64話 あのテルテル 船に乗り!
波の音と風、そして船に取り付けられた鐘が鳴る音が聞こえる。 カモメのような鳥が船の上を旋回し、ほどなくしてその場から飛び去って行った。 時刻はちょうど午前10時を切った所だ。
「テルテル先輩、もうすぐですね」
「...............うむぅ」
テルテルこと【輝倉 輝夫】と、そんな彼に密かに想いを寄せる中学3年の少女【音越 ぬい】は東大陸の大陸線を越え、南大陸に上陸するためにその間の海の上で船に揺れていた。
「良かったんですか? 先生に言わずに来ちゃって」
「............我の身勝手でしょうが、夜空氏が心配なんですぞ」
テルテルは甲板から海面を見つめながら言った。
よく思えば、こちらの世界に来て夜空氏をほったらかしにすることは多かった。 付き合いの長い親友として、何処かで彼の持つ冷静さに安堵していたのかもしれない。
でも、この世界での時間が立つにつれ。
徐々に、夜空氏の様子がおかしくなっていったのを我は見抜けなかった。 それどころか、夜空氏の孤立をますます深めてしまうような立ち回りをしてしまった。 そのことについて謝りたい。
テルテルの行動心理は単純だった。 誰かから逃げるわけでも無く、誰かに頼まれたわけでも無い。 ただ、傷心の親友に謝罪をしたいという思いだけがそこにはあった。
(テルテル先輩....あの人がした事、知らないのかな)
しかし後輩、音越ぬいは違う。 事前に勇者の出発を予期した宰相からとある話を聞かされていた。
===〔数日前〕====
『....貴方方が探しに行こうとしている勇者様は、今現在南大陸まで逃亡していると思われます。 この情報はとある商人からもたらされた確かな筋の情報です。 彼は、その無害な商人にすら危害を加えて平然と逃亡しています』
『南大陸に逃亡?』
『はい、口にするのも悍ましい所業を、この帝国に住まう複数人の女性に働いたのです。 彼女らは同様に彼に厳罰を求めています』
宰相は音越に向かって淡々とそう言った。 宰相は、その証言を裏付けるように白黒の数枚の写真を撮りだし音越に差し出した。
音越がそれを受け取り確認すると...。
その写真には、泣いている女性や被害現場である荒らされたベッド、無理やり手首を押さえつけたと思われる女性の手頸が赤くなった写真など....。 性的暴行を加えたと示唆できるような現場写真がいくつも抑えられていた。
肝心の夜空が写っていないのにも関わらず、信じてしまうような恐ろしく高度な偽装写真がそこにはあった。 音越は物事の発端である赤印の存在すら知らない。
だから、信じてしまった。
宰相の思惑に動かされるように...。
『.....最低ですね』
『つきましてはあの輝倉様と同行される貴方には、彼の捕縛及び帝国への連行をお願いしたく思います。 あぁ、この件に関しては勇者様方の混乱を避けるために情報を伏せております故』
『言っちゃダメって事ですね。 捕縛ですか、私に出来るかな....』
『ご心配なく、こちら方から捕縛に有用なスキルを一点、手引書としてお渡し致しましょう。 そちらの手引書のスキルと勇者様のお力があれば、必ずやあの悪しき悪魔勇者を拘束出来る事でしょう』
宰相は安心させるように音越に胡散臭く笑いかける。
『同伴するテルテル先p....勇者の人にも言ってはいけませんか?』
『...心苦しいですが、あの勇者様は悪魔と大変仲がよろしかったと存じております。 疑うわけではございませんが、万が一逃亡の結託をされた時の事態が面倒でございます。 貴方には捕縛任務と共に、あの悪魔の言葉に耳を貸さぬよう....勇者様に強く助言をお願いしたく思います。 オニキス帝国に連行が完了次第、事の顛末を我々の方からお話致します』
宰相は『強く』という言葉に対して力を込めて言った。
『で、でも...』
『あなたほど、あの勇者様に近しい方ならば....必ず可能です。 ご友人を犯罪者にしたくは無いでしょう? 犯罪者の肩を持つという事はそう言う事です』
近しいという言葉が嬉しかったのか音越はその任務を受けてしまった。 ....そう、受けてしまったのだ。
『ではこちらの手引書、スキル『アレスト』をお渡しいたします』
宰相は部下に持ってこさせた手引書を音越に手渡した。 手引書の表紙には『アレスト』と書かれており、既に誰かが使用したのか音越が使用すると本は消滅した。
宰相はあふれ出る喜びを隠すように、深々と頭を下げた。
『一応、証拠としてではありますが...別室に彼の被害女性の皆様を待機させております。 同じ女性として彼らの悲痛な叫びを受け止めては頂けないでしょうか?』
『....はい、本当に残念です』
そのまましばらくの間、被害女性の迫真に迫る演技を淡々と聞かされた音越はその作り出された真実を完璧に信じた。 オニキスにまた一人、夜空の敵が出来上がったのだ。
そんな相違する思いを抱いた二人の勇者は波に揺られる。
「とりあえず、上陸したら一番近い国に向かって夜空氏の情報を探ってみるですぞ。 ここからだと....セブン国って場所が一番近いですぞ」
しかし、テルテルの顔を見ていると隠し事が辛くなってくる。 事情を離せばテルテル先輩なら、きっと拘束に強力してくれると思うのに....。
「テルテル先輩、もし...もしですよ? 夜空先輩が悪い事をしていたら、やっぱり友達として彼を擁護しますか?」
突然の質問にテルテルは少し悩んだ後...
