70話 その親友 悩み悩んで!
夜空達は山道を走り、走り....数時間程走った辺りで人の手が入った山道へと出た。 そこそこ利用されている形跡がある為、そこまで危険では無いと判断したリリスとコレムは一息つくように荷物を地面に置いた。
「.....ここまでくれば大丈夫ですねっ」
「全く、何だったわけ? あのデブ勇者むかつく」
二人が言いたいことを言い合っていると。
「だから言っただろ、危険度が段違いだって....」
夜空がリリスに向けてそう言った。
「あの追手さんは赤印の関係ですか?」
「信じたくは無いけど、多分な。 少なくとも、俺は東の大陸で女性を襲ったことなんて無いし、機会があってもやりたいとも思わない...。 家族に顔向けが出来なくなるし、何より自分が嫌だ」
弁明はするが、信じてはもらえないだろうな。
これで、リリスとコレムとはお別れかもな。
夜空が糾弾を覚悟して目を瞑る。
しばらくの沈黙の後、コレムが.....
「最低だけど、最低じゃ無い」
そう呟いた。
「アハハ、先言われちゃいましたっ。 でも、もし夜空さんがそう言う人なら、きっと私たちも無事じゃいられなかった筈ですっ」
「アタシたち魅力的だしぃ?」
夜空は驚いたように顔を上げた後、二人の表情を見て何かを悟った。
あぁ、コイツ等は俺の方を信用したのか....と。
「....10年早い」
夜空はそう言いながら辛そうに、けれど少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべた。
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スパイクが残り、追跡が困難になったテルテル一行は街道沿いを少し追いかけたが見当たらず。 夜空達の追跡を諦め、これからどうしようかという事になっていた。
「....テルテル先輩、オニキスに一度帰りましょう.....大庭先生に報告しないと」
音越がテルテルに心配そうに声を掛けた。
この数時間の間、夜空氏の言葉が脳裏を横切った。
最後に、久しぶりに苗字で呼ばれた。
その事実が、テルテルに現実を見せる。 例え、その現実が虚偽のものであったとしても、テルテルがそれを知ることは出来ない。
「夜空氏、夜空氏....。 せめて理由を...」
夜空氏は切り捨てたんですぞ。 親友だった我すらも、過ごした時間すら惜しむことなく実にあっさりと関係を破壊したんですぞ。
「夜空んは悪魔だぃ。 必ず罰せられなければいけないぃ!」
トニールが憤怒の表情で語る。 音越もそれに賛同するように頷く。
「先輩。 もし先輩が少しでもあの悪魔を止めたいと思ってるのなら、どこまでも私は協力します。 親友が道を間違ったら、止められるのもまた親友しか居ないかもしれません」
......。
......親友として。
......我が夜空氏へ出来る事。
【※数年前のある日の放課後※】
(夜空氏~。 我が道を誤った時、盟友である夜空氏は我を助けるですぞ?)
日本に居た頃、中学の学校帰り、とあるアニメに影響されたテルテルがおふざけ半分でそんな事を言った。 夜空はテルテルの中二臭いそのポーズにため息を吐く。
(既に道を踏み外し始めてる奴が言うと説得力が違うな?)
(あの主人公の友人キャラはそんな事言わないですぞ!! ほらもう一回!!)
(嫌だよアホらしいッ! そもそも、お前みたいなオタクは足ブルって歩き出すことすらしないじゃねーか!! よってこれ以上踏み外すことも無い、以上!)
夜空が振り返ることなく歩きながらそんな事を言ってくる。
(ブーメランぶっ刺さってますぞ夜空氏)
(うるせぇ!)
他愛ない会話と学校帰り独特の空気感が好きだった。
(....でももし我が本当に間違ったら正してくれですぞ?)
(うわなにそれ、めんどくさっっ! でもまぁ、分かった分かった、そん時は人肌脱いでやるよ)
テルテルの真剣な言葉に、夜空は笑いながらそう返した。
もしあの言葉が逆にも適応されるなら。
いや、適応させるべきだ。 これは親友にしか出来ない事だから。
「一度、オニキスへ戻るですぞ。 事実を今一度我で確かめ、夜空氏が卑劣な行為を行っていたのなら...今度は我がこの手で止めるですぞ!」
テルテルは零れる涙を裾で拭き、覚悟を決めたように立ち上がった!
