69話 その親友 波長乱れて!
サイ車を降りた、トニール、音越、テルテルの3名は夜空の前へと立つ。 トニールは怒り心頭と言った感じで、今にも夜空に襲い掛かりそうなほど顔を真っ赤にしていた。
場が膠着する。
リリスが空気を読み取り、夜空を守るように少しだけ前に出た。 剣技をいつでも放てるように、体勢を変え....その場に佇む。
「....テルテル、なんでここに居る」
「行方不明だった夜空氏を探して連れ戻しに来たんですぞ」
テルテルはそう言った。 やはり、事の顛末を宰相は伝えていない様だった....俺の事は行方不明という形で処理したらしい。
「オニキスへは戻らねぇ、帰れ!」
「なんで...帰りたくないんですぞ?」
いつもとは違う少し重めのトーンでテルテルは聞いてきた。
「そ、それは...」
言えない、言えるわけが無い。
俺を庇うという事は、東大陸の赤印否定文化に真っ向から対立するという事だ。 実際、勇者が赤印であったという理由だけであそこまで俺は追い込まれた。 その事実から見ても、もし勇者が赤印の方を持つようなら....事故に見せかけて平気でテルテルやこの後輩を始末するだろう。
あの宰相ならやるかもしれない。
少しでも可能性がある以上、俺はそれに対し希望的な観測は出来ない。
「なら聞き方を変えるですぞ。 女性に性的な酷い事をして逃げたのは....事実?」
「は? なんだそりゃ」
リリスやコレムが驚いた表情で見てくるが....全く身に覚えがない。 オニキスでは女性どころか俺は大勢の人間とは接していない。 女性に性的な暴行を与える暇なんて無いし、あっても絶対やらない。 そんな事をすれば、俺は家族に顔向けができなくなる。
「は?じゃ無いッ! 偉いお爺さんに現場の写真と、被害女性の言葉きかせてもらったもん! 嘘つくな最低男!!!」
音越が強い口調で夜空を糾弾する。
写真....この世界の写真技術なら、固定カメラしか無いと思うが。 現場にわざわざカメラ運び込んで、その写真をコイツらに見せる? いくら勇者でもこんな事件に介入させるか? こういうのは治安維持を担っている連中の案件か、探偵の仕事じゃないのか?
その時、ニヤついた宰相の顔が横切った。
........!!
「ま、またッ! また、あの宰相のジジイか―――ッ!!」
夜空の激情を図星だと受け取ったのか、後輩女子が夜空に対して手を伸ばしてスキルを発動する。
「スキル『アレスト』!!」
後輩女子の手から赤い光の線のようなものが夜空に向かって伸びる! その線は夜空の体に巻き付き、夜空を一瞬で拘束した!!! 彼女の使ったスキルからは、一切音が鳴ることは無かった。 スキルが発動されると同時に警報のような爆音が鳴る!!!
「し、しまッ!!」
夜空は拘束されると同時に前に倒れる。 両腕が動かせなくなったため、自力で立つことすらできない。 リリスとコレムも事態に困惑して動けない。
「テルテル先輩ッサイ車に繋いで! 引きずってでも連れて帰るの、あの人たち泣いてたんだよッ、あの人に泣かされたんだよ!?」
「で、でも..まだ話をしてないですぞ!? 早計なのでは!?」
「話なら、尋問してッオニキスでいくらでも聞けます! 決断してください先輩ッ!! 親友を、友人だった人を捨てる覚悟を!!!!」
テルテルの心が揺れる。
親友を犯罪者としてみることにまだ迷いがあるようだ。
オニキスに行けば、俺は死ぬ。
弁明の余地すらなく、俺は事故扱いで死ぬだろう。
処刑だってあり得る。
嫌だ、死にたくない...。
でも俺は、テルテルも死なせたくない。
迷いが判断を、判断を鈍らせる.....。
多くを切り捨てながら生きてきた....だからこそ...
だからこそ....ッ!
自分が守りたいと思ったものだけは命を賭けてでも守ると誓った!
それが俺の覚悟、覚悟なんだ!!
だから守る!いつものように!
俺のやるべき方法で!!!!
「.....リ、リリスっ」
トニールと音越に引きづられていく時、夜空の口から助けを求めるように小さく声が出た。 その声を、夜空のその声を聞いた時。
自然と.....自然と......
