63話 白い街 キャンバスのように!
.....コレムが仲間に加わったその日の正午過ぎ、夜空一行は【南大陸、アルテーラテルトのホワイトタウン(絵画の街)】に訪れていた。
街にある建物の壁や屋根は白で統一されており、なんといっても画家の家はその白い家の壁を防水性の絵の具で自らが絵で彩っていた。 風景が描かれた家、他にも人物画やリンゴなどの静物画....何処から湧き出た文化だよとツッコミたくなるようピカソのような絵。 家の壁っぽくレンガみたいにしていたり、立体的なアートを書いていたり.........他にも色々。
これがテーマ【芸術】その補助テーマ【絵画】、圧巻だ。
「凄い、凄いっ凄い―っ!」
リリスは年相応にはしゃぐ。 隣にいるコレムも、ホワイトタウンへは立ち寄ったことが無かったのか、竜人族の年相応に目を輝かせていた。
そんな中、夜空はただ一点だけを真顔で見つめていた。
「夜空さん何を見て? ....ねぇ夜空さん....お説教が足りないですか?」
「クズ空.....本当に最低」
おうちキャンバスに描かれた、《こちらを手招きするような美しい裸婦画》を見てただけでどうしてこうもボロクソに言われなきゃいけないのか....。 本当に理解に苦しむ、俺も男なんだぞ...視線に入ってくればおのずと意識はそちらに向いてしまうものだ。
「う、うるせぇよ! 宿屋行くぞ宿屋!!」
ジト目になる二人のちびっこの意識を逸らすように強引に話題を切り替えた。 ....この街の治安維持局はどうなってんだ、家の絵の限度くらいは管理しろ!ありがとうございます!!
....どうせ住んでる奴は、これはアートだ。 テーマの侵害だとか言って維持局に抵抗してるんだろうけど、あの絵で一体何人のカップルたちが破局を迎えたのか考えたくもない。
ていうか、あの絵の構図は絶対にリア充爆発を目的としてやってるだろ。 もしここがテレビ取材されたら、あの家だけモザイク待ったなしだ。
「というかやっぱ全体的にレベル高いな。 あの村の爺さんが、絵が売れる売れないの話をしていたが、やっぱりこの街に住んでるだけあってそこそこ絵で稼いでたりするんだろうな」
失礼な話にはなるが、爺さんの絵と比べてしまうと初見のインパクトが違う。 芸術には疎いので直感だが、爺さんの絵は初見だと『へー』くらいのものだったが、こちらのおうちキャンバスの絵は初見で『上手い』と言えるぐらいのインパクトがある。
偉そうな事言ったが、先に言う。
星原夜空こと俺は絵が描けない。 爺さんやこの街の画家と比べたら、吹けば飛ぶような紙切れレベルの作品しかこの世に召喚出来ないだろうし、したくないので書かない。
ちなみに学校の美術の成績は【2】だった。
がんばりましょう...という奴だ、ふざけやがって。
宿屋に行く前に、道中で倒したウシ型の魔物の素材を冒険者ギルドで売り飛ばして、多少の小銭にしてから向かう。 ちなみに素材回収は知らん間にリリスがやっていた。 いつやっていたのか分からない程の手際だった。
「いらっしゃいませ、ご宿泊でしょうか?」
「あぁ」
「何日のご宿泊でしょうか」
一日じゃ慌ただしくなるな。 せっかく街に着いたのだから、勇者の情報も少しは集めたいし、風呂やうまいものなども食いたい。 それに、旅の資金もそろそろ確保手段を用意しないと....手っ取り早く街の周囲に居る魔物でも倒して売るべきか?
悩む夜空の裾をリリスが引っ張る。
「夜空さん、私この街少し見てみたいですっ! コレムちゃんもそう言ってます!」
「アタシは言ってないからッ、勘違いしないでッ!」
春のことは心配だが、補給や休息をおろそかにすれば自身や仲間の士気が持たない...か。 じゃあ、2日だな、大丈夫だとは思うがオニキスの件もあるからそこまで呑気には出来ない。
「分かった、分かった。 2日宿泊でお願いします、食事は朝と晩に付けて下さい」
「2日ですね、かしこまりました。 それと、お客様は芸術家でいらっしゃいますか?」
ん? なんだその質問。
通常の宿では聞けないような質問に夜空一行は全員が頭を捻った。
「絵を描く方なら何かあるんですかっ?」
リリスがワクワクしながら聞いた。
「はい、こちらの宿の方で朝と夜の2回...新しいキャンバスを用意させていただきます。 カウンターにお申し頂ければ、いつでも絵の具の交換やキャンバスの替えなども追加料金でご提供いたします」
芸術の国ならではのサービスというわけか。 絵描きにはとことん至れり尽くせりの街だな....テーマだし当たり前なのかもだけど。
「夜空さん....」
つけろってか。 ふざけんな、要らねぇよ!
