66話 さあ少年 お金を稼いで!
....ハンカチが見当たらないんだけど。
早朝、暑さで起きた夜空は、自身の汗を拭くために昨日洗濯したハンカチを探していた。 しかし、椅子の背にかけてあったハンカチが何故か見当たらない。
「あれぇ? 俺、昨日洗濯したよな?で、椅子の背に....あれぇ?」
夜空はずっと使っているバッグの中をまさぐるが....やはり無い。 夜空は勿体ないと思いながらも、仕方なく新しいハンカチを使う事にした。 別段高いモノでも無いので、落としたなら落としたでしょうがないなと諦める。
そういえば、俺部屋に鍵かけ忘れたかもしれないと思いながら、朝食前の歯磨きなどの朝の準備を行うために宿の庭にある井戸に向かった。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
朝の支度を終えた夜空一行は、先日と同様に冒険者ギルドまでやってきていた。 コレムは慣れた足取りで冒険者ギルドの受付まで行き、リリスが頑張って受理した依頼を引き受ける。 コレムが依頼を受理する際に、ポケットから何かのカードを取り出して受付に差し出した。
「はい、冒険者ランク=〇●●=を確認致しました。 カードお返ししますね」
「ありがと」
夜空には、決して見せないような柔らかい笑顔をコレムは浮かべる。 どうしてここまで態度が違うのかと、思い当たる節が無い夜空は頭を捻る。
それはそうと、冒険者ランク=〇●●=は凄いのだろうか? 昨日のコレムの感じを見ているに、種族チート全開で依頼をこなしてきたっぽいからそこそこの階級なのかもしれない。
「冒険者ねぇ」
この世界にいてしばらく経ち、俺は明確に理解したことがある。
俺は戦闘弱者という事だ。
フレイムバッド、イスカルに、パニックウルフ、イェーガーに、ウシ型の魔物.....あとは俺を殺しかけた石の手の魔物などなど。 人族や別種族、様々な魔物と戦い、そして毎回毎回絶対怪我してる....これを弱いと言わず何というのだろう。
結論、俺が冒険者になったら死ぬ。
「ほらクズ空、持ってきてあげたわ感謝しなさい!」
コレムが、ボーっとしていた夜空に声を掛けて目の前に依頼書を突き出す。 依頼書には『グラスフィッシュの捕獲依頼。 捕獲数20匹で固定報酬3金....それ以降は歩合制で一匹につき8銀』と、書かれていた。 ちなみに歩合制とは、やった数だけ報酬が増えるシステムのことだ。
「グラスフィッシュって何だよ、ていうか魔物食うのか?」
この世界で考える異世界人、着眼と疑問はまずそこである。 フィッシュって付くぐらいなんだから魚だろうか? でもこのグラスとかいうのがよく分らない。
そして強いか弱いか。 ....どっかの鬼教官じゃ無いし、流石に俺が死ぬレベルの依頼は受けていないと信じたい。 でも、コレムはどうも俺を嫌ってる節があるから、この隙に....なんて考えているのかもしれない。
「グラスフィッシュってあの美味しい奴ですよねっ! ....夜空さんは食べたことない感じですか? 随分と変わってますねっ」
リリスが興奮気味に話してくる。 どうやら美味しい食材のようだ、食材ならば絶対安心だと......思いたいー........が、そう思っちゃいけないのが異世界の恐ろしさというモノだ。
「とりあえず、依頼書の裏に書いてある場所に行くぞ。 一応、捕獲用の虫取り網みたいなモンは持っていくか...」
水辺でも無いのに、魚が取れるなんていう不可解な状況に戸惑いながら、虫でもつかまえるような感覚で一度行ってみることにした。
指定された草原につくと、既にそこには冒険者らしきパーティーが変な空飛ぶイワシみたいな奴を捕獲していた。 イワシは捕まるまいと、空中なのに水中のような可憐な動きで回遊していた。
「そっち行ったぞ!」
「捕まえろォ、報酬が増えるぞ!!」
冒険者パーティーの面々はこの任務に慣れているのか、随分手慣れた手つきで空飛ぶイワシを捕まえる。
ガタイのいい男は投網まで持ち出して捕獲作業を行っていた。 草原なのに漁業で投網とかいう、異世界ならではの意味不明な光景が目の前には広がっていた。
「.....アイツらが捕り尽くす勢いなんだけど」
「別の場所行きます? 少し遠くなっちゃいますけどっ」
もう依頼変えた方がいい気がする。
でも流石に、一番最初の依頼からボイコットというのも流石に気が引けたので、夜空一同は少しだけ頑張ってみることにした。
「ふんっ、こんな低レベルの依頼は楽よ!!」
虫取り網を振り回しながら、あっという間に10匹を集め終えたコレムが言った。 リリスも、日頃から剣士として足腰を鍛えているのもあって結構スムーズに魚を回収していく。
対して夜空は....