【スパンッ!!!】
自然とリリスはスキルを斬り捨てていた。
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夜空氏とは小学校低学年の頃からの付き合いでしたぞ。
小学生の頃から、外で遊ぶよりも中でゲームの話をするのが好きだったから、自然と共通の趣味を持った夜空氏や他の数名と仲良くなった。 でも、ほどなくして、夜空氏は我以外の友達と距離を置くようになり。 そして話さなくなった。
我は聞いた、夜空氏へ何故話さないのかを。
夜空氏からの答えはとてもシンプルなものだった。
「アイツらはつまらない」
夜空氏は、冷静に人との関係を見極め...そしてダメだと判断したら切り捨てる。
その生き方は賢い反面、とても寂しい生き方とも見えた。
そんな複雑な生き方をする夜空氏と、長い間友として居られたのは...お互いに干渉してはいけないラインを明確に定め、互いにそれを理解していたからだ。
自分が好きな物と、他人と共有したい好きな物は必ずしも一致しない。 それと同様に、友だとしても踏み込んできて欲しくない領域を、オタクという存在は必ず持っている。
だからこそ、そこには踏み込まないし聞くことも無い。
他人の悩みを全て聞かなくても、友や親友にはなれる。
少なくとも、そうやって我らはやってきた。
そのせいか、確執や溝は深まってクラスで孤立した。
だけど孤独は感じなかった...。
夜空氏も同様に、孤独は感じて居なかったように思えた。
この異世界に来て、我は強い天賦を手に入れて大事な関係を見落とした。 夜空氏に孤立の道を辿らせ、この異世界で一人で考え生きていくという業を背負わせた。 嫌いな相手に素直に聞きに行くほど、夜空氏の心は純真では無い事を知っていた筈なのに。
その事に気づき改めようとした時には、夜空氏はオニキスから消えていた。
捕えるつもりは正直無かった。
話を聞いて、一緒についてきて貰えればいいかなぐらいに考えていた。 今回の件に関しても、何かの手違いによる冤罪だという、証拠の無い確信があった。
だけど今、我は長年の付き合いによる勘から、夜空氏の触れてはいけないラインが近くにあるような気配を感じ取っていた。
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「テルテル先輩ッ! あの剣士の剣を壊すスキル使って下さいッ!!」
「させないわッ、リリスはアタシが守るの!!」
音越とコレムが対峙する。 夜空は拘束された衝撃で腕を痛めたのか、痛みで顔を歪ませている。 リリスはそんな夜空を心配そうに庇いながら、テルテル一行に向けて敵意丸出しで睨みつけていた。
放心するテルテル。
勇者の責務か、それとも友情か....。
二つの相対する思いが天使と悪魔のようにぶつかり合う。
「ほんと使えないですねぇぃ!! 夜空ん、あんの時のお返しですねェィッ!!!」
トニールがカバンから爆弾を取り出し着火する。 着火された爆弾をトニールは思い切り空中に向かって投げた。 怒りで爆発先に、夜空以外の2名が居ることさえ見えていないようだ。
「ふざけんなッ! 火遊びなら他所でやれッ!!」
夜空は叫びながら、空中に投げられた爆弾に向かってスキル『ハイパーウェーブ』を無詠唱発動し、崩壊性のある音波を使って破壊した。 爆音と爆風でトニールのサイ車のサイが興奮する。
「夜空ん、潔く死ねぃぃぃぃッ!!!!」
「夜空さんっ、後でしっかり事情お願いしますねっ!?」
リリスは夜空に念を押しながら、攻撃してきたトニールを敵と見なして突っ込んでいく。 音越はそんなリリスを見て、拘束するためにスキル『アレスト』の用意を始める。
「その縄みたいな奴撃ったら、アンタごとニトロレーザーで吹き飛ばすから!」
コレムからの警告に音越の動きが止まる。 音越は一緒に来た商人の危機を悟り、必死の形相で訴えかける!!!
「先輩ッ、テルテル先輩ッ! お願いです、動いてくださいッ!!!!」
その声に我に返ったテルテルが動き出す! 親友の見たことも無いような不思議な動作に、夜空は瞬時の察する。
天賦だッ!!
「マズイ、リリス引け―――ッッッ!!!」
夜空が叫ぶが...!
「天賦、震源点・M7、ポイント・オブ・ビュー!!!」
テルテルは目線を、トニールとリリスのちょうど中間あたりの地面に定めて叫ぶ。 目線の先の地面に震源点が設定され、そこから大地震並みの揺れが生じて大地を破壊する!
