7話 その男 外道である!
「トーチマスター! 全員の辺りを照らして...頼むよ!」
中学男子がそう言うと、まるでその言葉に反応するように、周囲が蛍のような光で明るく輝きだす。 蛍とは言ったがその光量はLEDと差異ない程だった。 蛍は全員に一匹ずつ付いて並走するように飛行し始めた。
「この光は3ある程度の時間しか持たないので気を付けて下さい」
純粋に便利でいいなぁ...。
嫉妬するわこんなん...使い方次第じゃ化けるぞ。 この様子だと震源点とかいうテルテルの天賦も、結構ヤバかったりするんだろうか? .........こういうのが欲しかったんだが。
すると遠くから『キキキキーッ!』という動物の鳴き声が反響して聞こえてきた。 ...全員はそのまま進もうとするが、それをテルテルが抑止する。
「君達待った! 3つのグループに分かれて散開するんですぞ~!」
「テルテル先輩正気ですか!?」
アイツ後輩にテルテルって呼ばせてんのかい...。 それはそうと、その提案を俺は悪いとは思わないが......。 考えてもみろ、こんな狭い空間で全員で探索、からの敵発見....総攻撃でフレンドリーファイアまで目に見える。
「怖いですよ...みんなで行きませんか?」
「そうだそうだ! 全員でタコ殴りにすれば問題ないだろ!」
と、テルテルの提案に対して不満を口にし始める。
...せっかく友人が気合を入れて提案したんだし、サポートしてやるか。
「テルテルはこのまま行けば死ぬって言ってんだよ、分かるか?」
夜空は核心をついた、その言葉に一部の女子達が半泣きになる。 やっぱしそこまで不安を感じてたわけでは無かったみたいだな。
「夜空氏...」
何かを言おうとしたテルテルを片手をあげて抑制し話を続ける。
「いいか馬鹿共、お前らが自殺願望者かどうかは知らんが共闘と馴れ合いは意味が違う。 死にたくねぇなら安堵は捨てて、少しは危機感を抱けよ!」
こんなもんでいいだろ...あとは.....ダメ押しでもするか。
「戦えない奴はここに残って負傷者の手当の準備をしろ、まさか怪我人が出ないなんて甘っちょろいこと考えてた奴なんているわけないよな?」
当たり前だが、そんな素晴らしい名演説に対して飛んできたのは称賛では無かった。
「い..いきなり出てきて何仕切ってんよ!」
「そうだ引っ込めカス天賦野郎がッ!」
「そうだそうだ、イキってんじゃねぇぞ!」
おーおーひでぇ言われ様だ、言い出しっぺ俺じゃないんだけどな。 だが、テルテルは肝心なところで優しいから...友人として汚れ役くらいは引き受けてやらな男が廃るってもんだ。
「夜空氏...なんでそんな...」
「いいからさっさと分けろ...それは俺にはできないことだ」
テルテルが戦える・戦いたい者を3つのグループに、体調の優れないものや戦えない天賦所有者などを入り口に残して先へと進むことにした。
「夜空氏はどうする? 我がチームに来るなら歓迎ですぞ~?」
そうは言うがな...お前のチームに居る奴さっき俺にカス天賦野郎とか言ってた奴じゃん。 無理だろそれは流石に。
「いや大庭先生の所に入るよ...ありがと誘ってくれて、また生きて会おう」
「我は最強ですぞ夜空氏」
拳と拳を重ね合わせてお互いを鼓舞する。 まるで少年漫画の主人公のようだぞテルテルよ。
「行くんですぞ~」
テルテルのその声にテルテルのチームメイトがお~と叫んで行ってしまった。 もう一つのチームも仲良さげに任務に向かって行ってしまった。 問題なのは...。
「あ、あの...みなさん仲良く...ねっ?」