「いや、無いですぞ。 しっかりキチンと謝らせる、それが友達としての責任ですぞ」
ほら、宰相さん。 テルテル先輩には話しても大丈夫です。
音越はカバンから、宰相から証拠として預かった写真をテルテルに見せて事情を説明することにした。 音越からの衝撃の事実に初めは動揺し『そんな事をするはず無いですぞ!?』と怒っていたが...現場の証拠写真もあり、被害者女性から当時の状況を詳しく聞いていることも言った。
宰相は抜かりが無かった。 テルテルと合っていた日の供述は一切なく、夜空が孤立していた時間帯に正確に犯行を行ったように見えるよう細工されていた。
「少し....一人にしてほしいですぞ...」
「はい、辛いですよね...分かりました」
テルテルは落ち込み悲しむ。 必死に生きようとしていた男の顔は偽物で、その裏で非道な行いを繰り返していた事の事実を聞かされたから。
宰相が懸念していたのは、テルテルに赤印の事を話していたかもしれないという事。 あるいは、赤印であることを示唆するような発言をしていた可能性。 そこから嘘を看破されるリスクがあった為に、宰相はテルテルへの情報漏洩を避けた。
だが、実際の話その不安は杞憂。
テルテルは夜空が赤印であることを知らず、また夜空も赤印の存在を追いかけられるまでは知っていなかった。
「どうしてですぞ...よ、夜空氏ぃ」
夜空氏は好きな人が居だろう? 何故ですぞッ、何故なんですぞ!?
どうして、女性に性的暴行なんて恐ろしい真似を....。
(もしちゃんと話を聞いたうえで真実であれば....夜空氏が逃げているというのなら、追いかけなくては...捕えなくては...)
テルテルが涙を海に零しながら決意する。
(我は夜空氏を捕えるッ!)
相違は共鳴へ変わり、二人は新たな決意の元...夜空の軌跡を辿る。
その後ろ姿に宰相の陰があることなど知らずに。
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【同時刻、アルテーラテルト、ホワイトタウン内....にて】
朝から早々にリリスとコレムは出かけて行った。 リリスは街の散策、コレムは街の散策がてらギルドで良さげな依頼を見繕ってくると言っていた。 6歳、厳密には24歳だが、精神年齢が幼いコレムに任せるのも多少の不安はあるが、『たまにギルドでそういう事をしてここまで来たから、クズ空に心配されるような事は何も無いし!』と豪語されてしまった為、何も言い返せなかった。
「俺何しよう」
コレムに仕事を取られた為、完全にやることが無くなった夜空は一人で街を見て回っていた。 こんな事になるんだったらリリスと一緒に行けばよかったと少し後悔していた。 そんな夜空は一人、街はずれの小川の辺りを道沿いに散歩していた。 小川にはスケッチの為に絵を描く画家がチラホラいる。
「違う違う違う違うのよォォォォ―――――ッ!!! わらわの目を汚すつもりなのよォォォォッ――――!!!! 芸術がァ、芸術がァ、逃げていくのよォォォ!!!」
「お師匠や、止めッギャアアアア!!!」
罵声と悲鳴の後、夜空のちょうど真横にあった一軒家で爆発音が響いてドアが壊れる。 壊れたドアと共に画家の卵のような青年が小川に突き落とされてずぶ濡れになる。
「....賑やかな国だな」
夜空はずぶぬれになった青年を見ることなく無視する。 その場を立ち去ろうとした時、夜空の頭を何か硬い物が直撃して....そのまま意識が落ちた。
「はッ」
夜空は意識が戻ると同時に飛び起きる。
目覚めた夜空を看病していたのは、先ほど小川に突き落とされた青年だった。 部屋の奥には、胸の大きい女性が椅子に座り静物画を描いていた。
だがほどなくして....。 女性はバッと立ち上がる!!