「夜空んへの復讐が完了するまでぇ、金稼ぎは半分おやすみですねぃ!!」
「先輩がそう望むなら、協力します!」
夜空の望まぬ形で結託した3人は、いったん報告の為にオニキスへと戻り始める。 再び相まみえた時に、夜空を今度こそ捕らえられるように....!
テルテルの足跡に...もう迷いが見える事は無かった。
トニールは御者台へ、音越とテルテルは後ろの荷台に乗り込む。 トニールは、サイ車をセブン国の方角へと走らせながら、荷台に置いてあった一羽の鳩に手紙をつけて空へと放った。
鳩は羽ばたき、一足先にオニキスへと戻っていった。
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【一方その頃、夜空達は...】
山の中を逃げていたら辺りが暗くなってきたので、予定とは違うがここでキャンプをしていくことになった。 周りは木々が生い茂り、少し暗くなると昼間に光を吸収した葉っぱが緑っぽい光を放ち始める。 異世界固有の謎植物のおかげで、そこまで多くの焚火を作らなくて済みそうで安心した。
夜空達は一言も会話を交わすことなく夕食を作り、食べ終えた。
各自思う所があるのだろう。 夜空は切り捨てた元親友の事、リリスは夜空の生い立ちの事、コレムは夜空の追手の事....。
聞こうにも、夜空の涙を見てしまった手前中々話を切り出せない。
焚火の揺れる炎だけが....その場に音を残し続ける。 夜空は炎を眺めながら、一番付き合いの長かったテルテルとの日々を思い返していた。
...気の合う奴だった。
俺は昔から友達を選ぶ人間だったと思う。 そうなったキッカケは覚えてないし、どうせキッカケがあったとしてもくだらない事だった気がする。
自然と話しかけられたらまず人に疑惑を向けるようになった。 そんな事を続けていれば不快感を覚えるのは当然だ。 だから交友関係を切り捨てられ、俺も同様に切り捨てた。
そうやって切り捨てて行く中で、自分の中にある信念が生まれた。
【家族や友達...大事だと認めた人だけは俺は死んでも守り抜くと。 交友関係が少ないからこそ、その少ない交友関係だけは壊さないようにと...】
だけど俺は....その信念に自ら背いた。
仕方が無かったという言葉で、いくら自分を宥めても後悔だけがそこに残る。 紡いできた友情という名の日々が無くなったことを遅れて実感する。
....またゲームの話でもしたかったな。
だが全て手遅れ。 時間は元には戻せない。
夜空は何もすることなく、ただボーっと炎を眺め続けている。 いつもとは雰囲気が全然違う夜空の様子に、二人は戸惑いを隠せない。
「あ、あの夜空さん?」
「何」
夜空は淡白に言葉を返す。
いつもとは違う様子の夜空に、コレムがとうとうキレた!
「あーッ! クズ空いつまでもウジウジとウザいのよ!! いつもみたいに最低にシャキッとしなさい、ほら立ちなさい!!」
コレムが竜人族のパワーで夜空を無理矢理立たせるが、夜空はやる気なく手足に力を入れる事は無かった。 夜空の目は悲しそうで、何かを諦めたような目をしていた。
「.....親友に命を狙われることになった状況なのに。 そんな直ぐには笑えねぇよ.....もう寝るわ、今日は飯要らないから二人で食ってくれ」
夜空自身も分かっている。 これは自分が望んで得た結果であり、テルテルが危険に巻き込まれることが無い事を喜ぶべきなのだと。
だけど、何処かで楽しかった思い出が自分の胸を苦しめるのだ。
夜空は横になり目を瞑る。
(日本に戻った時、俺はもう一度同じようにアイツと笑いあえるだろうか?)