無理である、さっきから大庭先生以外にクッソ睨まれてる。 別に嫌われるのには慣れてるが、流石に煽りすぎたな......。
「先生無理です! こんなクズと一緒に行くとか、コイツ天賦だってゴミなんですよ!?」
「そ、そんなことないよねぇ? 星原君」
「...ゴミなのは認めるが、いくら天賦が強くても頭が使えなきゃ同じことだな? 大庭先生以外アホばっかりだろ、お疲れさん」
「コイツッ!!!」
掴みかかろうとしてくる...恐らく先輩である男子を、大庭先生が全力で止める。
「や、止めなさい! こんな所で喧嘩してる場合じゃないでしょ!」
「他の人たちも言わないだけで同じこと思ってますよ! 一発ぶん殴らなきゃ気が済まないんですよ....オイテメェ能無しはお前の方だろうが!」
「この国の闇も知らねぇ奴が偉そうに語ってんじゃねぇ! 上手い飯食って、兵士からもてはやされる生活は満足だったかオイ! 何とか言ってみろ!」
その言葉に流石の夜空もカチンときたのか言い返した...直後、要らん事言ったなと後悔する。 どうも俺はイラっときたりすると言いすぎてしまう節がある。 反省しなくては。
「いっ...いい加減にしてっ!!!」
大庭先生が柄にもなく大声で叫んで両者とも頭が冷える。 どちらも相手方に謝りは絶対にする気はないみたいだが。
「「......」」
「すいません先生...少し言い過ぎました」
「俺も...ありがとう先生、でも...俺は依然としてこのクズを認めはしませんよ」
コイツまだいうのかよ...コイツはコイツで先輩の風上にも置けない器の小ささだ。
「勝手にしろ、お前の承認なんぞ要るか」
夜空は行きましょうと先生に軽く伝えて、先の暗闇に向けて出発した。 大庭先生は酷く疲れた顔をしていた。
『キキキキーッ!』という動物の鳴き声が徐々に近くなってくる。 夜空は懐からフリントロックピストルを取り出し、撃鉄を少し起こしてハーフコック・ポジションにセットする。 この状態では引き金が引けないのは元居た世界にあったフリントロックピストルと同じだ。 リントロックピストルの火皿に火薬を入れ射撃体勢を取る。
銃を前に構えながら前進する....他の生徒や大庭先生も剣やら杖やらを前に構える。 しばらく進むと『キキキキーッ!』という声がかなり近くなる。
一瞬、少し先の天井が2つ何かが光った気がした。
夜空はすぐさま銃をコックポジションにセットする。 トリガーを引くと、フリントを取り付けた撃鉄が作動して当たり金と接触し熱をもつ、その勢いのまま火薬を撃鉄が叩きつけ小爆発を引き起こし、爆発によって生じた熱が内部に込めた弾の火薬に伝わり2度目の爆発が起こる。 弾が二つの光の元へと飛んでいき何かを貫通する....と同時に手に持っていたピストルのバレルに亀裂が入る。
やっぱ壊れたじゃねーか、使えねぇッ!!!
直後、周囲が一気に明るくなる! そして目の前には激怒して羽に火を纏ったフレイムバッドが4体も居た...。 1体は銃弾がヒットしたのか、少し飛び方がおかしくなっていた。
「「「「は!?」」」」
その場に居た全員がまさか4体も居るとは思わなかったのか、全員が素っ頓狂な声を上げる。 目標数は計5体だったハズだ!
その時、イスカルの言葉を思い出す。
フレイムバッドは群れをなす魔物である...と
くそったれがッ、完全に頭から抜け落ちていた!
夜空が逃げろという指示を出す前に、目の前のフレイムバッド達がファイアーボールを即座に発射してくる。 4発中3発はそこら辺の地面に当たって消滅するが、残りの一発だけは先ほど夜空と口論していた先輩の元へと飛んでいく。 夜空はファイアーボールが飛んでいく方向へと走り込み!
