそ、ガキのクセに!」
夜空は逃げようとするオッサンのケツを蹴り飛ばして転ばす。 それを見て指を指して馬鹿にするように大笑いした後....
「ハハハ!! 馬鹿乙!!!」
ひとしきり煽ってすっきりした夜空は、のど自慢大会に向けて歩き始める。 のど自慢大会改め、【芸術大祭音楽の部、一般参加部門】の会場には、多くの観客が声援を送っていた。 その中に、何故か見慣れた銀髪少女が参加していた。
「えぇ、なんで参加してるんだアイツ?」
別に歌うのはリリスなのでいいのだが、若干困惑した。
「次、まずは出身国とお名前、そして意気込みをお願いします」
司会役のタキシードの男が妙な道具を手渡した。 リリスがマイクに向かって咳き込むと、その音がやまびこのようになって会場に響いた。
「えーと、リリスと申しますっ! セブン国から来ました、頑張りますっ!!」
声は再びやまびこに。
可愛らしい少女の意気込みは会場で自然と拍手や応援を生んだ。
「曲は何にしますか!? 音楽家たちは一流...なんでも大丈夫ですよ!」
「えーとそれじゃあ....」
リリスは曲を指名し、音楽家たちがそれを承諾して音楽が始まる。 会場内に居る人たちがリズムに合わせて拍手をし始める。 歌い始めたリリスは本当に楽しそうに歌い、聞いてるこっちまで気分が良くなってくるほど安定したテンポで一曲を歌い終えた。
曲が終わると、引くぐらいの拍手と喝采が起きた。
「あ、ありがとうございますっ!」
リリスは嬉しそうに笑いながら、上品に...そして可愛く頭を下げた。
【芸術大祭音楽の部、一般参加部門】の飛び入り参加枠で、見事優勝をかっさらったリリスと共に会場を後にし、夜空達は露店で買い食いしながら大通りを歩いていた。
「リリス上手かったわ」
「えへへ、コレムちゃんありがとうございますっ」
この数日間で、コレムとリリスは本当に仲良くなった気がする。 リリスは元々色んな人に好かれやすいタイプだとは思っていたが、あのクソ生意気なコレムまでもがリリスに懐いている。
二人は感想を求めるように夜空に目線を向けた。
「....う、上手かったんじゃねぇの?」
「クズ空褒めるの下手よ」
うるさいよ。 他人を褒める事にあまり慣れてないんだ。
「夜空さんも歌ったら良かったのに....」
「絶対やだやだ。 あんな大衆の面前で恥を晒すとか考えただけでも鳥肌だよ」
ひとしきり祭りを堪能した夜空達は、一度荷物の整理なども加味して安宿に戻ることにした。 今晩の食事に関しても決めなければならない。
近道するために直線距離で....人気のない路地を移動する。 後方から聞こえてくる人のざわめきが聞こえなくなった辺りで、リリスの動きが止まった。
「リリス?」
コレムが早く行こうという意味合いを込めて呼びかける。 が、リリスは呼びかけを無視して蒼脚光の剣を鞘から抜いた。
「敵ですっ、数恐らく5」
夜空とコレムは臨戦態勢を取り、夜空はスキル『野生の勘』を発動する。 しかし、夜空は野生の勘で敵の存在を感じ取ることが出来なかった。
「スキル『パワーアップ』っ!!」
リリスは全身を強化する。 それと同時に、後ろから3人、前から3人、計6人の一般人の風貌をした男や女が現れる。
「平和な国だと思った矢先にこれかよ...」
だが妙だ、コイツ等....コレムも俺も見ていない。 彼らが一貫して視線を向けるのは、俺の隣にいる銀髪美少女だ。
「....確保」
敵が辛そうにしながら呟き、6人が一斉にリリスへと駆けだす。
「こ、このクズ共! リリスを攫うつもりね!」
「人さらいって奴か、舐めやがって!」
夜空、リリス、コレムは交戦を始める。 夜空に一人、コレムに一人、リリスに四人...夜空は直ぐにでもリリスへ応援へ行きたいが、目の前に立ちはだかる男とショートソードと剣で鍔迫り合いになり、中々前に進むことが出来ない。
「邪魔だどけ!!!」
「仕事の邪魔はしないで貰おう!」
男が吠える。
「ふざけろッ、子供攫って何が仕事だ!!!」
夜空は鍔迫り合いの中、ハイパーウェーブで敵を民家に吹っ飛ばして無力化する。 それと同時に、コレムが敵をご自慢の種族チートパワーで殴り倒した。
「セブンティア流『七式剣技、2番 セブンヴァン』!!」
7本の風の帯がリリスの周囲に近寄らせまいと舞い、斬撃によって敵を切りつける。 しかし、人数差のせいもあってリリスは簡単に捕獲されてしまった。
「捕まえた、任務達成引くぞ!!」
「きゃあッ!!!」
リリスが小さく悲鳴を上げ、その悲鳴を聞いた夜空がキレた。 左手で『スパイク』を生成し、そのスパイクを....
「リリスから手ェ放せ!! スキル『アクアショット』ッ!!!」
グラスフィッシュから新規入手したスキル『アクアショット』を用いて、疑似的な遠距離攻撃を行った。 水鉄砲の水圧でスパイクは飛ばされ、引こうとした男や女たちの背中に突き刺さる!
「「ギャアッ、痛ぃ痛ぃッ!」」
「邪魔だ、どけッ!!」
夜空は体勢を崩した女の顔面を容赦なく殴り飛ばし、懸命にリリスの元へと駆け寄ろうとする。 手を伸ばして、リリスの服を掴もうとしたその時!
「クズ空後ろッ!!」
コレムが夜空へ切羽詰まった声で警告する。
夜空の真後ろでは、先ほどスパイクを用いて倒した男が倒れ込みながら、何かの液体が入った瓶を夜空に向けて投げつけていた。 夜空は、リリスを助けるという意識によって反応が一瞬遅れ....その液体をもろに食らってしまった!
「なん、だこ、れ!?」
体が痺れる、動けない!!
足元がおぼつき、夜空は地面に倒れ込む。 腕だけは辛うじて動かせるが、そのほかの部位に関しては麻酔をかけられたの如く動けない。 意識を散らされたコレムも同様に、瓶の液体を食らってしまい倒れこむ。
「悪いな小僧、麻痺ポーションだ。 俺達も死にたくねぇんだ、許してくれとは言わん」
また、なんで...そんな...そんな
攫おうとしている野郎が、なんでそんな辛そうな目をするんだ!!
麻痺によって声が出せず、夜空は手をバタバタさせることしか出来ない....
==☆次回予告☆==
71話の閲覧お疲れさまでした。
中途半端な終わり方ですいません。 これ以上続けると、凄まじく長い1話になりそうだったので切らせてもらいました。 5000文字の枠組みからは外したくないです、極力ですが。
やっと書きたかった応用バトルがお見せ出来た気がします。 スキルとスキルを効果的に組み合わせてダメージを与える....夜空の基本戦術になっていきそうです。
次回、72話......その少年 怒りに燃えて!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