「芸術家じゃないんで不要です」
あからさまに落ち込むリリス。
コレムは、自分が絵をかくことに興味が無いみたいで何も言ってこない。
「......お部屋を借りていただければサービスでキャンバス一枚お付けいたしましょうか?」
「いっ、良いんですかっ!?」
カウンターへ飛びつくリリス。 どんだけ書きたいんだよと、夜空とコレムは興奮するリリスを見て若干引いてた。
「はい。 その代わりと言っては何ですが、この街で人物画を書きたいと画家の方にお願いされた時は良ければ受けていただけないでしょうか?」
「え? でも、私を描きたがる方なんて居るんでしょうか?」
「お客様は可愛らしい方ですから。 インスピレーションの為に、外を散歩している画家の方なら呼び止める可能性は十分におありですよ」
「か、かわいらしい...えへへ」
誉め言葉には弱いのか、リリスが顔を赤らめて照れる。
「しかしですね、ごくたまにですけど...芸術の為に人物画を偽り裸婦画を要求してくる不届きな画家もいらっしゃいまして...。 双方合意なら良いのですが、もし嫌ならそこだけはお気を付けください」
なんか....思い当たる節があるんだけど。
「........前例があるみたいな言い方ですね」
夜空がそんなことを言った。
「.....街に入った時に見える裸婦画の家と言えば理解は出来ますよね?」
あっ...。
「もう何も言わなくていいよ」
「左様で」
コレムの視線が何故か痛い。 まるで『クズ空みたいな感性の持ち主が居るなんてキモ過ぎ』みたいな目をこっち飛ばしてくるようだ...。
「話の脱線失礼しました。 お部屋は何部屋に致しましょう?」
「男女で2部屋でいいかな。 男の方は一番安い部屋でいいよ」
「かしこまりました。 ツインとシングル....シングルの方は最安値のお部屋で。 全て承りました、お会計は先払いで1金と42銀です」
まぁ、金額に関しては村よりも高いが宿泊なんてこんなもんか。
夜空は持っていた金額と、事前にリリスと共有していた旅の資金の一部を合わせてカウンターに差し出した。 店主はコインを受け取るとお辞儀をして『ありがとうございます』と言った。
「もう入れますか?」
「シングルは可能ですが、ツインの方に関してはベッドメイクに少しばかりお時間を貰いたいですが、お客様ご都合の方は...」
夜空は女性陣に目線を送る。
「大丈夫ですっ」
「早くしてよねっ!」
2人の回答に安心したように、店主がベッドメイクに向かって行った。 控室から店員が、数名一緒に向かって行った所を見るに、早めに終わらせてくれるつもりらしい。 ありがたい事だ。
「明日は街の散策してきてもいいけど、明後日は魔物を少し狩って金にする。 旅の資金を集めなきゃいけねぇしな。 今はまだ大丈夫だけど、いつか枯渇しそうだ....稼ぎ方を知っといて損は無いだろ」
夜空の言葉に、この世界の住人であるリリスとコレムは不思議そうに顔を見合わせた。
「なんでクズ空、冒険者ギルドのクエスト受けようって発想にならないわけ?」
「は? なにそれ」
この世界の常識なんて俺が知るか。
....だが、そんなことは言えず、芸術の国ならではのインスタ映えしそうな宿の食事を済ませて部屋に戻る。 食事の際に、リリスが幹事として小規模の歓迎会を開いた。 どうにも、コレムは俺では無くリリスに懐いている.....複雑なお年頃という事なのだろうか?
歓迎会が終わり、やっと一人になれる...と思っていたのだが。
「何故....この部屋に集まるんだお前ら」
「夜空さんいますし」
「リリスがクズ空にイタズラされないか心配だし」
しねーよ。 本当に失礼なガキだ。
「いいからさっさと風呂入って来いよ。 食事の時、宿の店主が言ってたけどこの宿は源泉かけ流しだとよ」
しかし、夜空の親切心に返ってきたの二人からの疑惑の目だった。
「ノゾキですか?」
「本当にクズッ!」
は? 誹謗中傷が過ぎる。
「やらねぇよボケッ! お前らみたいな体格の奴に性格関係なく欲情なんかするか!」
夜空は二人の胸を指さしながら叫んだ。 だが、それがいけなかった...夜空は自覚無しに二人のコンプレックス...地雷を踏みぬいたのだ。
リリスとコレムは無言で立ち上がり、リリスは素早く後ろへ回り込む!
「は? 何すんッ!?」
リリスの『パワーアップ』による怪力で素早く夜空は拘束された、そしてそのまま無理やり立たされる。 夜空の前にはコレムが仁王立ちしている。
「クズ空死ねェェェ―――――ッ!!!」
コレムから放たれた拳が....夜空の股間を狙う!!!