そう思いながら、夜空の意識は沈んでいった。
翌朝、目が覚めても止まぬ気の滅入りを振り払って前へと進む。 朝から昼過ぎまで歩き続け、夜空達はアルテーラテルトの首都、アラブレイの近くまでやってきていた。
「行くぞ」
昨日のこともあってか全員の空気は妙に重い。 リリスは、夜空が何かをしたとは思っていないが、夜空の本気の涙を見てしまった手前何も言えなかった。 コレムに関しては時折、夜空にちょっかいをかけていたが全くの無反応を貫き通していた為に、コレム自身がいじけてしまった。
首都アラブレイからは楽しげな音楽が聞こえてくる。 音楽に合わせて踊ったり、絵を描いたり....街に入る前なのに街の外にまで露店が出て凄く賑やかだ。
「よ、夜空さんっ! あそこの食べ物美味しそうですよ?」
「そうだな」
夜空は気にしないように振舞うが、所々の動作で誰もが察せてしまうほど動揺している。 リリスは『やっぱり大丈夫です』と言いながら少し寂しそうに後ろを付いてくるようになった。
首都アラブレイは円形に区画整備がされた都市だ。 都市の外周にはレンガの壁があり、一番内側には王宮と呼ばれるアラブレイ王家の人間が住まうアラビア風な宮殿がある。
芸術大祭期間中の為、アルテーラテルト内に存在する補助テーマたちが全て首都アラブレイへと集まる為、街の中では絵や歌、演劇や彫刻などなど....様々な分野の芸術が販売及び披露されていた。
芸術に通な貴族たちが作品を買いあさり、そんなカモの存在を見た画家や彫刻家の卵たちが、その貴族とのコネクションを作ろうと努力する。
「おやおやお兄さん寂しそーな顔をしているねぇ、幸運が逃げていく音が聞こえないのかい!? ほら笑って笑ってェ!!」
街にようやく入れた夜空一行は宿屋を目指すことにした。 会話の無い道中に、大道芸のテントへ客引きをしていたピエロに夜空が捕まった。
「やめろ...」
「大道芸を見ましょう、そうしましょう! 笑って過ごせば元気100倍!!」
ア〇パンマンみたいなこと言いやがって...。
「騒がしいのは嫌いなん....だ?」
立ち去ろうとした夜空の服の裾を...リリスが引っ張ってきた。 頬を大きく膨らませながら、怒り顔と涙目でこちらを睨みつけていた。
「つまんないっ、つまんないですよこんな旅っ!! 笑顔になれない気持ちも分かりますが、少しは私やコレムちゃんのことも考えて下さいよっ!!」
リリスの大声に、一瞬人の視線がこっちに集まった。
その声に驚き、夜空はコレムの顔を見た。
「クズ空のバカ...」
....コレムは寂しさで少し泣いてた。
「.....おいピエロ。 大道芸、三人でいくらだ」
夜空は謝る意味を込めながらコレムの頭を撫で、ピエロに向かってそう言った。
大人8銀子供5銀の入場料。
夜空大人、他二人は子供計算で行こうとしたらリリスに頬をつねられた。 どうやら子供扱いされるのが、リリスもコレムも嫌らしく、結局24銀も支払う事になった。
席についた夜空達は開演まで少し待機することになる。 大道芸のスタッフから、サービスのオレンジジュースを手渡されそれを飲みながら待機する。
ちなみに夜空のジュースはコレムに飲まれた。 コレム曰く、ここに来るまでずっと無視されたお詫びによこしなさい....だそうだ、ふざけやがって。
しかし先ほど泣かれた件も相まって、強くコレムを怒ることが出来なかった。 リリスは、そんな我慢を強いられている夜空を見ながら楽しそうに笑ってた。
パーティーの空気感が元に戻り、夜空は言葉に出来ない居心地の良さを感じていた。 そしてふと思う『あぁ、リリスは俺の大事な人になったんだ』と。 恥ずかしいので勿論口に出すことなんて絶対しないが....。
大道芸が始まる。
幕が上がり、演者たちが続々とステージに集まってくる。 電気とは違う明かりのようなものが、華々しくステージを照らし演者たちが大道芸を行い始める。
「夜空さんが何を考えてるのか。 誰に追われてるのか....秘密も多いと思いますっ。 けど、けど...おいか、夜空さんが話したいと思った時は、いつでも私はその力になりますから。 だから遠慮なく頼って下さい...ねっ! パートナーさんっ」
「あぁ、いつかな」
今はまだ、もう少しこのままで。
==☆次回予告☆==
70話の閲覧お疲れさまでした。
テルテルとの敵対は書きたくないよぉ....。 ストーリー上、必要なら書くとは思いますが....。
次回からはアラブレイの話が本格的に始まります。 アルテーラテルト編が一番長くなりそうです、お付き合い頂ければ幸いです。
次回、71話......その姫君 3分の2につき!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




