67話 少女たち 旅の理由は!?
「ふぅ、さっぱりですねっ」
「またしばらく入れないの嫌」
風呂で今日の依頼の疲れを落としたコレムとリリスは、明日が出発という事もあり既に寝る支度に入っていた。 昨日とは違い、今日の夜の天候は非常に涼しく寝やすい夜だった。
リリスは部屋の明かりを落とし、宿の棚にあったマッチを使って小さなランタンに火を灯す。 マッチの火を消して捨てて、ベッドに横になりながら優しく揺れる火をリリスは眺める。 外から吹く涼しい風が、リリスの美しい銀色の髪をサラサラと揺らす。
「......コレムちゃんまだ起きてますか?」
「何?」
コレムは、仰向けに寝ながら頭だけをリリスのベッドの方へと向ける。
「少し、お話しませんか?」
「....しょうがないわね。 少しだけだからね?」
コレムはそう言いながらも嬉しそうに笑った。
二人で色々な話をして親睦を深める。 好きな食べ物、故郷の友の話、趣味などなど....ある程度話した時、リリスが恐る恐ると言った感じでコレムに聞いた。
「どうしてコレムちゃんは私達のあとを付いてきていたんですか? 私ずっとその理由が気になっていて....いや、別についてきて欲しくなかったとかそういう訳では無いですけど.....」
コレムは少し、いやかなり悩んだ後...顔を赤くしながら
「言っても笑わないって約束して、約束するなら言う」
そう、呟いた。
「........」
リリスは真剣な顔つきで頷いた。 それを見たコレムが、何かを諦めたようにため息を吐き、ボソボソと話し始める。
「わ、忘れてたのよ。 言うの....」
「忘れてたって?」
「あの村で、宿の部屋貸してもらったお礼....あ、ありが...ありがとうって」
「えっ!? あの夜空さんがわざわざそんな事を!?」
あの夜空さんが....。
いやでも、イェーガーさん?の時も私を助けて屋敷まで運んだりしてくれてましたし....夜空さんって不思議な人です、面倒見がいいんだか悪いんだか。
リリスは、夜空が宿に泊まって居なかったことを今知った。 それに驚くと共に『あぁ、やっぱり夜空さんらしい優しさですね』と嬉しそうにほのかに笑った。
「それで追いかけてきたんですか?」
「な、なによ悪いッ!? だから言いたく無かったわ、絶対笑われるし!」
顔を隠すようにコレムは掛け毛布に潜り込む。
「わ、笑ってませんよっ~」
「自分の顔、鏡で見なさいよ...うぅぅ」
リリスは自分の顔をこねてもとに戻そうとするが、夜空が...自分のパートナーが陰で良い事をしていた事実が嬉しくて中々顔が元に戻らない。
「結果論ですけど、それで成り行きで一緒に旅することになったなら縁があったんですよっ。 感謝を言えるタイミングなんてこれから沢山あります、だからコレムちゃんのスピードで大丈夫ですよっ。 それに夜空さんも、恩着せがましくしたいわけでもさなそうでしたしっ」
「.....旅してく中で、お礼を言うべきか迷う事もあったけどね」
「うぐっ....」
それに関しては反論の余地なしでリリスが苦しそうに黙った。
「....少しは反論できない訳? まぁ、無理よね」
「コレムちゃんだって分かるでしょうっ、反論しずらいんですよあの人っ!」
「あー、うん....分かるわよ」
コレムは夜空の言動を思い返す。 『それとも宿屋まで蹴り飛ばされたいのか?』とか『いいからこの金を旅費用として俺によこせ!!!』とか......。 確かに、リリスは苦労しているようだと少し、いやかなり同情した。
「はぁ、旅をしてるのはそんなクズ空と一緒に居たいから?」
コレムが唐突にそんなことを言って、リリスの顔がみるみる内に赤くなっていく。 無自覚の恋という奴だろうかと、コレムはリリスに対して呆れたため息を吐く。
「た、確かに夜空さんと旅がしたくて強引に国を出ましたけど、別に理由はそれだけじゃ無いというか....」
人差し指同士をつつきながら、リリスが言葉を濁らせる。
「もったいぶらずに言いなさいよ」
コレムは分からんというような表情を浮かべた。
「私の実家は剣士の家系です。 ですが、元王族...貴族の家系でもあるんです」
コレムは一瞬、リリスの王族という発言に驚くが。 自身の事を『わたくし』と称したりしている所を見るにその風潮はあったなと思い返す。
「元貴族なら尚更旅なんて....」
「私は女です。 貴族の娘であるならば、いつかは他家へ嫁ぐ日がやってきます。 その時に、自分の娘を授かった時に、剣を握り続けられる方はどれほどいるでしょうか?」
「.....??」
幼いコレムには少し難しいのか首を傾げる。
「いくらテーマでも、私のお母様は剣を降ろしました。 お兄様と私を育てることに専念するために....。 私もきっとそうしてしまう」
「剣を握りたいから、クズ空と結婚するの?」