「うわあああああああ!!」
「どけッ!! スキルッ『火炎耐性』ッ!!」
悲鳴を上げる先輩を夜空は蹴り飛ばして逃がし、即座にスキルを発動する。 先輩に飛んで行ったファイアーボールをかばう。 ファイアーボールは夜空に直撃し、小規模の爆発を起こして夜空を鉱山の壁に叩きつける。 ...が図らずも革製のバックがクッションになって衝撃を緩和する。
「ぐゥッ! 熱く...ねぇええええッ!!!」
本当は少し熱かった夜空は、やせ我慢するように大声を出す。
「星原君!!!!」
大庭先生だけが夜空の名前を呼び、心配そうな声を上げるながら近づいてくる。 フレイムバッドは一発防がれたことを警戒したのか、少しばかり距離を取る。
「大丈夫........っ。 アイツらに反撃したい、先生の天賦は!?」
「わ、私のは通話するタイプの奴でして戦闘向きでは....誰かっ、誰か呼びますか?」
呼びますか?じゃねぇよ! 大人なんだから自己判断してくれ!!
「全員だ、全員呼べッ! 4体確認、援護求むって!!」
夜空の緊張感に、大庭先生は気圧されるように天賦を使用し、鉱山内部にいる生徒たち全員に『4体みつけちゃいました...助けてくださいー--!』みたいなことを言って応援要請を出す。 天賦を使った大庭先生は、スキル使用後の非じゃないほど疲れていた。
「俺は死にたくねぇんだよ! こんなつまらねぇ所で死ぬわけにはいかねぇんだよ!」
そう言いながら、昨日夜更かしして作ったアームカバーをバックから取り出し右腕に装着する。 アームカバーにつけた釘を前に出しながら大声で。
「かかってこいやあああああああ!!!」
その言葉に呼応するように、1匹のフレイムバッドが火炎弾を2.3発吐いてくる。 夜空は、左手に火炎耐性を発動し、火炎弾に正面から触れるように触り爆発させる。 一発が爆発を起こし、誘爆するようにすべてが爆発する。
「痛ェええええッッ!!!」
吹き飛ばされて、思いっきり背中を鉱山の壁へ叩きつけられた夜空が悲鳴を上げる。 フレイムバッド達は一定の距離を保ちながら飛行を続けている....その動作に夜空は何かに気づく。
なぜコイツ等は体当たりをしてこないッ!? 怒ると突撃をしてくるって話だったハズだ...もしくはそれを出来ない理由がある?
保身の為?
違う、それなら既に使っているハズだ。
考えろ、魔物だって死にたくないから考えているのだから!!
仲間のフレイムバッドを守ってるのだとしたら? 発動者であるフレイムバッドへ近寄ってきた敵を、安全な射程に追い出すための行為なのだとしたら?
後方から無数の足音が近づいてくる、フレイムバッド達は再びファイアーボールの体勢を取り始める。 他のたじろいで状況に対応できてない連中に飛ばされたら恐らく重傷者が出る。
...ダメで元々だッ!
夜空は一気に距離を詰める為に走り出す。 まるで考えなしに突っ込んでいくマヌケな冒険者を演じるように、フレイムバッドの群れの一匹が、こちら側に近づくなと言わんばかりの軽めの牽制突進を行う。 まるでファイアーボールの準備を邪魔するなというかのような...軽めの突進を。
ずっと弱者だったからこそ分かる....弱者が強者に勝つ方法が。
努力・友情・信頼?
いいや違うな、必要なのは油断を正確に見極める力だ。 強者が100%の力で戦う時に弱者が100%の力で対抗しても、勝てるわけが無いのだから。
だから見極める、強者が力を抜く...50%になるその瞬間を。
牽制突進に一切恐れることなく夜空は、細工したトゲのアームカバーをコウモリの腹に突き刺した! 体当たりを受け止めた衝撃が背骨に響き少し痛んだ。
『キイイイイイイイイッ!』
鉱山内にフレイムバッドの鋭い悲鳴が響き渡る。 突き刺されたフレイムバッドは、その場を離れようと羽をバタバタさせて釘を取ろうとするが、無駄である。 事前に破損しやすくしてあったベルトはいとも簡単に千切れ、フレイムバッドに釘が突き刺さったままその場を離れさせる。
金属が取り付けられていたアームカバーの影響で既に一匹は飛ぶのすらままならない。 夜空はフレイムバッドが群れに戻る前に、腰に下げていたショートソードで動きの鈍くなったフレイムバッドを、容赦なく叩き切った!
