68話 その足取り 大祭へと向けて!
夜空一行の居るホワイトタウンから、首都アラブレイまでの距離は、歩きで約3日の距離にある。 途中に、首都のテーマの影響を受けた村が一つあり、旅人はそこを中継地点として双方の街へと向かう。
他国から他国への道では無く、自国の首都から街への道なので流通も盛んだ。 芸術大祭の影響もあり、遠路はるばる外国からやってくる旅人も相まって結構な人とすれ違っていた。
そんな街道沿いを夜空一行は歩いていた。
道行く人たちは、歩きの人もいれば金を払って馬車で移動する人もいる。
夜空は、ガイドブックからこの世界の街が点在している理由を知った。 この世界には、魔物がよく出現する大地とそうでない大地、そして人間が管理した上で魔物が出現しない場所の3つが存在する。
ガイドブックに載っている灰色の場所は、地理や気候、魔物の発生などで人が完全に住めなくなり...また維持費の関係から隣国や諸外国にすら見放された大地だという。 オニキス鉱山で発生したフレイムバット...。 あれが何故、亜種型と言われたかというと、本来人の手で管理された場所で魔物が出現したため亜種とされたのだ。
本来ならば、絶対に出現しない場所で出現したのだ....イレギュラーな個体としてみなされて当然だろう。 灰色で記された大地ではソレらも、安全な大地に比べ起こりやすいというのも特徴的だ。 もっと分かりやすく言うなら、街の中でも魔物が出現するから危ない...だ。
ほら、セブン国でもホワイトタウンでも起こってないだろ?
街の中に魔物が攻め込んできて活躍、主人公キャーは空想上の産物という事だ。 この世界に住む人間達だって危険は極力避けるし、魔物が簡単に侵入できないような対策だってする。
この世界に来てから、色々と小さな夢が壊れていく気がする。
異世界の現実なんて知りたくなかった。
夜空達は歩みを進め、野宿を1日終え....中継地点である村へとたどり着いた。 その場所は、村というには大きく、街というには小さい程度の場所だった。 この時期、多くの冒険者や商人が行きかいとても賑やかな雰囲気がある。
そんな村の宿屋で、夜空は現在窮地に立たされていた。
「え? 二部屋用意できない?」
「あぁ、現在空いている部屋がツイン一つだけなんだよ....すまないね」
宿の女将が夜空に対して業務的に謝罪した。
マジか、前の村でもそうだったが俺は村の宿に泊まれない呪いでもかかってるのか? ....デカいお祭りが近いんだからしょうがない事なのかも知れないけど。
「どうしよ」
悩む夜空をどかして、リリスが女将に対して
「敷布団の貸し出しとかってやってますか?」
「そのぐらいはやってるよ。 でも...年若い少女と男が一緒の部屋に泊るってのもねぇ」
女将の懸念はもっともだが、せめて俺が居ない所で言えと夜空は思った。
「....俺は別に他の宿でも」
「あてなんて無いですよねっ!」
リリスの言葉に夜空は反論できない。
別に一緒に寝るぐらい、年齢的に妹だと思えば別にどうってことは無いのだ....俺の懸念点はそこでは無い。
夜空はチラリと後ろで小さくあくびをしたコレムを見た。
....コレムがなんて言ってくるか分からないしなぁ。
その視線に気づいたのか、夜空を一瞬だけ睨むと諦めたようにこう言った。 『ッ変な事したらボコボコにするからッ!』と、実にコレムらしい許可をもらった。
「コレムちゃんもこう言ってますし」
「じゃあもうそれで。 早く荷物置きたいから手続きしてくれ」
そのやり取りで安心したのか、女将は宿の予約手続きを始めてくれた。 部屋のカギを渡される直前に『慕われてるのね』と女将に小さく言われたが.....俺はとてもそう思えない。
「....ご飯どうしましょう、宿から夕飯出ないんですよねっ」
「俺が作る。 厨房借りれるよう女将に頼んでくるよ」
リリスと夜空のそんな会話に、コレムは混ざりたそうにしながらも混じれない。 少し旅をして分かったが、コレムは基本的に料理が出来ない。 一人で旅をしていた時は、持ち前のサバイバル知識を生かして、生で食べられる果物や魚を直火で焼く位しかやっていないかったようだ。 だから、夜空達と旅を始めて久しぶりのまともな食事にありつけたとき、リリスだけに『まぁまぁね!』とか嬉しそうに言ってた。
温室育ちの日本人である俺は、この世界の食事情に満足できているとはとても口には出来ないが....調味料も材料も少ない中で俺たちのパーティーはよくやってるほうだと思う。
「....とりあえず飯の準備するわ。 そろそろ始めないと夕飯に間に合わない」
夜空は50銀だけ持って部屋を後にする。
「はーいっ」
「マズいの作ったら承知しないから!」
素直な奴と生意気な奴に声を掛けられながら、なんとかして料理で生意気な奴をギャフンと言わせられないかと考え始めた。
商店で食材を吟味していると面白い物を見つけた。
「牛乳だ」
棚に置かれたのは冷蔵も何もされていない牛乳。 腐らないのかという心配は杞憂だった、商店の裏手の方からかすかに牛の匂いがしたからだ。
.....シチューなんてどうだろうか?