「こ、こ、こ....こんなのではわらわの芸術は、芸術はダメなのォ! 女神が、わらわの中に眠る美の化身が私を縄で縛り付けて首を絞めているのよォォォォ!!! あぁ美の、美の化身よ降りていらっしゃい!! わらわが縄で締め上げて殺してあげるわッ!!」
狂ったようにブリッジをし始めた残念な女性は、キャンバスを掴みデッサンの対象物に向かって投げつけて破壊する。 だがそれでは満足出来なかったのか、両手に『魔法弾』のスキルを生成して対象物が粉微塵になるまで投げつける!
「えぇ...」
美の化身殺しちゃうのか。
「すいません、うちの師匠、あんな感じがデフォルトでして」
どっかの裸婦画といい、このお姉さんといい。
芸術家ってのは何処か頭のネジが飛んでるのだろうか?
「ここは?」
「ここは師匠のアトリエです。 私はその弟子で」
「....あんな化物の弟子とは大変だな」
「よく言われます。 でも、ああ見えて師匠は領主に作品を評価されたこともあるぐらいの凄腕の画家なんですよ」
弟子は呆れながらも師匠を自慢する。
「わらわのっ、わらわの芸術は止まらせないッ!!! あッァァァァ....あ?」
女性は、今やっと夜空の存在に気づいたのか少し静かになった。 そのままのテンションで夜空に近づき、超至近距離から顔を見てくる。
「誰?」
「師匠がバケツ投げつけて気絶させた人ですよ!? 覚えて無いんですか!?」
頭にクリーンヒットした硬い物はバケツだったらしい。
そりゃ痛いし気絶もするわ。
「彼からは芸術を感じないわ? どうなってるわけ?」
「ふざけんな知らねぇよ、最初に謝ったらどうなんだ」
なんで俺が言わなきゃいけないんだと不満を感じながら女性を見るが、女性はまるで興味ない者を見るような目になり、突然!夜空を家から叩き出した!
「はっ?」
投げ捨てられた夜空は素っ頓狂な声を上げた。
「描けぬ民に用は無いわァァーッ! わらわの家に邪の気を持ちッ、込むなッ、女神がァ女神が逃げうせる!! 芸術とインスピレーションは一長一短では得られない、得られないのよォォォッ!!!」
「師匠止めッ、止めて――――っ!!!」
【ドカーンッ!!!】
その後、アトリエから爆発音が聞こえ...弟子が一生懸命直したドアはまた壊れ、弟子はずぶ濡れになった。 なんだこの師弟関係ヤバすぎだろ。
ていうか、あの爺さんも言ってたが描けぬ民ってなんだ。
赤印みたいな酷い差別ってわけでも無さそうだ、現にあの爺さんはこの国で差別という差別も無く生きてる。 文字通りの意味なら絵の才が無い...みたいな意味だろうか?
「芸術の国ならではの差別用語って事か」
芸術の国で己の作品を否定される。 確かに、創作を生業とする人間にはこれ以上効く文句も無いだろう。 実に理に適っているが....正直、その言葉で俺のような旅人が否定されても大してダメージは無いんだよな。 自分が絵書けないの位、学校の美術の評価が出た時に知ってる。
夜空は、無駄に賑やか?なアトリエから逃げるように去っていった。
==☆次回予告☆==
64話の閲覧お疲れさまでした。
遂にオニキス帝国が動き出します。 夜空を捕えるための先遣隊は、テルテルと音越!?という所で今回はおしまいです。 オニキス帝国の動向も都度都度挟んでいきますのでご安心?を。
今回のプチ話は、竜人族の年齢についてです。
本編でも触れましたが、人種でいう4年が竜人族の1歳に該当します。 精神年齢の成長は年齢側に比例して上がっていきます。 要するに、コレムはちょっと長めの小学1年生みたいな感じだと思ってもらえれば大丈夫です。
しかし、知識は約24年分入ってますので、そこら辺は大人びているのです。
次回、65話......その少女 種族チートにつき!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