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「あいつやりやがったぞ!」
一切天賦を使わずに獲物を仕留めたことが凄かったのか、先輩は口をあんぐり開けたまま動かなくなっていた。 フレイムバッド達は一匹やられたことに気づいたのか、さらに羽の炎を高めていく。
夜空は、先ほど突進してきたときに受け止めて軽く火傷した右腕をかばいながら、死んだフレイムバッドの死骸に向かって自分の天賦を使用する。 右手の甲にシンプルな円の魔法陣が現れ右手全体が淡い緑色に発光する。 しばらく向けていると夜空の目の前に以下のようなプレートが出現した。
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★個体名:フレイムバッド
★固有名:なし
★保有スキル名
・隠密飛行
・超音波
・ファイアーボール
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夜空は隠密飛行とやらを奪おうとするが、再び人生回廊のプレートが出現する。
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*警告* スキル習得失敗.....天賦の不可項目に抵触しました。
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...やっぱり羽がないからそういう系の飛行系のスキルは取れないのか。
ならこっちはどうだ?
夜空は再び、相手スキル欄の超音波を奪おうと文字をなぞるように押すと、体が一瞬ズンッ!と重くなり直ぐに戻る。 どうやら奪えたらしい。
夜空が天賦を使用している30秒くらいの間に応援がかけつけ、フレイムバッドにとって多勢に無勢の状況へと変化していた。
...正直もう手が無かったので助かったところはある。
...この世界の魔力の流れや原理を俺はまだよく知らない。 知っているのは、スキルを使うと疲れるということぐらいだ。
夜空は、まるでスキルの使い方が分かっているかのように頭に手を当てて、目を閉じる。 ...これをやってこの戦いが終わると信じて。
...全員がテルテルの後ろからフレイムバッドを睨みつける中。
「スキル『超音波』...出力最大」
その最後列で夜空はボソリとその言葉を呟く。 その直後、超音波が出力されると同時に脳に負荷がかかり、夜空に激しい頭痛が起こる。 ズキズキと痛む頭が、夜空を更に追い込む。
なんで頭痛が!? 人間でも安全に使えるスキルのハズだろ!?
この周波数の超音波は誰にも聞こえない...その活躍に気づかれない、それでも。
彼らが空間を把握するために使用している超音波の回線に突如、馬鹿でかい回線が乱入してきて、フレイムバッド達の空間認識能力が著しく欠如する。 数匹は挙動がおかしくなり地面に降り立ち、一匹は天井に激突して気絶する。
「なんだッ!?」
フレイムバッドに対峙している生徒の一人が異変に気付き声をあげる。
「今ですぞ!! 全員攻撃ッ!」
テルテルの指示の元、男子を中心とした連中が弱ったフレイムバッド達に突撃し震えながら首や心臓を貫いて倒していく。 ボロボロになった夜空の横では、そんな『殺し合い』を見て怖かったのか、先生を含む女性陣数人がが泣いていた。
(ある程度片付いたか、この様子ならあと10分もかからないだろう...な...)