「クソッ、すばしっこい!!」
「ぷぷぷっ、だっさッだっさッ!!!」
「うるせぇッ!!!」
未だに一匹も捕まえられていなかった。 だってしょうがねぇじゃんと心の中で言い訳しつつ、必死に魚を捕えに行く夜空。 そんな夜空の痴態を見ながら爆笑するコレム。
グラスフィッシュは、傷一つなしで上物....傷ありで買取金額が半額となる。 どうせ捕まえるなら、上物で捕獲したいが....。
「こ、これ...無理、無理だわ」
息切れしながら膝をついた。
グラスフィッシュは空中で群れを成し、魚群を作って旋回する。 しばらく旋回した後、グラスフィッシュたちが力を合わせて水の刃を生成して冒険者のパーティーに投げつけた。 待ってましたとばかりに盾役職の女性が前に出る。
「スキル『シールド』ッ! お前たち私の後ろにっ!」
盾役職の女性が盾と『シールド』と呼ばれるスキルを使用して攻撃を防ぐ。 水の刃に当てられたシールドは一瞬で崩壊するが、二枚目の実物の盾が仲間を守る。
「あ、あの魚畜生ッ攻撃してくんのかよ!!」
夜空はそんな一連の流れを見て、慌てて立ち上がり距離を取る。
「夜空さんっ、このお魚さんたちは一応魔物ですよっ!」
そうだった、場が和んでてすっかり忘れてた!
グラスフィッシュたちはスキルを放った後、少しだけ動きが鈍った。 が、直ぐに散開し、再び個々に自由遊泳を始めた。 その一瞬の不可解な動きに夜空は頭を捻った。
.......。
夜空は魚とりを止め、少しだけ考える。 自分がグラスフィッシュを捕まえる、そんな頭を使ったアイディアを....。 『ハイパーウェーブ』をぶつけて動きを止める? だめだ、傷がついて売値が下がる。 『野生の勘』で動きを補足する? 野生の勘は上手く働かない事も多いんだよな、あくまでも勘だし。 ...ただ一つ、今までの経験上で分かったことがある。
生き物はスキル使用によって疲弊するという、この世界の絶対ルール。 スキルとスタミナ消費は、切っても切れない関係という事だ。
それを踏まえた上で、グラスフィッシュたちの妙な動きを考えればおのずと答えは見える。 だが、問題はその一瞬の揺らぎをどう捕らえるか...だ。
「...本当に、この世界は厳しいなぁ」
夜空は、捕獲作業を続けるリリスたちを尻目に一人呟いた。
しばらく作業を続け、リリスとコレムの合計捕獲数が30を超えた辺りで、グラスフィッシュたちが再びスキルを撃つために魚群を形成し始める。 グラスフィッシュたちは力を合わせて時間をかけて水の刃を生成する。
標的は.....コレム。
自衛手段をもたないコレムは立ち尽くすッ! 流石に危険だと判断した、冒険者パーティーの盾役職の女性がコレムに向かって善意で走り出す。
そんなコレムと盾女の様子をチラ見しつつ....
「リリスッ、網持って突っ込め!!!」
夜空が叫びながら動き出す。 リリスは夜空に一瞬驚くが、すぐに夜空を信頼して足を前に出した。 夜空は手のひらを....生成された水の刃へ向ける。 ハイパーウェーブ本来の用途、破壊性のある音波で水の刃を破壊して無力化するために。
【ピュッ!!】
変な鳴き声を上げた数匹のグラスフィッシュが、夜空に向かって牽制のように水を口から射出するッ! しかし、夜空はその攻撃を『野生の勘』で事前に感知。
「スキル『スパイク』ッ!!!」
夜空は、力を振り絞ってスパイクを通常時より少し多めに生成して射出された水の水よけとして使った! ウォータージェット並みの威力の水がスパイクに当たり、水よけとして使ったスパイクの塊が周囲に散らばる。 ....当然、その発動者である夜空も致命的なダメージを受け....無かった。
スパイクが自分の方に飛んでくることも全て計算に入れ、転んで回避した僅かな時間でスパイクを全て解除する。 スキルの解除と使用を矢継ぎ早に切り替える為、脳が少々混乱し始める。
「スキル『ハイパーウェーブ』ッ!!!」
夜空は、混乱した脳を無理矢理鎮めるように大声でスキル名を叫び、スキルを発動した。 手のひらから放出された崩壊性のある音波は水の刃を見事に破壊した。 それと同時に、天賦エラーによる反動で夜空の手のひらに無数の擦り傷が起こる。
水の刃を破壊されたグラスフィッシュたちはよろめきながら混乱する。 逃げようとするが、そこに走り込んできたリリスが、網を素早く何度も振り回してグラスフィッシュを回収し.....。
夜空達は、合計捕獲数が50を超えたのだった。
「またこんなに怪我してっ! 私怒りますよ!?」
いつものように、リリスが頬を膨らませながら夜空の傷の手当てを行う。 いつも自分でやるとリリスに伝えるのだが、何故かリリスが必ずその役目を引き受けるというよく分らない状態になっていた。
「怒るくらいなら自分でやるから」
「ダメですっ!!!」
リリスの気迫に夜空は若干引く。
「というか、いつの間にスパイクなんて覚えたんですか?」
「つい先日~、俺って天才なのよ~」
適当な嘘をつく。
夜空は手当てを受けながら、持ってきた捕獲用の布袋の中で跳ね回るグラスフィッシュに目を向ける。 『捕獲したのに袋の中で元気に生きてるなんてたくましいな』と思いながら、ふと思い立つ。
....そういえば、この魚って魔物なんだよな?