そこそこ簡単だし、何より上手い。 この世界にシチューがあるかは知らんが、これならそこそこコレムを驚かせること可能だろう。 リリスに関しては好き嫌いしないタイプだから問題なしだ。
「そうしよう、そうしよう」
夜空は、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎや鶏肉、牛乳とチーズやバターなどを購入した。 シチューに必要そうな物を最低限買い終えた夜空は、厨房を借りて見ず知らずの他の人たちの横で作業を始める。 厨房内には、既に2組の人たちが作業を行っており...肉を焼いたり、野菜を切ったりしていた。 冒険者風の男はどこぞで見た空飛ぶイワシを調理していたが見なかった事にした。
鶏肉を軽く塩で炒め下味をつけた後、鍋で切った人参、玉ねぎ、ジャガイモと共に鍋の中でバターと共に全体に火が通るまで軽く炒める。 鍋に薄力粉を加えて混ぜ、牛乳を入れて煮立たせる。 しばらくの間煮立たせたら、そこに炒めた鶏肉を入れて軽く擦ったチーズを中に入れる。
後は焦げない様、かき混ぜておしまいだ。
料理に詳しい人から見たら手順がおかしいのかも知れないが、家のみんなが食えてそこそこ上手い飯...という形で作っていた俺からしたらこの程度のクオリティーが限界だ。
ルーの代用品を知っていたのは、母がよくルーを買い忘れていたからだ。 シチューなら行けるが、カレーやビーフシチューは複雑すぎて無理。
だが、そんなもんだろう。
いつの間にか厨房内にはシチューの香りが漂っていた。 その香りが新鮮なのか、調理中他の二組がそれとなく覗きに来る。
夜空は借りた皿にシチューを盛り付ける。 それをトレーに乗せて、購入したパンと一緒に借りた部屋へと持っていく。 ちなみに余ったシチューは、残してても仕方ないので欲しがってた2組の宿泊客へあげた。
「出来たぞ」
夜空が部屋に入り、テーブルの上に料理をおいた。 目の前の白色の液体を見たことが無いのか、コレムもリリスも困惑している。
「な、なによこのマズそうなの...」
「夜空さん、こ、これは?」
....そんなに嫌がる物かね、これ。
「シチューだよ。 俺の故郷の料理だ、食いたくなきゃパンでも齧ってろ」
夜空は一人でシチューを飲み始める。 ルーを使った時よりも美味しくは無いが、普段この世界で食ってる料理より何倍もマシだ。 料理が出来る自分の腕にこれほど感謝した日は無いかも知れない。
リリスもコレムも戸惑っていたが、皿から漏れだす美味しそうな匂いに釣られるようにスプーンを伸ばした。 シチューをすくって口に運び、恐る恐る口の中へと入れた。
「「お、おいしい」」
リリスは美味しそうに食べる。 コレムも余程気に入ったのか、何も言わず無言で直ぐに平らげてしまった。 全てを食べ終わった後、恥ずかしさで顔を赤くしながら『ま、まぁまぁね』と苦し紛れにそう呟いた。
「そんなに気に入ったのか。 おかわり用意しとくんだったかな」
「無いんですかっ!?」
あからさまにしょんぼりするリリスとコレム。 まさかこんなに大好評だとは思わなかった、食文化をテーマとしている国とかに行けばまた違うのかも知れないが....やはり、この世界の食文化は娯楽文化同様あまり発展していないようだ。
「また作るよ...」
そう言いながら夜空は、部屋にあった新聞を手に取った。 どうやらいつの間にか、リリスが買ってきていて見ていたらしい。
新聞の一面にはこうあった。
【スピールト他民族国家とヘルカ軍事国家が戦争。 ヘルカ軍事国家は実質的な国家崩壊か?】
...なんだこれ。
「おい、この一面って」
夜空が戦争の見出しを指さしながら問いかける。
「あぁ、西大陸で大きめの戦争があったみたいですっ。 詳しい事までは書かれてませんが、勝利はスピールト側でヘルカ軍事国家は敗北したみたいですよ?」
物騒だな、何があったんだよ。
春...こんな場所に居たりしないよな?