「ちょ、まっ! そこはッ股kッ!!」
静止するよりも早く....
【ポコチンッ!】
否、夜空の夜空は死んだ。
「コレムちゃん行きましょう」
「べ―だ!!!」
頬を膨らませて怒るリリスとあっかんべーをしながら部屋を出て行くコレム。 ...そして、ビクンビクンと痙攣して動かなくなったクズがそこには居た。
(じゃあ俺にどう言えと....)
悶絶するほどの痛みの中、そんなことを少し考えていた。
だって見たらロリコン認定だろ、そもそも好きな人居るし?
それに実際、アイツら胸なんて無いじゃん?
で、事実言ったら殴られた。
....胸の事を言ったのがマズかったのか?
それとも子供扱いしたのが良くなかったのか....。
どっちにせよ、後で必ず仕返ししてやるから覚悟しろよ。
俺は優しくない男なんだからな。
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一方その頃、風呂場では。
「わー、露天風呂ですよっ!」
「リリス、はしゃぐなんて子供ね」
バスタオルを巻いた二人は浴場に立っていた。 夕食を取るのが少し遅れたのも相まって、他の宿泊客は誰一人として入ってはいなかった。
二人は体を洗い、少し時間をかけて髪を洗う。 コレムに関しては、6歳で結構長い赤色の髪の毛をしている為、セミロングのリリスよりも長い時間をかけて髪の毛のケアを行う。
一段落したら二人は湯船に入る。
「「ふぅー」」
ほのぼのとした空気感がその場を包む。
「夜空さん大丈夫でしょうか....。 後で謝罪を」
「いいのよあんなクズ空、やられて当然だわ」
「うーん、でも悪気があったわけでは無さそうですし」
頭が冷えたのか先ほどの行動を改める。
「ねぇ...リリスは優しすぎ、彼氏の手綱はちゃんと握るの! いい?で無いと、ああいうタイプは直ぐ浮気するよ、浮気!!」
本人の居ない所で言われも無い誹謗中傷は続く。
「ふっ、ふぇっ!?」
コレムが唐突に変な事を言いだした為、リリスはかなり動揺する。 そのびっくりしたような反応を見てコレムは一瞬『?』というような顔を浮かべる。
「もしかして付き合ってないわけ?」
「付き合うとか、そんなっ....私なんかではっ」
「....ふーん。 リリス、クズ空と付き合ってないんだ」
「うぅぅ...私と夜空さんは友達で...」
リリスの顔は、温泉の影響なのかそれとも会話のせいなのか分からない程、ゆでだこみたいに赤くなり始めていた。
「リリスとクズ空ってどうやって出会ったわけ?」
「それ、聞きたいですか? といっても1週間ぐらい前の出来事で」
「ひ、暇だし聞いてあげてもいいわ! 本当に、あんなクズの事興味ないけど!」
自分から聞いといて何様発言を、リリスは『コレムちゃんらしい聞き方ですね』と笑い、話し始めた。 自分と夜空の最悪の出会いから始まった、一人の敵との戦いを....。
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その頃、夜空は自室のベッドで愚痴を零していた。
「...大体さ、異世界転生二人目の仲間がロリって。 一人目が少女なら、二人目は胸の大きいお姉さんとかさ、普通セオリーならそんな感じだろ」
元より、この俺に対する世界の難易度がクソレベルなのに、今更セオリー(笑)がなんだって話ではあるのだが。 .....自分の魔法で自傷する主人公とか見た事ねぇよ。 せめて自分の力位は安全に使わせろと、天賦を俺によこした存在にクレーム電話を入れてやりたい。
ケータイ水没したけど。
「ノゾキとか、同級生にそんな行為が知られたらあっちの世界での立場が無くなるだろうが。 残りの高校生活をロリコンのレッテル張られて過ごす気はねぇ!」
そもそも、旅仲間にそんなことするとか頭が悪いとしか言いようがない。 関係が劣悪になって旅に支障が出たらどうするつもりなんだ。
「はぁ、この国の首都に春が居ると良いけど...」
夜空はため息を吐きながら、窓越しに暗くなった空を見上げた。
==☆次回予告☆==
63話の閲覧お疲れさまでした。
日常回ですね。 いつか後書きに書いたかもしれませんが、作者的に書いてて一番楽しい場所で、気楽な場所ではあります。 ....気を抜きすぎると世界観がおかしくなるので、そこだけは気を付けないといけませんが。
しかし、そろそろ物語を動かしていく頃合いです。
シリアス始まったら、定期的にコメディー入れて雰囲気調整します(笑)
次回、64話......あのテルテル 船に乗り!
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~