凄まじい轟音と共に大地が裂け、割れて、地面が隆起する。 あっという間に、その場所には丘が出来上がってしまった....。
夜空、リリス、コレムの3名は悲鳴を上げ転んで少し後ろへ吹っ飛ばされる。
「いたた....。 今のって、て、天賦!?」
「あのデブ男、勇者ってわけ!?」
勇者を見たことない二人はかなり戸惑っている。
天賦【震源点】、オニキスで詳細をテルテルから聞いてはいたが、実際見るととても強力な天賦だ。 俺のカス天賦とは比べ物にならない程性能が違う。
これが勇者の力。
「だ、大地が変形した...。 俺のゴミ天賦と....こ、ここまで性能が違うのかよ、クソゲーじゃねぇか!」
はっきり言って勝負にならない。 もしあの震源点とかいうのが、体内にも設置できるのだとしたらもう積みだ。 体内を揺らせば簡単に人を殺せるし、脳を揺らせば脳震盪を引き起こさせて気絶させることも容易だろう。
「夜空氏...せめて話だけでも....」
テルテルは悲しそうにこちらを見ている。
「うるせぇッ! よくも仲間に向けて天賦打ちやがったなッッ!?」
何か、何か無いか...。
天賦持ち二人を出し抜き、ここから逃げおおせる方法。
....あれもダメ、これもダメッ!
夜空は頭をフル回転させる。
せめて視界を塞げれば....何かを仕込む時間が出来るのに...!
「先輩逃げようとしてますッ」
「待つんですぞ夜空氏ッ、話をッ!! まだ我はッ!!!」
走り出した夜空達を追うように、音越とテルテルが走り出す。
出来たら良かったよ、出来る事なら...理解して助けて欲しかった。
このまま逃げれば、テルテルはきっと悲しむ。
だが、話せば....テルテルにまで危険が及ぶ。
それでも....分かりあいたい。
でも、それはきっと不可能だ。 俺はその選択だけは出来ない。
ならいっそ、捨ててしまおう....俺の事を敵だと認識できるくらいに
「関与してくんな輝倉ッ! コレム、地面にニトロレーザー撃て!!」
あえて、あだ名では呼ばなかった。
その違和感に気づいたテルテルの足が..........
止まった。
コレムは『命令すんな!』と文句を言いながらも『ニトロレーザー』を地面に向かって射出する。 着弾したレーザーは爆発を引き起こし、辺り一帯に爆風と爆炎を起こした!
同時に夜空は両手に『スパイク』を使用する。 ありったけの量のスパイクを生成したら、それをトラップのように無数に配置した後、街道方面では無く....近場の山に向かって駆け出す!
トニールがスパイクの張られていない場所から回り込み、負けじと追いかけようとするが....コレムがとっさの機転で『閃光』を放ちトニールの目を眩ませた。
「あんぎゃァァァィィィッ!!!」
トニールが悲鳴を上げて地面を転がる。
夜空が転がるトニールを蹴り飛ばして遠くに転がした。
爆炎の奥に居るであろう夜空に向かって、音越が当てずっぽうで何度も何度も『アレスト』を使用するが一発も当たることは無く。 テルテルの天賦を使って舞い上がる土煙を吹き飛ばした頃には、そこには夜空一行の姿は無かった。
「夜空氏ィィィィ――――――ッ!!うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
テルテルは大声で叫びながら、宰相から言われたことが真実であると、己の頭に受け入れるように.......大粒の涙を流して地面を叩いた。
我は、ごめんの一言すら言えなかったんですぞ。
「........」
夜空達はとにかくあの場所から逃げるように道なき道を進み続ける。
「クズ空なんかいいなさ....い?」
「夜空さん?」
二人は走る夜空の顔を覗き込んで、それ以上は何も聞かなかった。
リリスとコレムは始めて夜空の涙を見た。
頬を伝う涙を隠すことなく、夜空達は道なき道を走り続けた。
==☆次回予告☆==
69話の閲覧お疲れさまでした。
最悪の再開となってしまいましたね。 ちゃんと事情を説明して、助けてと求められるほど夜空は素直な性格はしてないのです。 そして、夜空の歪な優しさ?....巻き込ませたくないから、切り捨てる選択をする。 自分が守れない、守れる強さを持ってない事を分かってるからこそですね....色々、複雑で歯がゆい気持ちですね。
最後の夜空の涙で、察してくれると作者嬉しい。
今後の、テルテルと夜空の関係にも目を向けてやってください。
次回、70話......その親友 悩み悩んで!
早くも70話、それなのに全体の30%ぐらいしかストーリー終わって無いという地獄。 これ完結までどれくらいかかるんだろうか....。 ですが失踪せず、気ままに書いていきます。
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