リリスの顔が赤くなる。 違う違うと必死に首を振る。
「....単に問題を先延ばしにしているだけです。 いつか来るその問題から目を背け続ける....私って本当に子供ですよね」
リリスは悲しそうに窓の外を眺めた。
月夜の光がリリスの髪を幻想的に輝かせていた。
「どうせ旅に出るなら....気の合う人と居たかった。 それだけですっ」
ゴロンと、リリスは自分の顔を見せないようにコレムに背を向ける。
リリスの顔は、ここ最近の出来事が楽しく、そしてとても充実しているかのように幸せそうに笑っていた。 その顔は....恋する少女の顔だった。 その顔に、少しだけコレムの胸の内がキュッとなった気がした。
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朝、何やら騒がしい外の音で夜空が目を覚ます。
音は『領主様ー』とか『いってらっしゃいませー』とか『自分の作品の評価を!』とか....なんか色んな人が詰め寄り駆けよりって感じの声が聞こえる。
「なんだよ、朝っぱらからうるせぇな。 まだ7時だぞ...」
まだ涼しい朝の空気を入れるために、窓のカーテンを開けて外を見る。 街に一つしかない門のあたりに視線を移動させると、そこには人だまりができ、その中央には豪華な馬車があった。
「領主ってあれだよな? 街というか土地を収めてるっていう....よく知らんし、さほど興味もねェけどさ....」
日本に、未だ領主という文化が残っているのか否かまでは分からないが。 少なくとも夜空の知識の中だけではそのような解釈になっていた。
「あほらし、掃除しよ」
眺めててもしょうがないので、夜空はお世話になった宿への感謝も込めて掃除をすることにした。 どうせやってもやらなくても、宿が綺麗にすることは分かってはいるのだが。 こういう所で日本人の嵯峨というモノが出てしまう。
.........。
「ふぅ、まぁ...こんなもんだろ」
ベッドシーツを剥がして綺麗にたたむ、ゴミをゴミ箱に捨てて机を濡らしたハンカチで拭く。 水道が一部しか完備されていないこの場所だと、少しハンカチ濡らしに行くだけでも結構な重労働だという事が分かった。
というか、リリスとコレムが部屋にこねぇ。
まさかとは思うけど、まだ寝てたりしないよな?
夜空は女子の為に借りたツインの部屋の前に立ち、ドアを数回ノックするが返事が無い。 『開けるからな』という一言を置いてから中へ入ると....そこには。
爆睡しているリリスとコレムが居た。 夜空は、着替えとかしてなくて良かったと内心思いつつも、出発日の早朝にこの始末.....少々呆れる。
夜空は黙って二人に近づき、二つのおでこに計2発デコピンを入れた。
「い、痛っ、痛いですっ」
「な、なにすんのよクズ空! 女子部屋にくるなんて最低!」
ふたりして俺を糾弾するが...
「うるせぇッ、俺飯時言ったよな『明日朝早いからな』ってッ! 出発すんだよッ、さっさと支度しろ!」
「....だからって起こし方が、他にあると思いますっ!」
「そうよ、そうよ!」
「そうかい、じゃあ今度はベッドからつき落としてやる!」
ことごとく最低発言をする夜空に対し、二人は顔を見合わせてドン引きする。 何がそんなにおかしいのか、昨夜の出来事を知らない夜空はひとり首を傾げた。
準備をして、最低限の旅の備品を店で適当に買い。 午前10時半を少し過ぎた頃にようやく準備が終わった。 この世界の道具屋は開店が早くて助かる、その分夕方の4時にはほとんどの店が閉まることにはなるが。 今にして思えば、セブン国でよった道具屋の店主は夜間営業を好むタイプだったんだなとは思った。
「....何買ってるんだアイツら」
リリスが、買い物中『女子だけの時間を下さいっ』とわざわざ言ってきたので、リリスとコレムと別行動することになった。 そのため、ほんの少しの時間だけ夜空は別行動を取ることになった。
ちなみにリリスとコレムは着替えなどを買っている。
主に下着などの類だが、それを夜空が知る術は無い。
しばらく歩いていると、先ほど人だまりがあった門の前の広場に辿り着いた。 人だまりはすっかり消え、夜空達が街に入ってきたときと同じようなのどかな空気が流れていた。 門をスケッチしようと集まった画家の卵たちが必死に筆を動かしている様も、数日たった今ではすっかり見慣れた光景になってしまっていた。
夜空は近くにあった、一人分席が空いていたベンチに腰をかけた。 隣には、前にこの街のアトリエで会った青年が青ざめた表情で座っていた。
面倒事の予感を感じ取った夜空は目を合わせない様にして隣に座る。 本当なら座らずに立ち去りたいが、買い物中ずっと立ちっぱなしと荷物持ちだったことも相まって腰がやばい。