夜空は安堵すると、今までの緊張感の反動なのか眠るようにその場で気絶してしまった。 当然というか必然だった、温室育ち日本人にとって基本的に命がけの戦闘なんて無縁の話なのだから。
「夜空氏!?」
倒れた夜空に駆け寄ってくるテルテル...その表情は酷く深刻で心配そうだ。 夜空の体は数発火炎弾を食らった影響でボロボロになっていた。 おまけに叩きつけられた際に口びるを切ったのか、口から軽く血を流していた。
夜空に蹴り飛ばされる形で助けられた先輩が、倒れる夜空にゆっくりと近づいてきて夜空を背におぶる。
「山田君....そのさっき喧嘩してたけど...」
どうやらこの先輩は山田というらしく、大庭先生が先ほどの件も相まって心配そうに聞いてきた。 先輩は少し重そうに顔を歪めた後、大庭先生に対して口を開いた。
「いや、流石に助けられた相手に意地張るほど子供じゃないよ。 言葉の有り様は最低だけどさ...コイツの言葉は真実だった、多分コイツ以外誰も...本当の意味での危険性を分かって無かったんだと思う」
誰も『何を?』とは聞かなかった。 その場に居る全員が理解していたからだ、戦闘時の緊張感というものを...。 先ほどの戦闘で、火炎弾の影響で周囲に広がった肌に伝わる程の熱で初めて自覚してしまったのだから。
「テルテルよぉ...あと一匹はどうする?」
「我が行くですぞ」
少し思考した後、いつものおふざけ口調では無く...真面目なトーンでそう言った。
テルテルは、一人で少し奥に歩いていくと群れからはぐれたであろう、最後の一体を見つけた。 テルテルは、他の人よりも太い指で銃の形を作り敵にポイントを合わせる。 どこからともなく『カチッ』という音が鳴って、テルテルが呟く。
「天賦【震源点】、M4、ポイント・フレイムバッド」
目の前のフレイムバッドの体内で小規模の振動が起き始める。 内臓が揺れ、骨が揺れ、筋肉が揺れ、脳が揺れ...心臓が揺れる、数十秒揺れた後にフレイムバッドが吐血しそのまま死んでしまった。
テルテルはフレイムバッドの死骸のそばに立ち、黙祷するように目を閉じる。
「...最近色んな人から頼られるようになって、少し調子に乗っていた」
「一番大切にしなきゃいけない親友を蔑ろにして...我は最低ですぞ...」
ボロボロになった夜空を思い返して、テルテルは静かに涙を零した。
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「じゃ、じゃあ先生はこの魔物さんを換金する方法を聞いてきますね?」
「「「「は~い」」」」
大庭先生は鉱山の責任者に、袋に詰めた死骸を換金するための方法を聞きに行った。 生徒たちは疲れたように各々がその場に腰を下ろす。 一部の女子生徒や男子中学生は泣いていた。
「んぁ...どこだここ」
山田先輩におぶられて、いつの間にか鉱山の外に出ていた夜空がマヌケな声を出す。 山田先輩が夜空の表情に呆れたように
「鉱山の外。 その...なんだ、まぁ助かった...ありがとうな?」
夜空は覚めきっていない頭で、山田先輩の言葉の意味をボーッと考えて、その当時の様子をハッと思い出す。
「お前がとろくせぇからだボケが」
「コ、コイツこの野郎ッ! 人様が折角感謝してるのになんだその態度は!」
「イデッ!」
腹が立ったのか夜空を背中から乱暴に地面に落とす。
夜空は尻もちをついて小さな悲鳴を上げる。
「ふざけんなお前、こっちは命の恩人だろうが」
落された夜空が怒りのままに吠える!
「自分を善と語るなら、それらしい態度を少しは取りやがれ! 感謝言ってんのに文句垂れやがって!」
「感謝の言葉なんて要りません~金を~金を下さい~!!」
山田先輩を煽るように、子供っぽく目の前で適当に手をパタパタさせる夜空。
「お前は...お前って奴は.....やっぱり外道じゃああああああああッー----!!!!」
山田先輩の叫びが鉱山前の広場に轟いた。
そして俺はまた....孤立した。
テルテルにも『今のは夜空氏が大概ですぞ』と、怒られてしまった。 そのテルテルは今やみんなの輪の中心だ...いつからこんなにも差がついてしまったんだろうか?