じゃあ、生きてる奴殺せばスキル貰えるんじゃないか? と
夜空はリリスが手当てを終えて離れた隙に、一匹を上手い事取り出してから倒して、そのままの流れで天賦を使用する。 手の甲に魔法陣が浮かび上がり、手が淡く緑色に光り輝く。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
★個体名:グラスフィッシュ
★固有名:なし
★保有スキル名
・派生型、ウォータースラッシュ
・アクアショット
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
また見た事無い表記が出てきた...。 なんだ、進化型でも無く、覚醒型?とかいうのでもない。 派生型って一体何の事だ?
夜空はとりあえず入手しよぐらいのノリでスキル名をなぞった。 すると、夜空の目の前に見慣れぬ警告文が発生する。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
*警告* 派生型の原型となるスキルの習得を確認できませんでした。
※前提条件あり※ 解決法:派生前のスキルを入手して下さい。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
えぇ、前提条件が必要なのかよ、そんなの聞いてねぇ...。
夜空は諦めたように『アクアショット』と『火炎耐性』を取り換えた。 体が一瞬、ズンッと重くなり習得した実感が湧いてくる。
「人生回廊」
久しぶりに人生回廊を開き、改めて自分の天賦と保有スキルを確認する。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
★天賦:アビリティースティール
★天賦詳細:人族以外の死亡した生命体から、死後30秒以内であれば保有していたスキルを強奪し自らで使用することができる。
★警告:スキル自動取得不可・スキル自動進化不可・その生物の身体的特徴を使用するスキルの使用不可
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
★現時点保有スキル名
・アクアショット
・スパイク
・ハイパーウェーブ
・野生の勘
★警告:現在4枠以降はロックされています....
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
「....枠数増えてないか」
未だに枠数が増えた原因が判明していない事が謎だ。
「夜空さんっ、そろそろいい時間ですし帰りましょう。 流石のコレムちゃんも少し疲れが見えてきていますし....」
リリスにそう言われ、夜空はコレムの方を確認する。 あの生意気なコレムでも、ずっと動き回り一番貢献していた為に疲れが出始めていた。
「そうだな、売却して宿に戻ろう」
「はいっ、夜空さんもお疲れさまでした!」
夜空、リリス、コレムの三名は冒険者ギルドへと向かい。 依頼の達成と、ノルマ余剰分の空飛ぶイワシを売り払って、合計金額5金と56銀となった。
日本円にして5万と5600円....日雇いバイトとしてはかなりいい方だろう。 日本とは違い物価の問題などもあるが、少なくとも首都アラブレイの滞在まではこれで賄えるだろう。
「夜空さんっ、今日は美味しい物を食べましょうっ!」
「クズ空、アタシは肉にしなさいよ!」
「はいはい、もう好きなだけ食え」
打ち上げムードになる夜空一行はその気分のまま宿に帰る。 夕日に照らされたホワイトタウンのおうちキャンバスたちが、とても美しく見えたことをしばらくは忘れないだろう。
==☆次回予告☆==
66話の閲覧お疲れさまでした。
今回のプチ話は、夜空の天賦..そのスキル進化方法についてです。 夜空は、天賦の不可項目の関係上、正規の手段でのスキル進化が出来ません。 進化方法はスキルを強奪すること、それも前提のスキルを取得したうえで、進化後のスキルを保有している魔物を倒して強奪する必要があります。
長々と書きましたが、ようするに 【上書き】 です。
本当にクソみたいな天賦ですね。
次回、67話......少女たち 旅の理由は!?
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