「は、はは....終わった、師匠になんて言えば....」
青年は悲しそうに呟く。 その手には真っ二つに切り裂かれた画用紙が握りしめられていた。 青年が持っているせいで中身はあまり確認できないが、どうやら師匠の家をモデルとした油絵のようだった。
(....アイツら早く買い物終わんねぇかな)
こういう暇な時間、日本じゃスマホ弄ってたなと手元が少し寂しくなった。 今度、本屋で面白そうな本でも買っておこうと決意する。
「これから、どうしよう...。 両親に顔向けが...うぅ」
再び青年は泣き出した。 青年の近くの席が空いていた理由が分かり、ため息をついた。 そのため息が青年にも聞こえたのか、青年は夜空の方に振り向いた。
「き、君は...あの時の」
くそったれ、気づかれたよ。
「人違いでーす」
「えっ」
流石に困惑された。 面倒事は御免だが、変人扱いされるのもそれはそれで不愉快ではある。 俺は正常だ、俺は立派な一般人代表だからな。
「絵...書くの止めたの?」
「あぁ、これか....。 結構努力して描いたんだけどな」
寂しそうな目で切り裂かれた絵を広げた。 言い方からして、どうやら自分で切り裂いたわけでは無いようだ。 そもそも自分で切り裂いたら捨ててるし、大事に抱えてる訳ないが。
「また描けばいいじゃん」
「無理だよ、そういう問題じゃない。 私にはもう、キャンバスに向かう資格すら無い」
....本当に何があったんだ。
そう思った時、例の謎の言葉が頭をよぎった。
「....描けぬ民」
「知ってたのか....ハハ、いっそ笑ってくれ」
「笑わねぇよ。 俺は旅人、お前らのテーマのタブーなんか知らないし、興味も無い」
夜空は青年を見ずにそう言った。
「.....描けぬ民ってのは、領主に作品を見てもらって判断してもらうんだ。 領主の家系、王家アラブレイは絶対的な美的センスを鍛えられてるから....。 そこで判断されるんだ、センスの有無を、そして無かった場合.....」
青年はそこまで言って言い淀んだ。
「描けぬなんちゃらって言われるのか。 でも、ただ領主に言われただけなんだろ...作品を見る目なんて無数にあるわけだし、鍛えられると言っても好き好きの問題だってあるだろ」
「神の視覚で鍛えられてるんだ...。 彼ら彼女らの言う『芸術』は世界の決定概念。 絶対に正しい物にしか、彼らは良しを出さないんだ」
危ない宗教みたいな信じっぷりだ。 それとも、王家や領主の方に何か...民の意思をここまで支配できるほどの絶対的な物があるのかもしれない。
この世界の常識を知らない夜空は判断に悩む。
「ますますわからん。 それはそうと、アンタこれからどうするんだ?」
「....師匠に事情を話してから、国を出てどこか国で寂しく過ごすよ。 どのみち私には絵しか無かった。 その絵を描けぬ民として否定されては、アルテーラテルトでは生きていけないから」
「師匠が止めたりー...しないか、あの狂いぷっりだもんな」
「師匠は芸術狂いだから、才能の無い者には興味が無い。 だから多分、追い出された他の弟子同様、...私もアトリエから追い出される」
芸術に生き、芸術に狂った女。 実に芸術の国らしい闇だ、この世界には明るい国なんて無いのかもしれないな。 それは日本の表面と裏側でも言えたことだが。
「そうか」
夜空は買い物を終えたリリスを見つけ立ち上がる。
「行くのか?」
「うん、連れが用事を済ませたからな。 じゃあな」
「貴方も元気で」
夜空は青年に別れを告げた。
『頑張れ』とか『描くことを諦めないで』とか...そういう事を言うのは失礼だと思ったから、あえて言わなかった。 芸術家としての焦燥や葛藤も、何も知らない薄っぺらい人間から言われた言葉は、あの青年の心を更に苦しませる結果になるから。
あと、めんどい。
「テーマね」
今までいろんなテーマを見てきた、そして毎度思う。
自由に生きるとは何だろうと。
一生をテーマに束縛される気持ちはどうなんだろうと。
テーマで壊された他人の人生を振り返る善人などそう居ない。 テーマに生きた人間は、堕ちた人間を見て焦りを覚えるか、滑稽だと笑みを浮かべて通り過ぎるか....その2択だけだ。
だがもし、その生き方が幸せだと言われた時...
俺は自分の生き方に自信がもてるだろうか?
その答えを出すには、今はまだ....経験が足りない。
==☆次回予告☆==
67話の閲覧お疲れさまでした。
いやー、テーマの闇が出てきましたね。 シリアスは苦手ではありますが、テーマの闇は毎回考えてて楽しいモノがありますね。
次回は少し意外な人物が登場すると思います。
次回、68話......その足取り 大祭へと向けて!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