「ほ、星原君...みなさん、楽しそうにしてるので...なんと言うか...その」
「ボッチな俺なら暇だし手伝えと?」
大庭先生、確かに火炎耐性でガードしたけど...軽く火傷してるんだけど俺。 適当に文句を言おうと思ったが、勝利でより一層絆が深まっている他の連中の顔を見て、夜空は何も言えなくなってしまった。
........初勝利に水差すのもなぁ。
まぁいいか、このぐらいやってやろう。
「で? どこにもっていけば?」
そう言うと大庭先生は少し先にある、先の狼とコインの融合みたいなマークの看板を掲げている小屋を指さした。
「あのマークの小屋が、この世界の冒険者ギルド?とかいう組織の小屋らしいんです。 あの小屋の中で、袋に詰めた魔物の素材や...解体できなければ死骸を布袋に包んでそのままベルトコンベアに乗せると、後日布袋に記載した名前の方に、ギルドでお金をお渡しするシステムになっているらしく」
「なるほどね、流石はテーマが『運送』なだけはある。 売るためだけに、一々そういったギルドとかに行かなくてもいいって言うのは楽でいいな」
「だから運びましょう。 一緒に...ね?」
先生はそう言いつつもどこか苦しそうだ...やはり、天賦を使って無理やり通信させた時に無理をしていたのだろうか?
「いいですよ先生、辛そうなのを隠さなくても...俺が一人で運びますから」
「でも..わ、悪いですし」
「大丈夫です、そんなに重くもありません」
「そうですか? じゃ、じゃあお願いしましょうか」
その言葉に夜空は、大庭先生に見えないように顔を少しニヤつかせた。
大庭先生から、魔物を詰めた袋を両手で受け取り小屋へと歩き出す。 小屋に入ると、そこには素材を詰めるための布袋やら、羽ペンやらが置かれておりなんか冒険者になった気分になる。
「さてと...先生悪いね~俺、イスカルに借りあるんだよな。 なので...少しだけ、ほんの先っちょだけ、小細工させてもらいますよ~」
布袋から5体の死骸のうち2体を取り出し、壁にかけてあった布袋を手に取りそれに詰め直す。 布袋には大庭と感じで記述してあった。
詰め直した布には『夜空』と記述してベルトコンベアに置く。 近場に会った、ベルトコンベアの起動スイッチを意気揚々と押し、魔物の死骸をギルドへと運送した。
「裏切りが楽すぎる、初めてこの国が素晴らしいと思ったかもな」
こうして短くも長い...俺たちの最初の冒険譚が一節を下ろしたのだった。
==☆次回予告☆==
はい、7話の閲覧お疲れさまでした。 ....少しフレイムバッド戦を簡略化しすぎな気がしますが、ここを長くするのは後の展開をグダらせる要因にもなりかねないのでここまで。 スキルという便利な物がある世界で、耐性だけかけて敵に突っ込むとか傍から見たらバカ丸出しですね。 夜空の場合、時間や天賦の都合がそれ以外を許さなかったという解釈でご容赦頂ければ幸いです(笑)
今回のプチ話は、この世界の【動物】と【魔物】の違い...そのおさらいです。
この世界には、牛や豚などの地球と酷似した【動物】も存在します、魔物は作中でもイスカルが言ってますが、スキルを扱う事の出来る動物全般を指します。 まぁ、無機物が動いたりするのも魔物って言ったりもするみたいでそこら辺の解釈は適当な部分が多い?のかな...。 大陸名すら決めていないような人たちなのでそんなモンなんですかね(笑)
以上、少しこの世界が楽しくなる話でした。
次回から急速に物語が加速していきます。 正直ここまでは世界説明パートだったので、次回からは物語進行パートへと移行していきます。 オニキス編もあと少しで終わりですかね~。
次回、8話......その頭痛 原因不明なり!
己の天賦の謎に触れていきます! 謎のままにはしませんよ~?
是非次回もご朗読下さい!
ではでは~