「西だし、そこまで南が被害を被る事は無さそうだな」
夜空は新聞を投げて机に置いた。 だからこそ、夜空は見つけられなかった。
新聞の見出しの少し横に
【勇者の光、戦場を駆けて軍を救う】と書かれたその一文を。
寝る前の支度を終え、各自自由に眠りにつく。
夜空の寝床は勿論敷布団だ。 始めはベッドで寝ようとしたのだが、リリスに『それは無いです』と言われたので渋々床で寝る事になった。 夜空の不幸に、コレムは大変うれしそうだ。
よく漫画やアニメであるような、甘酸っぱい展開等も特になく。 涼し気な南大陸の風の中、夜空は眠りについた。
そして深夜3時を回った頃....
「暑苦しい...なんだぁ...」
夜空は何故か妙に暑苦しいため目を開けた。 すると、その隣には何故か.....コレムが眠っていた。 夜空は本気で困惑した、なんでベッドで寝てたコレムが自分の隣で寝ているのかと。
静かに距離を取り、状況を詳しく確認する。
コレムは夜空から枕を奪い取り、その枕に顔を押し付けるような形で気持ちよさそうに眠っていた。 暑いため、掛け毛布はそこら辺に蹴り飛ばしている。
コレムの寝ていたベッドに視線をやると、少しの間は寝ていたようだが直ぐにこっち側に移動してきたような感じが残っていた。
「こいつわけわかんねぇ。 俺の事嫌いなんじゃねぇの?」
夜空は静かに呟き、しょうがないのでコレムのベッドで寝る事にした。
そして翌朝、リリスのチョップで目が覚めた。
「なんで位置が入れ替わってるんですか?」
「....もっと優しく起こせ。 というかその件に関してはコレムに聞け」
夜空はあくびをしながら答えた。 リリスは夜空をジト目で見つめながら、何処か不服そうに頬を少し膨らませた。
「まぁいいです。 朝ごはん出来たので食べましょう、コレムちゃんも起こしますねっ!」
「そーしてくれ。 俺が起こすと色々うるさいからな」
起こされたコレムは、恥ずかしさからしばらく『クズ空が悪い』と言っていたが、しばらくして『知らないしッ』とシラを切り始めた。 これ以上の追及は無駄だと判断したリリスが、追及を止め『もういいですから』とコレムの頭を撫でた辺りでこの問題は終了した。
お年頃の少女の考えはよく分らない。
その後、俺達は再び街道沿いを歩き始める。 街道沿いは昨日とは打って変わってあまり人とすれ違わない。
「この道であってるよな?」
「はいっ、合ってます。 他の方はより安全なルートで行ってるのかもしれないですねっ、その代わり時間はかかるみたいですけど」
....リリスとそんな会話をしている時、後ろからものすごい何かが砂埃を上げて近づいてくる。 明らかに砂埃は夜空達を目指しているように感じる。
そして砂埃が接近してきたときに、夜空の持つスキル『野生の勘』が危険を察知した。 直ぐに夜空は後方に振り向き警戒をする!
「何なのよアレ!?」
砂埃を見たコレムが声を上げる中...。
「お前ら警戒しろッ、検知系のスキルに引っかかった!!」
夜空の一言で、リリスが蒼脚光の剣を鞘から抜く。 コレムも、手をグーの形にして喧嘩の構えをした、夜空はスキル『野生の勘』を発動しながらその場で警戒し続ける。
砂埃の正体は、何処かで見たような感じのサイ車。 その運転席に乗るのは.....
「お久しぶりですねぇぃ! 夜空んッッッ!!!!」
「ト、トニールッ、なんでココに!? サイ車ごと吹っ飛ばしたろお前ッ!」
激怒した様相のトニールと、荷台には....この場に居るのはおかしいテルテルと、テルテルに気があるであろう...クソ生意気な後輩が乗っていた。
「ほんッと最低! 必ず捕えてオニキスへ連れ戻すッ!!!」
後輩の子【音越 ぬい】が夜空に向かって叫ぶ。 その隣にいるテルテルは、夜空に対し疑惑のような目を浮かべながら....どこか表情を悲しそうにしていた。
==☆次回予告☆==
68話の閲覧お疲れさまでした。
街が点在している理由が明かされましたね? ....魔物が何故発生するのかについては、しっかりと理由がありますので、また別の機会にお話しできたらと思います。
最後、トニール出ましたね。
覚えてらっしゃらない方は== 大陸外逃亡編 ==を閲覧頂ければ(※3話あります)
次回は再開の回になると思います。
が、果たしてハッピーエンドの流れになるのか....ご期待ください。
次回、69話......その親友 波長乱れて!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




